武侠少女!絹之大陸交易路を往く!?

蟹江カニオ

わたしは孫弟子になっていた

「歌え、ただし声には出すな」


 黄姐はハッとした様だが、わたしには何の事やらだ。
「小馨には説明がいるかな。拍子を刻んだほうが、体は動く。拍子は人それぞれだから、好きな歌詞を拍子に乗せろ」


 半分は理解した。


「母さま、拍子がわからない」


 わたしの台詞に、黄姐が困惑気味な顔をした。朝食中に何事があったのか?という感じだ。


「母さまか、良い響きだ。二人とも俺の事は母上だったからな。
 拍子だがな、まあ大雑把に説明すれば己れの心音だ」


 反応は黄姐だった。


「老師!感謝します!そうだったのか、拍子に経を乗せるとはそ……」


「黄!しゃべり過ぎる」


 即叱られた、黄姐は即座に詫びた。
 たぶんわたしに聞かせられない、秘伝か何かだろう。


「小馨、まだ早いのだ、今余計な知識を半端に得ると、妙な癖がつく。最悪治らない」


 ?はて、変な流れになっている。わたしは弟子扱いで良いのだろうか?聞いてみよう。


「母さま、わたしは母さまの弟子ということでいいの?黄姐に聞いたら、簡単な話じゃないと聞いたけど」


「直弟子という訳ではないが、すでに孫弟子だぞ。黄から兎歩を習ったのだから」


 黄姐は少し慌てる


「申し訳ありません老師!勝手をしました。
 その、道場の方にも足を運ぶ事も有ろうと、極拳の初歩を教えました」


「いや黄。構わない、どのみち教えるつもりだった。
 ふむ、王に任せようと思ったが……
 よし、黄、小馨の指南をしろ。
 切っ掛けを掴んだだろう、教えるという事は顧みる事でもある。
 小馨に教えながら学べ」


 黄姐に師事する事になった。


 侍女の仕事を合わせて、二重に師事する事になる。
 黄姐は好きだ、だから不満はない。


 さてわたしの兎歩だが、劇的ではない物の、かなり上手くなったと思う。


 心音はともかく、拍子よく体を動かすことで、流れが途切れない。


 ……そうか、わたしが馬鹿にしていた変な踊りとは、これだったのか。


 館の開門時に覗けた、門弟の歩行鍛練を、変な踊りと認識していたのか。ゴメンよ。


 “タッダンッタッダンッタッ”


 凄い足音に驚いた。
 黄姐だ、黄姐が感激にうち震えている。


「出来た……出来ました老師!やっと、やっと発経はつけいが」


「うん、見届けた。壁を破る時はアッサリ破るものだ、一言で開花したのではなく、黄、日頃の鍛練が足りていたのだ。
 だから今日、僅な助言で開花した。誇れ」


 老師は言葉を続ける。


「黄翠朱。貴方を遨家極拳士と認める。より一層励め」


 黄姐は涙を浮かべ老師に答礼した。両膝をつき差手をする最上位の礼だ。


 わたしも黄姐の喜びに触れて、何だか嬉しくなってきた。


 そこに丁度呼び出した家宰の二人がやってきた。二人は朝の挨拶をする。


「話は中でだ」


 老師はわたしを連れだって屋内に入る。


「霍、小馨だ。俺の娘となった、皆に披露する手配を頼む」


 霍家宰は老齢と聞いていたが、背筋が伸びていて、かなり長身なので年を感じさせない。


「分かりました。しかし旦那様、まずは小馨様にご挨拶をさせて下さい」


 そう言うと、わたしに高齢の家宰は差手の礼をとる。


「お初にお目にかかります。
 遨家筆頭家宰の霍巨と申します。
 名は体を表すと申しますが、この様な老人が、見苦しくも巨体をさらしております。
 小馨様、なにとぞお見知り置き下さいますよう御願いいたします」


 本当に、大きな老人だった。わたしの三倍は有りそうだ、ここまで背の高い人は、見た事がない。


 呆気にとられていると、黄姐が手助けしてくれた。


「霍家宰、小馨様は家宰の大きな体に驚いておられる様子。小馨様、霍家宰にお言葉を願います」
 ハッとした、ポカンとしていたら、霍家宰は何時までも礼を直れない。


「霍家宰、胡小馨です。こちらこそよろしく」


 その後、2、3のやり取りをして家宰は姿勢正した。


「旦那様、本日はカン夫公がお戻りになられる日ですので、小馨様のお披露は夫公が落ち着かれた、夕刻がよろしいかと存じます」


「まかせる。これから祖廟に小馨と参じる、手配を頼む、王、同行しろ」


「かしこまりました。旦那様、お聞きしたい事があります」


「なんだ?」


「小馨様のお立場です。正式に迎えられる旨は理解しました。ですが、その場合侍女見習いというのは如何なものかと」


「それもそうだ。どうする小馨、黄は専属で付けるぞ」


「侍女見習いのままで。わたしは何もしていないのにご飯は頂けない。働かせて」


 本当は部屋を移るのが嫌なだけだ、黄姐の隣部屋だから良いのだ。
 侍女見習いから外れたら、どこの部屋に行くのか分からない。


「こう言っておるが、王」


 いつもの小僧っ子の目だ。だんだん分かってきた。


「小馨様、何も侍女だけが仕事ではありません。そもそも、小馨様は学ばれる事が多い様に見受けられます。今は学を納める事が先決です」


「うん、道理だな。小馨、読み書きはどの程度出来る」


 ほとんど出来ない。言いかけて黄姐に助けられる
「旦那様、王家宰、その様な質問は小馨様が困ってしまいます。比較する術がないのですから。私が後で確認しましょう」


「黄なら適任だ、任せよう。
 では小馨は学習をしてもらおう。
 黄から見て小馨の学習状況が問題ないとしたら、後はそのとき考えよう」


「分かりました、でもお部屋は今のままで御願い。気に入ったので」


「本当に、黄が気に入ったのだな小馨」


 思惑は即バレした。



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