突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

積み荷の中身は?

 そんなスカウトとも雑談ともつかない会話をしているうちに、
 レオン混成分隊は石切山を下り終えた。


 積み込み時にトラブルがあったり、荷物がナンなので、慎重に下山したが、
 いまだに10時を少し回った程度の時間だ。


 石切場からだろう、石材を積んだ牽引車両がチラホラ見受けられた、積載量からして、おそらくパルト市の船着き場行だろう。


 アルの生家が漁師であることから知れるように、パルト市には漁港がある。


 それに併設されて小型~中型船の荷受け場があった。
 大型船は水深が足りなく寄港できないのだ。


 建築資材は小分けにされ、ナザレの商業港まで廻船かいせんされる、この界隈ではナザレのみが大型船の入港可能な港だった。


 パルト市も桟橋や艀船はしけふねで大型船を入港可能にするという、総合港整備計画が立った事もあるが、
 これは、廻船業同業組合、運送業同業組合、漁業同業組合の猛反対で頓挫していた。


 前二組合は既得権益の侵害に繋がるし、漁業組合は漁場への大型船の進出入を嫌っての事だ。


「そういえば軍曹、積み荷なんだけど、大きさの割には重いけど何なの?」


 アルの車両は縦横、 5㍍×2㍍の長方形だ、荷台の中央付近に長方形の木箱が2つ、やや大きめの正方形木箱が3つ積載されていた。


 ダッドはチラリと上官をみる。軍事事項だから、おいそれと民間人には語れない。


「新型の火砲と、架台、整備道具一式と弾薬それぞれ2門分だよ」


 あっさりとレオンは教えてくれた、ダッドは少し慌てる。


「准尉殿、全てを明かす必用は無いかと」


 これは軍曹が正しいだろう、説明なら軍事物資で事足りるのだ


「弾薬を運んでいるのだ、黙っていると余計なトラブルが発生しか……」
「大砲だって!すげぇ!試し撃ちしよう!そうだ!ちょうどいい的が街にあるんだけど、どうかな!?」


「いや、試射ならレントで済ませ…」
「ほら先生も、あのババアに恨みがあるっしょ、暴発したとか何とか口裏あわせて砲撃しよう!」


 何やら”砲撃”の部分で軍曹の耳がピクリと動いたが、気がついた者はいない。


「アル、冗談でもそれを言ったら駄目だ。騒乱罪、最悪内乱罪で極刑だよ」


「じゃあせめて、みんなでションベンでもひっかけてやろう」


 この男、大便をひっかけて、殺されかけた事を忘れている。そもそも砲撃の代替案が小便になる事も不明だ。


 軍人達は無視した。


 その後、アルが何やら不穏な発言をするたびに、レオンやダッド、
 手押しを交代したダッドの班員の、コロンボ砲兵伍長などに嗜められたり、笑われたりしながら街道を上がっていった。


 5月も初旬だ、気温も20度を少し越える程度の温度で、時折イレニア海から吹く風が心地良い。


 アルニンは細長い半島なので、東南西が海に囲まれている。街道も自然と海岸線を沿うのだ。


 午後1時を少し回ったころ、パルト市街が見えてきた。


 道中妙なトラブルもなく、(積み込み時は除く)好天にも恵まれ、予定より大幅に早くたどり着いた。


 当初の予定では3時頃の到着予定で、街道脇に野営だ。


 こうなると少しでも行程を進めたくなるが、荷物を例の運送屋に預ける約束(契約ではない)と、牽引馬を市街の交通厩舎こうつうきゅうしゃに一晩預けたいので、
 市街を抜け街道西口脇に、野営の運びとなった。


 昼食は各自行軍中に携帯糧食レーションで済ませてある。


「総員停止!」レオンが一行の先頭に出ると
 言葉短く発令した。


「総員整列」これはダッド軍曹


 2砲班が瞬時に整列し、輜重科もそれに倣う。
 牽引馬はアルを嫌うので、彼から離れた所で轡取りの兵卒が静止させる。


「本隊は、予定通り市街を抜けた街道西口で野営する、本官は積み荷の保管場所に、確認のため業者と同行する。ダッド軍曹」


「はっ」短く答える。
 後ろの方から、声の質も軍曹だねぇ。などという声がした。


「分隊を率いて先行しろ、野営場所は一任する、交通厩舎は西口が良いだろう」


「了解しました」


 これも短く答える。何やら聞こえたが、いちいち意識するのも面倒なので無視した。


「総員!行軍再開!」


 レオンは脇に抜けて道を開けた。


 ダッドを先頭に、混成分隊が行軍を再開した
 牽引馬は、アルを見るとヒンッと嘶いた。


「それでは、アル行こうか」


 アルの体は特に異常も無いようなので、車両はアルが押していた。


「ババアの所に荷物を預けたら、今日は帰っていいかい、明日何時に出る?」


「荷物を預けたら構わないよ、明日も6時の出発で」


「西口脇からで?」


「いや、運送屋に6時で、ん、そうだ何時から開いているんだろ」


「わからんけど、あいつら二階に住んでるから叩き起こせば良いよ」


「……まあ預ける時に聞いてみるよ、出発時間はその時決めよう」


 まだ、この時はこんな呑気な会話ができた。


 このあと二人の運命を一変する事態になるのだが、
 そんな事など、人間に判りようもなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品