ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
203 近況報告と親子の一日
「そうか。フェリトとも真性少女契約を結んだのか」
俺の近況報告を聞き、母さんは納得半分、呆れ半分といった風の微妙な苦笑を見せる。
以前のルトアさんの時や直前のレンリの場合と反応が大分違うのは、フェリトに関してはいずれそうなるだろうと予想していたからに違いない。
つき合いも大分長いからな。
「成程。じゃから、フェリトは影の中に逃げ込んでいる訳じゃな。恥ずかしくて」
続けて、母さんは一人納得したように大きく頷く。
部屋に入ってきた時から、彼女の姿が見えなかったことに疑問を抱いていたのだろう。
影の中の引きこもりだったのは、さすがにもう遥か過去のことなのだから。
少なくとも、自室で影に隠れているということはない。
ならば理由は別にある、ということで、母さんはフェリトが羞恥心によって顔を出せなくなっていると判断してしまったようだった。
対して、そのフェリトは――。
「べ、別にそういう訳じゃないわ! ……じゃなかった。そういう訳じゃないです」
影の中から少しどもり気味に強く否定し、それから慌てて丁寧に言い直す。
実際、その言葉に偽りはない。
本当の理由は、テアが影の中で一人になるのは可哀想だから、というものだ。
とは言え、それを口にすることは【ガラテア】の肉体たるテアの存在を明かすこと。
両親相手に隠しごとは心苦しいが、こればかりは俺達の一存で勝手な真似はできない。
そうなると母さんの勘違いには乗った方がいい訳で、真正直に否定してしまったフェリトの反応は不適当なものになるはずなのだが……。
「ふむ。そういうことにしておくとしよう」
母さんのやや意地の悪い表情を見るに、それもまたフェリトの照れ隠しと見なされているようなので、わざと肯定するよりもむしろ正しい対応だったかもしれない。
「しかし、フェリトよ。長年、イサクと共にあるお前ならば、こういう時に妾が何を言うか分かっておるじゃろう?」
「それは、まあ……」
「ならば、妾達に対するその丁寧な口調はもう必要あるまい。イサクと真性少女契約を結んだのであれば、お前もまた妾達の娘なのじゃからな」
言いながら、期待に満ちた顔を俺の影に向ける母さん。
その視線を受け、フェリトのあからさまに大きな溜息が影の中から聞こえてくる。
とは言え、そこに拒絶の色は僅かたりとも存在しない。
あるのは、家族的な親しみが根っこにある呆れだけだ。
「……分かったわよ、お母さん。これでいいでしょ?」
「うむうむ。また趣の違った娘ができて、妾は嬉しいぞ」
フェリトの返事に滲む若干素直じゃない感じを楽しむように言いながら、ニマニマする母さん。その隣では、父さんが柔らかな雰囲気の苦笑を浮かべている。
言える範囲の内容を時系列で並べた俺の近況報告も含め、二人にとっては【ガラテア】の件のいい気分転換になっているようだ。
団欒の空気は心地よく、俺もまた気持ちが穏やかになる。
……しかし、家族団欒には一人足りない。
その事実が一つの難事と合わさってトゲと化して心に残り、それが罪悪感を募らせる。
正直なところ、両親が気を休めているところに水を差したくはないのだが……。
折角の機会だし、何より問題を余り後回しにし過ぎるのもよろしくない。
なるべく早く、セトの将来のことを相談しておきたいところだ。
とは言え、この和やかな空気を乱すのは少し躊躇われ、どう切り出そうかと思案する。
すると――。
「どうしたのじゃ? イサク」
「何か悩みごとでもあるのか?」
さすがは肉親と言うべきか、俺の表情から微妙な変化を読み取ったらしく、一転して心配そうな顔と共にそう尋ねてきた。
気づかれてしまったのなら、誤魔化しは無意味だろう。
いや、まあ、父さんと母さんなら俺が嫌がれば無理に聞き出そうとはしないはずだけれども、答えるまで二人の心の中にしこりが残り続けるのは間違いない。
今生こそ親孝行を果たそうとしている俺に、両親がそのような状態になるのを看過することはできない。
「……うん。ちょっと、セトのことで相談があって」
なので、素直に頷いて弟の現状と彼の将来の夢について話し始める。
両親相手に今更語る必要などないヨスキ村でのことは省いて。
「――で、冒険家になりたいって言ってるんだ」
そして、なるべく客観的に事実を並べるように努め、俺は最後にそう締め括った。
その間、父さんは腕を組んで目を瞑り、母さんはこちらに視線を向けながら徐々に労わりの色をそこに滲ませつつ、真剣に俺の言葉に耳を傾けてくれていた。
「成程のう。セトがそんなことを」
「……まあ、そういうこともあり得るかとは頭の片隅では思っていたけどな」
しみじみと呟いて瞑目した母さんと入れ替わるように、閉じていた目を開いて若干困ったような微妙な表情を浮かべながら告げる父さん。
それから少しの間、その事実を噛み締めるように二人は黙り込む。
「…………ねえ、父さん。今まで村の掟を達成できなかった人っていたの? いたとしたら、その人はどうなったの?」
「どうもこうも、掟の通りだ。ヨスキ村には二度と戻ることができず、家族と会うことも許されない。それ以上でもそれ以下でもない」
一先ずワンクッション置くつもりで口にした問いに返ってきたのは、淡々とした答え。
そんな父さんの反応を受け、思わず眉をひそめて俯いてしまう。
無理に心を押し殺し、冷徹に掟に従おうとしているような気がしてしまって。
「……全く。イサクは優しい子じゃのう。妾達が気に病むと心配しておったのじゃな」
と、そう告げた母さんから急に強く抱き締められ、驚いて戸惑いながら顔を上げる。
「じゃが、そんなことでイサクは悩まなくともよい」
そうして目に映ったのは慈愛に満ちた母さんの顔と、後ろで優しく微笑む父さんの姿。
打って変わって柔らかで温かな二人の雰囲気に、具体的な言葉はまだ何もなかったものの、フッと重石が取れたような安心感を抱く。
それと同時に、やはり今まで掟のことで無駄に心を砕いてきたことは杞憂でしかなかった、と俺は自分の空回り具合を心の内で自嘲した。
こういう問題は、自分一人だけで抱え込むべきものではないのだ。
「セトが心の底から望むなら、妾達もその選択を寿ごう。そして、もし掟を満たせぬのならば、その時はその時。掟など無視して会ってしまえばよい」
「別に村でなければ生きていけない訳じゃないからな」
小さな体をいっぱいに使って俺を包み込みながら悪戯っぽい笑顔であっけらかんと言い放つ母さんに続き、苦笑気味に同意を示す父さん。
予想通りと言えば予想通りの反応ではあったけれども、わざわざ俺から提案するまでもなく、望んでいた結論を即座に聞かせてくれた二人に心の底から嬉しく思う。
この優しい両親の子供に生まれたことは、本当に本当に幸いなことだ。
たとえ救世の使命の障害とならぬよう配慮された親が選ばれているのだとしても。
「うーむ。ならば、いっそのこと、もう会いに行ってしまおうか」
「いや、さすがにまだ完全に掟を果たせないと決まった訳でもない。せめて成人するまでは待とう。勇み足でセトの可能性を狭めるのもよくない」
「むぅ。それは……その通りじゃな。親たる者、子供の成長のためとあらば我慢せねば」
そう言いながら、セトに会うことができない分のエネルギーを補充しようとするかのように、更に俺を抱き締める力を強める母さん。
愛情の深さが改めて感じられる。
「……じゃが、冒険家か。そういうことならば、それとなく遺跡の情報を収集するのもよいかもしれんな。時間も空いてしまいそうじゃし」
「そうだな。気晴らしにもいいかもしれない」
二人の軽いやり取りに、この問題はもはや問題たり得ないと感じて小さく笑う。
そんな俺に気づいてか、母さんが慈しむように頭を撫でてきた。
何ともくすぐったい。
「あの、御義父様、御義母様」
と、若干蚊帳の外になっていたレンリがそう声をかけ、皆の視線が彼女に向けられる。
俺は母さんに抱き締められたまま。
正直恥ずかしいが、どこか羨ましげなレンリを見るに幻滅されることはないだろう。
その彼女は、自分に十分意識が集まったのを見計らうように口を開いた。
「もし、お時間があるようでしたら、お二人にお手伝い頂きたいことがあるのですが」
「うむうむ。遠慮するな。母に申してみよ」
頼られて嬉しいのか、母さんはレンリのお願いに機嫌よさそうに応じる。
「ありがとうございます、御義母様。実は……私はこの留学の中で救世の転生者様の力をお借りせずに【ガラテア】を打ち倒す術を探す命を帯びています。いわゆる国策として」
「国策、とな」
「はい。ですが、これは奉献の巫女ヒメ様もご存知のことで、得られた情報はホウゲツとアクエリアル帝国とで共有される手筈となっております。旦那様も賛同下さいました」
表向きの理由を織り交ぜながらの説明に俺が嘘ではないと頷くと、それを見た母さんはならばいいかという風に一瞬見せた厳しい顔を消す。
隣で黙って聞いていた父さんも同様だ。
「ふむ……しかし、救世の転生者に頼らず、か」
「はい。私は、かねてから異世界の方に救世という役割を担わせることに疑問を持っていました。アクエリアル帝国としては、その情報を得ることで優位に立ちたいという意思があるのでしょうが、私はこの機会を利用して渡りに船と留学してきたのです」
「成程のう。言われてみれば、救世の転生者ありきの世界は歪ではある、か……」
余り考えたことがなかったのか、僅かに不思議そうな顔をしながら母さんは呟く。
やはり、これに関しては疑問に思うことすら稀のようだ。
「じゃが、次善の策があるに越したことはないのは確かじゃ」
「ああ。ヒメ様もご存知のことであれば、手伝うのも吝かではないな」
「と言うより、娘の頼みじゃ。国の思惑はさて置いて、力を貸してやろうぞ」
そう父さんの後に続けた母さんに、レンリはホッと安堵と喜びの混じった息を吐く。
「ふむ」
その若いながらも何とも苦労していそうな素振りを目にした母さんは俺を解放するとレンリの傍に寄り、彼女を抱き締めた。
「お、御義母様!?」
予想外かつ半ば隙を突くような動きだったからか回避することができず、されるがまま驚きの声を上げるレンリ。
「何じゃ。もの欲しそうにしておったじゃろうに」
少しからかうような母さんの言葉に、レンリの顔が瞬間的に赤くなる。
そうなりながらも、彼女は強張った体の力を徐々に抜いて母さんにその身を委ねた。
羨ましげな視線と言い、やはり境遇が境遇だけに母親なる存在に憧れがあったのだろう。
「うむ。いい子じゃ」
完全な子供扱いで頭を撫でられてもレンリは拒絶せず、どことなく嬉しそうで……。
その後、一緒に昼食を外に食べに行き、夕食に母さんの手料理を御馳走になってから両親が一先ず実家に帰るとなった頃には随分と名残惜しそうにしていたのが印象的だった。
まあ、俺も心配事が一つ減ったし、両親には娘が二人もできた。
何だかんだ今日という日に限って言えば、中々心休まらない日々の中にあって一服の清涼剤のような一日だったと言っていい。
ただし、若干一名、割を食う形で家にいながらにして影の中にいたテアは不機嫌極まりなく、両親とレンリが帰ってから機嫌を取るのが大変だったのは御愛嬌。
というところで、とある悪くない一日は過ぎ去っていったのだった。
俺の近況報告を聞き、母さんは納得半分、呆れ半分といった風の微妙な苦笑を見せる。
以前のルトアさんの時や直前のレンリの場合と反応が大分違うのは、フェリトに関してはいずれそうなるだろうと予想していたからに違いない。
つき合いも大分長いからな。
「成程。じゃから、フェリトは影の中に逃げ込んでいる訳じゃな。恥ずかしくて」
続けて、母さんは一人納得したように大きく頷く。
部屋に入ってきた時から、彼女の姿が見えなかったことに疑問を抱いていたのだろう。
影の中の引きこもりだったのは、さすがにもう遥か過去のことなのだから。
少なくとも、自室で影に隠れているということはない。
ならば理由は別にある、ということで、母さんはフェリトが羞恥心によって顔を出せなくなっていると判断してしまったようだった。
対して、そのフェリトは――。
「べ、別にそういう訳じゃないわ! ……じゃなかった。そういう訳じゃないです」
影の中から少しどもり気味に強く否定し、それから慌てて丁寧に言い直す。
実際、その言葉に偽りはない。
本当の理由は、テアが影の中で一人になるのは可哀想だから、というものだ。
とは言え、それを口にすることは【ガラテア】の肉体たるテアの存在を明かすこと。
両親相手に隠しごとは心苦しいが、こればかりは俺達の一存で勝手な真似はできない。
そうなると母さんの勘違いには乗った方がいい訳で、真正直に否定してしまったフェリトの反応は不適当なものになるはずなのだが……。
「ふむ。そういうことにしておくとしよう」
母さんのやや意地の悪い表情を見るに、それもまたフェリトの照れ隠しと見なされているようなので、わざと肯定するよりもむしろ正しい対応だったかもしれない。
「しかし、フェリトよ。長年、イサクと共にあるお前ならば、こういう時に妾が何を言うか分かっておるじゃろう?」
「それは、まあ……」
「ならば、妾達に対するその丁寧な口調はもう必要あるまい。イサクと真性少女契約を結んだのであれば、お前もまた妾達の娘なのじゃからな」
言いながら、期待に満ちた顔を俺の影に向ける母さん。
その視線を受け、フェリトのあからさまに大きな溜息が影の中から聞こえてくる。
とは言え、そこに拒絶の色は僅かたりとも存在しない。
あるのは、家族的な親しみが根っこにある呆れだけだ。
「……分かったわよ、お母さん。これでいいでしょ?」
「うむうむ。また趣の違った娘ができて、妾は嬉しいぞ」
フェリトの返事に滲む若干素直じゃない感じを楽しむように言いながら、ニマニマする母さん。その隣では、父さんが柔らかな雰囲気の苦笑を浮かべている。
言える範囲の内容を時系列で並べた俺の近況報告も含め、二人にとっては【ガラテア】の件のいい気分転換になっているようだ。
団欒の空気は心地よく、俺もまた気持ちが穏やかになる。
……しかし、家族団欒には一人足りない。
その事実が一つの難事と合わさってトゲと化して心に残り、それが罪悪感を募らせる。
正直なところ、両親が気を休めているところに水を差したくはないのだが……。
折角の機会だし、何より問題を余り後回しにし過ぎるのもよろしくない。
なるべく早く、セトの将来のことを相談しておきたいところだ。
とは言え、この和やかな空気を乱すのは少し躊躇われ、どう切り出そうかと思案する。
すると――。
「どうしたのじゃ? イサク」
「何か悩みごとでもあるのか?」
さすがは肉親と言うべきか、俺の表情から微妙な変化を読み取ったらしく、一転して心配そうな顔と共にそう尋ねてきた。
気づかれてしまったのなら、誤魔化しは無意味だろう。
いや、まあ、父さんと母さんなら俺が嫌がれば無理に聞き出そうとはしないはずだけれども、答えるまで二人の心の中にしこりが残り続けるのは間違いない。
今生こそ親孝行を果たそうとしている俺に、両親がそのような状態になるのを看過することはできない。
「……うん。ちょっと、セトのことで相談があって」
なので、素直に頷いて弟の現状と彼の将来の夢について話し始める。
両親相手に今更語る必要などないヨスキ村でのことは省いて。
「――で、冒険家になりたいって言ってるんだ」
そして、なるべく客観的に事実を並べるように努め、俺は最後にそう締め括った。
その間、父さんは腕を組んで目を瞑り、母さんはこちらに視線を向けながら徐々に労わりの色をそこに滲ませつつ、真剣に俺の言葉に耳を傾けてくれていた。
「成程のう。セトがそんなことを」
「……まあ、そういうこともあり得るかとは頭の片隅では思っていたけどな」
しみじみと呟いて瞑目した母さんと入れ替わるように、閉じていた目を開いて若干困ったような微妙な表情を浮かべながら告げる父さん。
それから少しの間、その事実を噛み締めるように二人は黙り込む。
「…………ねえ、父さん。今まで村の掟を達成できなかった人っていたの? いたとしたら、その人はどうなったの?」
「どうもこうも、掟の通りだ。ヨスキ村には二度と戻ることができず、家族と会うことも許されない。それ以上でもそれ以下でもない」
一先ずワンクッション置くつもりで口にした問いに返ってきたのは、淡々とした答え。
そんな父さんの反応を受け、思わず眉をひそめて俯いてしまう。
無理に心を押し殺し、冷徹に掟に従おうとしているような気がしてしまって。
「……全く。イサクは優しい子じゃのう。妾達が気に病むと心配しておったのじゃな」
と、そう告げた母さんから急に強く抱き締められ、驚いて戸惑いながら顔を上げる。
「じゃが、そんなことでイサクは悩まなくともよい」
そうして目に映ったのは慈愛に満ちた母さんの顔と、後ろで優しく微笑む父さんの姿。
打って変わって柔らかで温かな二人の雰囲気に、具体的な言葉はまだ何もなかったものの、フッと重石が取れたような安心感を抱く。
それと同時に、やはり今まで掟のことで無駄に心を砕いてきたことは杞憂でしかなかった、と俺は自分の空回り具合を心の内で自嘲した。
こういう問題は、自分一人だけで抱え込むべきものではないのだ。
「セトが心の底から望むなら、妾達もその選択を寿ごう。そして、もし掟を満たせぬのならば、その時はその時。掟など無視して会ってしまえばよい」
「別に村でなければ生きていけない訳じゃないからな」
小さな体をいっぱいに使って俺を包み込みながら悪戯っぽい笑顔であっけらかんと言い放つ母さんに続き、苦笑気味に同意を示す父さん。
予想通りと言えば予想通りの反応ではあったけれども、わざわざ俺から提案するまでもなく、望んでいた結論を即座に聞かせてくれた二人に心の底から嬉しく思う。
この優しい両親の子供に生まれたことは、本当に本当に幸いなことだ。
たとえ救世の使命の障害とならぬよう配慮された親が選ばれているのだとしても。
「うーむ。ならば、いっそのこと、もう会いに行ってしまおうか」
「いや、さすがにまだ完全に掟を果たせないと決まった訳でもない。せめて成人するまでは待とう。勇み足でセトの可能性を狭めるのもよくない」
「むぅ。それは……その通りじゃな。親たる者、子供の成長のためとあらば我慢せねば」
そう言いながら、セトに会うことができない分のエネルギーを補充しようとするかのように、更に俺を抱き締める力を強める母さん。
愛情の深さが改めて感じられる。
「……じゃが、冒険家か。そういうことならば、それとなく遺跡の情報を収集するのもよいかもしれんな。時間も空いてしまいそうじゃし」
「そうだな。気晴らしにもいいかもしれない」
二人の軽いやり取りに、この問題はもはや問題たり得ないと感じて小さく笑う。
そんな俺に気づいてか、母さんが慈しむように頭を撫でてきた。
何ともくすぐったい。
「あの、御義父様、御義母様」
と、若干蚊帳の外になっていたレンリがそう声をかけ、皆の視線が彼女に向けられる。
俺は母さんに抱き締められたまま。
正直恥ずかしいが、どこか羨ましげなレンリを見るに幻滅されることはないだろう。
その彼女は、自分に十分意識が集まったのを見計らうように口を開いた。
「もし、お時間があるようでしたら、お二人にお手伝い頂きたいことがあるのですが」
「うむうむ。遠慮するな。母に申してみよ」
頼られて嬉しいのか、母さんはレンリのお願いに機嫌よさそうに応じる。
「ありがとうございます、御義母様。実は……私はこの留学の中で救世の転生者様の力をお借りせずに【ガラテア】を打ち倒す術を探す命を帯びています。いわゆる国策として」
「国策、とな」
「はい。ですが、これは奉献の巫女ヒメ様もご存知のことで、得られた情報はホウゲツとアクエリアル帝国とで共有される手筈となっております。旦那様も賛同下さいました」
表向きの理由を織り交ぜながらの説明に俺が嘘ではないと頷くと、それを見た母さんはならばいいかという風に一瞬見せた厳しい顔を消す。
隣で黙って聞いていた父さんも同様だ。
「ふむ……しかし、救世の転生者に頼らず、か」
「はい。私は、かねてから異世界の方に救世という役割を担わせることに疑問を持っていました。アクエリアル帝国としては、その情報を得ることで優位に立ちたいという意思があるのでしょうが、私はこの機会を利用して渡りに船と留学してきたのです」
「成程のう。言われてみれば、救世の転生者ありきの世界は歪ではある、か……」
余り考えたことがなかったのか、僅かに不思議そうな顔をしながら母さんは呟く。
やはり、これに関しては疑問に思うことすら稀のようだ。
「じゃが、次善の策があるに越したことはないのは確かじゃ」
「ああ。ヒメ様もご存知のことであれば、手伝うのも吝かではないな」
「と言うより、娘の頼みじゃ。国の思惑はさて置いて、力を貸してやろうぞ」
そう父さんの後に続けた母さんに、レンリはホッと安堵と喜びの混じった息を吐く。
「ふむ」
その若いながらも何とも苦労していそうな素振りを目にした母さんは俺を解放するとレンリの傍に寄り、彼女を抱き締めた。
「お、御義母様!?」
予想外かつ半ば隙を突くような動きだったからか回避することができず、されるがまま驚きの声を上げるレンリ。
「何じゃ。もの欲しそうにしておったじゃろうに」
少しからかうような母さんの言葉に、レンリの顔が瞬間的に赤くなる。
そうなりながらも、彼女は強張った体の力を徐々に抜いて母さんにその身を委ねた。
羨ましげな視線と言い、やはり境遇が境遇だけに母親なる存在に憧れがあったのだろう。
「うむ。いい子じゃ」
完全な子供扱いで頭を撫でられてもレンリは拒絶せず、どことなく嬉しそうで……。
その後、一緒に昼食を外に食べに行き、夕食に母さんの手料理を御馳走になってから両親が一先ず実家に帰るとなった頃には随分と名残惜しそうにしていたのが印象的だった。
まあ、俺も心配事が一つ減ったし、両親には娘が二人もできた。
何だかんだ今日という日に限って言えば、中々心休まらない日々の中にあって一服の清涼剤のような一日だったと言っていい。
ただし、若干一名、割を食う形で家にいながらにして影の中にいたテアは不機嫌極まりなく、両親とレンリが帰ってから機嫌を取るのが大変だったのは御愛嬌。
というところで、とある悪くない一日は過ぎ去っていったのだった。
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