武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

三練比べでは如何かな

 周とやらは、丁寧に一両金の刻印と、鍍金有無の確認をする。


 鉛に金箔を貼り付けた偽金なら、表面を少し削れば分かる。


 刻印の確認とは、通貨である以上、金は磨耗し次第に一両重量では無くなる。


 なので、国が一両金としての価値を、一両重量金に認めるため、承認刻印を打刻するのだ。


 これがないと、一両金は、その正確な重量でしか取引価値は無くなる。


 つまり安くなる。


 ついでに説明すると、現在の両替歩合だと、


 一両金が、十六両銀で、銭なら二千五百から二千六百匹だ。銭は月ごとに変動する。


 政府が歩合を誘導するが、天変地異、不作、豊作、大規模事業、戦争、その他要因によって、上下する。


 ただ、銭だけは通貨単位で、重量取り引きはしない、
 悪銭は引き取り拒否をされるだけで、いずれ淘汰される。


「二十両金確かに。ではこちらを」


 そう言うと周とやらは、わたし用と控えめに割り印をして、権利放棄の示談書を渡してきた。


 ざっと目を通す。
 わたしだけでは何なので、小姐に確認させる。
 問題ないだろう。


「内容は確かに確認しました」


 まあ、本当ならば、これで終わりだろう。
 けれど、黒士がとっくに反応している。


 廊下に、闘者が控えている。


 わたしは、ゆったりと立ち上がる。


「お待ちなさい、まだ話は済んでいませんよ」


「その様ですね、周大人」


「いい度胸だ。商取引きの件は話が付きました。
 しかし、こちらはそこの勇の手下が大怪我をしている。
 そちらの話を付けなければならない」


「見舞金が必要って事?手持ちが無いから月賦でいいかな?」


 軽く挑発してみた。


(挑発に意味あるの?何なら“ガブッ”ていっとく)


(待って、久々に骨の有るのと殺れるんだから)


(見立では、王ぐらいの腕前かな?)


「いや、見舞金は結構。胡殿は先程“義”を口にされた。
ならば分かる筈、侠に生きるなら、侠を口にするに値する力を、示さなければならない」


「はっ哈哈哈哈!、如何にも道理だ。
 すると、周大人の侠者としての力とは?」


 男が入ってきた。筒祖筒裾の武道衣を纏う武闘家だ。


「財力、権力。こちらの高師範を、呼び出す事が出来る力です」


「親父!高師範!待ってくれ、それは筋が違う、遺恨が有るなら俺が自分でする。
 けど、胡嬢に遺恨は無い。手下も胡嬢がその気なら殺す事も出来た。
 だが、それをしなかった胡嬢に、俺は感謝した。だか……」


「邪魔をしないでくれ!」


 わたしはをして名乗る。


「遨家極拳拳士、胡小馨。尊公の名を伺いたい」


 男もにて答礼する。


「南遨家極拳師範、高采史。これも浮世の義理だ、裏庭で相手をしてやろう、悪く思うな」


「高師範、わたしの名乗りは終わったぞ」


 タンッ!始動発経、全力だ!
 わたしは、練歩れんぽを踏む


 バンッ!


 始動発経の直後に初練歩だ、
 傍目には、足踏みをしただけの様に見えただろう。


「なんだと!」


 師範だけの事はある、高は即座に対応した。
 始動発経を後退しながら踏む。


 高位極拳士同士の戦いとは、詰まる所、経の応酬だ。


 相手が経を用いたら、こちらも経で対応しなければ、勝負はその瞬間に決まる。




 武闘舞踊と呼ばれる極拳士の戦いは、三拍の拍子で行われる。これには訳がある。


 経歩は兎歩の戦闘特化歩行だ。


 始動発経を大地に送る。


 経絡のうち地祇にとっては不用な経の部分を返してくる。


 返してきた経を体幹深部の丹で反射する。


 反射する事により、武技を発動するのが経歩だ。


 練歩とは、丹で反射した経に更に発経を練り合わせ、倍の経を地祇に送るのだ。
 これが、初練歩。


 倍の経は地祇から増幅され返され、それを丹で反射する。


 発経を増幅反射経に練り合わせ、更に倍になった経を地祇に送る。
 次練歩だ。


 およそ四倍の経を大幅に増幅し、地祇は経を返す。


 丹で反射し、更に発経を練り合わせ地祇に送る。
 三練歩だ。


 地祇が返してくる経は、始動発経のおよそ八倍となる。
 この八倍経を丹で受けて攻防に振るのだ。


 八倍経が丹の限度とされ、四練歩は不可能だった。


 だから丹が耐えられる、三練歩を基本拍子とするため、三拍の拍子で攻防が行われるのだ。




 先手はわたしが取った。


 極拳拳士が名乗りを上げで礼をし、
 相手も名乗りで答礼したのだ。だから、死合いは成立したのだ。


 卑怯でも何でもない。


 一拍の差で、わたしは先に三練歩に達する。だが折角の同門師範だ、をしてみたい。


 ドガッ!わたし次練歩だ。


 高師範は初練歩を踏んだ所だ、後手の不利を悟り、縮地走で後退だ。廊下に出る。
 次練歩に達した。


 本来ならわたしは三練歩に達している。
 いるが、敢えて拍間を伸ばした。


 高師範もわたしの意を覚る。


「なめるな小娘!先手を捨てて練経比べか!!」


 ズガンッ! ズドンッ!


 三練歩の脚音が、同時にする。


 攻撃はわたし。防御が高師範だ。


 間合い取りの活流で、高師範が攻撃に回る事は無理だ。


 わたしの技は決まっている。


「疾駆絶打!」


 わたしの脳裏に焼き付いた、老師の絶技。


 数万を越える模倣鍛練にて物にした、わたしの絶技だ。


「受けて立つ!三練内硬‼」


 内硬功だ。三練歩の八倍経で相手の三練打を体内で相殺するのだ。


 経の出力が上回れば、相殺余剰経で反撃撃破出来るが、下回ればそこで決着だ。


 三練比べとは、上級極拳士のみが行える短期決戦だ。


 ズンッ‼‼


 わたしの右腕絶拳打が、高師範の胸部人中、心的を打つ。




 三練歩からの攻撃技は、絶の字が冠せられる。


 相殺技を習得していなければ、するからだ。




 高師範はわたしの絶拳打に、耐えた。耐えて耐えたが、及ばなかった。


 一拍の後に、鼻血と共に崩れ落ちた。


 わたしは、ようやく残心を解いた。


(王師範と甲乙つかないね。高師範の三練経、強い部類だと思うな)


「いや、僅かに高師範が勝っているよ」


 わたしは、差手で終礼をして言った。



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