ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
184 二対無限湧き?の雑魚
「貴様は何だ!? 突然現れて、何のつもりだ!?」
「貴方のような情けない人間に名乗る名などありません」
一気に間合いを詰めたレンリは、男の問いにそう告げると分身体の頭を殴り飛ばす。
第六位階の祈望之器アガートラム。
それが持つ性質によって強化された彼女の身体能力から繰り出された一撃は、如何に第六位階の複合発露によって増殖した肉体であっても耐えることはできない。
その頭は風船のように弾け飛び、ワンテンポ遅れて泥と化して消え去った。
「情けない、だと?」
その光景に男は何の反応も見せず、ただ正面奥の分身体が不愉快そうに口を開く。
「ええ。過去を振り返れば、複合発露もなしに暴走する少女化魔物に命を賭して挑みかかり、勝利した事例などいくらでもあります。その事実から目を逸らすばかりか、自己弁護ばかり。それが情けない以外の何だと言うのですか」
対してレンリはそう返しながら、背後から音を立てぬように襲いかかってきた分身体へとグルリと体を向けると、その胸元に拳を叩き込んだ。
問いかけてきた一体は囮のつもりだったようだが、そんな雑な奇襲が通用する彼女ではない。この程度、俺が手を出すまでもない。
それが証拠に、彼女は流れるような動作で近くにいた八体の分身体を一瞬の内に完膚なきまでに破壊し、そのまま淡々と言葉を続けた。
「貴方のような愚かな弱者には虫唾が走ります。アクエリアル帝国ならば、最下等の人間として扱われることでしょう。処分されても文句は言えません」
抑揚のない声色と虫けらを見るかのような表情。
その余りに冷た過ぎる気配に、思わず背筋が凍る。
俺に対しては過剰な程に好意的な態度を取るのが基本だったから大分認識が薄れていたが、レンリはあのアクエリアル帝国の出身。しかも、その中核に近い皇族。
更には父親から皇帝の証であるアガートラムを奪い取り、その資格まで得た者だ。
ある種、最もアクエリアル帝国の理を体現している存在とも言える。
即ち。人間だろうが少女化魔物だろうが、その価値は皇帝の役に立つか否か。
国政に関わることなく自分より弱い他者に押しつけ、他国で己が望むままに行動している彼女の姿は、俺が元々アクエリアル皇帝に対して抱いていた暴君というイメージとは大分ベクトルが異なるものの、ある意味らしいと言えばらしい。
とは言え――。
「何故なら、アクエリアルに生まれた者は誰もが己より強大なものに挑む定めにあるからです。弱き民でさえ、あの過酷な大地の自然へと。そして諦めた者から死んでいく。肉体的な意味であれ、精神的な意味であれ。貴方は死人が話しているようなものです」
元の世界で言うロシア一帯を統べるアクエリアル帝国。
土地の環境要因も国柄の根底にあるのならば、そのあり方は単純に善悪の判断のみで済ませることができるものではないのかもしれない。
かつては強権を振るわなければ、自国の民が片っ端から死んでいくような厳しい土地柄の国だったのは間違いないだろうから。
勿論、現代の価値観とそぐわなければ、是正した方がいいと思うが。
「アクエリアルのことなど知ったことか!」
対して男は、レンリの言い分を一顧だにせずに一言で切って捨て、無数の分身体をけしかけて一斉に俺達へと殺到させた。
いつの間にか校門からは大分離れ、今や半包囲は完全な包囲へと変わっている。
とは言え、全く苦にはならない。
むしろ一度に処理できる数が増えて、やり易いぐらいだ。
厳然たる事実として、実力差があり過ぎる。
俺一人でも容易いのに、隣にはレンリまでいるのだから尚更だ。
そして、その彼女は突出して迫ってきた一体の頭を掴んで一瞬の内に握り潰し――。
「……もっと加減しないといけませんね」
少しだけ困ったように呟いた。
どうやら、これまでの攻撃は全て力の加減を見極めるためのものだったらしい。
彼女の中にある何かしらの意図を実行するための。
「レンリ、それで一体どうするつもりなんだ?」
潜伏先の分からない本体をこの場にいながら追い詰めると自信を持って宣言した彼女の隣に並び、その方法を囁き声で尋ねる。
当然、絶え間なく襲いかかってくる分身体は作業的に処分しながら。
「この男の暴走・複合発露は本来、真っ当な人間が制御できるものではありません。それこそ暴走状態にある少女化魔物だからこそ扱えるものです」
前置くように告げたレンリに頷きを返す。
それはトリリス様やディームさんも疑問に思い、口にしていたことだ。
普通の人間はあれ程の数の分身体を維持できるはずがない、と。
「恐らく彼は、一つの目的を強く掲げることによって、あれだけの数の分身体を本体の人格への影響なしに使用しているのだと思います」
「……妄執って奴だな」
俺の言葉に「はい」とレンリは首肯する。
これもまた、トリリス様も推測していたこと。
自分に都合のいい理屈で言い訳を繰り返す度に、半ば自己暗示するような形となって強固で歪な執着心と化していったのだろう。
それを以って全体の意思統一をしたことにより、本体と分身体との認識のズレを一切生じさせないままに感覚を共有することができていた訳だ。
言わば、一つのことに集中し過ぎて他のことが見えなくなっている状態が、あの数千の分身体全てに同時に起こっているのが彼の現状に違いない。
「ですから、そこを乱すことができれば、あの男は複合発露を維持することができなくなるはずです。更に、精神へと甚大なダメージを与えることができ、そうなれば……」
レンリが言わんとしていることを察し、彼女に頷く。
そうなれば、結果として男の居場所もまた自ずと知れるような状況が生じるはずだ。
それを見越して、範囲優先で探知の雪を広く降らせ始めながら口を開く。
「けど、どうやって精神を乱す? 煽ってもああいう頑なな輩はかえって意固地になって、妄執を強めるばかりだぞ?」
「分かっています。……ここからが少々悪辣な方法です」
そう僅かな逡巡を見せながら答えたレンリは、眼前から迫り来る一体の懐へとわざとらしく緩やかな足運びで入り込む。
そして、衝撃で泥と化したりしないように柔らかく相手の頭を左手で掴み――。
「よくよく味わいなさい。その感覚を」
右手の人差し指と中指を、その分身体の両目に突き入れた。
瞬間、僅かに全ての分身体の動きが鈍る。
「ああ……成程」
そうした彼女の行動と相手の変化に、俺は思わず納得の声を上げた。
確かに、これはちょっとばかし悪辣な方法だ。
さすがに躊躇いが心の内に生じる。
だが、レンリに任せ切りにするのは一層悪辣だろう。
だから俺は数体を処分して余裕を作ってから、男が十二分に認識することができるように、ゆっくりと刀を分身体の喉に突き刺した。
「ぐ、う、うぅ」
それに応じて他の分身体が喉元を気にする素振りを見せる。
認識共有の弊害。
確実に致命傷たり得る攻撃を受けた感覚まで共有してしまえば、そこに意識の揺らぎが生じることは決して避けられるものではない。
正に凪いだ水面に投じられた石の如く、統一された意思に波紋を作り出すことだろう。
その動揺もまた共有され、影響は次々と連鎖していく。
……とは言え、分身体は先程まで散々倒してきた訳だが――。
「正直、余り気持ちのいいものじゃないけどな」
「旦那様はお優しいですから。そんな旦那様を私は愛していますが、この解決法を思いつくにはその優しさが枷となりましたね」
どこか申し訳なさそうなレンリの言葉に複雑な気持ちを抱きつつ、刀の軌道が男の目にしっかりと映るように鈍く振り抜いて首をはねる。
先程までとの違い。
それは、男の目で捉えられる速度の攻撃を以って分身体を仕留めること。
今の今まで彼は、俺達との間の実力差が余りにも大き過ぎたが故に、訳が分からぬ内に分身体を破壊されていた形になっていたのだ。
それでは致命傷を受ける感覚は共有されない。
「可能な限り痛々しく、惨たらしく。弱者をいたぶるかの如きやり口は、この上なく悪辣でしょう」
自嘲するレンリには何も言わず、内心で同意する。
わざわざ峰を返して分身体の腹部を打っていたのも、たとえ気に食わない相手であれ必要以上に痛めつけても仕方がないという感覚があったからこそ。
それ以前に、効率よく倒す上でも痛みを長引かせるような真似は非合理的だ。
しかし――。
「ひっ、や、やめ……」
首を掴んで徐々に力を込めて圧し折ってから次の標的へと視線を向けると、その一体が怯えて逃げ腰になる。
こういう手法が有効に作用する場面もあるにはあるのだろう。
「あ、が、あああ、あああああっ」
繰り返し、繰り返し。
認識に深く刻み込むように傷つけられ、破壊され、分身体の間に恐怖が伝播していく。
結果、それらは全て情報を共有する本体にも伝わり、増殖した分身体の数の分だけ急激に感覚が相乗効果的に蓄積されていき――。
「あああああああああああああっ!!」
やがて全ての分身体が一際大きく叫び声を上げた次の瞬間、周囲にいた彼らは一体残らず泥と化して消え去り、しかし、再び出現することはなかった。
恐らく、男の本体が意識を失ったのだろう。
ホウゲツ学園のまっさらな敷地に静けさが戻る。
「旦那様、どうでしょうか?」
そんな中、レンリが沈黙を破って問うてきた。
どう、と言うのは当然、広域に発動させた雪の探知に反応はあるかという意味だ。
「……ああ。潜伏先と思しき場所は分かった。少女化魔物が暴れ出してる」
狂化隷属の矢によって支配された被害者。
かの祈望之器の使用者たる男が精神にダメージを負って気絶したことで、恐らく待機するように命ぜられていた彼女が完全な暴走状態に移行してしまったものと思われる。
そうなることを想定し、あらかじめ雪を降らせていたのだ。
「行くぞ、レンリ」
「はい。旦那様」
そして俺は事態収束のため、即座に真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉を発動させると共にレンリを抱きかかえ、その場所へと急行したのだった。
「貴方のような情けない人間に名乗る名などありません」
一気に間合いを詰めたレンリは、男の問いにそう告げると分身体の頭を殴り飛ばす。
第六位階の祈望之器アガートラム。
それが持つ性質によって強化された彼女の身体能力から繰り出された一撃は、如何に第六位階の複合発露によって増殖した肉体であっても耐えることはできない。
その頭は風船のように弾け飛び、ワンテンポ遅れて泥と化して消え去った。
「情けない、だと?」
その光景に男は何の反応も見せず、ただ正面奥の分身体が不愉快そうに口を開く。
「ええ。過去を振り返れば、複合発露もなしに暴走する少女化魔物に命を賭して挑みかかり、勝利した事例などいくらでもあります。その事実から目を逸らすばかりか、自己弁護ばかり。それが情けない以外の何だと言うのですか」
対してレンリはそう返しながら、背後から音を立てぬように襲いかかってきた分身体へとグルリと体を向けると、その胸元に拳を叩き込んだ。
問いかけてきた一体は囮のつもりだったようだが、そんな雑な奇襲が通用する彼女ではない。この程度、俺が手を出すまでもない。
それが証拠に、彼女は流れるような動作で近くにいた八体の分身体を一瞬の内に完膚なきまでに破壊し、そのまま淡々と言葉を続けた。
「貴方のような愚かな弱者には虫唾が走ります。アクエリアル帝国ならば、最下等の人間として扱われることでしょう。処分されても文句は言えません」
抑揚のない声色と虫けらを見るかのような表情。
その余りに冷た過ぎる気配に、思わず背筋が凍る。
俺に対しては過剰な程に好意的な態度を取るのが基本だったから大分認識が薄れていたが、レンリはあのアクエリアル帝国の出身。しかも、その中核に近い皇族。
更には父親から皇帝の証であるアガートラムを奪い取り、その資格まで得た者だ。
ある種、最もアクエリアル帝国の理を体現している存在とも言える。
即ち。人間だろうが少女化魔物だろうが、その価値は皇帝の役に立つか否か。
国政に関わることなく自分より弱い他者に押しつけ、他国で己が望むままに行動している彼女の姿は、俺が元々アクエリアル皇帝に対して抱いていた暴君というイメージとは大分ベクトルが異なるものの、ある意味らしいと言えばらしい。
とは言え――。
「何故なら、アクエリアルに生まれた者は誰もが己より強大なものに挑む定めにあるからです。弱き民でさえ、あの過酷な大地の自然へと。そして諦めた者から死んでいく。肉体的な意味であれ、精神的な意味であれ。貴方は死人が話しているようなものです」
元の世界で言うロシア一帯を統べるアクエリアル帝国。
土地の環境要因も国柄の根底にあるのならば、そのあり方は単純に善悪の判断のみで済ませることができるものではないのかもしれない。
かつては強権を振るわなければ、自国の民が片っ端から死んでいくような厳しい土地柄の国だったのは間違いないだろうから。
勿論、現代の価値観とそぐわなければ、是正した方がいいと思うが。
「アクエリアルのことなど知ったことか!」
対して男は、レンリの言い分を一顧だにせずに一言で切って捨て、無数の分身体をけしかけて一斉に俺達へと殺到させた。
いつの間にか校門からは大分離れ、今や半包囲は完全な包囲へと変わっている。
とは言え、全く苦にはならない。
むしろ一度に処理できる数が増えて、やり易いぐらいだ。
厳然たる事実として、実力差があり過ぎる。
俺一人でも容易いのに、隣にはレンリまでいるのだから尚更だ。
そして、その彼女は突出して迫ってきた一体の頭を掴んで一瞬の内に握り潰し――。
「……もっと加減しないといけませんね」
少しだけ困ったように呟いた。
どうやら、これまでの攻撃は全て力の加減を見極めるためのものだったらしい。
彼女の中にある何かしらの意図を実行するための。
「レンリ、それで一体どうするつもりなんだ?」
潜伏先の分からない本体をこの場にいながら追い詰めると自信を持って宣言した彼女の隣に並び、その方法を囁き声で尋ねる。
当然、絶え間なく襲いかかってくる分身体は作業的に処分しながら。
「この男の暴走・複合発露は本来、真っ当な人間が制御できるものではありません。それこそ暴走状態にある少女化魔物だからこそ扱えるものです」
前置くように告げたレンリに頷きを返す。
それはトリリス様やディームさんも疑問に思い、口にしていたことだ。
普通の人間はあれ程の数の分身体を維持できるはずがない、と。
「恐らく彼は、一つの目的を強く掲げることによって、あれだけの数の分身体を本体の人格への影響なしに使用しているのだと思います」
「……妄執って奴だな」
俺の言葉に「はい」とレンリは首肯する。
これもまた、トリリス様も推測していたこと。
自分に都合のいい理屈で言い訳を繰り返す度に、半ば自己暗示するような形となって強固で歪な執着心と化していったのだろう。
それを以って全体の意思統一をしたことにより、本体と分身体との認識のズレを一切生じさせないままに感覚を共有することができていた訳だ。
言わば、一つのことに集中し過ぎて他のことが見えなくなっている状態が、あの数千の分身体全てに同時に起こっているのが彼の現状に違いない。
「ですから、そこを乱すことができれば、あの男は複合発露を維持することができなくなるはずです。更に、精神へと甚大なダメージを与えることができ、そうなれば……」
レンリが言わんとしていることを察し、彼女に頷く。
そうなれば、結果として男の居場所もまた自ずと知れるような状況が生じるはずだ。
それを見越して、範囲優先で探知の雪を広く降らせ始めながら口を開く。
「けど、どうやって精神を乱す? 煽ってもああいう頑なな輩はかえって意固地になって、妄執を強めるばかりだぞ?」
「分かっています。……ここからが少々悪辣な方法です」
そう僅かな逡巡を見せながら答えたレンリは、眼前から迫り来る一体の懐へとわざとらしく緩やかな足運びで入り込む。
そして、衝撃で泥と化したりしないように柔らかく相手の頭を左手で掴み――。
「よくよく味わいなさい。その感覚を」
右手の人差し指と中指を、その分身体の両目に突き入れた。
瞬間、僅かに全ての分身体の動きが鈍る。
「ああ……成程」
そうした彼女の行動と相手の変化に、俺は思わず納得の声を上げた。
確かに、これはちょっとばかし悪辣な方法だ。
さすがに躊躇いが心の内に生じる。
だが、レンリに任せ切りにするのは一層悪辣だろう。
だから俺は数体を処分して余裕を作ってから、男が十二分に認識することができるように、ゆっくりと刀を分身体の喉に突き刺した。
「ぐ、う、うぅ」
それに応じて他の分身体が喉元を気にする素振りを見せる。
認識共有の弊害。
確実に致命傷たり得る攻撃を受けた感覚まで共有してしまえば、そこに意識の揺らぎが生じることは決して避けられるものではない。
正に凪いだ水面に投じられた石の如く、統一された意思に波紋を作り出すことだろう。
その動揺もまた共有され、影響は次々と連鎖していく。
……とは言え、分身体は先程まで散々倒してきた訳だが――。
「正直、余り気持ちのいいものじゃないけどな」
「旦那様はお優しいですから。そんな旦那様を私は愛していますが、この解決法を思いつくにはその優しさが枷となりましたね」
どこか申し訳なさそうなレンリの言葉に複雑な気持ちを抱きつつ、刀の軌道が男の目にしっかりと映るように鈍く振り抜いて首をはねる。
先程までとの違い。
それは、男の目で捉えられる速度の攻撃を以って分身体を仕留めること。
今の今まで彼は、俺達との間の実力差が余りにも大き過ぎたが故に、訳が分からぬ内に分身体を破壊されていた形になっていたのだ。
それでは致命傷を受ける感覚は共有されない。
「可能な限り痛々しく、惨たらしく。弱者をいたぶるかの如きやり口は、この上なく悪辣でしょう」
自嘲するレンリには何も言わず、内心で同意する。
わざわざ峰を返して分身体の腹部を打っていたのも、たとえ気に食わない相手であれ必要以上に痛めつけても仕方がないという感覚があったからこそ。
それ以前に、効率よく倒す上でも痛みを長引かせるような真似は非合理的だ。
しかし――。
「ひっ、や、やめ……」
首を掴んで徐々に力を込めて圧し折ってから次の標的へと視線を向けると、その一体が怯えて逃げ腰になる。
こういう手法が有効に作用する場面もあるにはあるのだろう。
「あ、が、あああ、あああああっ」
繰り返し、繰り返し。
認識に深く刻み込むように傷つけられ、破壊され、分身体の間に恐怖が伝播していく。
結果、それらは全て情報を共有する本体にも伝わり、増殖した分身体の数の分だけ急激に感覚が相乗効果的に蓄積されていき――。
「あああああああああああああっ!!」
やがて全ての分身体が一際大きく叫び声を上げた次の瞬間、周囲にいた彼らは一体残らず泥と化して消え去り、しかし、再び出現することはなかった。
恐らく、男の本体が意識を失ったのだろう。
ホウゲツ学園のまっさらな敷地に静けさが戻る。
「旦那様、どうでしょうか?」
そんな中、レンリが沈黙を破って問うてきた。
どう、と言うのは当然、広域に発動させた雪の探知に反応はあるかという意味だ。
「……ああ。潜伏先と思しき場所は分かった。少女化魔物が暴れ出してる」
狂化隷属の矢によって支配された被害者。
かの祈望之器の使用者たる男が精神にダメージを負って気絶したことで、恐らく待機するように命ぜられていた彼女が完全な暴走状態に移行してしまったものと思われる。
そうなることを想定し、あらかじめ雪を降らせていたのだ。
「行くぞ、レンリ」
「はい。旦那様」
そして俺は事態収束のため、即座に真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉を発動させると共にレンリを抱きかかえ、その場所へと急行したのだった。
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