ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

249 横道に逸れている間にも着実に針は進んでいる

「あ、イサク君! トリリス様がお呼びです!」

 聖女候補の専用教育施設を後にして補導員事務局を訪れた俺は、すぐさま全く以っていつもの流れで学園長室へと向かわされた。
 そのまま定型文で挨拶しながら部屋に入り、所定の位置で改めて口を開く。

「聖女やユニコーンの少女化魔物ロリータについて、何か問題があったんですか?」

 直前の仕事が正にそれ関連だったし、丁度その施設の見物もしてきたばかり。
 なので、何かしら関係するものと考え、机の奥にいるトリリス様に問いかける。

「いや、全くの別件だゾ」

 対して、彼女はそう神妙な顔で簡潔に否定した。
 ここ最近、ふざけた雰囲気は薄いままだ。
 今日は更に、どことなく疲れの色も見える。
 それこそ件の少女化魔物達の対処に追われているせいかもしれない。

「聖女の件は私達の方で厳正に対処するのです……」

 暗にラクラちゃんのことも公平に扱うと告げているようなディームさんに首を縦に振って理解の意を示し、それから内容を問う視線をトリリス様へと送る。
 今日の彼女の様子から察するに、割と重大な案件のように思われるが……。

「実はナ。またぞろ面倒な人形化魔物ピグマリオンが出現したようなのだゾ」
「……【ガラテア】ではなく?」

 確認の問いに頷いて肯定するトリリス様の姿を受け、表情を引き締める。
 人形化魔物。人の破滅衝動が特に蓄積することによって発生する人類の敵。
 救世の転生者が打ち倒すべき最凶の人形化魔物【ガラテア】以外にも存在し、前回の救世から時間が経てば経つ程に発生頻度は増していく。
 堤防が決壊し、水が溢れ出てくるように。

 その【ガラテア】以外の人形化魔物達。
 以前は一般的な少女征服者ロリコンでも対処可能だったそうだが、どうも前代の救世の転生者の頃よりも遥かに強くなっているらしい。
 爆発的な人口増加がその一因ではないかと考えられているが……。
 それはともかく当代のそれらは、素の力では救世の転生者たる俺でなければ対抗することができない程の強さを誇っていた。
 もっとも、今では祈望之器ディザイア―ドについて秘匿されていた技術を一つ開示し、それなりの少女征服者ならば十分対処できるようになっている。
 しかし、今回。そんな状況になっているにもかかわらず、トリリス様が殊更面倒と口にするからには相当厄介な人形化魔物が出現したのだろう。

「一体、どんな?」
「まだ確定できている訳ではないのだが、今回の人形化魔物は高い確率で、いわゆる闘技場の人形化魔物【コロセウム】と思われるのだゾ」
「と、闘技場?」

 それはまた、人形になったところが一段とイメージしにくいな。
 まあ、俺が対峙した鎧の人形化魔物【リビングアーマー】はともあれ、剣の人形化魔物【イヴィルソード】や宝箱の人形化魔物【ミミック】も大概だけれども。

「ええと……思われる、というのは?」
「奴は過去にも出現しているのですが、状況が当時にそっくりなのです……」
「今回はフレギウス王国で発生したようなのだがナ。突然、とある一つの街が巨大な膜のようなものに覆い隠され、その街にいたはずの人間と少女化魔物が忽然と姿を消してしまっていたのだゾ」
「数日後、膜が取り払われた後の調査で生存者が一人発見されたのですが、完全に発狂してしまっていて救助に来た騎士に襲いかかる程だったようなのです……」
「闇雲に暴れるのみで意味のある話も聞けず、更には第六位階相当の身体強化状態にあったために無傷で捕らえるのも難しく、その場で処分されたようなのだゾ」

 俺の問いに交互に説明をするトリリス様とディームさん。
 明確な証言を得ることはできなかったようだが、共通点の多い事象が過去にも存在したのなら、確かにその再現と考えてよさそうだ。
 さすがにこれは、ありふれた別の話と思うには異質過ぎる。

「以前の【コロセウム】? は何をしたんですか?」
「人形化魔物のやること言えば人類の殲滅。それ以上でも以下でもないのだゾ。とは言え、奴もまた中々に性根の腐った方法を取っていてナ……」
「過去の【コロセウム】は比較的人の多い街に出現すると、そこにいる人間と少女化魔物を自らの滅尽ネガ複合発露エクスコンプレックスによって作り出した結界に閉じ込めたのです……」

 胸糞悪そうに眉をひそめたトリリス様に代わり、ディームさんが口を開く。

「そして【コロセウム】は閉じ込めた者達に、殺し合いを強要するのです。『最後まで生き残った一人だけ生きて結界から出してやる。ただし、期限までに決着がつかなければ皆殺しにする』と脅しながら、なのです……」
「しかし、先の話にもあったように生き残ることができたからと言って無事ではないのだゾ。身体強化と精神干渉の合わせ技によって狂戦士の如く変貌してしまう訳だナ。この状態は、それこそ聖女による治癒でもなければ回復不可能だゾ」
「ただ単に生きて外に出ることはできた。それだけなのです……」

 嘘は言っていない。しかし、それはそれとして徹底的に苦しめ、と。
 話を聞いているだけで気分が悪い。
 人類殲滅を目的としているにしては余りにも非効率的過ぎる。
 わざわざ人間を嬲って楽しんでいるのだろう。
 正に邪悪としか言いようがない。
 ……もっとも、それもまた人間の内から生じたものの蓄積である訳だが。
 それはともかく、今はその人形化魔物【コロセウム】の対処についてだ。

「当時はどうやって討伐したんですか?」
「一回目の時は、たまたま内部にいた当時最高レベルの少女征服者が本体を見つけ出して討ち果たしたのだゾ」
「え、結界を破って、とかじゃなく?」
「【コロセウム】が作り出した結界は通常の攻撃の干渉を受けないのです。内部は異次元空間とでも言うべき状態にあって、境界に目視できる膜は普通に通り抜けることができるのですが、中に入ることは決してできないのです……」

 そのせいで運を天に任せるような方法でしか解決できなかった訳か。
 さすがの救世の転生者でも、ピンポイントで効果のある複合発露エクスコンプレックスを持つ少女化魔物と契約でもしていない限り、異次元への干渉などできない。
 しかし、わざわざ俺を呼んだのは対処法を考えさせるためではないだろう。
 見込みのある方法があるからこそ呼び出しをしたはずだ。
 そして、それはトリリス様が一回目の時と断りを入れたことからも明らかだ。

「二回目以降は?」
「結界に傷をつけて局所的に通り道を生み出し、中に侵入した当代の救世の転生者が本体を倒すことで解決したのだゾ」
「複合発露でって訳じゃないんですよね?」
「当然なのです。そこまで都合よく救世の転生者に少女化魔物を宛がうことはできないのです。当人同士の気持ちもあるのです……」

 そこは少女祭祀国家とまで呼ばれるホウゲツの美点だな。
 ある意味、弱点とも言える部分でもあるけれども。
 いずれにせよ、そういうことなら可能性があるのは一つしかない。
 そして、そちらなら運要素は大分減らすことができるだろう。

祈望之器ディザイア―ド、ですか」
「その通りだゾ。ありとあらゆるものを断ち切るという思念の蓄積を受けた刀、国宝布都御魂ふつのみたま……の複製品を使用して結界内へと繋がる入口を作り出した訳だゾ」

 思念の蓄積には思念の蓄積で対抗する以外にない。
 複合発露でなければ、後は祈望之器しかない。
 しかし、布都御魂か。
 ふつ・・という言葉は断ち切る様を言うとされているらしいし、その名称の由来から全てを断ち切るという属性が付加されたのかもしれないな。
 そこまでの逸話を前世のそれが持っていたかは忘れたが。
 ともかく、その性質のおかげで異次元の結界を切ることもできる訳だ。
 複製品ということだが、攻撃対象が第六位階である滅尽・複合発露であることを考えると一度の使用で破損するアレを使用するのだろう。

「で、今回はそれを持ってフレギウス王国へ、ですか?」
「いや、【コロセウム】は既にフレギウス王国を去ったようなのだゾ」
「え、なら、どこへ?」
「奴は今、ランブリク共和国で結界を展開しているのです……」

 と言うことは、向かう先はランブリク共和国か。割と久し振りだ。
 ……にしても、その調子だと放っておくとホウゲツにまで上陸しかねないな。

「それで、布都御魂の複製品は?」
「既にアマラに頼んで用意して貰っているのだゾ」
「工房に立ち寄って受け取って欲しいのです……」
「分かりました。では、行ってきます」

 頭を下げ、速やかに学園長室を出る。
 そうして俺は件の祈望之器を受け取ってランブリク共和国へと向かうため、立ち上る入道雲を横目に空へと飛び立った。

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