突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

砲弾?試射

 流石開発部と云うべきか、抱えている職人の質が高いのか、機動架台はすぐに完成した。


 木製の架台部分も機密保持の為、工房での作成となった。


 どの砲も搭載出来る様に、架台は“マーク”より一回り大きく作成されている。


 また、押手を増やす意味もあった。


 走行中の弾薬装填や、砲門清掃のスペース確保の意味もあり、弾薬、工具、用具なども搭載しておきたい。


 前回は荷台に、砲架台さり火砲を積載固定したが、今回もそれに習う事にした。


 テスト車両なので、火砲の交換性を考えての事だが、固定方法は螺旋ネジによる締め付け固定で、より強固にしてある。


 因みに、螺旋ネジは雄雌対で職人のハンドメイドになり、けっこう高価だ。


 軍の工房は何でも自作出来るから便利だ。


 搭載する火砲は、例のアーガイル社の野戦砲だ、
 納品10門の内、第一砲台用の4門を強奪した形になるのだから、ゴーンは豪腕だ。


 追加で第一砲台再配備用の、中距離野戦砲4門と、重火砲1門を発注したのだから、軍隊とは太っ腹だ。いや、これも含めて豪腕なのだろう。


 重火砲用の架台作成も順調だし、試作機動架台も完成した事なので、火砲術研究室らしい事もようやく出来る。


 態々第三砲台に移動して実験試射をする事もないので、第一砲台演習場を借りる事にした。


 ここで、初めてゴーンとアル技官が対面する事になった。


 運命の出会い、とは言い過ぎてはあるが、最悪の出会いである事は間違いない。


 この出会いが無ければ、少なくとも数十万単位の死傷者は出なかったかも知れず、数千人で収まっただろう。




「見えられるのは、陸軍第三砲台付出向総合司令本部参謀ゴーン大尉殿だ、アル、絶対に妄言は吐くなよ」


 軍曹に念を押された。ゴーン大尉とやらは参謀らしい、前回の反乱に懲りた軍部が、総合司令本部より監視目的で参謀を出向させる事となったらしい。


 別にナザレだけの事でなく、軍港に併設砲台が有る軍事拠点では、全てに実施されたそうだ。


 なんでも、やたらと便宜を図ってくれた、偉い参謀らしい。今日は機動架台の視察だ。


 とは言っても、何すれば良いの?


「先生、参謀の人は分かったけど、何やるの?火砲術研究室なんて如何にもな部所だけど、実際に稼働するのは今日が初だし」


 これは酷い言い草だ、成る程確かに目に見える活動は、今日が初だ。


 だが、軍に於て新規に部所を設立し、予算を確保することがどれ程大変か。


 参謀本部の後押しが有ったとは云え、提出した書類だけでも、枚数でなく㎏で表せる程書いたのだ、


 従卒なんて付かないから、三砲台から自ら運んで提出だ、それも何度も。


 ……まあ良い。彼は彼で頑張ってくれた、実際に先程重火砲用の架台を見て、感心した物だ。


 あれなら、確かに重火砲すら移動出来るだろう。


 曹長では無いが、重火砲砲撃を想像し心踊ったものだ。


 この機動架台もそうだ、砲の互換性を考慮して元の架台ごと固定されているのだが、見るからに頑強に固定されている。


 それに伴い、高くなりすぎた重心を下げるため、車高を下げてある。


 結果、弾薬装填、砲口清掃を効率よく行え、更には機動性の向上に繋がった。


 ……前者はマークⅩ試験架台野戦仕様で、
 ……後者はマークⅡ先行量産型試験機動架台と言うらしい。


 ……ネーミングセンスは兎も角、短期間で結果を出してはいるのだ。だから、広い心でって………なんだい?それ?


「なんだい、アル技官?その黒いのは?砲弾かと思ったけど、質感は鉛ではないし」


「わからん。多分砲弾だが、用途がわからん」


「……その割りに、結構作ったね」


 ………造りたいから造ったか。天才の思考に凡人がとやかく言うべきでは有るまい。








 実はあの後、手で丸めるのが面倒になり、砲弾鋳造型枠に目をつけて、中身を詰めて焼成したのだ。


 0.3、0.5、0.8のみを更に練り合わせた。残ったギャラリーが、もっと造れとうるさかったからだ。


 銃弾だけでなく、そこいらに棄ててあった鋼の破材、端材でも三号的には良かったらしく、数は出来てしまった。








 興味が湧いた。彼のは、我々の発想の上をゆく。どの道試射は必用だ。


 現在人員は火砲術研究室所属の七名だ。
 私の砲班とダッド砲班、アル技官だ。


「アル技官の射撃データを収集するのは後回しにして、その砲弾の試射をしてみよう」


 定距離射撃を複数回し、その時の砲の仰角、射撃点の水平誤差角から、絶対砲撃角度を出したり、


 火薬分量を替えて同様な射撃をしようと考えていたが、どうせ一日限りのデータ収集ではない。


 彼の発案した新形砲弾のほうが面白そうだ。


 新戦術を考えつくかも知れないし。


「んじゃ試射だし、距離は近くていいかな。100㍍位でそれぞれの砲弾?を試して、段々距離を伸ばしていこう」


「それぞれ?全部同じに見えるけど」


「触って押してみればわかるよ、硬さが違うから」


 固さに三パターンあるみたいだが、あまりその差は分からなかった。


 データ収集用の的を、機動架台からキッチリ100㍍の所に立てた。


 火砲のスペックからすれば、ほぼ水平射撃で良い距離だ。最初は一番柔らかいと云う砲弾を試射する。


「そう、その方向で。角度は水平じゃないよ、少し上げて、上げ過ぎ。はい、そこ」


 曹長に細かな調整を伝えている。


 本当に、彼は何故結果を見てきた様に断言出来るのだろう。


 風向や風速など、計測すらしない。


 普段の彼を知っているので、適当に放言している様に思えた。


 仰角は必用無い気がするが、彼は砲術の天才だ。黙って見ていよう。


「軍曹、離れて点火って出来る?大丈夫だとは思うけど、砲身破裂したら嫌だからね」


「嫌な事言うなよ、ブブエロ、一応導火線」


 点火孔に導火線を詰める、50㌢程の長さだ、点火後避難する時間は稼げる。


「はい、点火!」


 ホイールロック式の点火器で、導火線に火を着ける。


 ズダンッ!


「おお!」「あ!」「おイっ!」「うおっ!」


 砲弾が、いや、砲弾だったものが飛び散る。
 黒い残像が、拡散し、
 100㍍前の的は、蜂の巣の様になって弾け飛んだ。


 ………着弾の惨状を目の当たりにして、一同無言となった。

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