突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

スカウト成功?

「准尉殿、命令は下ったのです。ここは速かに行動あるのみです」


 レオンはハッとした、その通りだ。この場は余計な事を考えても仕方ない。


 そう考えて、軍曹が何故かイキイキとしている事を見逃してしまった。


「総員整列!」


 即座に混成分隊は集合整列する


「総員傾注!」


 これは軍曹が続けた。


「本分隊はこれより作戦行動を発動する。
 ナザレで現在第三砲台を攻略中の、混成歩兵大隊と合流後、これを攻略する。
 野営地を撤収し夜間行軍となる。
 輜重兵、交通厩舎から軍馬を、破損車両は遺棄する。
 総員、行動開始!」


 兵員が行動を開始するなか、ボケッとしているアルにレオンは近づいた。


「聞いて通りだよ、作戦行動に入るから運送依頼はここまでだ」


「そうだね、まあ稼ぎ損ねたけど、戦争じゃ仕方ないか」


「それでだが、アル。とても言い難いんだけど、君の車両を接収させてもらうよ」


「すまん先生、接収ってなんだ?何か嫌な響きだが」


 別にすっ恍けた訳でなく、マジで知らない単語だった。


「もらい受けるという意味だよ、当然対価は払うよ」


「先生、つまらないからやり直し。……嫌に決まってんだろが!」


「本当にすまない、民間人の君を戦地に同行させる訳にはいかないんだ」


「なら今から俺軍人、はい決定」


 簡単に言いきった。馬鹿は思い切りが良い。


「な?何を言って……」
「先生言ってたじゃん軍属にならないかってさ、軍属ならついていけるんだろ、だからなる」
「軍属ならば法的には問題無いけど、危険だよ最悪死ぬかもしれない」


「・・・先生、1つ良い事教えてやるよ、別に死ぬのは終りじゃない、嫌な意味での始まりだよ」


「?どういう意味だい?例えの意味が分からない」


「例えじゃないよ、言葉通りの意味だよ。だから軍属になる事に問題はない」


 どうも、アルの言葉は自己完結が多い。だが、今回ははっきりと軍への参加意思を示したのだ、計らずもスカウトは成功した


 レオンは短く「わかった」と答えた。


 撤収は迅速だった、ものの20分で野営テントはしまわれ、今は車両と牽引馬を連結している最中だ。


 この車両は馬車ではないので、乗り込みはしない、馬子として、馬の轡を引くのだ。


 アルは何故か牽引馬に嫌われているので、馬の轡は輜重兵が取った。


 こうして一行は、旧名称バリウス街道、新名称2号街道を上がっていった。


 まだ時間は午後3時を少し回ったところだ。
 順調に進んだとしたら、間に休憩を挟んだとしても、日付変更前には到着するだろう。


 午前の運搬時の、のどかな雰囲気とは違い、
 二人を除いて場の空気は沈みがちだ。


 その二人はというと、


「なあ、軍曹。俺戦争いくの初めてだけど、向こうで何やるの?戦争!なんてつまんない事言うなよ」


「それがな、そのつまんない事を言うしかないんだ」


「なんでよ、軍曹はプロだろ?あるだろ、大砲撃つとか、敵殺すとか。
 あ!戦争だこれ」


「良い響きだな、戦争。速く着かないかな」


「うん?なんだ、軍曹って戦争大好き人間?引くわ〰」


「何を言っている?我々は軍人だぞ、戦闘が大好きに決まっている。みんなそうだ!」


「そうなのか、軍人ってのは度し難いな」


 そんな訳ないだろ。誰かがつぶやいた。


「他人事みたいに言うな、アルもさっきこちら側に来たから殺し仲間」


「おっ!それ何か格好いいな、採用」


「なんだ?その採用って」


「ここぞって時、格好つけるときに言う語録にだ。たとえば、戦友諸君って言葉を、殺し仲間よ!とかね」


「語呂と語感が悪い、却下」


「なら軍曹も真面目に考えろよ、大事な事だろが」


 何が?誰かがつぶやいた。


「そうだな……」


 好意的に解釈すれば、これから戦闘に向かう兵員の緊張をほぐすための軽口だろう。


 最初は軍曹もそのつもりで、アルと雑談を交わしていたが、


 その……軍曹も軍曹でアレな人だったらしく、大いに脱線した。


「そうだ、戦犯者ってのはどうだ、自虐的な響きが良い。戦犯者諸君、良いな」


 馬鹿野郎。誰かがつぶやいた。


「それは駄目だ、戦争は正義だ、犯罪など存在しない。却下」


 これは昔読んだ外国の読物からの引用だ、
 船乗りだった祖父は寄港した先で、この手の娯楽冊子を山の様に買い込んでいた。


 文字は同船した船乗りから教わっており、アルは祖父から教わっていた。


 少し、分隊の空気が軽くなった。漫才の効果はあったようだ。


 途中二度ほど休憩を挟んだ。


 二度目の休憩時に、それぞれが携行している長銃に弾薬を装填する。


 先込め式の単発銃だ、もっとも、主な用法は銃剣による刺突であり、これも装着した。


 月明かりを反射した銃剣を見て、軍曹はニヘラと笑う。


 軍曹、それじゃあ変態の犯罪者みたいだよ。


 という緊張感の無い声がした。

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