武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

わたしが老師の導師?

(あれ!体が動きそう?)


 母上達と会話中、何気に体の姿勢を調整したとき、そう思った。
 と、言うより黄に助けてもらい上体を起こした時から、無意識に体重移動をしていた。
 基本動作は意識に関係無いようだ。


(どういうっって、胡娘フゥニャン寝てる!やけに静かだと思ったら。
 ……体は寝てたけど、魂は一晩中ケンカしてたからね、お子様には仕方ないか)


「どうした、可馨?」


「母上、体が動きそうです。胡姐が深い睡眠に入ったみたいです」


「小馨様は一昼夜休まれていましたが、まだ睡眠が足りていないのですか?やはり調子が悪いのでは?」


「いや、黄。私達は一昼夜対話していて、魂は休んでいないのだ。
 うん?つまり睡眠には二種類ある?発見だ」


「それより可馨、体が動くとは?さっきから視点や体幹は動いていたが?」


「これも発見ですね、条件反射的な反応や、自然反応動作は、体が勝手にするみたいです。
 胡姐には、口だけを借りたつもりだったのですが、目は見えるし、耳も聞こえる。
 クッ体が重い」


 私は立ち上がった。貧血みたいにクラッとしたが、約三年振りに自力で立った。


「………小馨。どれ程感謝しても足りぬ」


「可馨様、背丈が同じくらいなので、本当に可馨様がそこに立たれている様です」


「あっ胡娘が驚いて起きた…………………?なんで立ってる?母さまごめんなさい、話の途中から寝ていたみたい」


 老師に抱きしめられた、動きが速くて驚いた。


「小馨、感謝する。この恩に報いるには、俺の娘とするだけでは足りぬ。
 どうだ、俺の直弟にならんか、俺の人生で習得した全てを伝える。俺の人生の全てを教える。どうだ?」


 この一言に黄はさすがに驚く。
 直弟とは、つまり老師の兄弟弟子になるという事だ。
 先代に師事した訳でない小馨は、本来なら老師の弟子にはなれても、兄弟弟子にはなれない。
 だが、他流派や門派が違う場合、稀にあり得る。
 互いに認め合い、流派を越えて切磋琢磨を希望する場合だ。
 師につく訳ではなく、年齢や技量、状況などで兄弟順がきまる。
 どちらかというと、小馨が口にする“侠”の世界の義兄弟がそれに近い。


 遨京馨は遨家極拳の総帥にして遨家の当主だ。
 やろうと思えば、小馨を兄弟子きょうだいしとして迎える事は可能だ。


「老師!それはいけません。実績の無い者が過分な地位につくと、最悪一門が割れます。
 更に小馨さまに、腕試しと称して、直接危害を加えようとする者も現れるでしょう。
 武術の世界は、完全に実力による縦社会です、お考え直しを」


「か呵呵呵呵。黄、それほど慌てる事ではない。何も遨家極拳総帥として兄弟子に迎えるのではない。
 遨京馨、いや、ただの京馨が小馨に武術を伝えるだけだ。
 小馨の極拳内の立場は、あくまで黄の弟子、俺の孫弟子だ」


「しかし、老師……」


「黄にとっても悪くない話だと思うぞ。
 俺が小馨に伝える。小馨が鍛練する、黄がそれを盗む。
 小馨から盗まれた武技に関して、俺は何も言わぬよ」


「小馨様、大変結構なお話です。お勧めします」


「か呵呵呵呵呵!皆して笑わせてくれる。
 どうだ、小馨。嫌ならそれでも構わないぞ、その場合は、俺の人脈、財貨、知識、経験を全て譲る。
 いや、まだ足りぬか」


「母さま?いくら何でも大げさだよ、わたしを養女にしてくれただけでも、大恩なのに」


「それだ、小馨」


 老師は姿勢を正し、差手にて礼をとる。むろん小馨に対してだ。


「最初は小馨の親から、その身を買い取ろうと思った。だが、孤児だと云う。
 ならば、その身に釣り合うだけの待遇で、可馨の魂を、受け入れてもらおうとした。
 導師から、受け入れ後の小馨の魂の有り様など聞いていなかった、その必要も感じなかった。
 ただ、対価を払い、その身をもらい受ける事に腐心した」


 老師は深く頭を下げた


「まだまだ、その対価は足りない。人生を差し出せと言うのだ。
 小馨が得心するまで、俺は歓待するつもりだった。
 だが、小馨は、
 俺にとっては、ほんの些細な歓待に感謝し、
 外道な俺の養女となった事に大恩を感じ、
 命を差し出そうとした。
 “恩に対して筋を通す”と……………」


「俺は恥じた。老師よ、当主よ、と言われ続け慢心していた、心が歪に肥大していた。
 年端もいかない子供に、恩を売り付けその身を受けようなど、言語道断。正に外道」


「それを小馨に命掛けで正された。
 俺自らが間違いに気が付かねばならぬのに、教わり、ようやく気が付いた。
 小馨こそが俺のよ」


「だから、俺はその命掛けの恩に対して、俺の命で報いなければならない。
 俺の命に等しい物。
 生涯を掛けて習得した武技の数々。
 俺が生きたすべての証。
 それらを対価に報いたい」






 中途半端な返事では駄目だ。


 わたしはそう思った、母さまは命を掛けてわたしに言っている。


 けど、答えは決まっている。


 わたしは、母さまの強さに魅入られた。


 怖気が走る黒靈とかいう怪物を、全く歯牙にもかけない。
 全て一撃だ。


 あの蛇みたいな糞導師も、母さまに敵わなかった。


 強くなりたい。


 もう、奪われるのは嫌だ。力づくでは、非力なわたしに成す術もない。


 戦う方法を身に付けたい。


 だから、母さまにこう答えた。


「母さまみたいになりたい。強くなりたいよ」


 母さまは嬉しそうに、頷いた。

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