ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

255 新たな事件、夢に囚われた者達

「夢から目覚めない、ですか?」

 トリリス様が告げた新たな事件の内容を受け、俺は問い気味に繰り返した。
 ランブリク共和国に赴き、闘技場の人形化魔物ピグマリオン【コロセウム】を討伐した翌日。
 諸々の報告を終えた俺は、あの場で抱いた焦燥に似たモヤモヤを僅かでも解消するために、救世の転生者として何かできることがないかトリリス様に尋ねた。
 彼女達はどうも俺の負担を増やしたくないようで少し渋っていたが……。
 今はむしろ何かしていた方が精神衛生にいい。
 そう説得して引き出したのが、今正に俺が口にした問題だった。

「その通りだゾ。二、三日前から夜に眠ったまま目を覚まさなくなってしまった人間と少女化魔物ロリータが、世界各地で急激に増えているのだゾ」

 仕方がないと言わんばかりの声色と共に、少し詳しく話し出すトリリス様。
 一つの国の中での話ではなく、正真正銘世界規模の話なのか。

「何かの病気、とかではないんですよね?」
「少なくともホウゲツで確認されている被害者達は全員、眠る前と眠った後とで健康状態に変化はないのです……」

 俺の確認の問いに、トリリス様と同じ困り顔でディームさんが答える。
 この事態への苦慮と俺への呆れが半々ぐらいの表情だ。
 まあ、それはともかくとして。
 彼女が微妙な言い回しをしたのは、健康そのものな人以外にも何かしら体調を崩していた人も被害者の中に含まれているからだろう。
 だが、この世界特有の特別な病気ではないという確証があるなら間違いない。
 新手の少女化魔物、あるいは人形化魔物の複合発露エクスコンプレックスが直接の原因だ。
 加えて――。

「単に目覚めない、ではなく、夢から目覚めないと言うからには、何かしら似た事例が過去にあるってことですか?」
「鋭いナ。その通りなのだゾ」
「恐らく今回の事件は、バクの少女化魔物の複合発露によるものなのです……」
「獏……と言うと、あの獏ですか?」
「どの獏のことを言っているのか分からないが、夢を食らう魔物のことだゾ」

 やはり、その獏だったようだ。
 つまり元の世界でも人の夢を食う架空の生物として知られるそれが少女化魔物となり、複合発露の力を用いて人々を夢の世界に閉じ込めているという訳だ。
 人が夢を見続ければ、無限に食糧が湧いてくるようなもの。
 複合発露がそういった性質を持つに至ったのは、恐らくそんな理屈からだろう。

「……それって割と大ごとでは?」

 これまでの話からそう判断し、表情を引き締めながら問いかける。
 対して、トリリス様とディームさんもまた肯定するように雰囲気を硬くした。
 この獏の少女化魔物が持つ複合発露。
 聞く限り、対象に眠りの状態異常を与えるような力と考えていい。
 だが、それだけならばユニコーンの少女化魔物がいる今、治癒の複合発露によって目覚めさせることも不可能ではないだろう。
 にもかかわらず、今も尚、人々が眠り続けていると言うのであれば、それは即ち第五位階の治癒では回復することができないということだ。
 即ち、獏の少女化魔物は暴走状態にあるということ。

「久々のEX級案件、ってことですよね?」

 少女化魔物は観測者たる人間の数が少なくなればなる程、弱体化する。
 そのため、直接命を奪う複合発露よりも命を奪わずに行動不能とする複合発露の方が社会にとっての最終的な脅威は大きくなる。
 故に、サユキもそうだったが、そういった類の複合発露を有する少女化魔物が暴走した場合には脅威度EX級に分類される。
 そのカテゴリーに相応しく、そうした少女化魔物の補導は中々に厄介だ。
 万が一、暴走の鎮静化以外の結末を迎えると悲惨なことになってしまう。
 少女残怨ロリータコンタミネイトによって未だ石化したままのガルファンド島石の島のように。

「イサクの言う通りだゾ」

 改めて言葉で肯定しつつも、何ともハッキリしない表情を浮かべるトリリス様。
 何かできることがないか、という俺の問いに対する答えとして出してきたからには、まだ解決の目途が立っていないのは予想に容易い。
 それでも敢えて。

「解決策はあるんですか?」

 分かり切ったことであっても尋ねる。
 対して、彼女は難しい顔をして押し黙ってしまった。
 少しの静寂の後、ディームさんが代わりに口を開く。

「獏の少女化魔物は複合発露を使用している限り、誰かの夢の中に入り込んだままなのです。しかも、夢から夢へと好きに移動できるので捕捉は難しいのです……」

 この口振りだと複合発露の干渉下にない人の夢にも、干渉下にある他の人の夢から入り込むことができると考えるのが妥当か。
 夢の世界は集合的無意識で繋がっている、というような考え方の蓄積によって複合発露がそのような形となってしまったのだろう。厄介なことだ。

「ホウゲツの優秀な少女征服者ロリコン達を以ってしても、さすがに少女化魔物を目の前にしなければ補導することはできないのだゾ」

 ディームさんに続けて告げたトリリス様は「勿論、救世の転生者であろうとナ」とつけ加えると一つ小さく嘆息した。
 どうやら冗談ではなく、本気で困っているようだ。
 しかし、前例があるという話だったはずだが……。

「前の時はどうやって補導したんですか?」
「国ごとに一ヶ所に集めた被害者達を聖女の力で片っ端から癒やていくという正に力業を数日にわたって続け、獏の少女化魔物が業を煮やして聖女を襲おうと実体化したところを拘束したのだゾ」
「えぇ、邪魔されたからって、わざわざ実体化したんですか? 聖女も他の人達と同じように眠らせればよかっただけのことじゃ……」

 そうすれば、簡単に障害を排除することができただろうに。
 もしかして阿呆の子だったのか?

「当時の聖女は、眠る時には第六位階の身体強化を使用して獏の少女化魔物の複合発露による干渉を防いでいたのです……」

 ああ。だから、現実世界で直接狙った訳か。
 ……だとしても、頼みの綱の状態異常の複合発露を防がれてしまえば、後はもはや無力な少女化魔物。返り討ちに遭うこと間違いないだろうに、暴走しているせいでその辺りの判断力がなくなってしまっていたのか。
 何にせよ、俺も寝る時は当時の聖女に倣っておいた方がいいかもしれないな。
 まあ、それはそれとして――。

「けど、今現在、聖女はいませんよね」

 複数の聖女候補と未契約のユニコーンの少女化魔物はいるが、それだけだ。
 彼女達全員が束になっても真性少女契約ロリータコントラクトを結ばなければ、第六位階の治癒には至らない。それでは被害者を眠りから覚まさせることはできない。

「…………アスクレピオスを借りるというのは?」

 勿論、彼女達もその程度のことは考えているはずなので、暗に何故それを利用しないのか、という意味を込めて尋ねる。

「実はナ。獏の少女化魔物の複合発露にアスクレピオスは効かないのだゾ」
「え? 何故です?」
「人体に害のある異常だとアスクレピオスが認識しないからなのです……」
「そう、なんですか?」
「往々にして獏の少女化魔物が見せる夢は、当人にとって心地よいものだからナ」

 近年の獏のイメージは様々な創作の影響で害獣染みた部分が多くなっている感があるが、そう言えば、本来は悪夢を払ってくれる御利益のある存在だったか。
 心地よい夢を見せる。
 勝手に状態異常に括って話していたが、確かに使い方によってはリラクゼーションなどにも利用できる人体にプラスになる複合発露と見なすこともできる。

「その辺りは祈望之器ディザイアードの融通の利かない部分なのです……」
「逆に、複合発露ならば使用者の判断で害と見なせば治癒可能なのだがナ」

 成程。祈望之器の場合は無意識含む患者側の判断に効果対象が依存し、複合発露は施術者側の判断に依存するという訳だ。
 にしても、いくら心地いい眠りだからと言って、ずっとそのままでいればいずれ命を落としかねないだろうに。
 ディームさんが言う通り、融通が利かないにも程がある。
 だが、一先ずはそういうものとして考えていくしかない。

「なら、アスクレピオスに頼ることはできませんね」
「なのです。だから困り果てているのです……」

 声色と表情に感情を多分に乗せて告げるディームさん。
 最初、何ともないような態度を見せていたのは正に年の功という奴か。

「こんな手詰まりな状態で相談されても、お前も困るだけだろうからナ」
「ある程度、解決策を固めた上で、もし一般の少女征服者で対応できなければイサクに協力を要請するつもりだったのです……」

 そうやって配慮してくれることには感謝したい。
 しかし、三人寄れば文殊の知恵とも言う。
 丁度、何かに思考を逸らしたかったところなので、むしろ渡りに船だ。

「まあ、俺の方でも何か方法がないか考えてみます」

 いつだったかレンリにも言われたが、元異世界人としての視点が何かしら役に立つこともあるかもしれないからな。

「そう言ってくれると助かるゾ」
「何か思いついたら教えて欲しいのです……」
「分かりました」

 そうして俺は頭の中で思考を巡らせながら。
 とりあえず図書館で獏の少女化魔物と彼女らが起こした事件について調べてみるために、学園長室を後にしたのだった。

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