突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

天才アル

「その思い当たる部分を聞かせてくれ」


「一砲班三名の兵員なので、班長たる砲手が部下を教導しなければなりません、しなければ火砲が活用されない」


レオンは頷いた、自身も台場守兼、一番砲手だ。


「それは士官砲手も同様で、階級に物をいわせては他の班員とも上手くいきません。
……少なくとも、第三砲台内では、どこの士官砲手も班員と上手くやっていました」


「そうなのか」


士官と下士官はともかく、士官と兵卒では軋轢は無いということか。


「はい、なので士官砲手が妙な事をすると、他の班員が気付くのです」


つまり、仲が良すぎるのだな、変な意味で無く。


「考え事をしているようで会話が上の空だったり、他の士官砲手と頻繁に連絡していたり、明らかにこちらから距離をとったり」


「それがここ3ヵ月の間にか」


確かに妙な話だ、何故なら士官砲手を煽動する者がいるなら、





私が軍曹の意図を理解すると、軍曹は真っ直ぐ私の目を覗き込んだ。


「いや、私の所には来ていない。……なぜだ?新任だからか?それとも……」


私が思考に没頭すると、ダッド軍曹は安心した様だった。


「その様子では、特に問題は無さそうで安心しました。昨日単独行動を取られたので、疑念がわいたのです、大変失礼しました」


そう言うと軍曹は敬礼した。


「そうか、無用な懸念を抱かせてすまない。軽率だったな、三年振りに故郷の景色を見たくてな、本当にすまない」


本当に軽率だった、他の士官砲手の動きが変なのだから、ここで私まで予定外の行動をとれば、怪しまれて当然だ。


部下に不審がられるまでして、故郷でした事と云えば、
運送屋でトラブルに巻き込まれたあげく、簀巻きにされただけだ。何をやっているのか……。


(実はそれに留まらない、生命の危機だったのだが、知らぬが華とはこの事だろう)


「今後、どの様に行動されますか?」


含みのある言葉だ、それも当然でレオンは直接の上司だ、方針は聞いておきたい。


「……どうもこうも、我々は軍人だよ。命令があればどこにでも行くし、誰とでも戦う。……軍曹の懸念は理解した、誰かが暗躍している事もね、軍令を越えない限りは従うよ」


「ならば、軍令を越えてきたときは、一号台場守としていかがされますか?」


「最善を尽くすさ、その時は軍曹も力を貸してくれ」


満足のいく回答だったのだろう、ダッド軍曹は短く「はっ」と答えると、再び敬礼した。


「・・話は全く変わるけど、軍曹はアルの事はどう思う?」


「どう?と言われましても、かのご仁とは本日初対面なので、……かなり風変わりな人物としか」


「彼は天才だろう。」


断言した、異論は認めない。


「いささか誇大評価では?精々が所、街の発明家では?」


「ダ.リンチは知ってるよね、ベアリングもダ.リンチの発案なんだけど、あの車両に実用化されている」


「ダ.リンチの発案は知りませんでしたが、それは天才の案を活用しただけでは?」


現に、水車や風車などの軸受けに、応用されていた。


「今まで、誰もやらなかった、と言うより発想もつかなかった製法で、彼だけが世界で初めて作ったとしたら?彼の車両のベアリングは鋼鉄製だ」


それが何か?という感情が顔に出たのか、軍曹の薄い反応に、言葉を続けた。


「一輪で、12個、十輪で120個、全て同じ大きさの鋼球だ。柔らかい木製でも難しい」


ようやく軍曹もその難易度を理解したようだ


「他にも、軍曹は車輪を包む様に塗ってある黒い緩衝材、あれは何だと思う?」


「類するものすら見たこともないので、見当も?」


「とある海藻から分泌される粘液を、固くなるまで煮しめた物だそうだ、子供のオヤツ用のお菓子だそうだ」


「はっ?」


いささか意外過ぎたようだ、語尾が上がっている。


「何でも、炭の粉と硫黄を混ぜて加熱すると、強靭で弾力性がでるらしい。ついでに防水性が高く、滑りにくくなるそうだ」


この知識はアルは祖父から教わった、船乗りだった祖父は、船のメンテナンスに使っていたものだ。


「分かったかい、彼は自分の作りたい物を作る天才だ。今ある物から、独自の発想で欲しい物を作り出す。間違いなく天才だよ」


運送屋の親子に聞かせてやりたい台詞だった


「……常人にはできない、発想の転換ができる天才ですか。……私に何を。」


「彼をスカウトしてくれ。幸い彼はパルトの住人だ、非番の日にでも彼の元に訪れてくれ。勤務扱いにするから、かかった費用は請求してくれれば良い」


「了解しました。しかし何故私に?旧友なのでは?」


「勿論、私からもアプローチするさ。軍曹に頼むのは、何やら気に入られたみたいだから、かな?」


その時
“ドカッ” 
という凄い音が、三脚櫓のほうから聞こえた。


二人がそちらを見ると、


馬に蹴られたであろう天才が、宙を舞っていた。

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