突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

その後の老婆1

 運送屋の前は物々しい状態だった。


 入り口は警邏官によって封鎖されていた。


 アルとしては回れ右したい所だったが、何せ目立つ。とっくに警邏の視界内だ。


 仕方ないので、なに食わぬ顔で店先にすすんだ。


「何かあったの?ここに停泊予定なんだけど」


 警邏二人はアルに質問で返してきた。


「見た所、運送業者のようだが、この店のどのような関係者だ?」
「昨晩はこの店に来たのか?」


(昨日の今日で何やってんだよ!キチってのは読めなすぎんだよ、タワケ‼)


「いや、ここでバイトしてる、アルってんだけど、こっちの先生の荷物を、今晩ここに預かってもらう予定でさ、持ってきたらこの様子だ。誰か死んだか?」


警邏はそれには答えず「ちょっと待ってろ」と横柄に応じ、1人が店に入っていった。


(こりゃ誰か死んだな。オヤジか、ババアか、両方か、ウハッ)


そんな事を考えていたら、中から捜査官だろうか?呼びに入った警邏と一緒に、小柄なデブが出てきた。


「ああ、済まないねぇ。ここの関係者なんだってねぇ、いくつか話を聞かせてもらえますかねぇ」


なんとも、妙なアクセントで喋るデブだった。
それだけで、アルは信頼した。


(このデブただ者ではない。私立探偵か?きっと名探偵だ!すると殺人事件だ)


探偵ではない。そもそも事件だとしたら民間人は現場に入れる訳はない。ツッコむ所は複数ヶ所あるが置いておく。


「そちらの、え~と准尉さんかねぇ?お時間をいただいてもよろしいですかねぇ」


小デブがレオンの階級章を見ていった。


「いったい何があったんだい?」


正直面倒事なら回避したい。無関係を装れるならそうしたいが、すでにアルが名乗ってしまっている。


「私は市街警邏局しがいけいらきょく査察部ささつぶの事件課担当捜査官のねぇ、ポーロといいます」


小デブのポーロは、アルではなく、レオンの方に語りかけた。身分証は一応二人に呈示する。


「検証もねぇ終わっているから、中に入って下さいな」


「いや、荷物から離れる訳にはいかないから、ここで」


小デブは、大仰にアルの車両の積載物を見た。


「何とも大荷物だねぇ!准尉さん何ですかこれ」


「軍事機密事項だから、教えられない。どうしてもと言うなら、ナザレの陸軍司令部に問い質して欲しい」


「ほうほう、機密事項なら仕方ないですねぇ。
え~と准尉さん、御名前を伺ってもよろしいですかねぇ。そちらの運送屋さんも」


小デブはそんな事を聞きながら、何やらメモを取った。これだけの会話からでも、情報を得たのだろう。


「ナザレ軍港城塞第三砲台所属のレオン.パルトだ」
「アルだよ、探偵さん」


どうやらアルは、何も聞いていなかったようだ。


「いや、探偵じゃないよ。あれは物語だけの存在だよ。それより、パルトさん、執政官長の御身内のかたですかねぇ?」


「そうだ。それより、なにがあったんだい?さっきから返事をもらっていない。荷物を預けられないなら、野営地に移動したいんだが」


「いやね、昨日この店の店主の母親がねぇ、服毒自殺を図ってねぇ」


「・・・はい?」
「ババアが死んだって?あの野郎とうとうやりやがったな、探偵さん、犯人はオヤジだ」


「いや、死んではいないよ。それより、今の所を詳しく。それから探偵じゃないよ」


小デブはスウッと目を細めた。重要証言が得られたと思ったのだろう。


「何せ仲の悪い親子でさ、親子で殺すの何のと罵りあっててさ、あのババア、頭がアレじゃん。この間なんて奇声を上げて糞尿かぶってたしね、オヤジも面倒見きれなくなったんじゃないかな」


………嘘は言ってはいない、ただ、圧倒的に言葉が足りない。


「昨日もここで、先生と仕事の話をしていたら、いきなり親子で殴りあいをはじめてさ、とばっちりで俺も先生も酷い目にあった」


………嘘は言ってはいない………嘘は。


「昨日も?ははぁ契約書の控えの名前、パルトさんですねぇ」


小デブが手帳のメモを確認して言った。現場検証で、証拠として上がった物を控えたのだろう。


「状況からして契約締結後、親子で乱闘が始まって、それに巻き込まれたと」


「いや探偵さん、ババア、オヤジをボコボコにして、先生を縛り上げて、俺をボコボコにしてそれから先生と契約した」


……嘘は言ってはいない……


「うん?すると強制的に契約させられたと。それから探偵じゃないよ」


この問いにはレオンが答えた。


「いや、アルと闘ったら憑き物が落ちたようになってね。正気に返ったのか、何事もなかったかの様に、契約の続きを始めてね。内容に不備は無かったし、旧友のアルが請け負ってくれる話だったから、契約締結したんだ」


「ははぁ、お二人様は友人で。出身地ですからねぇ……すると老婆はかなり心を病んでいて、攻撃的になったり冷静になったり、いきなり切り替わる訳ですねぇ」


「そういえば、オヤジや俺をぶん殴ってた時はババア自分の事を“俺”といってたな」


……嘘は言ってはいない。


「うん?それでは普段はなんと」


「べつに付き合いは浅いから、普段はどうだったかな?普通だったかな、“わたし”とか“私”とか”あたし”とかそんな感じ」


アルは続けて言った。


「キチがいババアにはちがいないけどね、あのババア人は殺しても、絶対自殺なんてしないよ」


それにレオンが続く。


「そもそも服毒自殺なのになぜ事件課が」


そう、自殺未遂なら殺人事件専門の事件課の管轄ではなく、
教会の管轄だ。

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