ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
195 矛と盾
前へ前へと迫り来る漆黒の全身鎧。
その手に構えられた両手剣の一撃は絶大な威力を持ち、脈打つ赤いラインの入った装甲は氷に覆われた俺の拳の一撃を受けても甲高い音を鳴らすのみでものともしない。
空洞の内部で反響しているかのようなノイズを聞く限り、この動く鎧は中の人など存在しない正に【リビングアーマー】であることが改めて分かる。
そして、埒外の威力を有した両手剣こそが【イヴィルソード】と見て間違いない。
剣そのものであるその形状を前に、人形化魔物の人形という文言は一体何だったのか、という疑問が脳裏を過ぎないでもないが、今は一先ず棚に上げておく。
「本当に、これで人形化魔物特効が機能してるのか!?」
拳に纏った氷は用をなさず、その戸惑いを突くように繰り出された斬撃を防ぐために作り出した氷の盾もまた、豆腐のように断ち切られてしまった。
念のために回避行動も同時に取っていたから五体満足のままでいられたものの、もし自らの力を過信していたなら間違いなく四肢のいずれか一つは失っていたことだろう。
「あの人達、イサクに嘘を吐いたの?」
トリリス様達が適当なことを言ったせいで危険な状況に陥ったのではないか、とでも言いたげに、底冷えするような声で怒りを顕にするサユキ。
帰ったら彼女らに襲いかかりでもしそうな雰囲気だ。
「いえ、そんなはずはありません」
対して、イリュファが即座にフォローするように否定し、そのまま更に続ける。
「恐らく、これで補正が十分にかかっている状態なのでしょう。こちらに攻防いずれかに特化した複合発露がないがために、恩恵を感じにくいのかもしれません」
彼女の推測に、両手剣の刃を回避しながら成程と思う。
バフや身体強化は除くとして、攻撃にせよ、防御にせよ、俺が主に使用しているのはサユキとの真・複合発露である〈万有凍結・封緘〉だ。
これは、言うなれば使用者の使い方次第で幅広く応用の利く攻防一体の万能型。
それだけに、複合発露の基本的な能力として対象を破壊するとか、特定の攻撃を防ぐとか用途が厳格に定まっているものに比べれば、該当のパラメータが低いのは当然だろう。
対して【イヴィルソード】が斬ることに、【リビングアーマー】が防ぐことに特化していることは、その姿形から見ても容易に想像することができる。
人形化魔物が強化された割合とそれに対する救世の転生者の補正の度合いが同程度だとしても、該当の能力をピックアップして比較すると差が広がる結果になりかねない。
極端な例だが、攻撃が百あるいは防御が百で一方がゼロの力が五割増しになったとするなら、最大値は百五十。攻防五十ずつの力が五割増しだと最大値は七十五。
差は五十から七十五に増えている。
これでは確かに恩恵を感じにくい。
勿論、ないよりは遥かにマシだけれども。
いずれにしても、人形化魔物という敵の場合は、補正云々以前にバランスのいい複合発露では相性が悪いのかもしれない。
「……シニッドさん達はよく生きてたな」
速度に特化した身体強化たる真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉のスピードを頼みに、鋭く美しい弧を描く斬撃を回避しながら対象の力を分析して呟く。
身体強化に特化した構成は補導においては最もバランスがよく、どのような状況にも対応できるものだが、通常で特異思念集積体と同等である人形化魔物相手では不利だ。
対峙した時点で詰んでいてもおかしくはない。
「真・複合発露が生存に有利に働いたのでしょう。〈魔狼王転身〉は自らを亜人(ライカン)へと変じる身体強化。嗅覚が鋭敏になり、本能的な勘も鋭くなるはずですから」
野生的な生存本能によって生き残るための道筋を的確に選び取った結果、という訳か。
先んじて殉職したS級補導員が身体強化を持ちながら命を落としたことを考えると、悪いなりに最善の能力だったのかもしれない。
いずれにしても、紙一重だったことは間違いない。
「そ、そんなことより、ご主人様! どうするんですか? です!」
一撃で断ち切ることは不可能と見たのか、構えを変えて撹乱するように手数を増やしてくる全身鎧を前に、焦ったようにリクルが大きな声を出す。
牽制するように放たれる軽い斬撃一つ一つもまた、一歩前違えれば命を両断する威力を有しているのだから、それが幾重にも迫ってくる状況は気が気ではないだろう。
イリュファから戦い方を仕込まれた彼女は、この全身鎧が繰り出す技が異様で気味が悪い程に冴えていることもある程度理解しているだろうから尚のことだ。
「俺の氷すら断ち切る【イヴィルソード】を装備した【リビングアーマー】。正に鬼に金棒だ。こういう場合は、まず武器を破壊して戦力を低下させるのが順当だろうけど……」
攻撃特化の【イヴィルソード】ならば、俺の通常攻撃でも十分破壊可能と見ていい。
「ですが、それは残る【リビングアーマー】を破壊する方法が持っていてこそ、です」
「……じゃあ、あの【イヴィルソード】を奪って【リビングアーマー】を斬ったら?」
名案を思いついた、という感じでサユキが提案してくる。
「悪くない案ですが、問題が二つあります。攻撃特化と防御特化、どちらの力がより上位なのか。そうした挙句に【リビングアーマー】の方が残ったら意味がありません」
これは矛と盾の逸話ではないのだから優劣は存在する。
だが、どちらに天秤が傾いているかは分からないため、そこは賭けになってしまう。
「もう一つは?」
「あの形状が人形化魔物としての形とは思えません。恐らく滅尽・複合発露によって変形しているものと思われます。その場合、接触した瞬間に反撃を食らう恐れがあります」
「あ、そうなんだ。じゃあ、駄目だね」
イリュファの反論を受け、自分の案に執着せずアッサリ撤回するサユキ。
下手をすると、あの威力のまま想定外の奇襲を受ける可能性もある。危うい賭けだ。
とは言え、もし【リビングアーマー】を討滅する術がそれ以外にないのであれば、一考する価値はあったかもしれない。しかし――。
「この【リビングアーマー】の防御ぐらい抜けなきゃ、これから先、救世の転生者として強さの増した人形化魔物と戦っていけないだろうしな」
実際、可能性のある方法はないでもない。
だが、少し溜めが必要で隙が大きく、カウンターへの対応が難しいのがネックだ。
それだけに異様な反応速度を見せるこの敵の手に、俺の防御を容易く貫く剣を持たせたままにはしておきたくない。だから――。
「リクル。心配するな」
「……はい。わたしはご主人様を信じてますです」
彼女の返答に小さく頷き、影の中から印刀ホウゲツを取り出して構える。
世界最高峰の祈望之器にして不滅の概念をも有するこの刀ならば、【リビングアーマー】を傷つけられずとも【イヴィルソード】と打ち合うことができるはず。
その上で、武器破壊も十二分に可能だろう。
だから俺は反撃に転じ、一定の技量と極限の速さを以って致命の威力を秘めた斬撃の嵐を掻い潜り、刃を両手剣の腹の部分に叩きつけんとした。が――。
「それぐらいは想定済みか!」
全身鎧は剣を刀の軌道から退かせつつ、片手を放して腕の装甲で俺の攻撃を弾く。
それらとて最も脆い部分ぐらいは承知の上だろう。
そして【リビングアーマー】は印刀ホウゲツを受け止めたまま、片手で両手剣の形状である【イヴィルソード】を軽々と薙いできた。
即座に雷光を纏いながら後方へと翔け、直前まで首があったところを通り過ぎる刃の閃きを目にしながら間合いを取る。
切っ先が音速を超えていた証として、一瞬遅れて空気が破裂する音が聞こえてくる。
「【イヴィルソード】を先に倒すことはできない。なら――」
呟きながら無数の氷を射出するが、それらは全て一瞬の内に斬り落とされる。
街のど真ん中では、接近して直接刀身を狙う以外ない。
「仕方がない」
ならば、危険極まりないが、斬撃を回避しながら先に全身鎧を砕くしかない。
俺はそう結論し、その準備を行うために【イヴィルソード】と【リビングアーマー】から一度更に距離を取って低く腰を落とした。
その手に構えられた両手剣の一撃は絶大な威力を持ち、脈打つ赤いラインの入った装甲は氷に覆われた俺の拳の一撃を受けても甲高い音を鳴らすのみでものともしない。
空洞の内部で反響しているかのようなノイズを聞く限り、この動く鎧は中の人など存在しない正に【リビングアーマー】であることが改めて分かる。
そして、埒外の威力を有した両手剣こそが【イヴィルソード】と見て間違いない。
剣そのものであるその形状を前に、人形化魔物の人形という文言は一体何だったのか、という疑問が脳裏を過ぎないでもないが、今は一先ず棚に上げておく。
「本当に、これで人形化魔物特効が機能してるのか!?」
拳に纏った氷は用をなさず、その戸惑いを突くように繰り出された斬撃を防ぐために作り出した氷の盾もまた、豆腐のように断ち切られてしまった。
念のために回避行動も同時に取っていたから五体満足のままでいられたものの、もし自らの力を過信していたなら間違いなく四肢のいずれか一つは失っていたことだろう。
「あの人達、イサクに嘘を吐いたの?」
トリリス様達が適当なことを言ったせいで危険な状況に陥ったのではないか、とでも言いたげに、底冷えするような声で怒りを顕にするサユキ。
帰ったら彼女らに襲いかかりでもしそうな雰囲気だ。
「いえ、そんなはずはありません」
対して、イリュファが即座にフォローするように否定し、そのまま更に続ける。
「恐らく、これで補正が十分にかかっている状態なのでしょう。こちらに攻防いずれかに特化した複合発露がないがために、恩恵を感じにくいのかもしれません」
彼女の推測に、両手剣の刃を回避しながら成程と思う。
バフや身体強化は除くとして、攻撃にせよ、防御にせよ、俺が主に使用しているのはサユキとの真・複合発露である〈万有凍結・封緘〉だ。
これは、言うなれば使用者の使い方次第で幅広く応用の利く攻防一体の万能型。
それだけに、複合発露の基本的な能力として対象を破壊するとか、特定の攻撃を防ぐとか用途が厳格に定まっているものに比べれば、該当のパラメータが低いのは当然だろう。
対して【イヴィルソード】が斬ることに、【リビングアーマー】が防ぐことに特化していることは、その姿形から見ても容易に想像することができる。
人形化魔物が強化された割合とそれに対する救世の転生者の補正の度合いが同程度だとしても、該当の能力をピックアップして比較すると差が広がる結果になりかねない。
極端な例だが、攻撃が百あるいは防御が百で一方がゼロの力が五割増しになったとするなら、最大値は百五十。攻防五十ずつの力が五割増しだと最大値は七十五。
差は五十から七十五に増えている。
これでは確かに恩恵を感じにくい。
勿論、ないよりは遥かにマシだけれども。
いずれにしても、人形化魔物という敵の場合は、補正云々以前にバランスのいい複合発露では相性が悪いのかもしれない。
「……シニッドさん達はよく生きてたな」
速度に特化した身体強化たる真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉のスピードを頼みに、鋭く美しい弧を描く斬撃を回避しながら対象の力を分析して呟く。
身体強化に特化した構成は補導においては最もバランスがよく、どのような状況にも対応できるものだが、通常で特異思念集積体と同等である人形化魔物相手では不利だ。
対峙した時点で詰んでいてもおかしくはない。
「真・複合発露が生存に有利に働いたのでしょう。〈魔狼王転身〉は自らを亜人(ライカン)へと変じる身体強化。嗅覚が鋭敏になり、本能的な勘も鋭くなるはずですから」
野生的な生存本能によって生き残るための道筋を的確に選び取った結果、という訳か。
先んじて殉職したS級補導員が身体強化を持ちながら命を落としたことを考えると、悪いなりに最善の能力だったのかもしれない。
いずれにしても、紙一重だったことは間違いない。
「そ、そんなことより、ご主人様! どうするんですか? です!」
一撃で断ち切ることは不可能と見たのか、構えを変えて撹乱するように手数を増やしてくる全身鎧を前に、焦ったようにリクルが大きな声を出す。
牽制するように放たれる軽い斬撃一つ一つもまた、一歩前違えれば命を両断する威力を有しているのだから、それが幾重にも迫ってくる状況は気が気ではないだろう。
イリュファから戦い方を仕込まれた彼女は、この全身鎧が繰り出す技が異様で気味が悪い程に冴えていることもある程度理解しているだろうから尚のことだ。
「俺の氷すら断ち切る【イヴィルソード】を装備した【リビングアーマー】。正に鬼に金棒だ。こういう場合は、まず武器を破壊して戦力を低下させるのが順当だろうけど……」
攻撃特化の【イヴィルソード】ならば、俺の通常攻撃でも十分破壊可能と見ていい。
「ですが、それは残る【リビングアーマー】を破壊する方法が持っていてこそ、です」
「……じゃあ、あの【イヴィルソード】を奪って【リビングアーマー】を斬ったら?」
名案を思いついた、という感じでサユキが提案してくる。
「悪くない案ですが、問題が二つあります。攻撃特化と防御特化、どちらの力がより上位なのか。そうした挙句に【リビングアーマー】の方が残ったら意味がありません」
これは矛と盾の逸話ではないのだから優劣は存在する。
だが、どちらに天秤が傾いているかは分からないため、そこは賭けになってしまう。
「もう一つは?」
「あの形状が人形化魔物としての形とは思えません。恐らく滅尽・複合発露によって変形しているものと思われます。その場合、接触した瞬間に反撃を食らう恐れがあります」
「あ、そうなんだ。じゃあ、駄目だね」
イリュファの反論を受け、自分の案に執着せずアッサリ撤回するサユキ。
下手をすると、あの威力のまま想定外の奇襲を受ける可能性もある。危うい賭けだ。
とは言え、もし【リビングアーマー】を討滅する術がそれ以外にないのであれば、一考する価値はあったかもしれない。しかし――。
「この【リビングアーマー】の防御ぐらい抜けなきゃ、これから先、救世の転生者として強さの増した人形化魔物と戦っていけないだろうしな」
実際、可能性のある方法はないでもない。
だが、少し溜めが必要で隙が大きく、カウンターへの対応が難しいのがネックだ。
それだけに異様な反応速度を見せるこの敵の手に、俺の防御を容易く貫く剣を持たせたままにはしておきたくない。だから――。
「リクル。心配するな」
「……はい。わたしはご主人様を信じてますです」
彼女の返答に小さく頷き、影の中から印刀ホウゲツを取り出して構える。
世界最高峰の祈望之器にして不滅の概念をも有するこの刀ならば、【リビングアーマー】を傷つけられずとも【イヴィルソード】と打ち合うことができるはず。
その上で、武器破壊も十二分に可能だろう。
だから俺は反撃に転じ、一定の技量と極限の速さを以って致命の威力を秘めた斬撃の嵐を掻い潜り、刃を両手剣の腹の部分に叩きつけんとした。が――。
「それぐらいは想定済みか!」
全身鎧は剣を刀の軌道から退かせつつ、片手を放して腕の装甲で俺の攻撃を弾く。
それらとて最も脆い部分ぐらいは承知の上だろう。
そして【リビングアーマー】は印刀ホウゲツを受け止めたまま、片手で両手剣の形状である【イヴィルソード】を軽々と薙いできた。
即座に雷光を纏いながら後方へと翔け、直前まで首があったところを通り過ぎる刃の閃きを目にしながら間合いを取る。
切っ先が音速を超えていた証として、一瞬遅れて空気が破裂する音が聞こえてくる。
「【イヴィルソード】を先に倒すことはできない。なら――」
呟きながら無数の氷を射出するが、それらは全て一瞬の内に斬り落とされる。
街のど真ん中では、接近して直接刀身を狙う以外ない。
「仕方がない」
ならば、危険極まりないが、斬撃を回避しながら先に全身鎧を砕くしかない。
俺はそう結論し、その準備を行うために【イヴィルソード】と【リビングアーマー】から一度更に距離を取って低く腰を落とした。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
26950
-
-
11128
-
-
439
-
-
52
-
-
440
-
-
3395
-
-
23252
-
-
149
-
-
37
コメント