ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

262 レンリの気づき

 やがて胸の中の少女は姿形が徐々に希薄になっていき、完全に消え去った。
 そうして夢の世界の奥底に残ったのは俺とレンリだけ。
 二人、取り残されてしまったかのような静けさが辺りに満ちる。

「終わった、のでしょうか」
「……多分な」

 あくまでも夢の中の象徴的な存在であろう少女の幻影。
 既に消滅してしまったそれはバク少女化魔物ロリータリーメアの端末的な何かに過ぎないものではあるのだろうが、とりあえず今のところ復活する気配は皆無だ。
 加えて、この世界の表層側に数え切れない程に存在していたはずの人々の気配のようなものが急激に感じられなくなってきている。
 今回の事態の被害者全員、彼女の複合発露エクスコンプレックスから解放されたと見て間違いない。

「…………よし。俺達もそろそろ起きるか」

 夢の世界の奥底にまで来たせいか、いつの間にかライムさん達の声が聞こえなくなっていたが、もう少し表層側に戻りさえすれば再び意思伝達可能になるはずだ。
 そこまで行けば、恐らく俺達も他の人々と同じように勝手に目が覚めるか、そうでなくとも彼らの精神干渉の力ですぐにでも覚醒することができるだろう。
 そうした考えの下、夢の世界の表層側へと一歩踏み出してレンリを促すが……。
 彼女は珍しく返事もせず、真剣な表情と共にある一点を睨みつけていた。
 俺の進んだ方向とは真逆。夢の世界の深淵を。
 より正確に言えば、そこにある赤黒い巨大な塊。即ち――。

「…………破滅欲求の塊、か」
「はい」

 思考の方向性と一致したからか、今度は頷いて肯定するレンリ。
 よくよく彼女の目的を考えてみれば、そういった反応をするのも当然だろう。
 勿論、救世の転生者として因縁のある俺も全く意識していない訳ではない。
 が、俺は諸々を鑑みて、この場で何かできることがあるとは全く思っていなかった。だから……。

「どうにかして、ここからあれを消滅させることができないものかと考えていたのですが……やはり私では……」

 そう続けながら何か手はないものかと問うようにこちらを見た彼女に、俺は首を横に振りながら破滅欲求の塊に向けて最大限に研ぎ澄ました風の刃を放った。
 いわゆる三大特異思念集積体コンプレックスユニークが一体、空を司るジズの少女化魔物たるアスカとのアーク複合発露エクスコンプレックス支天神鳥セレスティアルレクス煌翼インカーネイト〉による一撃。
 それは今現在、この夢の世界において観測者一人の手で出すことのできる最大威力の攻撃と言っても過言ではないはずだが……。

「……旦那様でも無理なら、何者であれ、ここからの干渉は不可能なようですね」

 その結果を目の当たりにして、レンリが落胆したように呟く。
 俺が放ったその風の刃は一定のところまで対象に近づくと、まるで攻撃など最初から発生していなかったかのように呆気なく霧散してしまっていた。
 何かにぶち当たって防がれた、とかではない。
 全く以って唐突に掻き消えてしまった。
 単純な力の強弱の問題ではないと考えざるを得ないような様相だ。

「この場であれを消し去ることさえできれば、全て解決するのに」

 言いながら、悔しそうに表情を歪ませるレンリ。
 まあ、よしんば攻撃が届いたとして、この蓄積された破滅欲求の塊が物理的に消滅させることのできるものなのかどうかすらも分からないが……。
 確かに、それが可能だったならば話は早い。
 それこそ夢の世界の奥底へと至る手段さえ保有していれば、救世の転生者に依らずとも救世を成し遂げることのできる一つの方法となり得るのだから。
 そうなれば、レンリは己の目的を完全に果たすことができる訳だ。

 とは言え、それは彼女自身もまた理解しているように儚い願望に他ならない。
 救世の転生者が三大特異思念集積体の真・複合発露を用いて尚届きすらしないなら、彼女が口にした通り夢の世界を介してでは干渉不可能と見なさざるを得ないだろう。
 実際。風の刃が消滅した位置は丁度、そこから先に踏み込むと自分と他人を隔てているものを失ってしまうとリーメアが言っていた境界の辺りだ。
 その事実から考えても、少なくともこの場所からでは、どう足掻こうと個々に依存する力ではあの破滅欲求の塊に干渉することなどできはしないのかもしれない。
 それを念頭に置いた上で何とかしようと言うのなら、それこそ世界のルールを利用して尚且つその穴を突くような発想の転換が必要になりそうだ。
 救世の転生者による救世もまた、あるいは、その類のものなのかもしれない。

「ここから攻撃を届かせる手段を考える。そういった方向性も頭の片隅に入れておいていいかもしれませんが……やはり根本的に別の方法を探るべきでしょうね」

 その辺り、レンリも似たようなことを考えていたようだ。
 そう結論づけると小さく嘆息し、落ち込んだように俯いてしまう。
 が、彼女はすぐさま首を横に振り、顔を上げて俺を見た。
 救世の転生者に依らない救世という難題に長年取り組んできただけあって、その辺りの気持ちの切り替えは慣れたもの、と言うところか。

「いずれにしても、こうして問題の根本を目にできたのは望外の僥倖でした」
「僥倖……と言うと?」
「はい。全ての人間が抱く破滅欲求が無意識の奥底に蓄積され、それが世界へと一定の形を伴って放出される。それはつまり人間と少女化魔物、人形化魔物ピグマリオンは世界を通じて繋がっているとも言える訳です。そこに突破口があるかもしれません」

 レンリが口にした言葉に成程と頷く。
 ものの成り立ちを正確に理解することは、それが引き起こす問題の解決策を考える上で必要不可欠だ。基本中の基本と言ってもいい。

「そう考えると、リーメアには感謝すべきかもしれないな」
「ええ。夢の世界の奥底にまで入り込まなければ知り得ないことですしね」

 社会的に多大な影響を及ぼした事件ではあったけれども。
 この点については、正に彼女が暴走したおかげと言うこともできる。
 命に関わるような被害者も出ずに収束しそうだし、あるいは、最終的にはメリットの方が大きいぐらいかもしれない。
 だが、何にせよ――。

「けど、それについてここで頭を悩ませていても仕方がない。今は目を覚まそう」

 一先ず手に入れた情報を持ち帰り、トリリス様達と共有した方がいい。
 レンリは彼女達を余り好ましく思っていないようだが、頼られれば彼女達も知恵の一つや二つ快く貸してくれるはずだ。
 こと救世に関わることならば尚のことだろう。
 それに加えて。レンリを義理の娘扱いしている母さん達も、詳しい事情は知らずとも、彼女のお願いを受け入れる形で手伝ってくれることになっているしな。
 これ以上、夢の世界に留まり続けている理由はない。
 そうした意図を込めながら、改めてレンリの手を取って促す。

「はい。旦那様」

 対して、同じ考えに至ったかどうかは分からないが、レンリは俺の言葉に素直に頷きながら手を強く握り返してきた。
 それから彼女は俺の隣に並び、そこで一旦立ち止まる。
 そして一度だけ破滅欲求の塊を目に焼きつけるように振り返ってから、俺達は夢の世界の表層に向けて共に歩き出したのだった。

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