突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

戦闘開始

「攻撃開始が6時となる、それまでに弾薬、装備の点検を忘れるな。……数時間だが休息を取れ。激戦が予想される。解散」


 そう言うと、レオンはダッド砲班の元に赴き、アルとピエトを手招きした。


「済まない、最重要任務、と言えば聞こえがいいが、最悪くじ引きで選出するような任務を、押し付けてしまった」


「いや准尉殿、俺達は好き好んで志願したんだ。それに指揮官は絶対頭を下げてはいけない、それを忘れないでくれ」


 コロンボとブブエロは、何か言いたげだが、言葉を飲み込んだ。


「わかった……ピエトといったな、本来輜重科に下す命令ではないが、よく志願してくれた」


「隊長殿、軍曹殿の言葉通りです。好き好んで志願したのだから、気にしないで下さい。行動を起こさなければ、チャンスは掴めないのだから。俺は輜重科の二等卒です」


 輜重科は余程の事がないと出世しない、今がその余程の事だ。確かにチャンスだ。


「わかった、作戦成功の折には人事部に推薦状を送ろう」


 何せ命懸けの任務だ、昨日の土塁設置失敗で、死傷者が出ている。それを押しての志願だ。


 レオンとしても、それくらいの労力は惜しくなかった。


「アル、ここまで頼む積もりは無かった……
 軍曹達を土塁に送ったら、何度も往復してもらう事になる。
 いや、火砲支援が効いて砲撃が薄くなれば、移動架台で班員に移動させる、それまで頼む」


 作戦は成功させなければならなかった。


 軍事的にも、私的にもだ、だからレオンは決死隊に心を砕いた。


 作戦的に一番死傷確率が高いのだ。


 決死は誇張ではない。


「はいよ。何か一号が湧いてきて臭ぇけど、二号があるからな。まあ俺は平気だろう」


「・・・私は真面目に心配しているんだが。
 アル、ここは本物の戦場だ、いつまでも巫山戯ていては駄目だ」


 “戦場”の辺りで軍曹が反応したが、スイッチが入るには至らなかったようだ。


「そうだぞ、アル。俺達は真剣に真面目に勤勉に闘わなければならない。
 闘って、殺して、殺して、殺されて、殺されて!殺して‼殺されて‼……速く朝になれ!」


 まだスイッチは入っていない。


「別に巫山戯ている訳じゃない!俺にはウンコ臭ぇ何かの加護が有ると言っただけだ、だから平気だ!」


この台詞は後で小隊内にひろがり、それが更に城塞内に広がり、酷い二つ名がつくことになる。


「おウ、お前も加護あるノカ、ウンコ臭ェ?は分からなイ単語だが、俺にも、阿呆鳥ノ加護がある。だから不死身」


 ブブエロは南方大陸の一部族の出身だ。阿呆鳥という事は海岸線に定住している部族だろう。


 阿呆鳥の加護とやらが、どのように作用すれば不死身となるのか、非常に興味深い。


「増えちゃったか」
 これはコロンボ伍長。意味深である


 場の雰囲気、と言うよりレオンの雰囲気が和らいだ。


「激戦になる、頼んだぞ」
 一同は敬礼した。






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 夜が明けた、内海ないかいの方に目をやると、国旗を掲げていない戦艦が12艦、砲口を湾奥に向けて停泊していた。
 戦闘旗は掲げていない。


 ここからだと、対岸に位置する第二砲台の様子はうかがえない。


 先陣の歩兵部隊が前進した、第三砲台からの射程距離外までだ。


 それぞれが土嚢を背負った、特攻小隊が8個。


 作戦の性質上、歩兵工兵科を中核に編成した混成小隊だ。


 一小隊が戦術単位なので、工兵中隊とは言わない。


 パルト砲兵小隊は、8個特攻小隊の最後尾についた。


 さらにその後続に、通常工兵が土嚢を作成する。


 攻撃開始時間だ。


 とくに進軍ラッパなどの鳴り物はない、最先陣の小隊隊長の号令があっただけだ。


 小隊人員が駆ける、登り勾配だ、土塁設営ポイントまで600㍍程だ。


 第三砲台からの砲撃が、散文的に始まる。
 牽制兼、兵の気組みを見るためだ。




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「大尉殿、工兵部隊が、想定通りのポイントに土塁を築き始めました」


 こちらは第三砲台司令塔。
 地形位置的に、敵砲撃を考慮しなくて良いので、円筒状の縦長に建築された塔だ。


「なかなかの意気込みだ、良い兵達だ。昨日の引き際と良い、ブロス中佐殿は名将になられるな、そう思わないか、少尉」


「特に際立った戦功はありませんが、失敗も聞きません、兵の統率は見習う所があります」


「そうだ、奇を好む将は恐るに足らず。堅実に、愚直なまでに堅実な用兵する将が、一番恐ろしい」


「大尉殿は、恐れている様には見えませんが。近年に無く、はしゃいでおられる」


「はしゃぎもするさ、少尉もそうだろ、戦闘だぞ、戦場だぞ、戦争だぞ!愛して止まない闘争だぞ!血がたぎる!」


「小官も、近頃に無く興奮して居りますとも。ただ、残念なのが、彼等が自国の軍だという事ですが」


「なに、すぐ多国籍の軍と戦えるさ。
 予定は今日までの足止めだ、深夜快速挺で脱出して、艦隊に合流する。
 ……次の戦争の始まりだ」


「今日まででしたか。詳細を教えて貰えませんでしたので」


「済まない、そういう条件付きだったのだ。艦隊側も我々を回収する事は、極秘事項だからな」


「では、本日は撃ち放題ですな、残弾残薬を気にしないで」


「その通りだとも。さて、ナザレ駐留艦隊に挨拶をして、パルト准尉を教導するか」


 駐留艦隊の鼻先に、第三砲台自慢の重火砲で砲撃した。


 重砲の射程距離は、最大4500㍍だ、ここからギリギリ軍港口に届くか届かない距離だ。
 定期的に撃ち込んで艦隊の足止めをする。


 重火砲は当然の事ながら、ナザレ湾にしか向いていない。


 また、据え付けの巨砲なので、歩兵部隊側に回頭できない。


 それが、救いだった。

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