突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

その後の老婆2

「うーんとねぇ、本来なら捜査内容は話せないんだけどねぇ、まあは解決したようなものだから、いいか」


 小デブはメモをしまうと、続けた。


「自殺、他殺を問わず、病院から毒で死傷者が出た場合、全て警邏局に連絡が来るんだねぇ」


「鳥兜の毒を飲んだと、老婆が病院に運ばれてきたのが、昨日の午後3時頃でねぇ、それからすぐに通報があったんだけど」


「ふーん。で、ババアが死んで探偵さんが調査にきたと」


「いや、病院へは毒はすっかり吐き出した後で連れ込まれてねぇ、生きているよ。ただ、無理して水を飲み込んで吐いたみたいでねぇ、水を誤飲して誤嚥性肺炎になってたよ。それから探偵じゃないよ」


「3時頃といえば、私がここを出て暫くした頃じゃないか。アルはその後も居たんだろ、なにか知らないか」


「いや、特に。あの後グダグタ駄弁ってただけだし」


「まあ死亡したわけでもないし、鳥兜の根は薬にも使われているからねぇ。
 老婆は故郷の薬湯だと言い張ってたから、当初はウチも事件性は無いと考えたねぇ」


「ただ、ウチの捜査官が問い詰めると、老婆を運び込んだ息子がねぇ、
 毒を自分から飲んだ、だの、服毒自殺を図った、だのと騒ぎ始めてねぇ」


「しまいには、老婆まで“実は服毒自殺を図った”なんて言い出してねぇ」


「それに息子の方も、普通では考えられない怪我を負っていてねぇ、
 これは日常的に息子が虐待を受けて、怨恨から母親の毒殺を図ってたのでは?
 と推測されてねぇ」


「それだとババアの服毒うんぬんが繋がらない」


「そうだねぇ、事件課の見解はこうだ。
 怨恨から毒殺を図るも、激しく嘔吐する母親をみて罪悪感から病院に運び込んだ。
 母親も母親で自分を助けようとしている息子を見て改心し、
 息子の罪にならないように自殺を図ったと申告した」


「なんか、スッキリしないな?ババアとオヤジ、なんか隠してやがるな」


 ・・・この男、自分のした事、された事が、すっぽりと抜けている。


 老婆も店主も、老婆がアルを毒殺するため毒茶を作った事を隠匿したいのだ。


 明るみになれば逮捕であり、
 店主にしても致命的に会社の信頼を落とす事になるので絶対避けたかった。


 うっかり毒ハーブティーを飲んだ事が騒ぎの元で、病院沙汰にならなければ、この親子にとっては日常のひとコマだった。


「さっきは解決したようなものと言っていたのは?」


 レオンは大体の事情を察したが、関わりたくなかったので、話の方向を変えた。


「結局、加害者も被害者もいないからねぇ。殺人未遂でないなら、の出番はないからねぇ」


「現場を捜査したけど、他には存在しないみたいだし、これでは撤収」


「店主の方は、教会から派遣された導師に絞られてたから、暫くしたら帰ってくるけど、老婆の方はねぇ」


「ババア、何かしやがったか。狂暴なババアだからな」


 小デブはうなずいた。


「病院で、捜査官と口論になったあげく、乱闘になって、現在逃亡中でねぇ。執行妨害と傷害で致害ちがい課の担当になったの」


「あらら、見境なしか。キチは怖いね」


「そうした訳だから荷物を預けるなら、店主が戻ってからになるねぇ」


「いや、わかった。分隊に合流するとしよう。ポーロ捜査官感謝する」
「それじゃ探偵さん」


 会話を打ち切ってレオン達は道を引き返した。
 背後から、老婆を見かけたら通報を、それから探偵じゃないからね。
 という小デブの声がした。


 結局時間が無駄になっただけだが、今日という日はどうやら厄日のようで、
 本命の方は分隊の方にきていた。


「こりゃ本気で、バイト先変えたほうが良さそうだねぇ」道々アルが口にした。


「あの一家と付き合いは長いの?」


「いや、10日くらいかな、あいつらの名前も知らないしねぇ」


「なっ!あれだけ慣れていてかい」


「キチがいって、そんなものだからねぇ」


 このセリフ、当の本人は勘定に入っていない。


「アル、その語尾耳障りだよ」


 ポーロ捜査官の口調が気に入ったようだ。


「それは、ゴメンなさいねぇ」


 ただ、直す気は全くなさそうだった。
 そうこう話していると、石畳で舗装された市街を抜けてそのまま街道西口を出る。


 ここからは街道東口同様未舗装となるが、丁寧に整備されており、小石1つ落ちていない。


 現在は味気なく、街道は主要順に番号で呼ばれているが、かつてアルニンが別の名前の大帝国であったころは、
 この街道もバリウス街道と呼ばれていた。


 初代皇帝バリウスが、元老議会院筆頭だった頃、大掛かりに整備させたのが名前の由来だ。


 その街道を西に上がってゆく。


 と言うより西口を出ると300㍍程先に、先行した混成分隊が野営テントを設営完了させており、それを目指した。


 ただ、伝令馬が係留されていたのが見えて


 嫌な予感がした。


 アルが、あら3号。と呟いた。

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