ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

AR34 少女の咆哮

「いよいよ世界は臨界を迎えようとしていた。問題に問題が積み重なり、それらが絡み合って更に複雑怪奇なものとなっていく。彼女が生まれたのは、そんなさ中のことだった。もっとも、この部分だけを取り上げるなら救世の使命とは何ら関わりのないことだったのは、君の知っての通りだろう。けれども――」

***

 気づけば私はそこにいて、唯一人静かに佇んでいた。
 いつからここにいたのか、どこからやってきたのか。それは分からない。
 けれども、私が少女化魔物ロリータと呼ばれる存在であり、世界の第一の観測者、即ち人間の思念の蓄積によって生じるものであることだけは理解していた。
 ただ……何となく。
 私は、私が持つ知識とは微妙にズレた発生の仕方をしたような気もする。
 どこかに帰るべき場所があり、会いたい誰かがいるような不思議な感覚がある。
 魔物として存在していた記憶すら、僅かたりとも持っていないにもかかわらず。
 ……とは言え、生まれて間もない私はその何かをすぐさま探しに行く決断ができず、そのまま一先ずの寝所と定めた僻地の洞窟に留まっていた。
 まずは己の置かれた状況を正確に把握すべき、などという言い訳と共に。
 そうして。己という存在を自覚して数日経ったある日のこと。

「こ、こいつは、まさかっ!?」

 騒がしさに目を開き、洞窟の入口を見る。
 すると、何人かの人間達の姿が視界に入った。
 服装は少々野暮ったい。近隣に農村でもあったのだろう。
 そんな彼らは私と目が合うと恐怖に慄き、同時に強烈な敵意を表情に滲ませながら後退りし始めた。かと思えば、踵を返して一目散に駆けていく。
 心外な反応ではあるけれども、魔物等の危険への備えとして常時複合発露エクスコンプレックスを使用して巨大な異形と化しているのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
 何の力も持たない人間ならば、恐れを抱かずにはいられないだろう。

 ……ならば、いずれにせよ、私のことはそっとしておいてくれればいいのに。
 彼らから感じた強烈な敵意は私の勘違いではなかったらしい。
 恐怖をも塗り潰す苛烈なそれは、いっそ憎悪とでも呼ぶべきだろうか。

「殺せっ! かつて失ったともがらの仇を討てっ!!」

 一体、誰と勘違いしているのか。
 ほぼほぼ時間を置かずに兵士らしき者達もまた多数洞窟の手前に現れ、弁明する余地もなく、彼らは生まれて間もない私の命を奪おうとしてきた。

「祖国に仇名す邪竜を滅せよっ!!」

 矢のように放たれる祈念魔法や複合発露による攻撃。
 しかし、彼らは雑兵に過ぎないのだろう。
 この身に宿した複合発露を用いて赤き鱗を持つ巨大な竜と化している私には通用せず、埃を巻き上げて洞窟を揺らすのみだ。
 とは言え、たとえダメージが乏しくとも鬱陶しさを感じずにはいられない。
 だから私は翼を広げると、天井を意に介さずに急激に飛翔して、決して小さくない洞窟を激しく崩落させながら数日過ごした寝所を去った。
 それからしばらく空を翔け、目についた別の洞窟に入り込んで一息つく。
 だが、数日もせず……。

「決して逃すな! その命を以って罪を償わせるまでは!!」

 彼らは執拗に追いかけてきて、私を害そうとしてきた。。
 何ら身に覚えのないことで安息を乱されることに強い怒りを覚えながらも、再び洞窟を潰すと共に別の住処を求めて逃げ出す。
 そうしてまた別の洞窟に入り込むが……。
 この新たな寝所もいずれは見つかって追い立てられるだろうと予想して陰鬱な気分になりながら、どうしたものかと溜息をつく。
 こんなことならば、最初から胸の奥にある求めのままに、その何かを探しに行っていればよかった。
 そんな風に後悔していると――。

「聞けっ! 魔炎竜よっ!!」

 洞窟の外から、誰かの馬鹿でかい声が聞こえてきた。
 その声の主が誰に呼びかけているのか私には全く分からなかったが、その響きに何となく忌々しさと懐かしさが混在したような妙な感覚を抱く。
 胸の内の求めに関わりがあるような――。

「我は偉大なるフレギウス王国の王ジーグ・イクス・フレギウス!」

 そんな私の思考を遮るように、尚も大音声が洞窟内にまで響き渡る。
 どうも私に呼びかけているらしい。
 そうと理解し、改めて私は告げられた言葉を吟味した。そして首を傾げる。
 ……王? 一国家のトップ? それが何故こんなところに?
 一瞬遅れて疑問が湧いてくるが、当然ながら答えは出てこない。

「我が国に仇名す邪竜よ! 我が手のつるぎの輝きを見よ! これこそフレギウス王国が国宝、竜殺しの思念が蓄積されし第六位階の祈望之器ディザイア―ドアスカロンなり!!」

 複合発露によって強化された視覚が、仰々しいマントを羽織った男が両手で掲げたものを捉える。それは片刃ながら太い刀身の巨大な両手剣だった。
 国宝に相応しく、意匠には一定の美しさがある。
 だが、私はそれを遥かに上回る忌避感を抱いていた。
 竜殺し。ジーグと名乗った男が告げたことに間違いはないと本能的に理解する。

「前回の如く邪魔者が現れることはない! この剣が必ずや貴様の命を刈り取るであろう! 抵抗するならば、その先にあるのは己が死であると知れ!」

 脅すように言葉を続ける男……と言うよりもアスカロンという名らしい剣の刀身の煌めきに、恐怖心が胸の内に渦巻く。
 まだ短い生ながら、生まれて初めて遭遇した、紛うことなき命の危機だ。

「だが、我は慈悲深い! この隷属の矢を受け入れ、大人しく我らの軍門に下るというのならば、命だけは助けてやる! 返答は如何に!」

 男は更にそう言いながら一旦剣を収め、代わりに懐から先端の鋭い棒のようなものを取り出して私に見せつけるように突き出してきた。
 矢と言うには短いそれにもまた、剣とは別種の嫌悪感が湧く。
 死とは異なる終焉が待ち構えているかのようだ。
 隷属。生まれ持った知識がそれだけは拒絶しなければならないと叫ぶ。
 だから私は即座に大きく息を吸い込むと口から火炎を放ち、それと共に再度洞窟を崩落させて逃げようとした。しかし――。

「所詮は魔物の成れの果てか。……これより再びアクエリアル帝国との戦端を開く我らの後顧の憂いとなるならば、今この場にて断ち切るのみ! 死ぬがいい!」

 炎を目眩ましに使って洞窟の天井を突き破り、そうして逃れた空。
 そこに男は一足飛びで迫り、片刃の大剣を軽々と振るった。
 次の瞬間、腹部に生まれて初めての強烈な痛みを感じる。
 意識が飛びそうになる。
 涙が目に溜まる。
 一体、何故……何故、私がこのような目に遭わなければならないのか。
 この世界に生れ落ちて、まだ何もなしていないと言うのに。
 余りにも理不尽過ぎる。
 眼前の出来事にそう思えば思う程に憤怒が沸き上がり、それによって一瞬だけ痛みと恐れが遠退き……。

「ちっ、浅かったか」

 そう言いながら空中で体勢を立て直そうとするも隙を晒した男へと、私は激しい敵意と共に全力で炎のブレスを放った。
 生まれて初めて、相手を殺し尽くすつもりで。
 その一撃は何にも阻まれず男に届き、辺りに肉が焼け焦げる臭いが充満する。
 一瞬の後、黒焦げた人型の塊が地に落ちていく。
 ……殺した。
 人間を、殺した。
 その事実に、何故か胸の奥が締めつけられるような気持ちの悪さを抱く。
 けれども、こうしなければ意味も分からず殺されていた。
 その未来に抗うことは決して間違いではないはずだ。
 そう言い訳をしながら、落下する黒いものの末路を見守っていると――。

「え?」

 思わず、間の抜けた声を上げてしまう。
 その黒い塊は急激に崩れ去って灰となり……。
 しかし、それは一ヶ所に集まって再び人の形を作っていく。
 そして何ごともなかったかのように、炎に焼かれる前の男の姿となった。

「さすがは魔炎竜。かつてフレギウス王国を混乱の渦に落とせし災厄の邪竜か。しかし、残念だが、俺は不死身だ。貴様の死の運命は変わらない」

 そう私を嘲笑うように告げた男は、再び地を蹴って肉薄してくる。
 竜殺しの刃が鋭く振るわれる。
 確かに炭化して死んだはずの存在が復活して襲いかかってくる様に動揺した私の動きは僅かに鈍り、回避が間に合わずに翼の一部を切り裂かれてしまった。
 飛行を保てなくなって地に落下する中、それでも何とか体勢を整えて火炎の息を放ち、空中から無防備に落下している男を再び焼き尽くす。
 だが……。

「何度やっても無意味だ。俺は甦り、貴様の傷は増えていくのみ。嬲り殺しになりたくなくば、隷属の矢を受け入れることだな」

 男の言葉通り、何度焼き尽くしても、時に爪で体を八つ裂きにしても、灰と化した中から再び復活し、その度に私の体が裂かれていく。
 地に落ちて動きを制限されてしまったせいで、一つ一つの傷が深い。
 このままでは私は間違いなく……。
 結末は容易く想像できる。

 既に満身創痍。
 しかし、尚も眼前には亡者の如く迫ってくる男がいる。
 実感を伴って、死がひたひたと近づいてくるのを感じる。
 現在進行形で、痛みが全身を駆け巡っている。
 多様の恐怖が綯い交ぜになって襲いかかってくる。

「終わりだ、魔炎竜!」
「ひっ」

 それらを前にして私にできることは――。

「う、あ、ああ、ああアああアアアアアアッ!!」」

 もはや、理性を手放して獣の如く咆哮することだけだった。

***

「君が今生に掲げた目標を果たす上で、彼女を救い出すことは必要不可欠だったこともまた今更言うまでもないことだろう。何故ならば、彼女は君達の……」

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