突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!
目附役のゴーン少佐殿
「いや、失礼した。話を戻そう」
ゴーン大尉が素面に戻った。私としては歓迎する。
ゴーン大尉の前では、アルは禁句と。
「南方大陸の出兵自体に、特に貴官は異論は無いと解釈してよろしいのだな」
言質を取られたが仕方ない。私はしがない少尉だ、命令が下れば、どこにでも行くとも。チクショウ。
「勿論です。既に大尉殿には、行き先まで知らされているのでしょうか?」
「いやまさか、些か先走りが過ぎるよ少尉。
ただ、フランク王国の同盟国として、何らかの支援をすることにはなるだろう。そこでだ」
ゴーン大尉の頭の回転は早い。ここまで話を繋げ私に聞かせるとは、事前に推理に思考考察を重ねたのだろう。
恐らくこれから口にする事は実現する事象となる。
「所詮南方大陸の国家郡の諍いなど、代理戦争に過ぎない。いずれが勝とうが負けようが、列強両国が亡ぶ事の無い只のゲームだ」
はて?ゴーン大尉はこの様な御仁だったのか?
それとも作戦参謀と云う人種は完全に、
戦場を盤面。兵士を駒。
戦争をゲームとして捉える事が出来るのか?
「ならば少尉、これは絶好の機会では無いかな」
「何がでしょうか」
本当に分からない、大尉殿との会話は先方が切れすぎて、理解が追い付かない。
「貴官の提案した機動砲兵構想の実現だ。幸いにして、戦場は確保出来そうだ。
勝敗も代理戦争だから他人事だ。
ただ機動砲兵の試用が実地で出来る。先ずは小隊で投入し、実地運用で問題点を潰してゆく」
………本当に怖い人だ。
多分、あの日機動砲兵構想の話をした時から、今日の情勢を予測し、機動砲兵実現の為の根回しをしてきたのだろう。
「……ゴーン大尉は、この状況を予測していたのですか?何時からです?まさか艦隊が底錨していた時から?」
「当然ではないか。国籍不明艦隊が、ナザレ沖に底錨するが、直接的に戦闘行為を行うでも無く、第二第三砲台を籠絡していた。
他国、しかも彼らをして、国家反逆せしめる程の見返りを用意出来る国」
ここでゴーン大尉は、ようやく缶コーヒーに口をつけた。軍携行糧食の飲料で一番マシな飲み物だ。
「そう幾つも有るまい。かの艦隊のナザレ海上封鎖が、作戦行動の一環としたら続きがある。
そこで機動砲兵の活躍だ。投降した士官から連合王国が知れた。
いずれ、かの艦隊の動きは知るが、連合王国がここまで大掛かりな作戦行動を取るとしたら、目的は敵性列強国のフランク王国に対する軍事行動しか考えられない」
「成る程、順を追って思考すれば、最もです」
「列強二国が争えば、世情が、特に南方大陸の諸国が不安定になる、どちらが勝とうが負けようがだ。
ならば同盟国として、フランク王国支援を閣議決定するだろう。貴官の言う通り、軍人に拒否はない」
どうやら、正解解答をしていたようだ。建前は大切だ。心しよう。
ゴーン大尉の表情が緩む。
「貴官の機動砲兵構想は、誠に絶妙なタイミングで提案された、あれは、戦いを変える。
中隊、大隊編成で戦地投入すれば、歴史に名を残す戦果を上げるだろう。
少尉、機動砲兵、貴官ならどう運用する?」
「野戦、攻城戦、城塞戦、前提はどのような戦場ですか」
「大規模戦争はごめん被るので、野戦前提で」
南方大陸を想定しての事だろう。攻城、城塞攻略戦となったら、引くに引けない戦況だ。
「私としては、囮としての通常砲兵と、機動砲兵を連動させたいと、機動砲兵の方は三砲班から四砲班で重騎兵と、行動させるのです」
「囮としての通常砲兵とは?」
「野戦砲撃の場合、双方砲撃射程外に陣を置きます、極論すれば、互いの兵力を砲撃射程内に誘導するために兵士を動かしますが、大抵失敗します。お互い砲術の専門家がいるのですから」
砲兵が歩兵に馬鹿にされる所以でもある。
場合によっては、一度も砲撃が無い戦いもあるのだ。
「派手に撃ち、有効射程を知らしめ砲支援限界点を教えて、油断を誘います」
「成る程な、それで重騎兵と行動か、砲撃想定外地点から、重騎兵突撃に見せかけた砲撃支援。
敵からしたら急に射程内に敵砲兵の出現だ、自軍砲兵や本陣を砲撃されれば、指揮は混乱するだろう」
「相手の砲撃が開始される頃には、重騎兵が築いた橋頭堡に移動して、支援砲撃を開始してもよし、そのまま退却してもよし」
「奇襲手段としての活用か、火力が段違いに違うから有効だな」
「奇襲は一度知れれば、次は有りませんが、機動砲兵は別です。分かっていながら防ぎようもない」
「あの機動力だ、当然だな。敵が止めるとしたら機動戦力で……いや無理か」
「はい、その場合、至近距離からの水平砲撃です」
「成る程な、だから重騎兵込みでか、敵に決死隊を組まれても、重騎兵が防ぐ。その間に離脱して砲撃か。つまり、運用自体は重騎兵の運用と然程変わらないか、成る程」
「流石ですね、補足の説明が要らないのですから。
ただ、破壊力は重騎兵の比ではなく、敵陣を砲撃で切り裂きます。
そのまま他兵科のと連動して砲撃支援をしてもよし、退却してもよし、自在です」
「うん、及第だろう。その方向で調整しよう、少尉は小隊を、機動分隊と通常編成分隊に分けたいのだな、ならば機動架台は四両作成してくれ」
「はい、火砲はこの間のアーガイル社の野戦砲でよろしいのですか?」
「それは、少尉に一任する。ただ、それとは別に重火砲の移動架台の作成も頼む」
失念していた、機動砲兵に捕らわれ過ぎたか。
「……お恥ずかしい限りです、そうでした重火砲の戦地投入を失念していました。
重火砲の射程距離ならば、直接敵陣を砲撃でき、そもそも機動砲兵自体が不要となります」
だから及第か、本当にゴーン大尉は恐ろしい人だ。
「いや、少尉。重火砲は謂わば切り札だ。会戦、決戦時まで知られては不味い。
だが折角だから、重火砲の戦地投入が可能かどうかのテストもしたい。実際に運搬、試射までしたいものだ、有効なら、上を説得しやすい」
「分かりました、重火砲の方は第二、第三砲台に据えてあるのと、同じでよろしいですか?」
「それだが、少尉はどう思う?重火砲に新式があるのかどうか、私には分からない。
どうせなら、新調したいからな」
「それでしたら、野戦砲同様、アーガイルで新型重火砲を発表しました。ネックであった重量の軽減に成功したそうで」
「ならば、それを手配しよう。先程砲台内を引見した所だ。重火砲も必要設備として、破損火砲の代替と一緒に申告しよう」
はて?何故作戦参謀であるゴーン大尉が?
「そう言えば、まだ本題を伝えていなかったな。パルト中尉、内定だが、中尉は第三砲台副守備長に配属が決定した。不満だろうが、私がそう推した」
……不満かどうかで言えば、不満だ。だが、いくら私が鈍くても、ここまでゴーン大尉が言葉を連ねれば分かる。
「中尉には機動砲兵中隊を率いてもらわなければならない。
各砲台から独立した火砲部隊となり、総合司令部直下になる。
その為に、南方大陸で小隊を率いて実績と実力を示して貰いたいのだ」
南方大陸の支援出兵の話に繋がった。
だから、絶好の機会なのか。本当にこの人は。
「それから、私は第三砲台付の出向総合司令本部参謀として、監督することになった。
それに伴い昇官する。まあ、目附役だ、よろしくな中尉」
……まあ、良いさ。短い間だが一城の主となったのだから。
「こちらこそ、よろしくお願いします、ゴーン少佐」
ゴーン大尉が素面に戻った。私としては歓迎する。
ゴーン大尉の前では、アルは禁句と。
「南方大陸の出兵自体に、特に貴官は異論は無いと解釈してよろしいのだな」
言質を取られたが仕方ない。私はしがない少尉だ、命令が下れば、どこにでも行くとも。チクショウ。
「勿論です。既に大尉殿には、行き先まで知らされているのでしょうか?」
「いやまさか、些か先走りが過ぎるよ少尉。
ただ、フランク王国の同盟国として、何らかの支援をすることにはなるだろう。そこでだ」
ゴーン大尉の頭の回転は早い。ここまで話を繋げ私に聞かせるとは、事前に推理に思考考察を重ねたのだろう。
恐らくこれから口にする事は実現する事象となる。
「所詮南方大陸の国家郡の諍いなど、代理戦争に過ぎない。いずれが勝とうが負けようが、列強両国が亡ぶ事の無い只のゲームだ」
はて?ゴーン大尉はこの様な御仁だったのか?
それとも作戦参謀と云う人種は完全に、
戦場を盤面。兵士を駒。
戦争をゲームとして捉える事が出来るのか?
「ならば少尉、これは絶好の機会では無いかな」
「何がでしょうか」
本当に分からない、大尉殿との会話は先方が切れすぎて、理解が追い付かない。
「貴官の提案した機動砲兵構想の実現だ。幸いにして、戦場は確保出来そうだ。
勝敗も代理戦争だから他人事だ。
ただ機動砲兵の試用が実地で出来る。先ずは小隊で投入し、実地運用で問題点を潰してゆく」
………本当に怖い人だ。
多分、あの日機動砲兵構想の話をした時から、今日の情勢を予測し、機動砲兵実現の為の根回しをしてきたのだろう。
「……ゴーン大尉は、この状況を予測していたのですか?何時からです?まさか艦隊が底錨していた時から?」
「当然ではないか。国籍不明艦隊が、ナザレ沖に底錨するが、直接的に戦闘行為を行うでも無く、第二第三砲台を籠絡していた。
他国、しかも彼らをして、国家反逆せしめる程の見返りを用意出来る国」
ここでゴーン大尉は、ようやく缶コーヒーに口をつけた。軍携行糧食の飲料で一番マシな飲み物だ。
「そう幾つも有るまい。かの艦隊のナザレ海上封鎖が、作戦行動の一環としたら続きがある。
そこで機動砲兵の活躍だ。投降した士官から連合王国が知れた。
いずれ、かの艦隊の動きは知るが、連合王国がここまで大掛かりな作戦行動を取るとしたら、目的は敵性列強国のフランク王国に対する軍事行動しか考えられない」
「成る程、順を追って思考すれば、最もです」
「列強二国が争えば、世情が、特に南方大陸の諸国が不安定になる、どちらが勝とうが負けようがだ。
ならば同盟国として、フランク王国支援を閣議決定するだろう。貴官の言う通り、軍人に拒否はない」
どうやら、正解解答をしていたようだ。建前は大切だ。心しよう。
ゴーン大尉の表情が緩む。
「貴官の機動砲兵構想は、誠に絶妙なタイミングで提案された、あれは、戦いを変える。
中隊、大隊編成で戦地投入すれば、歴史に名を残す戦果を上げるだろう。
少尉、機動砲兵、貴官ならどう運用する?」
「野戦、攻城戦、城塞戦、前提はどのような戦場ですか」
「大規模戦争はごめん被るので、野戦前提で」
南方大陸を想定しての事だろう。攻城、城塞攻略戦となったら、引くに引けない戦況だ。
「私としては、囮としての通常砲兵と、機動砲兵を連動させたいと、機動砲兵の方は三砲班から四砲班で重騎兵と、行動させるのです」
「囮としての通常砲兵とは?」
「野戦砲撃の場合、双方砲撃射程外に陣を置きます、極論すれば、互いの兵力を砲撃射程内に誘導するために兵士を動かしますが、大抵失敗します。お互い砲術の専門家がいるのですから」
砲兵が歩兵に馬鹿にされる所以でもある。
場合によっては、一度も砲撃が無い戦いもあるのだ。
「派手に撃ち、有効射程を知らしめ砲支援限界点を教えて、油断を誘います」
「成る程な、それで重騎兵と行動か、砲撃想定外地点から、重騎兵突撃に見せかけた砲撃支援。
敵からしたら急に射程内に敵砲兵の出現だ、自軍砲兵や本陣を砲撃されれば、指揮は混乱するだろう」
「相手の砲撃が開始される頃には、重騎兵が築いた橋頭堡に移動して、支援砲撃を開始してもよし、そのまま退却してもよし」
「奇襲手段としての活用か、火力が段違いに違うから有効だな」
「奇襲は一度知れれば、次は有りませんが、機動砲兵は別です。分かっていながら防ぎようもない」
「あの機動力だ、当然だな。敵が止めるとしたら機動戦力で……いや無理か」
「はい、その場合、至近距離からの水平砲撃です」
「成る程な、だから重騎兵込みでか、敵に決死隊を組まれても、重騎兵が防ぐ。その間に離脱して砲撃か。つまり、運用自体は重騎兵の運用と然程変わらないか、成る程」
「流石ですね、補足の説明が要らないのですから。
ただ、破壊力は重騎兵の比ではなく、敵陣を砲撃で切り裂きます。
そのまま他兵科のと連動して砲撃支援をしてもよし、退却してもよし、自在です」
「うん、及第だろう。その方向で調整しよう、少尉は小隊を、機動分隊と通常編成分隊に分けたいのだな、ならば機動架台は四両作成してくれ」
「はい、火砲はこの間のアーガイル社の野戦砲でよろしいのですか?」
「それは、少尉に一任する。ただ、それとは別に重火砲の移動架台の作成も頼む」
失念していた、機動砲兵に捕らわれ過ぎたか。
「……お恥ずかしい限りです、そうでした重火砲の戦地投入を失念していました。
重火砲の射程距離ならば、直接敵陣を砲撃でき、そもそも機動砲兵自体が不要となります」
だから及第か、本当にゴーン大尉は恐ろしい人だ。
「いや、少尉。重火砲は謂わば切り札だ。会戦、決戦時まで知られては不味い。
だが折角だから、重火砲の戦地投入が可能かどうかのテストもしたい。実際に運搬、試射までしたいものだ、有効なら、上を説得しやすい」
「分かりました、重火砲の方は第二、第三砲台に据えてあるのと、同じでよろしいですか?」
「それだが、少尉はどう思う?重火砲に新式があるのかどうか、私には分からない。
どうせなら、新調したいからな」
「それでしたら、野戦砲同様、アーガイルで新型重火砲を発表しました。ネックであった重量の軽減に成功したそうで」
「ならば、それを手配しよう。先程砲台内を引見した所だ。重火砲も必要設備として、破損火砲の代替と一緒に申告しよう」
はて?何故作戦参謀であるゴーン大尉が?
「そう言えば、まだ本題を伝えていなかったな。パルト中尉、内定だが、中尉は第三砲台副守備長に配属が決定した。不満だろうが、私がそう推した」
……不満かどうかで言えば、不満だ。だが、いくら私が鈍くても、ここまでゴーン大尉が言葉を連ねれば分かる。
「中尉には機動砲兵中隊を率いてもらわなければならない。
各砲台から独立した火砲部隊となり、総合司令部直下になる。
その為に、南方大陸で小隊を率いて実績と実力を示して貰いたいのだ」
南方大陸の支援出兵の話に繋がった。
だから、絶好の機会なのか。本当にこの人は。
「それから、私は第三砲台付の出向総合司令本部参謀として、監督することになった。
それに伴い昇官する。まあ、目附役だ、よろしくな中尉」
……まあ、良いさ。短い間だが一城の主となったのだから。
「こちらこそ、よろしくお願いします、ゴーン少佐」
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