突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

アル技術准尉武官待遇

 アルの軍属許可は、すんなりと通った。


 何せ、第三砲台臨時砲台守備長、レオンと参謀本部ゴーン大尉の推薦付だ。


 ただ、所属で揉めた。


 第三砲台付火砲術研究室なのか、ナザレ軍港城塞兵器開発部に所属するかでだ。


 後者の方が、圧倒的に待遇が良い。


 と、言うより前者は新設研究室だ。本来そんな部署は無い。


 レオンが強引に第一砲台守備兼砲台総括官、
(第一砲台は軍港内に有り、各砲台の総括的な地位に有り、直接的に上司になる。
 ただ、今回の反乱を察知出来ず、熟練砲手をみすみす放出した咎により、前者は更迭される。
 レオンの研究室設立申請は、そのドサクサを狙ったもので、半分やけくそになっていた第一砲台守兼砲台総括官の判子を貰ったのだ)


 の許可の元、新設したのだ。


 陸軍総司令部戦術研究室に所属していただけあって、申請に当たり予算案は全うな物で有った事も、すんなりと許可が下りた要因ではある。


 レオンとしては、火砲術研究室に所属してもらい、あの命中精度の解析をしたい所だが、


 構想は機動火砲部隊の中隊運用だ。


 機動架台の開発、生産も急務であり、制作者のアルを開発に回したくもある。


 当初はそのつもりでスカウトしたのだから。


 本人はナザレ軍港内の所属を嫌がり、第三砲台所属を望んだが、車両の制作を希望した事が揉める元ともなったのだ。


「アル技術武官待遇、長いからアル技官で良いかな」


「軍属申請通ったんだ。技術武官待遇ね、何それ?」


「アル技術武官待遇、公的な質疑だ、口を慎め」


 軍曹に怒られた。因みに軍曹は軍曹でなくなって、曹長になっていたが、軍曹は軍曹だ。


 ここは第三砲台守備長室だ、軍の設備に期待はしていなかったので、殺風景なのは想定内だ。


「へいへい。んで先生なんだい、車両作りたいんだが許可はまだかい」


「だから、アル、口!」


「構わない、ダッド曹長。アルに畏まれると、逆に愚弄されている気がするし」


 それはそれで、酷い評価だ。まあ、良い。


「待遇は下士官、准尉待遇だ。これは任官辞令書」


 流石に軍令受領なので、辞令書は黙って受けた。


「先生質問、つまり階級的に軍曹より上ってこと?」


「いいや、違うよ。アルは民間人だから」


「どゆこと?」


 これは分からなくても仕方ない。民間軍属は軍人ではない。


 例えば士官学校の学生は、民間人と見なされず、在学中は准尉待遇の軍属扱いだが、軍組織内では列記とした准尉だ。


 一方、民間軍属、アルの場合、技術准尉武官待遇となり、技術者として参軍し、准尉クラスの情報共有権限を有する民間人、と云う意味だ。


 ややこしい。


「つまり、軍曹よりは偉くないのか」


「身分は民間人だからね、武官待遇だと民間会社からの出向なら、所属会社から危険手当が付くだろうけど、アルは出向技術官じゃないからね。
 目一杯給料待遇を良くしたけど、その話は担当者にさせるよ」


「ふうん。ついでに聞くけど、俺の車両なんだけど、前に特許申請がどうのとの話だったが、どう手続きしたら良い。軍属なら申請が楽になる話だったが」


「その件なんだが、済まない、今は特許申請は無しだ」


「何でよ、遊んでいても金が入るとの話で、ウレウレのウハウハになるから軍属が楽だと言ってたぞ」


「アル、意味が分からん。なんだウレウレだのウハウハってのは」


 曹長に出世した軍曹が首を突っ込んできた。


「済まないアル。ウレウレにする訳にいかなくなって、あれを公開する特許申請をする訳にいかないんだ」


「少尉殿、二人だけで話を進めないで、説明を」


 ダッド曹長は、戦闘状況下に無ければ、割りと常識人だ。
 なので特に職務では無いが、アルのお目付け役を振られていた。


 と、本人は認識していたが、事実は少し違う。


 半分は合っているが、もう半分は曹長のストッパーとして、アルが抜擢されていた。


 まあ、二個イチの扱いで丁度良いとの判断だ。


 アルの神技とも言える砲術は、同じ兵科の、特に砲手に絶賛された。


 定点からの砲撃では無い。それぞれ勾配角度の違う斜面から、砲撃距離の違う的に、数秒の角度、方角調整で命中させるのだ。


 距離は600~800㍍。精密射撃用狙撃銃で、ベテラン狙撃手が狙撃しても、まず命中しない。
 数秒での調整では不可能だ。


 なので、神手、神砲手と持て囃されたのだが……


 何分、本人がアレだ。奇矯が過ぎて変人だ。


 口の汚さもさることながら、たまにウンコがどうの、師匠はウンコだの、三号が一番ウンコだの、正気を疑う言動があり、


 ウンコ臭い守護が付いているとの証言(ブブエロ証言)により、すっかり第三砲台内で、


 “ウンコ使い”だの“狂人神砲手”だの“ウンコの使徒”だの、宗教裁判に掛けられそうな、そんな二つ名を頂戴していた。


 正に紙一重の精神性により、尊敬と嘲りが折半したような評価で、同じく正気と狂気が同居していると評判のダッドをあてがったのだ。


 事実、初対面の時から相性は良い様で、今の所問題は起こしていない。


「アルの車両だが、曹長はどう商品として評価する?軍内だけで無く民間の需要も考慮すれば、爆発的に売れると思わないか」


「ああ、ウレウレとは売れ売れとの意味でしたか。確かに売れると思いますよ」


「制作に幾つか新考案が成されているから、特許申請対象だけど、ただ、アル。申請には制作方法も公表しなければならなくなる」


「ああ、成る程」


「どゆこと?」



「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く