ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
349 幸福な未来のプロローグ
「それにしても、あれから早二十年、か。光陰矢の如しとはよく言ったものだ。よもや、ここまで順調に来るとは思わなかった」
ヒメ様の御所から転移で学園都市トコハに戻り、歩いて帰り道を行く途中。
リクルの力で俺の体に同化している【ガラテア】がポツリと呟いた。
最終決戦でヒメ様に複合発露で影を取り払われて以降、同様の干渉を受ける可能性を考慮して、もうずっと影に入る形では彼女達を同行させていない。
あの時のような状況でさえなければリクルをわざわざ別動隊として残す必要もないので、すっかりこのスタイルが定番だ。
……それはともかくとして――。
「気に入らないところでもあるのですか?」
【ガラテア】の発言に対し、同じく同化中のイリュファが険のある声で問うた。
勿論、彼女も相手が家族の仇とは別の存在であることは重々承知しているし、二十年経って【ガラテア】がいる状況に慣れもしたはずではある。
しかし、依然として当たりが強いままだ。
とは言え、決定的に敵対しているという訳ではない。
単純に、俺を挟み込んで逆の位置に立っているだけという感じだ。
距離感自体は近い。それが二人にとって収まりのいい関係なのだろう。
「まさか。前にも言ったはずだろう? 私はイサクの味方だと」
「【ガラテア】は胡散臭い。皮肉に聞こえる」
「ふっ、あの弱々しかったテアが言うようになったものだな。しかし、私は純粋に称賛しているだけだ。一片たりとも他意などないさ」
「……言葉に重みがない」
仰々しく告げた【ガラテア】に、呆れたようにテアが嘆息気味に切り捨てる。
昔は幼子のようだった彼女も二十年の月日で随分と成長した。
今では一人前の女の子だ。分類としては素直クール系だろうか。
そんな益体もないことを考えていると、他の子達も次々と口を開く。
「テアの言う通り、何か別の意図があるように感じるのよね」
「別の意図どころか、二心あるようにしか聞こえませぬな」
「日頃の言動が悪過ぎるのです」
「いやいや、それは穿った見方をしているからだ。フェリト、アスカ、リクル」
三人の口撃を受けながら【ガラテア】は楽しそうに応じる。
仲がいいようには聞こえないが、気の置けない関係であることは間違いない。
「私はこんなにもイサクを愛しているというのに、酷いではないか」
「そうだよ、皆。【ガラテア】ちゃんはいい子だよ?」
「ありがとう、サユキ。私の味方をしてくれるのは君だけだな」
「サユキはイサク様に対して好意があれば基本受け入れますからね。その精度が確かなので、私達も貴方が裏切ることはないと理解はしていますが……」
サユキに受け入れられたことで信用を得た内の一人であるテレサさんが、疲れ気味に言う。常識人枠に入ってしまった彼女は、これからも色々と苦労しそうだ。
ヒメ様達の下にいた時より、周りの色物度合いが強いせいで。
「でも、【ガラテア】さんは言葉が足りないと思います!」
「うん。まあ……実際のところ。この身が続く限り、イサクと共にこの世界が定めた道に抗い続けるつもりだ。叛意があるように聞こえてしまうのは、私個人としては結果がどちらに転んでも楽しめるからというだけの話だろう」
間を取り持つように告げたルトアさんの言葉を受け、【ガラテア】は秘密を明かすように演劇めいた口調で告げると更に続けた。
「宿敵たる私が全力で味方しているにもかかわらず失敗に終わり、悔いるイサクを見るのも一興。しかし、私を運命の操り人形にし続けた忌々しいこの世界、かつての観測者共を嘲笑い続けるのもまた至上の喜びと言える」
こういうことを普段から口にしているのが周囲の不信感を煽る原因なのだが、よく聞けば足を引っ張るような真似は絶対にしないと宣言しているのが分かる。
それどころか、危機があれば進んで手助けしてくれることだろう。
サユキのセンサーがなくても、俺はそんな彼女を信じている。
あの日の夢の世界で味方となってくれた時から。
「そんなことより早く帰ろう?」
「折角のイサク兄様の誕生日会に遅れてしまいます」
と、ターナとロナがもう飽きたと主張するように急かしてきて、俺は「分かった分かった」と苦笑気味に応じた。
街並みをちょっとだけ眺めて、後はすぐに会場である自宅に向かうつもりだったが、確かに【ガラテア】の話で意外と時間を食ってしまった。少し急ごう。
二十年の年月を経て、しっかり二次性徴を迎えた大人の体。
軽く駆ければ、すぐ目的地に到着し……。
トリリス様達にホウゲツ学園の近くに建てて貰った大きな屋敷が視界に映った。
入口に立つ、愛すべき両親と名実共に伴侶となったレンリの姿も。
「遅いぞ、イサク。主役が遅刻してどうする」
「ごめん、母さん。ヒメ様のところに行ってたから」
「……はあ。お前はもう少しロト達を信用してやれ」
「うん。ヒメ様にも似たようなことを言われたよ」
二人に窘められ、それ以上小言が続かないように反省の表情と共に返す。
そんな俺の意をくんでか。
「御義母様、御義父様。料理が冷めてしまいます」
会場の準備をしてくれていたレンリが横から続いた。
それを受け、母さんは俺達を見て軽く溜息をついてから顔を上げて口を開く。
意図はバレバレのようだが、流してくれるようだ。
「まあ、そうじゃな。折角ロトのおかげでこうして皆、集まれたのじゃから一分一秒でも早く、長く楽しまなければ」
そして母さんは父さんと共に家に入っていき、その後に俺達も続く。
腕を取って隣に寄り添うレンリに促され、大広間の上座の方に導かれる。
そこで同化している彼女達が一旦離れ、一気に人口密度が高まった。
これだけの人が俺の誕生日を祝ってくれる訳だ。
改めて集まった面々を見渡すと、皆一様に笑顔を浮かべている。
両親は勿論、弟のセトと、彼と結婚して義理の妹となったラクラちゃん。
アロン兄さんにダンとトバル。
特別労役を終えて俺達のサポートをしてくれているライムさん。
各々のパートナーたる少女化魔物達も。
そんな中、代表するように母さんが巨大なホールケーキを俺の前に運んできた。
「さて、イサクよ」
均等に配置されたロウソクに自身の力で火をつけた母さんは、改まったように一つ咳払いして僅かに頬を紅潮させながら言った。
「今日はお前の誕生日じゃが、じゃからこそ言わせて欲しい」
少し恥ずかしそうな様子から、本心を口にしようとしていることが分かる。
「妾の子に生まれてきてくれて、ありがとう。お前のような孝行息子を持つことができて、妾は幸せ者じゃ。これからも、健やかに生きてくれ」
だからこそ、その言葉を耳にして俺は思わず目が潤んでしまった。
親孝行を人生の目標と定め、生きてきた一つの結果。
これ程幸福なこともない。
俺もこの世界に、母さんの子に生まれてきてよかった。
自然と表情が和らぐ。
「さあ、イサク。火を消すのじゃ」
よき日に涙は似合わないと笑顔で頷いてから、もう一度皆を見る。
母さんと父さんが笑っている。イリュファ達も。
セトも、アロン兄さんも。ここにいる誰もが。
だから俺は、この瞬間を噛み締めるようにその光景を目に焼きつけてから。
これからも孝行息子であることと、大切な人々がいるこの世界を守り続けることを心に誓うと共に、皆の幸せを願ってロウソクの火を吹き消したのだった。
「…………しかし、ようやく世界の情勢も見通しが立ってきたことじゃし、そろそろ孫の顔が見たいものじゃな」
ポツリと呟く母さん。
親孝行は果てがない。
けれど、それもまた幸福というものだろう。
ヒメ様の御所から転移で学園都市トコハに戻り、歩いて帰り道を行く途中。
リクルの力で俺の体に同化している【ガラテア】がポツリと呟いた。
最終決戦でヒメ様に複合発露で影を取り払われて以降、同様の干渉を受ける可能性を考慮して、もうずっと影に入る形では彼女達を同行させていない。
あの時のような状況でさえなければリクルをわざわざ別動隊として残す必要もないので、すっかりこのスタイルが定番だ。
……それはともかくとして――。
「気に入らないところでもあるのですか?」
【ガラテア】の発言に対し、同じく同化中のイリュファが険のある声で問うた。
勿論、彼女も相手が家族の仇とは別の存在であることは重々承知しているし、二十年経って【ガラテア】がいる状況に慣れもしたはずではある。
しかし、依然として当たりが強いままだ。
とは言え、決定的に敵対しているという訳ではない。
単純に、俺を挟み込んで逆の位置に立っているだけという感じだ。
距離感自体は近い。それが二人にとって収まりのいい関係なのだろう。
「まさか。前にも言ったはずだろう? 私はイサクの味方だと」
「【ガラテア】は胡散臭い。皮肉に聞こえる」
「ふっ、あの弱々しかったテアが言うようになったものだな。しかし、私は純粋に称賛しているだけだ。一片たりとも他意などないさ」
「……言葉に重みがない」
仰々しく告げた【ガラテア】に、呆れたようにテアが嘆息気味に切り捨てる。
昔は幼子のようだった彼女も二十年の月日で随分と成長した。
今では一人前の女の子だ。分類としては素直クール系だろうか。
そんな益体もないことを考えていると、他の子達も次々と口を開く。
「テアの言う通り、何か別の意図があるように感じるのよね」
「別の意図どころか、二心あるようにしか聞こえませぬな」
「日頃の言動が悪過ぎるのです」
「いやいや、それは穿った見方をしているからだ。フェリト、アスカ、リクル」
三人の口撃を受けながら【ガラテア】は楽しそうに応じる。
仲がいいようには聞こえないが、気の置けない関係であることは間違いない。
「私はこんなにもイサクを愛しているというのに、酷いではないか」
「そうだよ、皆。【ガラテア】ちゃんはいい子だよ?」
「ありがとう、サユキ。私の味方をしてくれるのは君だけだな」
「サユキはイサク様に対して好意があれば基本受け入れますからね。その精度が確かなので、私達も貴方が裏切ることはないと理解はしていますが……」
サユキに受け入れられたことで信用を得た内の一人であるテレサさんが、疲れ気味に言う。常識人枠に入ってしまった彼女は、これからも色々と苦労しそうだ。
ヒメ様達の下にいた時より、周りの色物度合いが強いせいで。
「でも、【ガラテア】さんは言葉が足りないと思います!」
「うん。まあ……実際のところ。この身が続く限り、イサクと共にこの世界が定めた道に抗い続けるつもりだ。叛意があるように聞こえてしまうのは、私個人としては結果がどちらに転んでも楽しめるからというだけの話だろう」
間を取り持つように告げたルトアさんの言葉を受け、【ガラテア】は秘密を明かすように演劇めいた口調で告げると更に続けた。
「宿敵たる私が全力で味方しているにもかかわらず失敗に終わり、悔いるイサクを見るのも一興。しかし、私を運命の操り人形にし続けた忌々しいこの世界、かつての観測者共を嘲笑い続けるのもまた至上の喜びと言える」
こういうことを普段から口にしているのが周囲の不信感を煽る原因なのだが、よく聞けば足を引っ張るような真似は絶対にしないと宣言しているのが分かる。
それどころか、危機があれば進んで手助けしてくれることだろう。
サユキのセンサーがなくても、俺はそんな彼女を信じている。
あの日の夢の世界で味方となってくれた時から。
「そんなことより早く帰ろう?」
「折角のイサク兄様の誕生日会に遅れてしまいます」
と、ターナとロナがもう飽きたと主張するように急かしてきて、俺は「分かった分かった」と苦笑気味に応じた。
街並みをちょっとだけ眺めて、後はすぐに会場である自宅に向かうつもりだったが、確かに【ガラテア】の話で意外と時間を食ってしまった。少し急ごう。
二十年の年月を経て、しっかり二次性徴を迎えた大人の体。
軽く駆ければ、すぐ目的地に到着し……。
トリリス様達にホウゲツ学園の近くに建てて貰った大きな屋敷が視界に映った。
入口に立つ、愛すべき両親と名実共に伴侶となったレンリの姿も。
「遅いぞ、イサク。主役が遅刻してどうする」
「ごめん、母さん。ヒメ様のところに行ってたから」
「……はあ。お前はもう少しロト達を信用してやれ」
「うん。ヒメ様にも似たようなことを言われたよ」
二人に窘められ、それ以上小言が続かないように反省の表情と共に返す。
そんな俺の意をくんでか。
「御義母様、御義父様。料理が冷めてしまいます」
会場の準備をしてくれていたレンリが横から続いた。
それを受け、母さんは俺達を見て軽く溜息をついてから顔を上げて口を開く。
意図はバレバレのようだが、流してくれるようだ。
「まあ、そうじゃな。折角ロトのおかげでこうして皆、集まれたのじゃから一分一秒でも早く、長く楽しまなければ」
そして母さんは父さんと共に家に入っていき、その後に俺達も続く。
腕を取って隣に寄り添うレンリに促され、大広間の上座の方に導かれる。
そこで同化している彼女達が一旦離れ、一気に人口密度が高まった。
これだけの人が俺の誕生日を祝ってくれる訳だ。
改めて集まった面々を見渡すと、皆一様に笑顔を浮かべている。
両親は勿論、弟のセトと、彼と結婚して義理の妹となったラクラちゃん。
アロン兄さんにダンとトバル。
特別労役を終えて俺達のサポートをしてくれているライムさん。
各々のパートナーたる少女化魔物達も。
そんな中、代表するように母さんが巨大なホールケーキを俺の前に運んできた。
「さて、イサクよ」
均等に配置されたロウソクに自身の力で火をつけた母さんは、改まったように一つ咳払いして僅かに頬を紅潮させながら言った。
「今日はお前の誕生日じゃが、じゃからこそ言わせて欲しい」
少し恥ずかしそうな様子から、本心を口にしようとしていることが分かる。
「妾の子に生まれてきてくれて、ありがとう。お前のような孝行息子を持つことができて、妾は幸せ者じゃ。これからも、健やかに生きてくれ」
だからこそ、その言葉を耳にして俺は思わず目が潤んでしまった。
親孝行を人生の目標と定め、生きてきた一つの結果。
これ程幸福なこともない。
俺もこの世界に、母さんの子に生まれてきてよかった。
自然と表情が和らぐ。
「さあ、イサク。火を消すのじゃ」
よき日に涙は似合わないと笑顔で頷いてから、もう一度皆を見る。
母さんと父さんが笑っている。イリュファ達も。
セトも、アロン兄さんも。ここにいる誰もが。
だから俺は、この瞬間を噛み締めるようにその光景を目に焼きつけてから。
これからも孝行息子であることと、大切な人々がいるこの世界を守り続けることを心に誓うと共に、皆の幸せを願ってロウソクの火を吹き消したのだった。
「…………しかし、ようやく世界の情勢も見通しが立ってきたことじゃし、そろそろ孫の顔が見たいものじゃな」
ポツリと呟く母さん。
親孝行は果てがない。
けれど、それもまた幸福というものだろう。
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