ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
314 告白と懇願
「……そうか」
俺こそが当代の救世の転生者である。
ある意味で一世一代と言っていい告白に対して母さんは、単なる妄言と切って捨てるでもなく、すんなりと納得したように頷いた。
話の切っかけを作った父さんも似たような表情だ。
「えっと……驚かないの?」
「この馬鹿者め。妾達を一体誰だと思っておるのじゃ。お前の母と父じゃぞ。薄々そうではないかと思っておったわ」
恐る恐る問いかけた俺に、母さんは嘆息気味に答える。
続けて父さんが苦笑しながら口を開いた。
「子供の頃からあれだけ突出した実力を示していればな。そうとは直接言わないだけで、村の人間達もお前がそうだと思っているんじゃないか?」
「それこそ救世の転生者かもしれないと噂されていたアロンよりも、ああも成長が早ければな。生まれ持った才能というだけでは説明がつくまい」
それから静かに根拠を告げる二人。
ある程度は自重していたつもりだったが、それで誤魔化されてくれるのはまだまだ世の中の普通を把握し切れていない子供達ぐらいのものだったか。
まあ、ヨスキ村襲撃やら暴走したサユキの救出やら、もし完全に自重していたら対処し切れず最悪の結果になっていたような問題が起きたのも悪い。
結局、知らぬは本人ばかりなり、という訳だ。いや、何か違うか?
何にせよ、さすがに素直な弟達に気づかない振りができるとは思えないので、俺が救世の転生者だとは思っていないはずだが……。
こうなると、彼らが気づくのも時間の問題かもしれないな。
そんな風に考えている間にも、母さんは言葉を続ける。
「じゃからな。正直なところ今回の集まりは、こうやって事実を明かすためのものかもしれぬと頭の片隅で考えておった」
「キナ臭い気配もあったからな。恐らく最後の戦いが近いんだろう、ってな」
例えば、補導員事務局の掲示板に張り出されている依頼の傾向。
例えば、少女征服者仲間の間で流れている噂。
その辺りから二人もまた最終局面が近いことに感づいていたようだ。
そこに来て突然の帰郷と食事会。
前々から俺が救世の転生者だと推測していたことと合わせれば、確信とまではいかずとも可能性にぐらいは思い至って然るべきかもしれない。
「………………ごめん、父さん。母さん」
「何故、謝るのじゃ?」
「騙していたようなものだから」
後ろめたさから視線を逸らしたまま答える。
別に無理矢理体を乗っ取ったとかではないはずだが、それでも親としての心情は複雑なはずだ。子供に別の人生を歩んだ記憶が存在している訳だから。
救世の転生者の正体が広く知られる危険性と同等に、そうした思いもあったからこそ隠していた訳だが、その時間の長さの分だけ罪悪感が強い。
しかし、そんな俺を前にしながら。
「大馬鹿者」
母さんは厳しい内容とは裏腹に、この上なく穏やかな口調と共に言った。
そして席を立ち、俺の傍にまで来ると柔らかく俺の背中に手を回してくる。
「イサクよ。お前は妾達の何じゃ?」
「俺は……母さんと父さんの息子だよ」
「そうじゃろう。それ以上でもそれ以下でもない。騙すも何もなかろう」
そう言って母さんは俺を抱く力を少し強めた。
温かい。物理的なもの以上の温もりを感じる。
それに心が落ち着くような匂いがする。母親の匂いだ。
「子も長く生きれば親の知らぬ経験を積み、多くの秘密を持つじゃろう。お前の場合は、それが生まれてすぐだっただけのことじゃ。そして妾達を慮って話さずにいた。それだけのことに過ぎん」
耳元でハッキリとした口調で告げた母さんに躊躇いがちに顔を上げると、目の前には穏やかな母親の顔。その奥には俺達を優しく見守る父親の姿もあった。
「母さん……。父さん……?」
いつの間にか近くにいた父さんは、俺の問い気味の呼びかけに対して深く頷くと母さんごと俺を抱き締めて口を開く。
「気づいていないようだから言っておくぞ。お前がどれだけ俺達を愛してくれているかぐらい全部お見通しだ。その心こそが家族の証。そうだろう?」
「それこそ、あの日から。お前の懸命な気持ちが、どれだけ妾達の心を救ってくれたことか。お前はもう少し自覚すべきじゃろうよ」
そう言うと、母さんは視線をテーブルの上に置かれた熊鍋へと向ける。
あの日。俺が二人と本当の意味で家族として向かい合った日のことか。
「アロンが行方不明になってから、これまで何とか耐えてこられたのも全てお前のおかげじゃ。……ありがとう、イサク。妾達の子に生まれてきてくれて」
本心からのものだと即座に分かる感謝の言葉。
その真摯な響きは心の奥底まで染み渡り、深いところにあった小さくも強固な引け目のようなものが溶けていくのを感じる。
多分これは、あの日を経て尚、最後の最後まで残っていたものだ。
今、それが完全に消え去った。
その感覚をハッキリと認識しながら、改めて中央に置かれた鍋に意識を向ける。
「もしかして、だから今日はこの料理を?」
「うむ。お前のことじゃ。どうせ無用なことにまで思い悩んでおるじゃろうと思ってな。それを笑い飛ばしてやるには、これが最適だと考えた訳じゃ」
どうやら。母さんはここまで予想していたらしい。
たとえ転生しようが、親には敵わないということか。
……まあ、それも前世でどう過ごしていたかによるとは思うけれども。
元々俺は本格的に社会の一員になる直前で命を落とした訳だしな。
それこそ自立して、責任ある立場になって、誰かと愛し合って、子供を授かっていたりすれば、もう少し違ったのかもしれない。
結局俺は、本当の意味で大人を経験していないのだから。
ただ何となく、そういった大人を全うした者が救世の転生者として選ばれてくるようなことはない気もする。だが、いずれにしても――。
「転生者であろうとなかろうと、妾達の親子の絆は何があろうと揺るがん」
「……うん」
それだけは間違いない真実なのだろう。
その確信と共に頷いた俺に、二人は体を離して満足げに微笑んだ。
少しの間、心地のよい穏やかな空気が流れる。
満たされたような気持ちを抱く。
が、ややしばらくして母さんは一転して真剣な表情を作って口を開いた。
「じゃが、救世の、という部分が問題じゃ。勿論、お前ならば【ガラテア】なんぞ恐れるに足らんじゃろう。そこはよい。妾達が真に憂慮するのはその先じゃ」
「救世の転生者は使命を果たすと姿を消してしまうと聞く。歴代の救世の転生者全員、一人の例外もなくそうだったらしい。イサクは、何か知ってるのか?」
「……まさか、お前もいなくなってしまうのか?」
父さんの問いに続き、打って変わって頼りない顔で不安げに尋ねてくる母さん。
それに対して頭の中で少し言葉を選ぶ。
「救世の先に何が待っているのか、俺も分からない」
そして俺は、僅かにレンリに視線を向けながら答えた。
彼女は恐らく救世の真実を知っているのだろう。
だが、多分誰かに、何かに監視され、それを口にすることができないのだ。
レンリは俺の視線に申し訳なさそうに頭を下げるが、彼女は悪くない。
小さく首を横に振り、再び父さんと母さんに顔を向けて言葉を続ける。
「……けど、少なくとも俺はここからいなくなるつもりなんてないよ。絶対に。だけど多分、何か避けられない運命みたいなものがあるんだと思う」
「そんな――」
「勿論、俺だってそれを甘んじて受け入れるつもりはないよ。そのために、救世の転生者を必要としない救世って奴をレンリと一緒に考えてきたんだから」
ハッとしたようにレンリを見る母さんと父さん。
「……そうか。あれは、そういうことじゃったのか」
「レンリは、最初から知っていたんだな」
「はい。御義母様、御義父様。私は旦那様と共に救世の先の世界に辿り着き、添い遂げるためにここにいます。それが先代の救世の転生者様と別れることになってしまった御祖母様と、今旦那様と共にある私自身の願いですので」
救世の転生者の末路は俺自身が推理して答えを出したからか、ある程度は示唆するような発言も口にすることができるようになったようだ。
そんな彼女の発言を受けて尚のこと伝え聞いた結末に現実味を感じたのか、母さんは悲痛な面持ちで再び俺を抱き締めてくる。
「頼む、イサク。いなくならないでくれ。たとえ【ガラテア】からアロンを取り戻せたとしても、代わりにお前がいなくなってしまったら妾は……」
その姿は先程までの親としての堂々としたものとは程遠く、酷く弱々しかった。
そうした母親を目の当たりにして、俺が救世の転生者である事実を明かすことで万が一の時に受け入れる準備をして欲しいと考えていた自分を心の内で叱責する。
そんなものは本当の親孝行ではない。
単なる妥協に過ぎない。
救世を終えたその先も、誰一人欠けることなく平和な世界を享受しなければ親孝行を完遂したと言えはしない。だから――。
「分かった。約束する。俺は他の救世の転生者のようにはならないから。絶対に」
俺は母さんを強く抱き締め返し、そう告げた。
自らに言い聞かせ、誓いとするように。
確固たる意思こそが共通認識に定められた運命を覆す。
逃げ道を考える余地など捨て去ってしまうべきだ。
そう考え、そのように決意を改める。
「ならば……よい」
俺の答えに少しは安心できたのか小さく息を吐いて呟く母さん。
それでも、その顔には影が差したままだ。
しかし、今は折角の食事会。
元々の目的はそれとは言え、暗くなったままでは終わりたくない。
どうにか気分を切り替えて貰うため、話を変えることにする。
「それでその、この機会に二人、紹介したい子がいるんだ」
「う、む? …………む、まさかそれは、少女化魔物か?」
「まあ、そんなところ」
テアとアスカの二人。
前者は、根本的に救世の転生者という概念自体と深い関わりを持つ最凶の人形化魔物【ガラテア】の肉体であるが故に。
後者は空の覇者たる彼女が引き起こした事件の顛末は新聞にも載っており、種族まで明かしてしまうと間違いなく当代の救世の転生者と紐づけられるが故に。
二人に今まで紹介することができなかったが……。
俺が救世の転生者であることを明かした今なら構わないはずだ。
「お前という奴は……」
どこか呆れたように言う母さん。
僅かながら調子が戻ったようだ。いい傾向だ。
「じゃあ――」
「旦那様! それは少しお待ち下さい」
早速、と影に視線を落として中の二人に呼びかけようとした正にその瞬間。
レンリがどこか慌てたように立ち上がって制止してきた。
その焦った様子に驚き、一体どうしたのかと彼女を見る。すると……。
「先に詳しく説明をしませんと、テアさんが危険です」
レンリはその理由を若干早口で告げた。
だが、それはどこか要領を得ないもので両親は勿論のこと、俺もまた首を傾げて疑問符を浮かべてしまった。
俺こそが当代の救世の転生者である。
ある意味で一世一代と言っていい告白に対して母さんは、単なる妄言と切って捨てるでもなく、すんなりと納得したように頷いた。
話の切っかけを作った父さんも似たような表情だ。
「えっと……驚かないの?」
「この馬鹿者め。妾達を一体誰だと思っておるのじゃ。お前の母と父じゃぞ。薄々そうではないかと思っておったわ」
恐る恐る問いかけた俺に、母さんは嘆息気味に答える。
続けて父さんが苦笑しながら口を開いた。
「子供の頃からあれだけ突出した実力を示していればな。そうとは直接言わないだけで、村の人間達もお前がそうだと思っているんじゃないか?」
「それこそ救世の転生者かもしれないと噂されていたアロンよりも、ああも成長が早ければな。生まれ持った才能というだけでは説明がつくまい」
それから静かに根拠を告げる二人。
ある程度は自重していたつもりだったが、それで誤魔化されてくれるのはまだまだ世の中の普通を把握し切れていない子供達ぐらいのものだったか。
まあ、ヨスキ村襲撃やら暴走したサユキの救出やら、もし完全に自重していたら対処し切れず最悪の結果になっていたような問題が起きたのも悪い。
結局、知らぬは本人ばかりなり、という訳だ。いや、何か違うか?
何にせよ、さすがに素直な弟達に気づかない振りができるとは思えないので、俺が救世の転生者だとは思っていないはずだが……。
こうなると、彼らが気づくのも時間の問題かもしれないな。
そんな風に考えている間にも、母さんは言葉を続ける。
「じゃからな。正直なところ今回の集まりは、こうやって事実を明かすためのものかもしれぬと頭の片隅で考えておった」
「キナ臭い気配もあったからな。恐らく最後の戦いが近いんだろう、ってな」
例えば、補導員事務局の掲示板に張り出されている依頼の傾向。
例えば、少女征服者仲間の間で流れている噂。
その辺りから二人もまた最終局面が近いことに感づいていたようだ。
そこに来て突然の帰郷と食事会。
前々から俺が救世の転生者だと推測していたことと合わせれば、確信とまではいかずとも可能性にぐらいは思い至って然るべきかもしれない。
「………………ごめん、父さん。母さん」
「何故、謝るのじゃ?」
「騙していたようなものだから」
後ろめたさから視線を逸らしたまま答える。
別に無理矢理体を乗っ取ったとかではないはずだが、それでも親としての心情は複雑なはずだ。子供に別の人生を歩んだ記憶が存在している訳だから。
救世の転生者の正体が広く知られる危険性と同等に、そうした思いもあったからこそ隠していた訳だが、その時間の長さの分だけ罪悪感が強い。
しかし、そんな俺を前にしながら。
「大馬鹿者」
母さんは厳しい内容とは裏腹に、この上なく穏やかな口調と共に言った。
そして席を立ち、俺の傍にまで来ると柔らかく俺の背中に手を回してくる。
「イサクよ。お前は妾達の何じゃ?」
「俺は……母さんと父さんの息子だよ」
「そうじゃろう。それ以上でもそれ以下でもない。騙すも何もなかろう」
そう言って母さんは俺を抱く力を少し強めた。
温かい。物理的なもの以上の温もりを感じる。
それに心が落ち着くような匂いがする。母親の匂いだ。
「子も長く生きれば親の知らぬ経験を積み、多くの秘密を持つじゃろう。お前の場合は、それが生まれてすぐだっただけのことじゃ。そして妾達を慮って話さずにいた。それだけのことに過ぎん」
耳元でハッキリとした口調で告げた母さんに躊躇いがちに顔を上げると、目の前には穏やかな母親の顔。その奥には俺達を優しく見守る父親の姿もあった。
「母さん……。父さん……?」
いつの間にか近くにいた父さんは、俺の問い気味の呼びかけに対して深く頷くと母さんごと俺を抱き締めて口を開く。
「気づいていないようだから言っておくぞ。お前がどれだけ俺達を愛してくれているかぐらい全部お見通しだ。その心こそが家族の証。そうだろう?」
「それこそ、あの日から。お前の懸命な気持ちが、どれだけ妾達の心を救ってくれたことか。お前はもう少し自覚すべきじゃろうよ」
そう言うと、母さんは視線をテーブルの上に置かれた熊鍋へと向ける。
あの日。俺が二人と本当の意味で家族として向かい合った日のことか。
「アロンが行方不明になってから、これまで何とか耐えてこられたのも全てお前のおかげじゃ。……ありがとう、イサク。妾達の子に生まれてきてくれて」
本心からのものだと即座に分かる感謝の言葉。
その真摯な響きは心の奥底まで染み渡り、深いところにあった小さくも強固な引け目のようなものが溶けていくのを感じる。
多分これは、あの日を経て尚、最後の最後まで残っていたものだ。
今、それが完全に消え去った。
その感覚をハッキリと認識しながら、改めて中央に置かれた鍋に意識を向ける。
「もしかして、だから今日はこの料理を?」
「うむ。お前のことじゃ。どうせ無用なことにまで思い悩んでおるじゃろうと思ってな。それを笑い飛ばしてやるには、これが最適だと考えた訳じゃ」
どうやら。母さんはここまで予想していたらしい。
たとえ転生しようが、親には敵わないということか。
……まあ、それも前世でどう過ごしていたかによるとは思うけれども。
元々俺は本格的に社会の一員になる直前で命を落とした訳だしな。
それこそ自立して、責任ある立場になって、誰かと愛し合って、子供を授かっていたりすれば、もう少し違ったのかもしれない。
結局俺は、本当の意味で大人を経験していないのだから。
ただ何となく、そういった大人を全うした者が救世の転生者として選ばれてくるようなことはない気もする。だが、いずれにしても――。
「転生者であろうとなかろうと、妾達の親子の絆は何があろうと揺るがん」
「……うん」
それだけは間違いない真実なのだろう。
その確信と共に頷いた俺に、二人は体を離して満足げに微笑んだ。
少しの間、心地のよい穏やかな空気が流れる。
満たされたような気持ちを抱く。
が、ややしばらくして母さんは一転して真剣な表情を作って口を開いた。
「じゃが、救世の、という部分が問題じゃ。勿論、お前ならば【ガラテア】なんぞ恐れるに足らんじゃろう。そこはよい。妾達が真に憂慮するのはその先じゃ」
「救世の転生者は使命を果たすと姿を消してしまうと聞く。歴代の救世の転生者全員、一人の例外もなくそうだったらしい。イサクは、何か知ってるのか?」
「……まさか、お前もいなくなってしまうのか?」
父さんの問いに続き、打って変わって頼りない顔で不安げに尋ねてくる母さん。
それに対して頭の中で少し言葉を選ぶ。
「救世の先に何が待っているのか、俺も分からない」
そして俺は、僅かにレンリに視線を向けながら答えた。
彼女は恐らく救世の真実を知っているのだろう。
だが、多分誰かに、何かに監視され、それを口にすることができないのだ。
レンリは俺の視線に申し訳なさそうに頭を下げるが、彼女は悪くない。
小さく首を横に振り、再び父さんと母さんに顔を向けて言葉を続ける。
「……けど、少なくとも俺はここからいなくなるつもりなんてないよ。絶対に。だけど多分、何か避けられない運命みたいなものがあるんだと思う」
「そんな――」
「勿論、俺だってそれを甘んじて受け入れるつもりはないよ。そのために、救世の転生者を必要としない救世って奴をレンリと一緒に考えてきたんだから」
ハッとしたようにレンリを見る母さんと父さん。
「……そうか。あれは、そういうことじゃったのか」
「レンリは、最初から知っていたんだな」
「はい。御義母様、御義父様。私は旦那様と共に救世の先の世界に辿り着き、添い遂げるためにここにいます。それが先代の救世の転生者様と別れることになってしまった御祖母様と、今旦那様と共にある私自身の願いですので」
救世の転生者の末路は俺自身が推理して答えを出したからか、ある程度は示唆するような発言も口にすることができるようになったようだ。
そんな彼女の発言を受けて尚のこと伝え聞いた結末に現実味を感じたのか、母さんは悲痛な面持ちで再び俺を抱き締めてくる。
「頼む、イサク。いなくならないでくれ。たとえ【ガラテア】からアロンを取り戻せたとしても、代わりにお前がいなくなってしまったら妾は……」
その姿は先程までの親としての堂々としたものとは程遠く、酷く弱々しかった。
そうした母親を目の当たりにして、俺が救世の転生者である事実を明かすことで万が一の時に受け入れる準備をして欲しいと考えていた自分を心の内で叱責する。
そんなものは本当の親孝行ではない。
単なる妥協に過ぎない。
救世を終えたその先も、誰一人欠けることなく平和な世界を享受しなければ親孝行を完遂したと言えはしない。だから――。
「分かった。約束する。俺は他の救世の転生者のようにはならないから。絶対に」
俺は母さんを強く抱き締め返し、そう告げた。
自らに言い聞かせ、誓いとするように。
確固たる意思こそが共通認識に定められた運命を覆す。
逃げ道を考える余地など捨て去ってしまうべきだ。
そう考え、そのように決意を改める。
「ならば……よい」
俺の答えに少しは安心できたのか小さく息を吐いて呟く母さん。
それでも、その顔には影が差したままだ。
しかし、今は折角の食事会。
元々の目的はそれとは言え、暗くなったままでは終わりたくない。
どうにか気分を切り替えて貰うため、話を変えることにする。
「それでその、この機会に二人、紹介したい子がいるんだ」
「う、む? …………む、まさかそれは、少女化魔物か?」
「まあ、そんなところ」
テアとアスカの二人。
前者は、根本的に救世の転生者という概念自体と深い関わりを持つ最凶の人形化魔物【ガラテア】の肉体であるが故に。
後者は空の覇者たる彼女が引き起こした事件の顛末は新聞にも載っており、種族まで明かしてしまうと間違いなく当代の救世の転生者と紐づけられるが故に。
二人に今まで紹介することができなかったが……。
俺が救世の転生者であることを明かした今なら構わないはずだ。
「お前という奴は……」
どこか呆れたように言う母さん。
僅かながら調子が戻ったようだ。いい傾向だ。
「じゃあ――」
「旦那様! それは少しお待ち下さい」
早速、と影に視線を落として中の二人に呼びかけようとした正にその瞬間。
レンリがどこか慌てたように立ち上がって制止してきた。
その焦った様子に驚き、一体どうしたのかと彼女を見る。すると……。
「先に詳しく説明をしませんと、テアさんが危険です」
レンリはその理由を若干早口で告げた。
だが、それはどこか要領を得ないもので両親は勿論のこと、俺もまた首を傾げて疑問符を浮かべてしまった。
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