ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

219 大博物館館長の予測

 ウインテート連邦共和国首都リベランジェに到着し、今回の依頼の舞台となってしまった大博物館の見学を行った翌日。その朝のやや遅くに定められた集合時間。
 二日酔いなどでダウンしていたと思しき少女征服者ロリコン達もしっかり一日で体調を整えてきたらしく、ホテルのロビーには共に飛行機もどきマナプレーンでホウゲツから来た全員が揃っていた。
 ……まあ、曲がりなりにもこういった依頼を受けて生活しているプロなのだ。
 体調管理ぐらいはして当然と言うべきだろう。

「では、皆様。参りましょう」

 そして今日もまた。案内役兼纏め役のモリスさんに先導されるまま、全員で貸し切り状態の大型バスもどきメルカバスに乗り込んで高級ホテルを発つ。
 窓から見える一昔前のアメリカ風の街並みが緩やかに流れていく様は昨日と同じだ。
 遠くから近づく巨大で異質な建物の姿もまた。
 警護対象たるアスクレピオスが保管されている第六位階の祈望之器ディザイアードヒュリエウスの宝物庫を核とし、それを複製改良して積み重ねていった構造物。
 即ち昨日も訪れた大博物館へと、どうやら再び向かうようだ。
 という推測通り。その入口の前に至り、神殿のような大きな柱の脇を通って中に入る。

「こちらへ」

 が、今回は昨日とは違って祈望之器が展示されていた地下へと向かうことはなく……モリスさんは促すようにしながら一階の奥の方へと歩いていった。
 俺達はその後を、何故か反感を滲ませた警備員の妙に鋭い視線を受けつつ続いていく。
 すると、天井が高い広大な空間の一角に、二階へと向かう階段が現れた。
 その上った先には、この大博物館全体の大きさから比べると小さいにも程があるが、しかし、とりあえず俺達全員が入ることは十分にできそうな部屋があった。

「館長、皆様をお連れしました」
「ご苦労、モリス君。入りたまえ」

 その外からモリスさんが中へと呼びかけると、如何にも女の子な声が応じる。
 それを受けて彼は扉を開けてから一度俺達を振り返り、部屋に入るよう視線で促した。
 対して俺達は先んじて入室したモリスさんの指示通り、ぞろぞろとドアを抜けていく。
 その先で待ち構えていたのは――。

「ようこそ。ウインテート連邦共和国大博物館へ。私は当館の館長であるミュゼという者だ。見ての通り、人間ではない。悪魔(デカラビア)の少女化魔物ロリータだ。よろしく頼む」

 昨日一階の展示で見た中にあったものと同じ、元の世界で言うアメリカ先住民の小さな女の子が着るような服を身に纏った一人の少女。
 しかし、命属性を示す灰色の髪とそれと同じ色の瞳を見れば一目瞭然。
 彼女自身が口にした通り、人ならざる少女化魔物がこの大博物館の館長らしい。
 少女祭祀国家と謳われるホウゲツに次いで少女化魔物が平等に扱われ、かつ自由に生きることのできる国だけのことはある、というところだろうか。
 勿論、この国が謳う自由には相応に大きな責任が伴っている訳だけれども。

「さて、君達にここに来て貰ったのは他でもない。依頼の説明を行うためだ」

 まあ、それはそうだろう。
 スケジュール的にそういう予定なのに、それ以外だったらビックリだ。
 とは言え、そんなことを館長自らが一々行うものなのか、という疑問はなくはないが。
 当然と言うべきか、ここに集まった少女征服者達の中にも全く同じことを思った者がいたようで、右の方にいる誰かがそれをそのまま問いかける。
 それに対してミュゼと名乗ったその少女化魔物は、まるで自分自身の恥部を明かすかの如く、若干逡巡するようにしながら口を開いた。

「……まあ、ホウゲツに応援を頼んだのは私の独断なんだが、警備の者達はそれを快く思っていなくてね。実際、ここに来るまでの間に嫌な視線を向けられただろう?」

 それは確かに。
 ついさっきもそうだったけれども、昨日この大博物館を一通り見学した時もまた。
 警備員達の俺達を見る目は、警戒し過ぎじゃないかというぐらいに厳しかった。
 彼らの仕事仲間であるはずのモリスさんが、傍で案内役を務めているにもかかわらず。
 むしろ案内の後。俺がライムさん達と個人的に博物館を見て回っていた時の方が、警戒されていないように感じたぐらいだった。
 応援に来たホウゲツの人間ではなく、単なる客と思われていたのかもしれない。

「彼らはね。ヒュリエウスの宝物庫を過信しているんだよ。……っと、そう言えば昨日見学に来ていたかった子達もいるんだったね。改めて少し説明しよう」

 ミュゼさんは途中で言葉を切るとそう前置いてから昨日俺達が聞いた内容を簡潔に繰り返し、それから話を本筋に戻して続けた。

「かの祈望之器は自動生成の罠の他に、攻撃の意図を持った力や空間転移系の複合発露エクスコンプレックスによる外部への逃亡を無効化するといった機能も持ち合わせているんだ。勿論、第六位階にまで対応できるのは地下三階のオリジナルのヒュリエウスの宝物庫だけだけどね」

 そして、昨日の説明にはなかった補足的な情報をつけ加えて一旦締め括る。
 地下二階から上の階層に関しては、あくまでも複製品でしかない以上、精々第五位階以下のそれらを無効化することができる程度という訳だ。
 しかし、それでも第六位階以外、通常の複合発露や祈念魔法であれば害ある行為をとめることができるというのは防犯という点では非常に有用と言えるだろう。
 攻撃の意図を持った、などという人間にせよ元の世界の機械にせよ容易には判別できないものも、思念の蓄積で機能を付加される祈望之器なら正確にこなしてくれるのだから。
 更には対応できない第六位階でも複合発露ならば、発動時に肉体的な変化が現れるから一目瞭然だし。勿論、例外はなくはないけれども。

「かの祈望之器の性能に関して正確な理解をしているのは、私か副館長であるモリスぐらいのものだ。警備の者達は、少々第六位階の祈望之器に幻想を持ち過ぎている」

 一拍置き、それからミュゼさんが再び口を開く。
 とは言え、彼らがそうなってしまう気持ちは分からないでもない。
 普通に生きていれば、第六位階の祈望之器を手にする機会など訪れはしないのだから。
 複製改良された祈望之器ならば調整も利くが、第六位階のそれは逸話によって機能が定められているが故に、意外と融通が利かない部分が多いこともあるのだ。
 などということは、実際に使用している者でもなければ思うまい。
 加えて、第六位階の複合発露を用いた戦いの中では国宝級の祈望之器とて絶対の力を持つ訳ではないということも想像できないに違いない。

 何より、国宝を自国の力のみで守れないことは恥とも感じるだろうし。
 そういった部分で一層のこと頑なになっている部分もあるはずだ。
 むしろ、よく即座に応援を求める判断をミュゼさんはしたものだと思う。

「しかし、少なくとも防犯に関して言えば相当優れた祈望之器だと思うのですが、館長は怪盗ルエットに関しては通用しないとお考えなのですか?」
「うん。そうだね」

 誰かの問いに、ミュゼさんはあっさりと躊躇なく肯定する。

「館長という職務の中で、ヒュリエウスの宝物庫に入ることもある私だからこそ確信している。実のところ、アスクレピオスを地下三階、ヒュリエウスの宝物庫から盗み出されてしまうことは半ば確定事項と言っていい状況なんだ」

 続く彼女の言葉に、この部屋に集まった者の中にざわめきが生まれる。

「怪盗ルエットが何の少女化魔物かは知っているね?」
「確かドッペルゲンガーだと……」
「そう。その複合発露〈写躯真影イミテイトユアイデア〉は相手の姿形、表層の思考、記憶、身体能力に至るまで完全にコピーし、少女化魔物が対象ならば複合発露をも自由自在に扱えるというものだ」

 頷いたミュゼさんが口にした内容に、俺達の中の多くが納得の表情を浮かべる。
 彼女が何を懸念しているかは、ルエットの能力を思えば明白だ。

「物品の価値を測る程度の複合発露しか持たない戦闘力皆無な私だけれど、この姿形に彼女が変じればヒュリエウスの宝物庫にはリスクなく入り放題となってしまうだろうね」

 昨日モリスさんに聞いた通り、自動生成の罠もそれ以外の全ても館長にだけは作動しないとすれば、正にその館長に変身したルエットにも罠が作動しない可能性が高い。
 人間や機械より優れた判別機能を持つ祈望之器も、同じく思念の蓄積によって効果の定められた複合発露が概念的に同一人物という属性を付加した存在には欺かれてしまう。
 そして――。

「実はね。あの予告状が来た数日前。私のところに来た職員の一人が、記録に残っているにもかかわらず、その事実を知らないと言い張るんだ。だから既に、怪盗ルエットは彼女に扮して私に近づき、私という存在をコピーしたと見て間違いない」

 いずれにしても、全ての準備が整ったからこそ予告状を送りつけた。
 そう考えた方がいいのは確かだ。

「こうなると物品の盗難を防ぐよりも、盗まれたものを追う人手を確保した方がいい。と言うところが、私がホウゲツに応援を依頼した理由だ」

 最後にそう纏めたミュゼさんの言葉に俺以外も全員、ヒュリエウスの宝物庫に対する余計な知識がなかったおかげか、少なくとも依頼の経緯については納得がいったようだ。
 その雰囲気に、彼女は僅かばかり安堵したように小さく息を吐いた。
 それからミュゼさんは表情を引き締め直して再び口を開く。

「怪盗ルエットが本当に明日の夜に現れるとも限らない。今日から警備に参加してくれるとありがたい。君達に担当して貰いたいのは――」

 こうして俺達は予告された日の前日から早速警備に加わることとなった訳だが……。
 怪盗たる者、予告状の日時はしっかり順守しているようで、特に何ごともなく一日が過ぎていく。そして正にその、本番であろう当日の夜が訪れたのだった。

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