武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?
仕合なら、簪の出番は無さそうだ残念
「……そうか、いや、そうで有ろうな。だから父上は儂を武林に、……いや京馨に倣わせ様としたのだな」
水心様は独り言ちた、そして。
「小馨殿、老人の頼みだ。聞いてはくれまいか?」
わたしは、母さまと良好な関係だったと云う亮順様が好きになった。
願い事は大体見当が付くが、聞き入れるつもりだ。
「何なりと、南遨老師」
「老人の我が儘、我が生涯をかけて育てた拳士、豪順と立ち合ってくれ。頼む!」
南遨老師の苦悩は分かる。人生を否定されたに等しいからだ。
太老師も何故はっきり言わなんだ、罪な事だ。
武門か?下らない。
わたしは、答えた。
「承知しました、南遨老師」
「……お言葉とあれば。ただ父上、理由を聞かせていただきたい、我が儘と言われたが、私には理由が見当もつかない」
「……父上だ。儂は父上の意を読み間違えた、武林に生きよとは、意味が違った。
……あの日、儂が京馨と立ち合うべきだった」
「遨老師と?あの日とは?」
「遨家の家督を京馨に譲ると、父上が宣言する前日だ。京馨と父上は立ち合った」
「何と!」
「……そうでしたか、太老師は武門でしたか」
結果は聞くまでもない。
以前、母さまに聞いた。何故当家は半官半民の武館なのかと。
答えは簡単で、嫡男相続の武門では、何れ廃れるから、民間から人材を選び、当主を相続できる道を作りたかったのだと。
これが他武術なら、南遨老師は苦悩しなくて済んだ。
能力に性差は無い、いや、身体能力の差で男性が有利だ、
門弟の指導如何により、一門は栄えるだろう。
だが、極拳は女人拳だ。絶対に男では女に及ばない。
太老師は、母さまに負け、それを悟ったのだ。
太老師は武門の人だ、亮順様に相続させる事が筋と考えていたのだろう。
一門の繁栄を考えるなら、母さまは正しい。
武門の遨家では、それは受け入れる訳にはいかない。
張家極拳を認める、という提案までされたと云う。
かつての墨家の様に。
主張が根本から違うのだ、母さまは自分の正しさを証明するために、立ち合った。
結果、遨家を壊す事となり、母さまは“道を外した”と苦悩した。
苦悩の人はここにもいた。
一門の繁栄の為に、新天地である広州で、
南遨家当主として全霊を込めて極拳に尽くした。
それが無為であると、今思い至ったのだ。
いや、薄々とは気付いていたのかも知れない。
南遨老師は、想いに決着をつけたいのだろう。
遨家極拳女拳士として、想いを受ける事は筋だ。
「高の状態は、あの日の父上と同じだった。
儂は、てっきり京馨がこの地に訪れているものと思った。
……京馨。よくぞここまで弟子を育てた」
「豪順。儂の我が儘とはな、拳士の意地だ。極拳が女人拳であろう事は分かった。
だが、だからと言って遨家男子が拳を止める事など出来ぬ!
豪順、一門当主として命じる。
胡小馨と立ち会え。儂が見届ける」
「拝命した。お任せ下さい老師」
豪順様は拱手で答えた。
黒士は反応してはいないが、念のため距離を開けた。
わたしは、仕合を受諾している。
高位極拳士である豪順様が受諾した今、この時から死合が始まってもおかしくはない。
豪順様は、両手が即座に利く拱手で答礼したのだ、警戒は当然だ。
「流石だ。京馨は本当に良くぞ此処まで仕込んだものだ。
小馨、警戒は必要ない、極武館で仕合う。それまで儂が絶対に手出しはさせぬ」
「小馨殿。心構えは見事だが、私には遺恨など無いのだから、仕合う迄に何もしない」
……温い。いや、そんな物か、まあ良い。
「南遨老師、仕合の方式はどの様な?」
死合いではないだろう。あくまで仕合だろう。
簪は必要無かったな。
拍子抜けの感はある。
(……油断は良くないよ、簪は意味が分からないけど。あと大姐、貴女闘争嗜好が酷くなってきてる)
「父上と京馨が仕合った時と同じ、練経比べ三練、相打ちとする」
「承知しました」
「……承知。ただ父上、医者の手配を」
三練比べ、相打ちとなると、医者は必要かも知れない。
そもそも、練経比べ(三練比べ)は仕合方式ではなく、鍛練法だ。
相打ちとは、同時に打ち合うのだ、化経は無しだ。
互いに内硬を使い、経を相殺する。
打に硬に任意に経を振り分けるのだが、大概は五分五分に振る。
打に多く経を振っても、硬が足りなく耐えられず、硬に多くを振っても、打が足りずに倒せない。
ほぼ伯仲した実力の者同士の鍛練方式だ。
ただ、三練となると分からない。
練経は一律倍、倍に増加する訳ではない。
個人差があり、三練経で八倍の者もいれば五倍の者もいる、振り分ける経量が違う。
また、経の強さも違う。前述の五倍経だが、八倍経より弱いとは限らない。
経の強さは、分かりやすくするため太さで表現されるが、五倍の拳士が、八倍の拳士より総経が太い事も、多々有るのだ。
経の量や太さなど、術者の主観でしかないから、初見の三練経では打ち合うまで分からないのだ。
わたしは、わたしの反復増加経を理解している、太さもだ。
医者が居れば心置きなく打てる。
極武館は南遨老師の号令下、丁寧に清められた。
医者は武館と云う性質上、常勤されていた。
秘密保持の為、武館は不入とし、立ち合いに南遨老師以外は入れない。
館外に付人、従者、医師が控える事になる。
極武館を門弟達が清めている間に、ちょっとした問題が発生した。
わたしが、果たし合いに乗り込んで来たと勘違いした者が、粗野な粗忽者に注進したのだ。
粗忽者の名は南遨善順。
南遨老師の末子だ、わたしより、二つ三つ年上だろう。
わたしに、死合いを申し入れてきたのだ。
水心様は独り言ちた、そして。
「小馨殿、老人の頼みだ。聞いてはくれまいか?」
わたしは、母さまと良好な関係だったと云う亮順様が好きになった。
願い事は大体見当が付くが、聞き入れるつもりだ。
「何なりと、南遨老師」
「老人の我が儘、我が生涯をかけて育てた拳士、豪順と立ち合ってくれ。頼む!」
南遨老師の苦悩は分かる。人生を否定されたに等しいからだ。
太老師も何故はっきり言わなんだ、罪な事だ。
武門か?下らない。
わたしは、答えた。
「承知しました、南遨老師」
「……お言葉とあれば。ただ父上、理由を聞かせていただきたい、我が儘と言われたが、私には理由が見当もつかない」
「……父上だ。儂は父上の意を読み間違えた、武林に生きよとは、意味が違った。
……あの日、儂が京馨と立ち合うべきだった」
「遨老師と?あの日とは?」
「遨家の家督を京馨に譲ると、父上が宣言する前日だ。京馨と父上は立ち合った」
「何と!」
「……そうでしたか、太老師は武門でしたか」
結果は聞くまでもない。
以前、母さまに聞いた。何故当家は半官半民の武館なのかと。
答えは簡単で、嫡男相続の武門では、何れ廃れるから、民間から人材を選び、当主を相続できる道を作りたかったのだと。
これが他武術なら、南遨老師は苦悩しなくて済んだ。
能力に性差は無い、いや、身体能力の差で男性が有利だ、
門弟の指導如何により、一門は栄えるだろう。
だが、極拳は女人拳だ。絶対に男では女に及ばない。
太老師は、母さまに負け、それを悟ったのだ。
太老師は武門の人だ、亮順様に相続させる事が筋と考えていたのだろう。
一門の繁栄を考えるなら、母さまは正しい。
武門の遨家では、それは受け入れる訳にはいかない。
張家極拳を認める、という提案までされたと云う。
かつての墨家の様に。
主張が根本から違うのだ、母さまは自分の正しさを証明するために、立ち合った。
結果、遨家を壊す事となり、母さまは“道を外した”と苦悩した。
苦悩の人はここにもいた。
一門の繁栄の為に、新天地である広州で、
南遨家当主として全霊を込めて極拳に尽くした。
それが無為であると、今思い至ったのだ。
いや、薄々とは気付いていたのかも知れない。
南遨老師は、想いに決着をつけたいのだろう。
遨家極拳女拳士として、想いを受ける事は筋だ。
「高の状態は、あの日の父上と同じだった。
儂は、てっきり京馨がこの地に訪れているものと思った。
……京馨。よくぞここまで弟子を育てた」
「豪順。儂の我が儘とはな、拳士の意地だ。極拳が女人拳であろう事は分かった。
だが、だからと言って遨家男子が拳を止める事など出来ぬ!
豪順、一門当主として命じる。
胡小馨と立ち会え。儂が見届ける」
「拝命した。お任せ下さい老師」
豪順様は拱手で答えた。
黒士は反応してはいないが、念のため距離を開けた。
わたしは、仕合を受諾している。
高位極拳士である豪順様が受諾した今、この時から死合が始まってもおかしくはない。
豪順様は、両手が即座に利く拱手で答礼したのだ、警戒は当然だ。
「流石だ。京馨は本当に良くぞ此処まで仕込んだものだ。
小馨、警戒は必要ない、極武館で仕合う。それまで儂が絶対に手出しはさせぬ」
「小馨殿。心構えは見事だが、私には遺恨など無いのだから、仕合う迄に何もしない」
……温い。いや、そんな物か、まあ良い。
「南遨老師、仕合の方式はどの様な?」
死合いではないだろう。あくまで仕合だろう。
簪は必要無かったな。
拍子抜けの感はある。
(……油断は良くないよ、簪は意味が分からないけど。あと大姐、貴女闘争嗜好が酷くなってきてる)
「父上と京馨が仕合った時と同じ、練経比べ三練、相打ちとする」
「承知しました」
「……承知。ただ父上、医者の手配を」
三練比べ、相打ちとなると、医者は必要かも知れない。
そもそも、練経比べ(三練比べ)は仕合方式ではなく、鍛練法だ。
相打ちとは、同時に打ち合うのだ、化経は無しだ。
互いに内硬を使い、経を相殺する。
打に硬に任意に経を振り分けるのだが、大概は五分五分に振る。
打に多く経を振っても、硬が足りなく耐えられず、硬に多くを振っても、打が足りずに倒せない。
ほぼ伯仲した実力の者同士の鍛練方式だ。
ただ、三練となると分からない。
練経は一律倍、倍に増加する訳ではない。
個人差があり、三練経で八倍の者もいれば五倍の者もいる、振り分ける経量が違う。
また、経の強さも違う。前述の五倍経だが、八倍経より弱いとは限らない。
経の強さは、分かりやすくするため太さで表現されるが、五倍の拳士が、八倍の拳士より総経が太い事も、多々有るのだ。
経の量や太さなど、術者の主観でしかないから、初見の三練経では打ち合うまで分からないのだ。
わたしは、わたしの反復増加経を理解している、太さもだ。
医者が居れば心置きなく打てる。
極武館は南遨老師の号令下、丁寧に清められた。
医者は武館と云う性質上、常勤されていた。
秘密保持の為、武館は不入とし、立ち合いに南遨老師以外は入れない。
館外に付人、従者、医師が控える事になる。
極武館を門弟達が清めている間に、ちょっとした問題が発生した。
わたしが、果たし合いに乗り込んで来たと勘違いした者が、粗野な粗忽者に注進したのだ。
粗忽者の名は南遨善順。
南遨老師の末子だ、わたしより、二つ三つ年上だろう。
わたしに、死合いを申し入れてきたのだ。
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