突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!

蟹江カニオ

イボだらけのおケツ様

 どうしてこうなった。


 意味が、と云うか言葉自体が半分くらいしか理解できない。一体何を言っているんだ?


 ついさっきまで、そこの店主と仕事の依頼の話をしていただけなのだが。


 下品な罵声。そんな表現では品良く感じるほど、目の前二人は激しく下品に罵りあっていた。


 当事者である青年(会話からアルという名前らしい)が入店した直後から始まった。


「コラ!アル‼てめえのイボだらけのケツに話がある!
 こちらの軍人さんとの話が終わるまで、そこらへんで陰毛でも燃やして待ってろ‼
 わかったかこの間抜け!」 
  
「あん?俺のイボだらけのおケツ様は、毛の生えた肛門みてえなツラァしたてめえにゃ、用はねえとよ」


「本当に口が汚ねえな!まじめな話だ!このボンクラ‼」 
   
「そんな事より、何でてめえがケツのイボの事を知っている?
 ババアか!ババアがバラしやがったな!あの変態野郎」


「なんだよ変態野郎ってのは?ババアだろ」


「知るか‼この間二階のてめえん家で、便所借りただろが、そん時下からババアがケツ覗いていやがった。気持ち悪ぃ」


「あん時か。ババア下肥え屋が持ってく用に肥え桶に糞を汲んでただけだぜ。
 てめえ知ってて糞っただろが、跳ね返りもろにくらってババア発狂してたぜ、
 絶対てめえを殺すとよ」


「ああ、えらい剣幕だったな。怖くなって屋根づたいに逃げて正解だったな」


「あの後、ババア山登って鳥兜とりかぶと(猛毒)引っこ抜いてきたからな、ここで出た飲み物は毒だと思え。と言うか飲め」


「ふざけろ!てめえが飲め‼・・・そうかババア、上等だァ殺られる前にやってやろうじゃねえか」


「・・・話っていうのはそれだ。ババア殺るなら手貸すぜ、バラして埋めて小便放っかけようぜ」


 正気か?罵りあっていたと思ったら、軍人である第三者(自分)の目の前で殺人計画だと?


 本気かどうかは別として、この二人からは狂気すら感じられる。かかわり合いにならないが吉か。よし、帰ろう。


「いい加減にしやがれ‼
 お客様の前でケツイボだの毛の生えた肛門だの!
 まとめてシメんぞ‼」


 登場人物が増えた。件の老婆だろう、やっとまともな人物?と話が出来そうだ。


「ババア!」
「ママ!」


 ママとな?散々ババア呼ばわりで店主との関係性が不明だったが、じつか義理かは置いておいて母親だったとはな。


「ごめんなさいね軍人さん、こいつら本物のキチが・・本物の馬鹿だからゆるしてやってちょうだいね」


「言い直した意味がねえ」
「五十歩五十三歩くらいの僅差?」


 うん?当初思ったより二人の仲はよさそうだ。喧嘩友達といった所か?


「正直助かりました、話の途中で二人が不穏な口論を始めたので、どうしようかと…」


 具体的には、他を当たろかと考えていたのだが。


「本当にごめんなさい。仕事の話はあたしが引き継ぐよ…おいコラ肛門ヅラ‼いつまで遊んでやがる‼お客様にお茶位出しやがれ」


 ・・・この老婆も大概だな・・・


「あん?ママが茶を淹れてたんじゃ?…なに笑ってんだよアル‼」


「こっ肛門ヅラ、実の親から肛門ヅラ、腹いてえ」


 実母だった。アルという青年は、“ケケケ”と実に品のない嫌な笑いかたをしている。


「てめえ達があたしの殺害計画たててやがるからだろが!
 湯だけ沸かしてあるからさっさと行け‼
 それから左側コンロのハーブティーは安物だから死んでも出すなよ」


「いやお構い無く」


 社交辞令ではなく、会話の内容からこの店では飲食をしたくなかった。鳥兜が頭をよぎる


「いやいや軍人さん、さっきのは冗談だよ。これでも客商売だから、茶葉だけは良いの使っているんだ」


「おやおや、冗談で流すつもりだよ肛門君は」


「混ぜっ返すな‼気違いイボ」


「仕事の邪魔すんならそこらで首でもくくってろや」


 ・・・何ともね・・・


 ともあれ店主は奥に引っ込んでいった。
          

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