ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

AR16 邂逅へのカウントダウン

人間至上主義組織スプレマシーの長、テネシス・コンヴェルト。彼と君が初めて邂逅したのは、あの事件のさ中のことだったね。正直、その目的も実態も私の〈命歌残響アカシックレコード〉の力を以ってしても把握できなかった。今の君が知る通り、彼の名が偽名だったせいでね。結果、彼は私達も予測できないところで君に干渉してくことになる。行動原理の理解しにくい相手は、君にとっても実に厄介だったことだろう。けれども――」

***

「狂化隷属の矢が盗まれた、だと?」
「はい。加えて、捕獲していた息壌の少女化魔物ロリータも連れ出された模様です」

 部下からの被害の報告を受け、俺は思わず頭を抱えてしまった。
 狂化隷属の矢。息壌の少女化魔物。中々に厄介な組み合わせだ。

「犯人は?」
「捕縛した協力者によると、主犯はイアス・レイショナーのようです」
「……バイスの弟か」
「はい」

 呟くように確認しながらも内心では、だろうな、と納得する。
 正直なところ、いつかそうなるかもしれないとは思っていた。
 だが、それが本当に実現してしまうと嘆息を禁じ得ない。

 遡ること約七年前。
 本件の犯人たるイアスの兄であるバイスは、ヨスキ村への襲撃を画策した。
 妊娠しにくい少女化魔物から同じ村の中で同時期に三人の子供が生まれるという異例の事態を受け、その中に救世の転生者が存在すると考えたからだ。
 極めて急進的な人間至上主義に染まった人間の中には、少女化魔物の手を借りた救済を徹底的に否定し、救世の転生者を排除しようとする者もいる。
 バイスが正にそれだった。
 しかし、その目論見はヨスキ村の村民の抵抗によって失敗に終わり、彼はゴルゴーンの少女化魔物たるファルンの力によって石化されて部屋のオブジェと化している。

 その弟のイアスは、今日までは穏健派が優勢となった組織に表向き大人しく従ってきたようだったが、本質的な部分では兄と同じ思想を保ち続けていた訳だ。
 正に面従腹背。
 上辺だけにせよ、恭順を示す者を強引に粛正することはできず、放置する形になっていたが、その意思が七年の時を経ても風化することはなかったらしい。
 兄を石化された以上、俺に対する敵意が霧散することはないだろうが、それはそれとしても急進的な思想に固執し続けるのは頑固にも程がある。
 ……まあ、彼らは両親を暴走した少女化魔物に殺されている訳だから、そこまで頑なになってしまっているのも理解できなくはないが。しかし――。

「兄が兄なら弟も弟か」

 結局のところは少女化魔物の手を借りている矛盾。
 これは人間至上主義組織全体にも言えることではあるが、急進派は特に掲げた理念と行動の乖離が甚だしい。
 その事実から目を逸らし続けている様は、もはや滑稽としか言いようがない。
 だが、妄執に取り憑かれた者は厄介だ。
 今回のように合理的とは言いがたい行動に出てしまうから。

 だからと言って、別に人間至上主義者という訳でもなく組織を利用しているに過ぎない俺には、そうした組織の在り方の改善に努める気など更々ないが。
 つけ入り易い瑕疵がある方が、多少厄介でも色々と動き易いのも事実であるが故に。

「どうなさいますか。もし息壌の少女化魔物を暴走させてしまったら……」
「分かっている」

 懸念を示す部下に頷きながら、頭の中で状況を再確認する。
 狂化隷属の矢と共に奪われたのは息壌の少女化魔物。
 本来は無限に増殖する逸話のある土の魔物だ。
 その複合発露エクスコンプレックス鋳土ブライドル写身プロリフェレイター〉は土の分身体を作るというもの。
 当然、その数は本体の意思に従って制御されるが、これが暴走すると話は変わる。
 暴走パラ複合発露エクスコンプレックス鋳土写アンブライドル身・溢流プロリフェレイター〉は無尽蔵に分身体を生み出し、更には暴走しているが故に見境なく周囲の存在に襲いかかる。
 いずれ陽動として使うことも視野に入れていた俺が言うことではないが、もし繁華街などで突発的に暴走させでもしたら、被害は甚大なものとなるだろう。

 その挙句、イアスが捕縛されて組織の情報が漏洩しては面倒なことになる。
 思わず眉間によったしわを、解すように揉む。

「いずれにしても、見つけ出して捕縛するしかない」
「しかし、潜伏先が分かりません。捜索は始めていますが、彼が計画を実行に移すまでに見つけ出すことができるかは……」
「イアスの目的は明白だ。今現在どこにいるか分からずとも、何を標的としているかは分かるだろう。自ずと現れる場所も予想がつく。そこを捕らえればいい」
「標的……ヨスキ村出身の三人の子供、ですか」

 部下の言葉に重々しく頷く。
 兄であるバイスが成し遂げられなかったことを、完遂しようとしているのだ。
 真の救世の転生者が誰か知らないイアスは、恐らく今この瞬間こそが最後のチャンスだと考えているのだろう。的外れにも程があるが。
 しかし、実際。
 前提を無視してあの三人を再び襲撃すると仮定すれば、警戒が強くなったヨスキ村いる時よりも新入生としてホウゲツ学園に入った今が最適だ。
 むしろ、時間が経てば経つ程、彼ら自身も成長するのだから今以外にない。
 勿論、警備の厳重さという点ではホウゲツ学園も大差ないはずだが、間もなく一般人も容易く敷地内に入ることのできるイベントも開催される。

「成程。ホウシュン祭を襲撃するつもりなのですね」
「間違いなくな」

 ホウゲツ各地から集まる客に紛れれば、簡単かつ確実に目標に近づくことができる。
 だが、その状態でことを起こせば、間違いなく無関係な人間に多大な被害が出る。
 余り大きな事件を起こされると今後の身動きが取りにくくなる。
 ハッキリ言って迷惑だ。
 被害を防ぐことに関しては、真の救世の転生者辺りがどうとでもするだろうが……。

「あの愚かな兄共々、余計な真似をしてくれるものだ」

 イアスを捕らえようとすれば、救世の転生者とかち合う可能性が高い。
 最悪、救世の転生者と戦闘になる恐れもある。
 しかし、表立って相対するには時期尚早だ。
 今後、救世の転生者を利用するつもりだったのが少々難しくなる。
 とは言え――。

「……仕方がないか」

 かの存在と接触することと、イアスを放置して組織の情報が漏れること。
 その二つを天秤にかけると、後者の方が後々に響きかねない。
 だから俺は、イアスが捕らえられるのを防ぐために行動を起こすことに決めた。
 その選択が俺の目的を果たす最善となることを信じて。

***

「実のところ、私達は彼に感謝している面もあるんだ。彼は悪と見なされるべき行動を多く取ったけれど、その真の目的は悪と断じがたいものだった上に私達にとっても利があったからね。散々ぱら面倒に巻き込まれた君でも、そこは理解するところじゃないかな。勿論、弟達にまで被害が及んだことには思うところがあるだろうけれどね」

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