突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

老婆編5

(まあ、どうでも良いか、死ぬまで打てばいいのだからな、動きが素人な分、拳士よりも楽だ)


 老婆の自信は揺るがなかった。


(カッコいい!俺猛烈にカッコいいじゃん、ババアビビっているじゃん、俺勝てるかも♪)


 アルの自信はどこから来るのか?電波でも受信したのか?
 そう言えば、ウンコ2号の辺りらへんから怪しい。


「ババア!降参しろ‼今のお前じゃ俺には勝てん‼‼」


 本当に電波か?電波だよな。ビックリした。


「カ、カカ呵呵呵呵。面白い、面白いな小僧、呵カ呵呵呵カ…」


「よ、妖怪かよ。変な声だすなよ、恐いじゃねえか。それよかババア、微妙にキャラがずれてね」


「本当に面白いな小僧、……提案だ俺はこれからお前を三回攻撃する、生き残ったらお前の勝ちで、俺は手を引く。乗るか?」


「断ったら?」


「別に。このまま撲殺するだけだ」


「乗った!もう本当、お願いします」


「よし、これで試合成立だな」


 老婆はスッと威儀を正した


 両肘を直角に曲げ右手が上、左が下になるよう水平に交差させた。この時、両手はそれぞれ反対の腕の袖に通す。差手さしゅである。


 正式な清那の礼だ。


 袖口の無い甲冑姿の武者の場合、略式で右手を握拳にぎりこぶしにして左手でそれを包む洪手こうしゅが許される。


 拳士も一般的には洪手を行うが、差手で礼をする場合、かなり物騒な意味合いをもつ。


 すなわち、当方袖口に暗器仕込んでますよ、それでも試合しますか?という意味である。


 つまりデスマッチの申し込みだ、当然暗器の使用アリアリである。


 上等だ受けて立つぞこの野郎、こっちも暗器有るからね。という場合は差手で返し


 勘弁してよ、寸止めで!お互い良い歳なんだから。というときは洪手で答礼だ。


 アルニン人であるアルが、その意味を理解していない事は承知の上だ。


 老婆は拳士としとて、自分のルールで行動しただけで他意はない。


「我遨家極拳的拳士、。尋常的勝負!」


「あん?何だって?どこの言葉」


「俺の故国の言葉だ、気にするな、では行くぞ!」


 老婆は初動繼歩を踏んだ、全力だ。


 ダン!


「あぁ!ちょ!ウンコ1号!ウンコ2号‼」
 ・・・
 一歩目、バンッ‼


「ウンコ2号!ウンコ2号‼ウンコ2号‼‼」
 ・・・・
 二歩目、ズダン‼‼


「ウンコ2号‼‼ウンコウンコ」
 ・・・・・
 三歩目、ズドン‼‼‼


 動作は同じ、狙いも同じ、先程アルを打った中段掌底、肝径打だ。


 ただ今回は打撃勝負なのでフェイント、牽制なしだ、それから径打ではなく、練打だ。


「絶掌肝打」


 老婆は右手を添えた左掌底をアルの肝臓周辺に叩き込んだ、


 ドボッ!


 人体が発する音ではない。


 アルは物も言わず(言えず)壁まで吹き飛んだ、絶掌を打った直後から次撃動作に入る


(内硬の径反射がない、減衰して抜けただと)


 僅かに反射してきた径は、老婆が発したもので部位的に背骨にぶつかって帰ってきたものだろう。


 内硬功は自身が発した径をぶつけて相殺する武技なので、全反射しなければおかしい。


 思考は刹那の間。


 僅かな反射径を拾い丹に送る


 一練歩、間合いを詰める。


 二練歩目で、壁にアルが激突しバウンドする。更に間合いを詰める。


 三練歩、必殺の間合いだ。


「遨家絶肩」


 店主に見せた技を、あえて繰返しているのだ。
 レオンの視線を意識している、わざわざ他技を見せる理由もない、
 ただ店主の時と違い、発径練径の出力は段違いだ。


 ダムッ‼‼


 絶肩をくらい再び壁に激突するアル、哀れである。


 その僅かな間に、老婆は三練歩を完了させていた。次の絶技は決まっている


「秘奥義、遨家連絶肘れんぜつちゅう


 みぞおちに決まった。いやわずかに芯がずれているようだが、大差ないだろう。


 絶肩、絶肘共にバウンドでカウンターで入っている。


 ドムッ‼‼‼


 という凄まじい打撃音と共に、


 なぜかアルの身体は、倒れてきた。 


 言葉の意味からすれば、二つ以上は連だが、あえて二連続を相、三連続が連と冠した。


 上級極拳士でも絶技のツーコンボを使える者は数える程しか存在しない。


 スリーコンボを使える者は、老婆は自分以外には二人しか知らない。


 超々難度の神技、別格ゆえに、言葉を分けた、その連絶打を…


「イボ小僧、貴様の勝ちだ」


 なんと、アルはのだ。


「ガハッ!はあ、はあ、はあ…」


 さすがに返事ができない、当然だ、本来なら三回即死のダメージをくらったのだ。


「誇れ、小僧。俺の拳を食らって生き延びたのはお前で三人目だ」


「はあ、はあ、な、何人中のだよ、三人中の三人目なんて言うなよ」


「はん、減らず口を。約束だ、遺恨の全てを水に流すぞ、ただな、大姐ダージィエには詫びておけ、俺からも取り成してやる」


「なんだよ、それ?二重人格?そういう設定?」


「ひとつだけ聞く。貴様のそれは左道さどうか?妙な掛け声もその類いか?」


「サドッ、さど?何だって、こっちの言葉でしゃべれ!」


 簡単にいうと、呪術だ。それもかなり黒い意味合いの外道呪術の別の呼称だ。


「ふん、まあいい」


 老婆は、特に返事を期待していた訳でも、なさそうだった。


 清那チィンナの人間は、良くも悪くも現実主義者だ。
 老婆にとって、たとえどんな手段だろうと、自分の技が防がれたのなら、結果に従う。それだけなのだ。

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