ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

226 再び一から積み上げる

 ウインテート連邦共和国を大きく騒がせた怪盗ルエット。
 俺達の手によって捕らえられた彼女はその後、一先ずホウゲツの特別収容施設ハスノハに収容される運びとなり、既にかの施設の独房に入れられていた。
 ホウゲツとウインテート連邦共和国は犯罪者の引き渡しをする程度には親密なので、いずれ彼女はあちらに移送されることになるはずだが……。
 彼女の現在の状態では取り調べもできず、裁判にかけることもできないだろうということで、しばらくは特別収容施設ハスノハに留まることになりそうだった。

「恐らく彼女、ドッペルゲンガーの少女化魔物ロリータたるルエットは、少女化魔物となった瞬間から常に複合発露エクスコンプレックスを使い続けていたのだろうね」

 ルエットが宛がわれた独房の前で、特別収容施設ハスノハの施設長たるアコさんが彼女に複雑な感情の滲んだ目線を向けながら告げる。
 罪を犯したことに思うところはあれど、その感情の主なところは同情のようだ。

「……それがこんな状態になってしまった原因、ですか?」

 封印の注連縄の影響下にある小さな部屋の中心で糸の切れた人形のように座っているルエットを一度視界に入れてから、アコさんに視線を戻して問う。
 独房は完全に密閉されている訳ではないので、当然こちらの会話は耳に届いているはずだが、認識できていないのか全く興味がないのかルエットの反応はない。
 そんな彼女の様子を見れば、罪人であることを考慮に入れた上でも、憐れみの一つや二つ抱いても不思議ではないだろう。

「これまで積み重ねてきた行動も、思考も。何かしらの存在をコピーした上で行ってきただけに、封印の注連縄の力で複合発露が完全に停止した結果、そうしたものが全て消え去ったまっさらな、無垢な状態に戻ってしまったんだろうね」
「無垢な状態……」

 アコさんの言葉を繰り返しながら、再びルエットに目を向ける。
 今の彼女は言わば、生まれたばかりの赤ん坊のようなものということか。
 その様子は、どことなく初めて会った時のテアに似ている。
 最凶の人形化魔物ピグマリオン【ガラテア】の肉体であり、空っぽであった彼女と。

「その辺り、ルエットも薄々は気づいていたのかもしれない。だからこそ、どうにかして自分という存在を確立しようとして、怪盗なんて馬鹿な真似をしていたんだろう。土台となるものがなければ、結局は空中楼閣も同然だったのに、ね」

 ルエットがどういった動機の下であのような行為に及んでいたのかは、アコさんが自身の複合発露〈命歌残響アカシックレコード〉を以って全て詳らかにされていた。
 その過程で、今回の件の依頼主が誰であるかについてもまた。
 ルエットの中にその記憶は既にないようだが、アコさんの複合発露は世界に記録されている情報、特に対象の主観を読み取るもの。
 それだけに、少なくとも彼女の行動、思考及び心情に関しては丸裸も同然だ。
 前世には、犯人が何も語ろうとせず、動機に謎が残される結果に終わってしまった事件も多々あっただけに、彼女の複合発露は本当に有用だと改めて感じる。
 まあ、そうは言っても別に依頼人がいて、尚且つ複合発露の使用条件を満たしていないケースでは、そちらの動機まで明らかにすることはできないけれども。
 余談だが、今回はルエットが実は依頼人もコピーしていたものの、体験に基づく記憶でなければ当人に紐づけされないため、この特殊なケースでも芋づる式に事件の裏の裏まで解明することは不可能とのことだった。

「……本当に馬鹿な子だよ。けど、彼女自身にはどうしようもできなかっただろうね。生まれた時から既にコピーした諸々に影響されていた訳だから。こうして誰かにとめて貰う以外には、やり直すチャンスを得ることは不可能だったと言える」

 更にそう続けたアコさんの言う通り。
 どう足掻いても、こうして封印の注連縄によって強制的に複合発露を解かなければ本来の、純粋なルエットが現出してくることはなかっただろう。
 そう考えると、彼女が取ることのできた選択肢はないに等しい。
 情状酌量の余地がないとは言いがたい。
 いずれにしても、これまで彼女が積み重ねてきたもの全てが取り払われてしまったのなら、もう罰を受けたと判断してもいいのではないかと思う。
 少なくとも、この少女祭祀国家ホウゲツにおいては、正式に教育を受けて国民として登録される前の罪は免ぜられる訳だし。

 ……とは言え、被害を受けたのはウインテート連邦共和国とその国民。
 被害者の感情とあちらの法律がそれを許すかはまた別の話だ。
 しかし、今は何よりも――。

「この子は、大丈夫なんでしょうか」

 そもそも取り調べや裁判を受けられる状態に、いや、それ以前にまともに受け答えができるような状態に戻れるのかどうかが心配だ。
 同じような状態にあったテアも今では大分自意識がハッキリしてきているとは言え、それは相応に他者との触れ合いがあったからに他ならない。
 記録上存在しないことになっているテアはともかく、他国の犯罪者であるところの彼女に、その機会を与えるのは中々に難しそうだが……。

「まあ、少女化魔物のことは私達に任せて欲しい」

 そんな俺の問いかけに、アコさんは自信に溢れた表情と共にそう応じた。

「これでも五百年。様々な少女化魔物と接してきたからね」

 更に彼女はそう続けると、独房の中で座り込むルエットに視線を向けた。
 それから一歩前に出て屈み、そんな相手によく伝わるように丁寧に語りかける。

「いいかい、ルエット。これから君は、複合発露に頼ることなく新たに一つ一つ経験を積み上げて、今度こそ本当の自分というものを作り上げていくんだ」

 しかし、やはりルエットに反応らしい反応は見られない。
 それでも――。

「それまでは、私達は決して君を身捨てたりはしない」

 アコさんは全く悲観的な様子を見せることなく、ただただ真摯に向き合う。
 こういった少女化魔物への情け深さが、このホウゲツという国が他国から少女祭祀国家と呼ばれる所以の一つというものだろう。

「……俺にも手伝えることはありますか?」

 そんなアコさんの姿を目の当たりにし、やむを得ぬこととは言え、ルエットをこの手で今の状態に叩き落してしまった事実に改めて負い目と責任を感じて尋ねる。
 人外ロリコン的に、せめて少女が回復するまで見届けたいところだが……。
 そんな俺に対し、アコさんは「いや」と口にしながら首を横に振って続ける。

「イサク。君は君にしかできないことをすべきだ。こうした極々個別的で、かつ力に依らず対処可能な問題まで救世の転生者が抱え込む必要はない。彼女の暴走を鎮めてくれただけで十分だ。こういったことは私達を頼って欲しい」
「ですけど……」
「そのためにこそ、私達はいるんだ。その役割を取らないでくれ給え」
「…………はい。ありがとうございます、アコさん」

 少しだけ冗談っぽく告げた彼女に、十分な理解と共に頷く。
 いつか弟達にも言ったことだが、人間たる者、全てを抱えられる訳ではない。
 だからこそ弟達には将来この手が届かない部分を手伝って欲しいと言っていた俺が、何でもかんでも自分でやろうとするのは一種の裏切りというものだろう。
 と言うか、戦闘に際しても常にサユキ達の手を借りているのだから、そもそも俺は一人で何でもできている訳ではない。そこを履き違えてはいけない。
 救世という大き過ぎる使命は、仲間達の手を借りてこそ、ようやく果たすことができるものなのだから。

「イサクに出張って貰わなければならないとすれば、あちらの方だ」

 その言葉に込められたアコさんの意図を察し、意識を引き締めて首を縦に振る。
 今回の事件の真犯人とも言うべき存在。怪盗ルエットを利用して、ウインテート連邦共和国の国宝たる祈望之器ディザイアードアスクレピオスを奪おうとした真犯人。
 彼女の依頼主、人間至上主義組織スプレマシー代表テネシス・コンヴェルト。
 アコさんの〈命歌残響〉では彼が何の目的でそのようなことをしたのかまでは分からなかったようだが、一つ重大な事実を把握することはできた。
 ルエットがその暴走パラ複合発露エクスコンプレックスによって変じた最初の姿。
 三大特異思念コンプレックス集積体ユニークの一体たるベヒモスの少女化魔物が持つであろう複合発露。
 それはテネシスが依頼料の前払いとして彼女にコピーさせた力だった。
 即ち、今代のベヒモスの少女化魔物は彼の下にいるということ。
 しかも、アコさんがルエットの視点を読み解いた限り、彼がかの少女化魔物と真性少女契約ロリータコントラクトを結んでいるらしいことも判明している。

「……テネシス・コンヴェルト」

 情報を頭の中で並べ立てている内に、自らの望みのために己を持たぬ憐れな少女化魔物を利用した彼に対する強い憤りを湧き上がり、忌々しくその名を口にする。
 ホウシュン祭での苦い記憶が甦る。
 こちらはこちらでフェリト達と真性少女契約を結び、あの時とは隔絶した力を持つに至ったとは言え、三大特異思念集積体の力を有する彼は侮ることはできない。
 いずれは、その強大な力を以って俺達の前に立ち塞がることになるだろう。
 テネシス自身の目的が何なのかは分からないが、彼がそれを諦めない限りは。
 そう確信しながら俺は、次こそは必ずあの男を捕縛してみせると決意を改めた。

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