突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

第三砲台臨時守備長パルト少尉

 入室許可を求めるノックが鳴る。


 仮だが、現在第三砲台の守備長はパルト少尉だ。一号台場守、一番砲手も兼任する。


 まあ、士官のほぼ全てが拘禁、もしくは戦死状態だ。他から回すにしても、急場には間に合わない。


 少尉昇官の辞令と共に、任官命令書が発令されたのだ。


 ゴーン大尉より、今回の騒動の昇官リストにレオンの名を捩じ込んで置くとの事なので、


 この仮守備長を恙無く勤めれば、それを功に昇官の運びなのだろう。


 信賞必罰、特に信賞は必ず実行するそうなので、間違いはあるまい。


 上昇志向が強いレオンとしては、現状は最良だった。


 ……入室の許可を出す迄は。


「パルト少尉、邪魔をするよ」


「ゴーン大尉」
 慌ててレオンは立ち上がり敬礼をする。ゴーンもそれに返礼だ。


 上位階級者など、ここには居ないので、油断をしていた。


 それに、ゴーン大尉は自分を引き立ててくれた恩人でもある、失礼は不味い。


「楽にしてくれ、今日は任務で来たわけではない」


 かと言って、遊びに来た訳でもあるまい。
 アポ無し面会は現場指揮官の常だ、驚いていては査定に響く。


 ゴーン大尉は根回しが上手だ、つまり顔が広い。人事部にも伝があるそうなので、油断は出来ない。


 幸い、先程迄アルと曹長を迎えていたので、応接机を設置したままだ。そのままゴーン大尉を迎える。


 本来なら応接室で対応すべきなのだが、何分人手がない。


 更には仮の守備長に過ぎないので、従卒が付かない。なので、守備長室での対応が精一杯だ。


 飲物は軍携行糧食レーションの缶コーヒーだ。


 勿論常温だが仕方ない、守備長室はキッチンなど備えていない。


 従卒の控え室に湯沸かし程度のキッチンがあるが、現在は施錠中だ。


「ナザレ沖に駐留していた艦隊だが、四連合王国と断定した」


 怪情報としては耳にしていた。断定情報としては初聞だ。


「反乱士官の自供でしょうか?」
 怪情報の出先だ。


「それも有るが、あの艦隊は出帆時に国旗を掲揚した様だ、海軍が追走時に確認した」


「よく開戦にならなかったですね」


 海軍としては、面目丸潰れなので戦闘はあり得た。


「流石に艦隊相手に、哨戒快速挺で喧嘩はしないだろう。艦隊旗から四連合王国海軍、内海艦隊ベルソン提督と判明した」


「その名は聞いた事があります、隻眼隻腕の名将として」


 事実、ベルソンは内海一帯で名を馳せた海将だ。艦隊の運用が巧で、また戦機を逃さない戦術眼の持ち主だ。


 フランク海軍が、ベルソン提督との交戦を嫌い離脱を図ったのも、戦術上は正しい。


 数で互角になられただけではない、弾薬の消耗した三個艦隊を、弾薬を満載した艦隊が、外縁からの挟撃運動を見せたのだから。


 あのまま海戦に参入され、円弧航行の内縁の二個艦隊、外縁の無傷の一個艦隊に挟撃砲撃されたら、多大の損耗を強いられる。


 結果、真っ先に脱落するのはテュネス艦隊だ。


 テュネス艦隊は不利を悟りテュニス軍港に撤退するだろう。


 テュネス艦隊を抑えていた一個艦隊が、返す刀でフランク海軍包囲に参戦すれば、フランク海軍は壊滅しただろう。


「南方大陸のテュネス共和国。
 首都港テュニスの海上封鎖を、四連合王国がしていたのだが、テュネスの救援に向かったフランク海軍を、かの艦隊が撃破した。
 我が軍は出汁にされたな」


「なんと、フランク王国は同盟国、テュネスは支援国、その上で我が軍と交戦覚悟でこんな大胆な軍事行動を」


「更には調略を仕掛け、内応を促すなど、全く舐められたものだ。この件どう推移すると思う」


「……そうですね。問題は、テュネスの救援に向かったフランク海軍の撃破ですかね、どの程度の損耗なのですか?」


「それは諜報部の報告待ちだ。ただ、フランク海軍救援失敗の報を受けた、フランク王国の庇護下国家郡の動きを、どう予測する」


「それは、単純にフランク王国の吸引力の低下が予測され、更に反フランクの台頭が考えられます。連合王国もこれ幸いと煽るでしょうし」


「同盟国である我が国は、南方大陸の諍い、代理戦争に駆り出される事になるだろう。
 少尉、この流れは歓迎すべきか、否か?」


 煽られているのか?不用意な発言は、気をつけねばならないな。


「私は一軍人です。結果、南方大陸に出兵の流れになろうと、軍令ならば従います」


「……今回の連合王国の軍事行動は、腹立たしい事この上無いが、当方に全く益が無い訳でも無かった」


 切り口を変えてきたが、ゴーン大尉は何を望んでいる?


「宜しければ、その益の所を教えて頂けますか、小官には思いつきません」


「機動砲兵。これは従来の戦いのあり方を変える。今回の反乱で異才が発掘された事が、大きな益だ」


 ……いや、まさかここに飛んでくるとはな。


 だが、同感ではある。
 アルの神業とも言える砲術は言わずもがな、あの車両の有効性は計り知れない。


 以前ゴーン大尉が考案した、重火砲の戦場投入だけでも戦いの形は変わるのだ。
 その運搬方法に目処は立った。


「そのアル技官、いや、アル技術准尉武官待遇なのですが、今開発部に行っております。先程辞令を下して、車両の試作に取りかかりましたので」


「なんと、では入れ違いか。残念だな、一度直接会ってみたかったのだが。何せ妙な噂しか聞かないのでな」


 ……ウンコ関係か、やれやれだ。


「本人曰く、異臭を感じた時に、超常的とも言える天恵や直感を得るそうです」


 かなり、かなーり、言い様を滑らかにした。


 “ウンコ三号が教えてくれる”では、狂人の妄言だ。


 ゴーン大尉の反応はと云えば。


「なんと素晴らしい!つまり、アル技官は古の聖人の様な超常的な異能を有しているのか!
 遠目から只者では無いと感じてはいたが、やはり、矢張か!」


 ………ゴーン大尉………


「いや、そこまでは解りません」


「いや、間違いない。およそ200年程前に実在した聖カルタスだが、やはり超常的な言動で有名だ、数々の予言をし、その多くを的中させてい………」


 と、まあこんな感じだ。


 これは私の感だが、ゴーン大尉とアル技官は、絶対に掛け合わせてはいけない。


 とても危険だと、そう感じた。

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