ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
192 人形化魔物との戦いの予兆
ルトアさんと居酒屋ミズホで夕食を共にし、色々と不穏な噂を聞いた翌日の昼過ぎ。
俺は彼女を通じてアポを取り、ホウゲツ学園の学園長室を訪れていた。
「――と、市民に不安が広がっているみたいですが、大丈夫なんですか?」
そして挨拶もそこそこに、居酒屋の店主リヴェスさんから聞いた話を指折り数えながら一つ一つ挙げていき、締め括りにそうトリリス様へと尋ねる。
胸の内に渦巻きつつあった懸念を強く示すために、覚えている限りの内容をこと細かく丁寧に伝えたつもりだったのだが……。
「現時点ではまだ問題ないのだゾ」
俺の心配を余所に、トリリス様は短い返答のみを寄越す。
その何とも微妙な言い回しに、俺は「現時点では?」と問い気味に繰り返した。
「今のところは、各地にいる少女征服者でこと足りるということだゾ」
「まだ、救世の転生者に頼らなければならない程の事態には至っていないのです……」
対して少しだけ詳しく、それでも尚、淡々と答えるトリリス様とディームさん。
随分と落ち着き払っているように見える。
二人の言動からすると、彼女らが口にしたことは全て事実ではあるのだろう。
しかし、言い換えれば、それはつまり――。
「ま、待って下さい。その言い方だと、毎夜真っ二つにされた斬殺死体が出たとか、探索済みの遺跡で行方不明者が続出とか、そういう話も全て本当ってことですか?」
俺が枚挙していった噂の中にあった、他の都市伝説レベルの胡散臭い話に至るまで。
「当然だゾ。火のないところに煙は立たないからナ。この世界では特に」
「それは、そうかもしれませんが……お二人共、それにしては平然とし過ぎでは?」
まるで、極々日常的で有り触れた出来事に過ぎない、とでも言わんばかりだ。
もしも全て事実だとすれば、異常な事態だとしか俺には思えないのだが。
それこそ、呑気に構えていたら、彼女達が珍しく大きく取り乱していたウラバ大事変レベルの大問題へと発展してしまいそうな気がしてならない。
そんな考えと共に、彼女達へと疑問の視線を送っていると――。
「勿論、干渉可能なものについては早急に対処すべきことではあるのだゾ。これ以上、被害者を出さないためにナ。……とは言え、ワタシ達は既に何度も経験しているからナ」
「その時が近づくにつれ、こうなっていくのは必然なのです。こればかりは慌てふためいたところで何の意味もないのです……」
「その辺りは、イリュファもある程度は知っているはずだゾ。何せ二度目なのだからナ」
二人から交互に言葉が返ってきて、それを受けてチラリと影に視線を落とす。
百歳を超える彼女。二度目。成程と思う。
居酒屋ミズホで話を聞きながら、救世の転生者を要する時代に突入した証か、という予測を頭の中で立てていたが、それは間違いではなかったようだ。
そして、彼女達が欠片も動じていないのは即ち、慣れているから。
それ以上に、過去に似た事例で手痛い失敗をしたウラバ大事変の時とは違って五回にわたって乗り越えてきた歴史的事実があるが故、という訳だ。
しかし、そうなると……あるいは、それらの噂には――。
「もしかして、人形化魔物が関わっているんですか?」
「その通りだゾ」
トリリス様の目を真っ直ぐに見据えて問うた俺に、彼女は深く頷いて肯定する。
やはり、そうなのか。
「人形化魔物……」
破滅欲求に由来する思念の蓄積によって生じ、人類の殲滅を目的として行動する存在。
人類の大敵、観測者の自滅作用、救世の転生者が打ち倒すべきものの内の一つだ。
それは世情の乱れに追随するように出現するが故に、その発生頻度を世界の状況を示すある種のバロメーターとして利用することもできる。
そんな人形化魔物が本当に一連の噂全てに関与しているのなら、いよいよ以って救世という使命を果たさねばならない時が本格的に近づいてきている証拠だと言っていい。
そう考え、少し居住まいを正して気持ちを引き締める。
「フレギウス王国とアクエリアル帝国の小競り合いにも、ですか?」
「ん。それは、まあ、関係ないとは言えないのだがナ……」
しかし、更に続けた問いに対しては急に曖昧な答えが返ってきて、俺は気勢をそがれて思わず首を傾げて訝しむような視線を彼女に向けてしまった。
一体その口振りは何を意味しているのか。
そんな俺の内心の疑問に答えるように、ディームさんが口を開く。
「かの二国は、国境が隣接しているだけに歴史的に不仲なのです。特に、アクエリアル帝国は風土的に厳しい環境だけに、どうしても南方の土地が欲しかったのです……」
ザックリ位置を言えば、アクエリアル帝国はロシア。フレギウス王国はヨーロッパ。
地理的にそうなるのは当然の帰結ではあるだろう。
「かつてはランブリク共和国にも手出ししていたのだけどナ。祈望之器万里の長城で分断されて以降は、必然的にフレギウス王国とやり合うことしかできなくなった訳だナ」
万里の長城。
五百年以上前に異世界からやってきた英雄であり、この体の先祖でもあるショウジ・ヨスキが設置したと言われる、第六位階相当の超巨大祈望之器だったか。
確か、一万キロ弱にわたる城壁が成層圏まで届く光の壁を生んでいると聞くが……。
その有無が話に出てくるということは、つまり五百年以上前の出来事ということか。
「気づいたと思いますが、これはイサクからすれば遥か昔の話なのです……」
「祈念魔法が体系化された後は、大幅に環境は改善されたからナ。勿論、それでも自然の驚異は生半可なものではないが、今となっては南の土地が絶対的に必要という訳ではないのだゾ。ただ……一度できた遺恨は中々晴れないものでナ。ましてや――」
「ここは、思念の蓄積が一定の法則を作り出す世界なのです。フレギウス王国とアクエリアル帝国には互いに互いを敵視し、争い合うという属性がついてしまっているのです……」
それは何とも虚しい話だ。
己の意思よりも先立つように、世界に定められているために敵意を持ち続けるなんて。
だが、かく言う俺も救世の転生者として思考に補正がかかっている可能性もある。
知らぬが仏、いや、見て見ぬ振りをするしかないのかもしれないな。
まあ、今は話を戻そう。
「と言うことは、これについては人形化魔物の関与はないと?」
「いや、そういう訳ではないのだゾ」
「基本的に破滅欲求が世界に蓄積されていない限りは実力行使には出ないですし、たとえ蓄積されていても切っかけがなければ戦争なんて大事にはそうそうならないのです……」
「けど、両国は実際に何度も戦争を起こしている。と言うことは――」
かの存在が、その切っかけを作っているということか。
俺が頭の中でその結論に至ったのに気づいてか、トリリス様が頷いて肯定する。
「あれはいつどこに現れるか分からない神出鬼没な人形化魔物。全てが終わった後に振り返って考えた時、あの出来事は奴が仕向けたことだったのかと知ることになる」
「観測者自身に破滅欲求を呼び覚まし、今にも決壊しそうな敵意のダムに最後の一滴を垂らす者。喇叭の人形化魔物。【終末を告げる音】と呼ばれている存在なのです……」
「ラ、ラッパ?」
「そうなのです。ラッパなのです……」
その名から察するに、元の世界における黙示録の天使の類型のようなものだろうか。
俺の知る限り、この世界にキリスト教それ自体は存在していないからな。
ともあれトリリス様が微妙な反応をしたのは言わば、崖から突き落としたのはその【終末を告げる音】にせよ、わざわざ崖っぷちに立ったのは両国の民それ自体だからだろう。
それにしても……ラッパ、か。
「人形化魔物は少女化魔物とは違って非生物的、人工物的な存在が由来であることが多いのだゾ。例えば、剣や鎧、宝箱。布やら鏡、雨樋から生まれたものもあるナ」
俺の微妙な表情に気づいてか、補足をつけ加えるトリリス様。
「先程の噂の中で言うと恐らく、真っ二つにされた斬殺死体は剣の人形化魔物【イヴィルソード】によるもの、探索済みの遺跡での行方不明者は宝箱の人形化魔物【ミミック】によるものと思われるのです……」
【イヴィルソード】に【ミミック】、ね。
境界は曖昧だが、非生物的、人工物的なモンスター、あるいは、所有物が極めて象徴的な存在が、人形化魔物を形作る大本の概念として選ばれるのだろう。
成り立ちは似通っていても、随分と少女化魔物と趣が違うものだ。当然だが。
もしかすると、根本的な部分で無機物的であるが故に、破滅欲求に従って人類を滅ぼすことに何の疑問も抱かないのかもしれない。
「しかし、それなら尚のこと俺がすぐにとめないといけないのでは? 特にフレギウス王国とアクエリアル帝国の戦争の原因となるような存在は」
「気持ちは分かるがナ。【終末を告げる音】に関しては、まず発見することができないのだゾ。よしんば、発見して近づくことができても精神干渉を受けるのがオチだからナ」
「ハッキリ人前に現れるのは、激化した戦争を見物している時だけなのです。あれを倒すには、バタバタと人が死んでいく様を見て悦に浸っているところを奇襲するぐらいしかないのです。少なくとも、過去五回はそうしてきたのです……」
忌々しげに顔を歪めながら告げ、最後に小さく嘆息するディームさん。
何とも悪辣な存在だ。
破滅欲求が由来にしても、本当にたちが悪い。
悪意の権化と言っても過言ではない。
「ともかく。現状ではまだ救世の転生者の手を煩わせる程の状況ではないのだゾ」
「ですが、イサクの力が必要な状況になったら、申し訳ないですが、トリリスの力で強制的に招集をかけさせて貰うのです。心の準備だけは常にしておいて欲しいのです……」
「……分かりました」
事態が動かなければ、行動しても暖簾に腕押し。
歯痒いばかりだが、ディームさんの言う通りに心構えをしておく以外になさそうだ。
一先ず己にそう言い聞かせ、ここで得た情報を反芻しながら学園長室を辞去する。
「人形化魔物、か」
そして俺は、まだ見ぬ人類の敵に備えるため、まずは訓練施設へと向かうことにした。
俺は彼女を通じてアポを取り、ホウゲツ学園の学園長室を訪れていた。
「――と、市民に不安が広がっているみたいですが、大丈夫なんですか?」
そして挨拶もそこそこに、居酒屋の店主リヴェスさんから聞いた話を指折り数えながら一つ一つ挙げていき、締め括りにそうトリリス様へと尋ねる。
胸の内に渦巻きつつあった懸念を強く示すために、覚えている限りの内容をこと細かく丁寧に伝えたつもりだったのだが……。
「現時点ではまだ問題ないのだゾ」
俺の心配を余所に、トリリス様は短い返答のみを寄越す。
その何とも微妙な言い回しに、俺は「現時点では?」と問い気味に繰り返した。
「今のところは、各地にいる少女征服者でこと足りるということだゾ」
「まだ、救世の転生者に頼らなければならない程の事態には至っていないのです……」
対して少しだけ詳しく、それでも尚、淡々と答えるトリリス様とディームさん。
随分と落ち着き払っているように見える。
二人の言動からすると、彼女らが口にしたことは全て事実ではあるのだろう。
しかし、言い換えれば、それはつまり――。
「ま、待って下さい。その言い方だと、毎夜真っ二つにされた斬殺死体が出たとか、探索済みの遺跡で行方不明者が続出とか、そういう話も全て本当ってことですか?」
俺が枚挙していった噂の中にあった、他の都市伝説レベルの胡散臭い話に至るまで。
「当然だゾ。火のないところに煙は立たないからナ。この世界では特に」
「それは、そうかもしれませんが……お二人共、それにしては平然とし過ぎでは?」
まるで、極々日常的で有り触れた出来事に過ぎない、とでも言わんばかりだ。
もしも全て事実だとすれば、異常な事態だとしか俺には思えないのだが。
それこそ、呑気に構えていたら、彼女達が珍しく大きく取り乱していたウラバ大事変レベルの大問題へと発展してしまいそうな気がしてならない。
そんな考えと共に、彼女達へと疑問の視線を送っていると――。
「勿論、干渉可能なものについては早急に対処すべきことではあるのだゾ。これ以上、被害者を出さないためにナ。……とは言え、ワタシ達は既に何度も経験しているからナ」
「その時が近づくにつれ、こうなっていくのは必然なのです。こればかりは慌てふためいたところで何の意味もないのです……」
「その辺りは、イリュファもある程度は知っているはずだゾ。何せ二度目なのだからナ」
二人から交互に言葉が返ってきて、それを受けてチラリと影に視線を落とす。
百歳を超える彼女。二度目。成程と思う。
居酒屋ミズホで話を聞きながら、救世の転生者を要する時代に突入した証か、という予測を頭の中で立てていたが、それは間違いではなかったようだ。
そして、彼女達が欠片も動じていないのは即ち、慣れているから。
それ以上に、過去に似た事例で手痛い失敗をしたウラバ大事変の時とは違って五回にわたって乗り越えてきた歴史的事実があるが故、という訳だ。
しかし、そうなると……あるいは、それらの噂には――。
「もしかして、人形化魔物が関わっているんですか?」
「その通りだゾ」
トリリス様の目を真っ直ぐに見据えて問うた俺に、彼女は深く頷いて肯定する。
やはり、そうなのか。
「人形化魔物……」
破滅欲求に由来する思念の蓄積によって生じ、人類の殲滅を目的として行動する存在。
人類の大敵、観測者の自滅作用、救世の転生者が打ち倒すべきものの内の一つだ。
それは世情の乱れに追随するように出現するが故に、その発生頻度を世界の状況を示すある種のバロメーターとして利用することもできる。
そんな人形化魔物が本当に一連の噂全てに関与しているのなら、いよいよ以って救世という使命を果たさねばならない時が本格的に近づいてきている証拠だと言っていい。
そう考え、少し居住まいを正して気持ちを引き締める。
「フレギウス王国とアクエリアル帝国の小競り合いにも、ですか?」
「ん。それは、まあ、関係ないとは言えないのだがナ……」
しかし、更に続けた問いに対しては急に曖昧な答えが返ってきて、俺は気勢をそがれて思わず首を傾げて訝しむような視線を彼女に向けてしまった。
一体その口振りは何を意味しているのか。
そんな俺の内心の疑問に答えるように、ディームさんが口を開く。
「かの二国は、国境が隣接しているだけに歴史的に不仲なのです。特に、アクエリアル帝国は風土的に厳しい環境だけに、どうしても南方の土地が欲しかったのです……」
ザックリ位置を言えば、アクエリアル帝国はロシア。フレギウス王国はヨーロッパ。
地理的にそうなるのは当然の帰結ではあるだろう。
「かつてはランブリク共和国にも手出ししていたのだけどナ。祈望之器万里の長城で分断されて以降は、必然的にフレギウス王国とやり合うことしかできなくなった訳だナ」
万里の長城。
五百年以上前に異世界からやってきた英雄であり、この体の先祖でもあるショウジ・ヨスキが設置したと言われる、第六位階相当の超巨大祈望之器だったか。
確か、一万キロ弱にわたる城壁が成層圏まで届く光の壁を生んでいると聞くが……。
その有無が話に出てくるということは、つまり五百年以上前の出来事ということか。
「気づいたと思いますが、これはイサクからすれば遥か昔の話なのです……」
「祈念魔法が体系化された後は、大幅に環境は改善されたからナ。勿論、それでも自然の驚異は生半可なものではないが、今となっては南の土地が絶対的に必要という訳ではないのだゾ。ただ……一度できた遺恨は中々晴れないものでナ。ましてや――」
「ここは、思念の蓄積が一定の法則を作り出す世界なのです。フレギウス王国とアクエリアル帝国には互いに互いを敵視し、争い合うという属性がついてしまっているのです……」
それは何とも虚しい話だ。
己の意思よりも先立つように、世界に定められているために敵意を持ち続けるなんて。
だが、かく言う俺も救世の転生者として思考に補正がかかっている可能性もある。
知らぬが仏、いや、見て見ぬ振りをするしかないのかもしれないな。
まあ、今は話を戻そう。
「と言うことは、これについては人形化魔物の関与はないと?」
「いや、そういう訳ではないのだゾ」
「基本的に破滅欲求が世界に蓄積されていない限りは実力行使には出ないですし、たとえ蓄積されていても切っかけがなければ戦争なんて大事にはそうそうならないのです……」
「けど、両国は実際に何度も戦争を起こしている。と言うことは――」
かの存在が、その切っかけを作っているということか。
俺が頭の中でその結論に至ったのに気づいてか、トリリス様が頷いて肯定する。
「あれはいつどこに現れるか分からない神出鬼没な人形化魔物。全てが終わった後に振り返って考えた時、あの出来事は奴が仕向けたことだったのかと知ることになる」
「観測者自身に破滅欲求を呼び覚まし、今にも決壊しそうな敵意のダムに最後の一滴を垂らす者。喇叭の人形化魔物。【終末を告げる音】と呼ばれている存在なのです……」
「ラ、ラッパ?」
「そうなのです。ラッパなのです……」
その名から察するに、元の世界における黙示録の天使の類型のようなものだろうか。
俺の知る限り、この世界にキリスト教それ自体は存在していないからな。
ともあれトリリス様が微妙な反応をしたのは言わば、崖から突き落としたのはその【終末を告げる音】にせよ、わざわざ崖っぷちに立ったのは両国の民それ自体だからだろう。
それにしても……ラッパ、か。
「人形化魔物は少女化魔物とは違って非生物的、人工物的な存在が由来であることが多いのだゾ。例えば、剣や鎧、宝箱。布やら鏡、雨樋から生まれたものもあるナ」
俺の微妙な表情に気づいてか、補足をつけ加えるトリリス様。
「先程の噂の中で言うと恐らく、真っ二つにされた斬殺死体は剣の人形化魔物【イヴィルソード】によるもの、探索済みの遺跡での行方不明者は宝箱の人形化魔物【ミミック】によるものと思われるのです……」
【イヴィルソード】に【ミミック】、ね。
境界は曖昧だが、非生物的、人工物的なモンスター、あるいは、所有物が極めて象徴的な存在が、人形化魔物を形作る大本の概念として選ばれるのだろう。
成り立ちは似通っていても、随分と少女化魔物と趣が違うものだ。当然だが。
もしかすると、根本的な部分で無機物的であるが故に、破滅欲求に従って人類を滅ぼすことに何の疑問も抱かないのかもしれない。
「しかし、それなら尚のこと俺がすぐにとめないといけないのでは? 特にフレギウス王国とアクエリアル帝国の戦争の原因となるような存在は」
「気持ちは分かるがナ。【終末を告げる音】に関しては、まず発見することができないのだゾ。よしんば、発見して近づくことができても精神干渉を受けるのがオチだからナ」
「ハッキリ人前に現れるのは、激化した戦争を見物している時だけなのです。あれを倒すには、バタバタと人が死んでいく様を見て悦に浸っているところを奇襲するぐらいしかないのです。少なくとも、過去五回はそうしてきたのです……」
忌々しげに顔を歪めながら告げ、最後に小さく嘆息するディームさん。
何とも悪辣な存在だ。
破滅欲求が由来にしても、本当にたちが悪い。
悪意の権化と言っても過言ではない。
「ともかく。現状ではまだ救世の転生者の手を煩わせる程の状況ではないのだゾ」
「ですが、イサクの力が必要な状況になったら、申し訳ないですが、トリリスの力で強制的に招集をかけさせて貰うのです。心の準備だけは常にしておいて欲しいのです……」
「……分かりました」
事態が動かなければ、行動しても暖簾に腕押し。
歯痒いばかりだが、ディームさんの言う通りに心構えをしておく以外になさそうだ。
一先ず己にそう言い聞かせ、ここで得た情報を反芻しながら学園長室を辞去する。
「人形化魔物、か」
そして俺は、まだ見ぬ人類の敵に備えるため、まずは訓練施設へと向かうことにした。
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