ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
288 最前線へ
まるで彼女の願望を示すかのように大空へと向かう形で炎を纏った巨鳥を内包したまま、王都バーンデイトがあった場所に鎮座する氷塊。
その凍結が破られる気配がないことを十分に確認してから。
「…………ふぅ」
俺は周辺の探知を保ちつつも、僅かに緊張を和らげて深く息を吐き出した。
氷塊落下の轟音の後で静けさが戻った世界に、その音が思った以上に響く。
その大きさに一瞬驚いてから、俺は軽く首を傾げた。
吐息の音はともかくとして……離れた地上に巨大な氷塊が落ちた音?
それが耳に届いたということはつまり――。
「おっと」
疑問の理由に思い至った俺はハッとして、フェニックスの少女化魔物を過たず凍結させるために無意識に解除してしまっていた無音結界を再度展開した。
〈灰燼新生・輪転〉。特異思念集積体の真・暴走・複合発露が持つ干渉力を確実に上回るようにと、意識を集中させ過ぎていたようだ。
喇叭の人形化魔物〈終末を告げる音〉という脅威がどこに潜んでいるか分からない以上、迂闊としか言いようがない。
……それだけこちらも余裕がなかった証拠でもあるが。
勿論、単純な強さ比べならば何回やろうと無傷で勝つことができるだろう。
しかし、救世の転生者たる俺が対峙することになる補導員としての戦いに、そんなシンプルな勝負は極々稀にしか存在しない。今回もまた然りだ。
正直、自ら勝敗の条件を厳しくしている感もなくはないが、人外ロリコンという業の深い属性を持つのが己という存在なのだから、こればかりは仕方がない。
いずれにしても、一先ずフェニックスの少女化魔物に取り込まれた者達全員を完全に分離した上で、彼女達の症状の進行をとめることはできた。
俺が思う最悪……未来に可能性すら残すこともできずに尽く自滅してしまうような結末は、回避することができたと言っていいはずだ。
とりあえず、眼前の状況に関してはそう結論しておくとして……。
「三人共、大丈夫か?」
まずは現状確認のために、何より、自ら狂化隷属の矢を用いて暴走状態に入って大きな負荷に耐え続けてくれていた彼女達を慮って問いかける。
この手法なら裏技的に自我を保つことができるにしても、少しでも気を抜けば破滅欲求に飲み込まれかねないことに変わりはない。
だからこそ、解除した際に狂化隷属の矢を使用していた時間の十倍程度寝込む羽目になる訳だが、その前段階の今も大きな苦痛に苛まれていることは確かだ。
代償を負う当人ではない俺に、どの程度のものか計り知れるものではないが。
「何か異常があったりしないか?」
「サユキは大丈夫だよ」
「ワタシも特に問題ありませぬ」
しかし、そんな俺の問いかけに対し、サユキといつの間にやら影の中に戻っていたアスカは平然とした様子で簡潔に答える。
かつて天然で暴走状態を長らく継続していたことのある彼女達だけに、そうした負荷に幾分か耐性のようなものもあるのだろう。
とは言え、それはこの二人だからこそだ。
「……私はちょっと限界。少し休ませて貰うわ。ごめんね」
対照的に、暴走状態に加えて最大限増幅させた循環共鳴をギリギリまで維持していたフェリトは一人、疲労の色濃い声で申し訳なさそうに謝った。
だが、負担を二重に被っていたことを思えば、当然の結果以外の何物でもない。
別種の精神的な負荷が、単純な足し算で済むはずもなし。
謝らなければならないのは、少なくとも彼女では断じてない。
「気にしなくていいから。ゆっくり休んでくれ」
「ええ。……イサクも、気にしなくていいからね」
俺の声色から罪悪感を感じ取ってか、苦笑気味に返してくるフェリト。
彼女は仲間内では常識人側の存在だけに、ついつい気を遣ってしまう。
とは言え、それこそ常識人だけにやり過ぎると彼女も逆に気を遣いかねない。
余り過剰にならないように注意する必要がある。
「サユキとアスカも、今は休んでいてくれ」
その辺りのバランスを取る意図も一部に込め、俺はそう二人にも声をかけた。
「はーい」
「承知致しましてございまする」
対して割と思考が単純な彼女達は、そのまま素直に受け取って返事をする。
そうしたシンプルさは、フェリトにとっても一つの清涼剤となるだろう。
ともあれ、その言葉を合図に狂化隷属の矢を引き抜いて暴走状態を解除したようで、合わせて三人分の寝息が影の中から聞こえてきた。
「イリュファ、リクル、それとテアも。三人の介抱は頼んだ」
「お任せ下さい。ですが、お気をつけを」
「分かってる」
代表して応えたイリュファに頷き、改めて巨大な氷塊に意識を戻す。
王都バーンデイトは壊滅してしまい、周囲に敵の気配は全くない。
だが、暴走した特異思念集積体の少女化魔物という想定外に直面したばかりだ。
何より、まだ一人懸念すべき相手が残っている以上、警戒は緩められない。
一先ず広域の探知を維持しながら、空で待機していたレンリの元へと戻る。
『旦那様!』
と、彼女は無音結界を想定してか俺の傍に来て腕を取ってきた。
風の探知の応用で別に離れていても会話可能になったのだが、今はいい。
それよりも――。
「レンリ。フレギウス王国とアクエリアル帝国の国境、最前線まで案内してくれ」
俺はレンリが続けて何か言うより早く、そう真剣な口調で乞うた。
その意図を彼女は即座に把握したようで、表情を引き締めて口を開く。
「……王太子オルギスがそこにいると、お考えなのですね」
「ああ。フェニックスの少女化魔物に取り込まれた者達の中にも、それらしい奴はいなかったからな。もし俺が今のアイツだったら、多分そこに向かうはずだ」
あの地下の部屋から転移していった男が、彼女と真性少女契約を結んだままの状態で別の場所に存在していることは間違いない。
ならば、彼を探し出さなければ一区切りとはいかない。
そして彼がいるとすれば、戦場の最前線以外にはないだろう。
何故ならば彼もまた、今正に真・暴走・複合発露〈灰燼新生・輪転〉の影響下にあるはずだからだ。
どういった思考と覚悟の強さで、あの時あの場であのような行動に出たのかは正確には分からない。だが、程なく自壊することが確定した命だ。
使いどころとしては、敵兵を一人でも多く道連れにするぐらいしかないだろう。
「承知しました。ご案内します」
「頼む。ただ、奴の炎はレンリには危険だ。影の中に入ってくれ」
「……そうします。尽く旦那様に頼る形となってしまい、申し訳ありません」
「いや、誰もフレギウス王国があんな切り札を隠し持ってるなんて気づかなかった訳だから、気にしなくていいさ。何より、俺は別にアクエリアル帝国のために行動している訳じゃなく、単にあの男に用があるだけだからな」
フェニックスの少女化魔物に対する非道な仕打ち。
人外ロリコンとして糾弾しなければ気が済まないし、いずれ自壊する運命にある彼を放置していてはフェニックスの少女化魔物まで共倒れになりかねない。
氷漬けの状態がうまく作用すれば、ルールの穴をつけるかもしれないが……。
いずれにしても、彼女と同様の処置を彼に施す方が確実だ。
だから俺はレンリの案内で、元の世界で言うアムステルダムに位置する王都バーンデイトからカザフスタン中央北辺りに展開されている最前線へと向かった。
真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉の速度で十数分、空を翔けていく。
すると――。
「案の定、か」
日の出前の暗い世界に、不可思議な炎が散見される。
フレギウス王国側の空には炎を纏った翼人型のグロテスクな肉塊。
制御できずに肥大化していたフェニックスの少女化魔物とは大きく様相が異なるが、あんなものがそうそうあっていい訳がない。
過剰再生の影響を受けたオルギスと見て間違いない。
「少しでも損失を減じるための行動。腐っても一国の王太子だったというところでしょうか。まあ、補填可能なレベルは既に通り過ぎている気もしますが」
と、レンリが眼下の光景に吐き捨てるように告げる。
炎をその身に受けたフレギウス王国の兵士が再生力を頼みにして捨て身で襲いかかり、反攻作戦のために集結したアクエリアル帝国の兵士達を押し返していた。
完全に暴走していたフェニックスの少女化魔物とは異なり、どうやらオルギスは真・暴走・複合発露〈灰燼新生・輪転〉を多少なり制御できているようだ。
身体強化系の真・暴走・複合発露を重ねがけでもしているからか。
厄介な状態ではあるが、ある点においては実に都合がいいとも言える。
俺はそう思考を巡らせながら、彼の目の前に躍り出たのだった。
その凍結が破られる気配がないことを十分に確認してから。
「…………ふぅ」
俺は周辺の探知を保ちつつも、僅かに緊張を和らげて深く息を吐き出した。
氷塊落下の轟音の後で静けさが戻った世界に、その音が思った以上に響く。
その大きさに一瞬驚いてから、俺は軽く首を傾げた。
吐息の音はともかくとして……離れた地上に巨大な氷塊が落ちた音?
それが耳に届いたということはつまり――。
「おっと」
疑問の理由に思い至った俺はハッとして、フェニックスの少女化魔物を過たず凍結させるために無意識に解除してしまっていた無音結界を再度展開した。
〈灰燼新生・輪転〉。特異思念集積体の真・暴走・複合発露が持つ干渉力を確実に上回るようにと、意識を集中させ過ぎていたようだ。
喇叭の人形化魔物〈終末を告げる音〉という脅威がどこに潜んでいるか分からない以上、迂闊としか言いようがない。
……それだけこちらも余裕がなかった証拠でもあるが。
勿論、単純な強さ比べならば何回やろうと無傷で勝つことができるだろう。
しかし、救世の転生者たる俺が対峙することになる補導員としての戦いに、そんなシンプルな勝負は極々稀にしか存在しない。今回もまた然りだ。
正直、自ら勝敗の条件を厳しくしている感もなくはないが、人外ロリコンという業の深い属性を持つのが己という存在なのだから、こればかりは仕方がない。
いずれにしても、一先ずフェニックスの少女化魔物に取り込まれた者達全員を完全に分離した上で、彼女達の症状の進行をとめることはできた。
俺が思う最悪……未来に可能性すら残すこともできずに尽く自滅してしまうような結末は、回避することができたと言っていいはずだ。
とりあえず、眼前の状況に関してはそう結論しておくとして……。
「三人共、大丈夫か?」
まずは現状確認のために、何より、自ら狂化隷属の矢を用いて暴走状態に入って大きな負荷に耐え続けてくれていた彼女達を慮って問いかける。
この手法なら裏技的に自我を保つことができるにしても、少しでも気を抜けば破滅欲求に飲み込まれかねないことに変わりはない。
だからこそ、解除した際に狂化隷属の矢を使用していた時間の十倍程度寝込む羽目になる訳だが、その前段階の今も大きな苦痛に苛まれていることは確かだ。
代償を負う当人ではない俺に、どの程度のものか計り知れるものではないが。
「何か異常があったりしないか?」
「サユキは大丈夫だよ」
「ワタシも特に問題ありませぬ」
しかし、そんな俺の問いかけに対し、サユキといつの間にやら影の中に戻っていたアスカは平然とした様子で簡潔に答える。
かつて天然で暴走状態を長らく継続していたことのある彼女達だけに、そうした負荷に幾分か耐性のようなものもあるのだろう。
とは言え、それはこの二人だからこそだ。
「……私はちょっと限界。少し休ませて貰うわ。ごめんね」
対照的に、暴走状態に加えて最大限増幅させた循環共鳴をギリギリまで維持していたフェリトは一人、疲労の色濃い声で申し訳なさそうに謝った。
だが、負担を二重に被っていたことを思えば、当然の結果以外の何物でもない。
別種の精神的な負荷が、単純な足し算で済むはずもなし。
謝らなければならないのは、少なくとも彼女では断じてない。
「気にしなくていいから。ゆっくり休んでくれ」
「ええ。……イサクも、気にしなくていいからね」
俺の声色から罪悪感を感じ取ってか、苦笑気味に返してくるフェリト。
彼女は仲間内では常識人側の存在だけに、ついつい気を遣ってしまう。
とは言え、それこそ常識人だけにやり過ぎると彼女も逆に気を遣いかねない。
余り過剰にならないように注意する必要がある。
「サユキとアスカも、今は休んでいてくれ」
その辺りのバランスを取る意図も一部に込め、俺はそう二人にも声をかけた。
「はーい」
「承知致しましてございまする」
対して割と思考が単純な彼女達は、そのまま素直に受け取って返事をする。
そうしたシンプルさは、フェリトにとっても一つの清涼剤となるだろう。
ともあれ、その言葉を合図に狂化隷属の矢を引き抜いて暴走状態を解除したようで、合わせて三人分の寝息が影の中から聞こえてきた。
「イリュファ、リクル、それとテアも。三人の介抱は頼んだ」
「お任せ下さい。ですが、お気をつけを」
「分かってる」
代表して応えたイリュファに頷き、改めて巨大な氷塊に意識を戻す。
王都バーンデイトは壊滅してしまい、周囲に敵の気配は全くない。
だが、暴走した特異思念集積体の少女化魔物という想定外に直面したばかりだ。
何より、まだ一人懸念すべき相手が残っている以上、警戒は緩められない。
一先ず広域の探知を維持しながら、空で待機していたレンリの元へと戻る。
『旦那様!』
と、彼女は無音結界を想定してか俺の傍に来て腕を取ってきた。
風の探知の応用で別に離れていても会話可能になったのだが、今はいい。
それよりも――。
「レンリ。フレギウス王国とアクエリアル帝国の国境、最前線まで案内してくれ」
俺はレンリが続けて何か言うより早く、そう真剣な口調で乞うた。
その意図を彼女は即座に把握したようで、表情を引き締めて口を開く。
「……王太子オルギスがそこにいると、お考えなのですね」
「ああ。フェニックスの少女化魔物に取り込まれた者達の中にも、それらしい奴はいなかったからな。もし俺が今のアイツだったら、多分そこに向かうはずだ」
あの地下の部屋から転移していった男が、彼女と真性少女契約を結んだままの状態で別の場所に存在していることは間違いない。
ならば、彼を探し出さなければ一区切りとはいかない。
そして彼がいるとすれば、戦場の最前線以外にはないだろう。
何故ならば彼もまた、今正に真・暴走・複合発露〈灰燼新生・輪転〉の影響下にあるはずだからだ。
どういった思考と覚悟の強さで、あの時あの場であのような行動に出たのかは正確には分からない。だが、程なく自壊することが確定した命だ。
使いどころとしては、敵兵を一人でも多く道連れにするぐらいしかないだろう。
「承知しました。ご案内します」
「頼む。ただ、奴の炎はレンリには危険だ。影の中に入ってくれ」
「……そうします。尽く旦那様に頼る形となってしまい、申し訳ありません」
「いや、誰もフレギウス王国があんな切り札を隠し持ってるなんて気づかなかった訳だから、気にしなくていいさ。何より、俺は別にアクエリアル帝国のために行動している訳じゃなく、単にあの男に用があるだけだからな」
フェニックスの少女化魔物に対する非道な仕打ち。
人外ロリコンとして糾弾しなければ気が済まないし、いずれ自壊する運命にある彼を放置していてはフェニックスの少女化魔物まで共倒れになりかねない。
氷漬けの状態がうまく作用すれば、ルールの穴をつけるかもしれないが……。
いずれにしても、彼女と同様の処置を彼に施す方が確実だ。
だから俺はレンリの案内で、元の世界で言うアムステルダムに位置する王都バーンデイトからカザフスタン中央北辺りに展開されている最前線へと向かった。
真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉の速度で十数分、空を翔けていく。
すると――。
「案の定、か」
日の出前の暗い世界に、不可思議な炎が散見される。
フレギウス王国側の空には炎を纏った翼人型のグロテスクな肉塊。
制御できずに肥大化していたフェニックスの少女化魔物とは大きく様相が異なるが、あんなものがそうそうあっていい訳がない。
過剰再生の影響を受けたオルギスと見て間違いない。
「少しでも損失を減じるための行動。腐っても一国の王太子だったというところでしょうか。まあ、補填可能なレベルは既に通り過ぎている気もしますが」
と、レンリが眼下の光景に吐き捨てるように告げる。
炎をその身に受けたフレギウス王国の兵士が再生力を頼みにして捨て身で襲いかかり、反攻作戦のために集結したアクエリアル帝国の兵士達を押し返していた。
完全に暴走していたフェニックスの少女化魔物とは異なり、どうやらオルギスは真・暴走・複合発露〈灰燼新生・輪転〉を多少なり制御できているようだ。
身体強化系の真・暴走・複合発露を重ねがけでもしているからか。
厄介な状態ではあるが、ある点においては実に都合がいいとも言える。
俺はそう思考を巡らせながら、彼の目の前に躍り出たのだった。
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