ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

296 意識し合う二人

 アマラさんの工房を出ると太陽は頂点を過ぎ、腹時計も自己主張し始めた。
 なので、俺達は一旦繁華街に行って昼食を取ったのだが……。
 いると思って訪れた先にセトがいないという肩透かしを食らってしまったせいもあってか、ラクラちゃんは変に意識してしまっているらしい。
 余り味を楽しむこともできずにいるようだった。
 そんな状態で長居しても仕方がないので早々に店を出て、再びバスもどきメルカバスに乗り込んでホウゲツ学園へと向かう。

「しかし、いつの間にかトバルがヘスさんと真性少女契約ロリータコントラクトを結んでたとはなあ」
「はい……ビックリでしたね」

 外の風景が緩やかに動く中、そうやって何度か話しかけてはみたものの、ラクラちゃんはソワソワしながら気のない相槌を打つだけだった。
 そんなラクラちゃんが微笑ましかったので、申し訳なくも俺は退屈ではなかったが、彼女にしてみれば長いような短いような微妙な時間だっただろう。
 ともあれ、そうこうしている内にホウゲツ学園前の停留所に到着し……。
 俺達はメルカバスを降りて、再び敷地内の訓練施設を目指した。
 すると、途中で学食の方から戻ってきたらしいダンの姿が目に入る。

「ダン」
「あれ、あんちゃん? またこっちに来たの?」
「セトがこっちで複合発露エクスコンプレックスの訓練をしてるって聞いてな」
「……ああ、うん。そうだったそうだった」

 すっかり忘れていたという風に誤魔化し笑いをするダンだが、そういう反応をするということは彼も知っていたらしい。
 まあ、結局はトバルのところにも行っていた訳だが、先に教えておいて貰えればラクラちゃんの気持ちを無駄に波立てることはなかったかもしれない。

「セトは訓練施設か?」
「多分。先に昼御飯も食べてたみたいだし」
「そうか。……ダンは午後も訓練を?」
「うん。また別の少女化魔物ロリータ達に手伝って貰うんだ」
「……適度に休んで、適度に頑張るんだぞ」

 そうして訓練施設に入ったところでダンと別れ、口を噤んでいるラクラちゃんと共に彼が使用しているフロアとは別の広大な空間へと向かう。
 今正にセトが使用中であることは受付で確認済みだ。

「あれ? あの子は……」

 そのサッカー場程もある広間に入ってすぐ。
 ラクラちゃんはセトの隣にいる少女に気づいて言葉を漏らした。
 真っ赤な髪を目にした時点で彼女が少女化魔物であることは認識できただろう。

「そう言えば、セト君は少女化魔物が苦手だって……なのに、複合発露の訓練?」

 一応、母さんから複合発露を受け継いではいるので訓練をしていても不思議ではないが、ヨスキ村にいた時から重点的に鍛えたので伸び代はそう大きくない。
 にもかかわらず、殊更「複合発露の」と銘打つ程、複合発露に特化した訓練をセトが行っている。そのことにラクラちゃんは今更ながらに違和感を抱いたようだ。
 彼女は首を傾げながら訝しげな表情で二人を見詰めている。
 若干睨み気味な辺り、その複雑な胸の内が見て取れる。

「あれ? 兄さ――」
「イサク兄様っ!!」

 と、俺達に気づいたセトの言葉を遮って、赤髪の少女、魔炎竜の少女化魔物たるロナが物凄い速度で駆け寄ってきて俺に抱き着いた。

「ふえっ!?」

 彼女の言動の意味を理解できなかったのか、眼前の状況にラクラちゃんが驚いたような声を上げながら俺とロナに視線を行ったり来たりさせる。

「あ、あの、イサクさん? この子は……」
「そう言えば、紹介する機会がなかったな。この前生まれた俺達の妹、ロナだ」
「え……えええっ!? い、妹っ!? しかも、この前生まれたって……一体どういうことですか!?」

 驚愕の余り、セトを意識して割と一杯一杯になっていたこともすっかり忘れたように詰め寄ってくるラクラちゃん。
 その勢いに、ロナが怯えたように小さく悲鳴を上げて俺の後ろに隠れる。

「あ、ご、ごめんね」

 そんなロナの一見弱々しい存在に感じられる姿に、ラクラちゃんは慌てて謝る。
 彼女はそれから一つ深呼吸をすると、改めて問うような視線を俺に向けてきた。
 対して、フレギウス王国へと不法に侵入したことや元国王のジーグと対峙したことなどは適度に誤魔化しながら、少し前の出来事をザックリと説明していく。

「ロ、少女化魔物から生まれた、特異思念集積体コンプレックスユニーク……?」

 目を大きく見開いて、まじまじと見るように視線を向けてくるラクラちゃん。
 その圧によって、ロナは一層強く俺に体を押しつけてくる。
 この姿から世界最強クラスの特異思念集積体である事実を連想することは不可能だろう。人見知りをした無力な女の子にしか見えない。

「少女契約を結んだの……?」
「う、うん」

 一人遅れて俺達のところに近づいてきたセトが、ラクラちゃんの問いに答える。
 ロナを助け出した直後はまだ少女契約を結ぶかどうか少し悩んでいた様子だったが、あれから色々と考えて契約を結ぶことにしたようだった。
 特異思念集積体としての力が魅力的なのも事実だろうが、やはりそれ以上に少女化魔物ではあってもあくまで妹であることが決め手と見て間違いない。
 これがアスカ辺りだったら、ノータイムで拒否していただろうしな。

「そ、それより、今日はどうしたの?」

 しかし、その辺りについてラクラちゃんには余り触れて欲しくないのか、若干気まずげに話題を変えようとするセト。
 その態度には、間違いなく彼の彼女への気持ちが関わっていることだろう。
 好きな子に、変に勘違いされたくないのだ。

「えっと、聖女の勉強は?」
「あ、う、うん。その、特別に外出許可が出て……」

 そうしたセトの若干のぎこちなさに引きずられ、ラクラちゃんの方もまた折角驚きで吹き飛んでいた緊張が戻ってきてしまったようだ。
 二人共意識し合って会話の間が妙なことになっている。
 俺は眠り病事件の際に、二人が両想いであることを覗き見てしまったからな。
 ラブコメか何かの読者の気分だ。少し申し訳ない。

「それより……ロナちゃんと真性少女契約を結ぶつもりはないの?」
「な、ないよ。僕もそうだけど、ロナだってそのつもりはないし」
「……そっか」

 話を戻されて慌てたセトの返答に、どこかホッとしたように言うラクラちゃん。
 二人はもうお互いしか視界に入っていない様子だ。
 自分の気持ちを確認させられたであろう眠り病事件以来の対面ということもあって思考に余裕がなく、完全に俺達の存在は意識から外れてしまっているようだ。

「……私はイサク兄様と真性少女契約を結びたいです」

 そんな二人を余所に、俺にくっついているロナが上目遣いで言う。

「うん。ありがとな。けど、この前も言ったように最低でも教育機関を出てから、よくよく考えて結論を出して欲しい。それまではセトを助けてやってくれ」

 彼女自身の未来の選択肢を狭めないため、というのも勿論だが、少なくとも救世の転生者の使命を果たすまでは先延ばしにしておきたい気持ちもある。
 これから人形化魔物ピグマリオンとの戦いも更に激しくなり、命の危険も増すだろう。
 その時、真正少女契約を結んでいてはロナの命も危うくなる。
 当然、サユキ達なら構わないと言う訳ではないが……。
 幼い妹ということもあり、なるべくリスクからは遠ざけておきたい。
 俺とロナを同時に失ったら、母さんも耐えられないだろうしな。

「はい……」
「ロナの気持ちが嬉しいことは、間違いないからな」

 少し暗い顔をするロナに、その頭を柔らかく撫でながら諭すように告げる。

「はい。イサク兄様」

 すると、彼女を大切に思っている気持ちがしっかりと伝わったのか、安堵したように表情を和らげてくれた。
 そうやって妹と話をしている間にも、セトとラクラちゃんの二人は若干ぎこちないながらも会話を続けており――。

「聖女になったラクラちゃんを、僕が守れるように強くなるよ」
「……うん。ボクも、必ず聖女になれるように頑張るね。皆を……イサク君が傷ついた時に癒やすことができるように」

 互いの互いに対する気持ちという核心の部分には触れないようにしながら、しかし、いつもよりも一歩踏み込んだような約束を交わし合っていた。
 若干不格好でも面と向かって話をすることができたおかげか、完全とは言えないものの、ぎこちなさも小さくなっている。
 両者共に棚上げしたとも言えるが、そう急激に変化する必要もないだろう。

「……そう遠くない未来に、あの子もロナのお姉さんになってくれるかもな」
「姉様、ですか?」

 二人の様子に俺が呟くと、ロナは小首を傾げて言いながらラクラちゃんを見た。

「姉様……」

 そう意識したからか、視線から人見知り気味の警戒心が薄れている気がする。
 二人で話す時間があれば、親しくなることができそうだ。
 とは言え、今は……。

「イサクさん。そろそろ行きましょう。授業の復習をしないと」

 一先ず当初の目的については完全に果たせたようで、ラクラちゃんはやる気に満ち溢れた表情を浮かべている。それに水を差す訳にもいかない。
 セトとロナの鍛錬の邪魔もできない。
 なので、妹との交流は次の機会に改めて持って貰うことにして、俺達は彼らと別れて訓練施設を出たのだった。
 そして学園の敷地内を、聖女専用の教育施設へと歩いていく。
 やがて、その門の前に至り――。

「イサクさん。今日はありがとうございました」

 再び取り澄ました雰囲気に戻りつつ、ラクラちゃんは頭を下げた。

「うん。俺もいい気分転換になったよ」

 そんな彼女に頷いて応じ、それから俺からもエールを送ろうと言葉を続ける。

「……ラクラちゃん。聖女になるってのは俺も想像できないぐらい大変なことだと思うけど、精一杯頑張れば必ず将来の糧になることは間違いない」

 たとえ、その結果が芳しくないものになったとしても。
 彼女はきっと大きく成長した姿を見せてくれることだろう。

「俺も応援してるから、真っ直ぐ頑張れ」
「はい!」

 そんな俺の言葉に元気よく返事をしたラクラちゃんに微笑み……。

「では、失礼します」

 彼女が教育施設の中に入っていくのをしっかりと見送ってから、俺は職員寮への帰途についたのだった。

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