ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

312 トバルについての現状報告

「ああ、そうだ母さん。ちょっとだけアベルさんとルムンさん、それとエノスさんとクレーフさんのところに寄ってもいい?」

 門番のイザヤさんの許可を貰ってヨスキ村に入ってすぐ。
 俺は早速自宅へと向かおうとする母さんを引き留め、そう尋ねた。

「む? まあ、構わぬが……いや、確かアベルとルムンは仕事で村におらぬぞ」
「そうなの? じゃあ、エノスさんとクレーフさんだけでもいいから」
「ふむ。では、まず雑貨屋に行くか。しかし、一体何の用じゃ?」
「トバルの近況を報告しとこうかと思って」

 できればダンの両親であるアベルさん達にも今の彼の様子を伝えておきたいところだったが……まあ、ダンの方は割と順当に育っていっている感じがある。
 ヴィオレさん達と真正少女契約ロリータコントラクトを結んだというトピックはあるものの、大まかな方向性は予想の範疇だ。イザヤさんに告げたことがほぼ全てと言っていい。
 二人が仕事を終えて村に帰ってくれば、田舎特有の情報の伝播速度で速やかに確実に伝わることだろう。なので、そちらはそれで特に問題はない。

 ただ、トバルについては不和……という程に大袈裟なものではないが、まだ村にいた頃に将来の夢について両親と若干のすれ違いがあった。
 なので、できれば現状を俺の口から知らせておきたい。
 トバルの兄貴分として、彼ら家族にとって一区切りになるであろう場には立ち会っておきたいのだ。万が一の時の心残りとならないように。

「そうじゃな。己が子の最新の情報は、あ奴らも知りたいじゃろうからな。特にエノスとクレーフは遠出することも稀じゃから、学園都市トコハにおるイサクを訪ねるということも気軽にはできんじゃろうし……それがよかろう」
「うん。ありがとう、母さん」

 理解を示してくれた母さんに感謝を口にする。
 自分自身もまた学園都市トコハに子供を送っている身であるだけに、同じ立場である彼らに配慮する気持ちは比較的・・・強いようだ。
 もっとも、さすがにセト程には興味がないようで、わざわざ俺にダンやトバルの状況まで聞いたりはしてこなかったけれども。
 まあ、別に母さん達も遊びに学園都市トコハに来ていた訳ではないのだし、彼らのことに関してまで意識を割く余裕はなかったに違いない。
 二人は未だに行方不明のアロン兄さんの手がかりを探し続けている訳だから。
 だが、それも恐らくは間もなく終わるはずだ。最凶の人形化魔物ピグマリオン【ガラテア】との最終決戦が始まりさえすれば。そう信じたい。
 ……それはともかくとして――。

「ルトアさんは、先に家に行ってますか?」
「え? あ、い、いえ。イサク君と一緒にいます」

 村の前に降り立ってから何故か借りてきた猫のように大人しくなっていたルトアさんに問いかけると、彼女は慌てたように答えた。

「なんじゃ、ルトア。緊張しておるのか? 今や妾の娘であるお前にとって、ここは実家のある村と言って差し支えないのじゃぞ?」
「は、はい。ですけど、その、ヨスキ村は特別な場所なので……」

 外からやって来た側からすると、そういうものなのか。
 ここで育った身としては全く分からない感覚だ。
 もっとも、ヨスキ村で生まれた訳ではない火竜レッドドラゴン少女化魔物ロリータたる母さんもまた、今一よく分からない、というような表情を浮かべているが。
 こちらは性格的に元から割と尊大な側面もあるようなので、ヨスキ村の世間的な評価のようなものにも全く気後れしなかったのだろう。
 あの絵本の内容的に、社会生活を送るより先に村に来たようでもあるし。

「ふむ。まあ、しばらくおれば慣れるじゃろう。雑貨屋に向かうぞ」

 だからか母さんは特に問題視せず、そうとだけ言って先導するように歩き出す。
 俺も何ができるという訳ではないし、今日を逃す訳にもいかない。
 こればかりは慣れるしかないのも確かだ。
 なので、ちょっと動きの固いルトアさんの手を引いて母さんの後をついていく。
 今回は是非もない。
 そう思いながら少し歩くと、それ程広い村という訳ではないので間もなく見慣れた建物の前で作業している、見慣れた二人の姿が目に映った。
 正確な営業時間は決まっていないが、丁度店じまいをしているところのようだ。

「ん? おう、イサクじゃないか!」

 と、俺の存在に気づいたクレーフさんが驚いたような声を上げる。
 亜人(ドワーフ)の少女化魔物である彼女は、相変わらず小学校低学年のような小ささだ。隣にいる筋骨隆々の男性、エノスさんと並ぶと絵面がヤバい。
 いや、まあ、俺のように二人が夫婦で子供までいるという認識がなければ、親子だろうと考えてスルーするかもしれないけれども。

「久し振りだな。帰ってきたのか?」
「ええ。ちょっと家が恋しくなったので」
「そうか。ゆっくりしてくのか?」
「いえ、明日には帰ります」

 俺がそう答えると、クレーフさんは呆れたような顔になった。
 幼い顔立ちながら言動が少々荒っぽいギャップもまた変わっていない。
 まあ、六ヶ月やそこらではそうそう変わるものではないが、妙に懐かしさを感じてしまうのは学園都市トコハで過ごした日々の密度が濃かったせいだろう。

「慌ただしい奴だな。移動時間も馬鹿にはならないだろうに」
「大丈夫です。片道十分以内で移動できるようになったので」
「……まさかジャスターの複合発露エクスコンプレックスの真似事をしてる訳じゃないだろうな。あれは制御を失敗すると危険極まりないぞ?」
「分かってます。と言うか、使ってるのは全く別の複合発露ですから」

 答えながら、チラッと手を繋いだまま隣にいるルトアさんに視線をやる。
 それに誘導されるようにクレーフさんも彼女に顔を向けた。

「紹介しますね。俺と真性少女契約を結んだサンダーバードの少女化魔物のルトアさんです。雷に近い速度で空を飛べるんですよ」

 まだ緊張が強いのか、ペコリと頭を下げるに留めるルトアさん。
 いつも元気印の彼女だが、そういった様子は中々に新鮮だ。
 固くなってしまっているルトアさんには申し訳ないが、この珍しい側面を見られただけでも連れてきてよかったと思ってしまう気持ちも僅かにある。

「ほお、都会で新しい少女化魔物を引っかけて帰ってきたのか。やるじゃないか、イサク。俺もあやかりたいもんだぜ」

 と、エノスさんがニヤリと冗談めかすように言うが、直後クレーフさんに下から鋭く睨みつけられ、視線を逸らして黙り込んでしまった。
 彼のパートナーはクレーフさん一人なので、まあ、色々とあるのだろう。
 学園都市トコハでは新しい少女化魔物を連れている度に似たようなことを言われてウンザリしていたので、それ以上話を広げないでくれそうなのは正直助かった。

「……けど、だったら、もっと頻繁に帰ってきてもよかったんじゃないか?」
「それはその、補導員として忙しかったし、セト達にも悪いかと思いまして」
「じゃあ、今日はどうしたんだ?」
「まあ、色々と事情があるんですよ。後、クレーフさんにトバルの近況報告をしようかと。余程のことがない限り、そういった情報は村に入ってきませんからね」

 それこそ行方不明になったとか、死んでしまったとかでもない限りは。
 病気や怪我ぐらいなら祈念魔法で治癒できるからな。
 そして掟で接触が禁じられている以上、一番情報を持っているのは俺だ。
 だから――。

「しばらくは俺も忙しくて手紙を出せませんでしたし」

 例外的な存在である俺が不定期に出していたそれが、ほぼ彼らにとって唯一の情報源と言っていい状態だった。
 それがなければ「便りがないのは元気な証拠」を信じるしかない。

「まあ、それはありがたいけど……それで? 前回送ってくれた手紙でトバルが複製師の真似事を始めたとか書いてあったけど、まだ続いてるのかい?」

 いや、そんな悪し様には書いていなかったはずだが。
 それはともかくとして……。

「続いてるどころか、ヘスさんって言う複製の力を持つ少女化魔物と真性少女契約を結びましたよ。もうトバルは本格的に複製師になるつもりです」
「何だって?」

 俺の言葉に目を見開いて驚くクレーフさん。それからエノスさん。
 掟などというものがあるヨスキ村の村民の認識においては、これは子供がいつの間にか結婚していたようなものだから当然の反応だろう。
 ダンと違って互いにそういう気持ちもあるようだったし、間違ってもいない。

「それじゃあ、村に帰ってくるのか?」
「いえ、今はアマラさんのところで修行したいって言っていたので」
「そうか……ん? アマラ? アマラって、まさかあのアマラか!? 世界最高峰の複製師とも言われてるイッポンダタラの少女化魔物の!」
「あれ? 手紙に書いてませんでしたっけ。……ええ。そのアマラさんです」

 色々事件が重なったこともあって前の手紙の内容を正確に思い出せないが、この感じだと誰々の工房で複製の練習を始めたとは書いていなかったようだ。

「それに学園に入ってまだ半年ですし……後、ちょっとアーク複合発露エクスコンプレックスが希少で価値が高くて、アマラさんみたいに国お抱えの複製師みたいな形になるかもしれない感じです。もしかするとお二人の店を継ぐのは難しいかも」

 続けた内容に、二人はポカンと呆けたようになる。
 村にいた頃は複製師になることに難色を示していた子供が、いきなり世界トップクラスの複製師になりそうだと言われれば然もありなんというところだ。
 しかし、これでも過少報告気味だ。
 祈望之器ディザイア―ドの完全複製。下手をすると一生閉じ込められて複製を強要されてもおかしくないレベルなのだが、さすがにそこまで言うと逆に不安になるだろう。
 最後の戦いの前にはヒメ様と面会する機会もあるはずだから、その場で重々トバルが定期的に帰郷できるように頼み込んでおかなければならない。
 いずれにせよ、その辺については結果が出てから改めて伝えた方がいい。
 そんなようなことを頭の中で整理していると、ようやく内容の咀嚼を終えたのかクレーフさんが真剣な様子と共に口を開いた。

「……トバルは、本気なのか?」
「ええ。間違いなく」

 その問いには力強く断言する。
 それを受けて彼女は、しばらくの間その事実を噛み締めるように目を閉じ……。

「なら、いいさ。別に雑貨屋なんて継がなくたっていい」

 それから目を開き、そう言いながら微かに笑った。

「ふむ。一応は望んだ通りになった、というところか? のう、クレーフ。いつだったかトバルには複製師になって欲しいと言っておったじゃろう」
「……いや、俺達がトバルにそう言ったのは、安全で安定した職業だからって理由がほとんどだ。けど、だから複製師を選ぼうってんなら選んで欲しくない」

 若干デリカシーのない母さんの問いかけに、クレーフさんはもう心を波立てる必要などないと言わんばかりに静かに答えて続ける。

「俺は自分の仕事に誇りを持ってるが、そういう気持ちは誰かに植えつけようったって無理な話だ。それはそいつの内側にある情熱から芽吹いていくもんだからな」
「だから、トバル自身の胸の奥に複製師への情熱が自然と生まれてくれたってのは俺達の望んだ以上の結果だ。俺自身、一生をかけて追及していくに足る仕事だって思ってるものを息子も同じように考えてくれる。これ以上幸せなことはない」
「ありがとな、イサク。お前のおかげで胸のつかえが取れた気分だ」

 感謝を口にしながら、エノスさん共々晴れやかな表情を浮かべるクレーフさん。
 大きさだけで言うなら小さめのシコリではあったのだろう。
 しかし、無視するには大きく長く残り続けていたもの。
 勿論、トバルと実際に面と向かい合って話をしていないので完全とはまだ言えないだろうが、この調子ならいい形に落ち着くことができそうだ。
 アマラさんの下にトバルを連れていったことが切っかけになったのであれば、そういう部分でも俺が転生してきた意味があったと多少なり言えるのかもしれない。
 それを確認できてよかった。

「じゃあ、お二人共、失礼します。今度はトバルと一緒に来ますね」
「ああ。楽しみにしてるよ。じゃあな」

 そうして俺達は二人の笑顔に見送られ、今度こそ家路についたのだった。

 …………さて、後は俺自身のことだな。
 どのタイミングで話を切り出そうか。
 父さんと母さんに、俺が救世の転生者であることを。

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