ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

174 プレゼントと裏の目的

 玄関先での一悶着の後。
 騒ぎを聞きつけて外に出てきたアマラさんと共に屋敷の中に入った俺達は、奥の畳の間で正座をしながら改めて彼女と向かい合っていた。
 隣ではレンリが何だか釈然としない様子を見せているが……。

「いや、本当に。失礼しました」
「……失礼しました」

 俺はその背中に手を置いて軽く押し、促すようにしながら一緒に頭を下げた。
 前に見た感じ、あの名もなき人形の扱いは割とぞんざいだったが、それでもアマラさんが労力をかけて作り上げた複製品であることに間違いはない。
 危うく、それを破壊してしまうところだったのだから謝罪は必要だろう。

「まあ、勘違いするのも無理もない。そもそも、そう思わせて招かれざる客を追い返す目的で使っておるものじゃからな。逆に、人形化魔物ピグマリオンに挑む気概のある者ならば、問答無用で破壊しようと考えるのも至極当然のことじゃ」

 対して、彼女は特に気に障った様子も見せず、そう微苦笑しながら応じる。
 サラッと言われているが、どうやら人形化魔物と対峙した場合は有無を言わさず破壊してしまうのが是となるらしい。
 やはり少女化魔物ロリータとは根本的に扱いが違う存在のようだ。
 俺はまだ遭遇したことがないから何とも想像がつかないが、レンリの強硬的な反応は意外と常識の範疇にあるものだったのかもしれない。

「それに、元々ガラクタのようなものに過ぎん。破壊されてもワシは文句を言うつもりはない。ましてやイサクがとめたおかげで被害もない。気にせんでよい」

 更にアマラさんはそう言葉を続けて容赦してくれたが、俺はもう一度だけ「ありがとうございます」と頭を下げておいた。
 その姿を見てレンリもまた、まるで旦那様がそうするならとでも言うように一応は同じ動作をした。が、心がこもっている感はまるでない。
 むしろトリリス様達に向けていたものと同種の反感が感じられる。
 確かにアマラさんも同じ一派と言えば一派ではあるのだが……。
 今日はレンリが用事があって来たのだから、もう少し上辺を取り繕っておいた方がいいと窘めるように肩をポンポンと叩いておく。
 俺やセト達の前ではうまく演技できていたのに、好ましく思っていない相手を前にすると感情が先立って取り繕えなくなる辺りは、他者との接点が少なかった彼女に残っている幼い部分というところだろう。

「さて、それで今日は何の用じゃ?」

 当然アマラさんもレンリの態度に気づいてはいるはずだが、こちらは年の功と言うべきか、生意気な子供を微笑ましく見守る大人のように余裕ある態度で問うてくる。

「ええ、その……」

 それに俺は若干曖昧に応じつつ、レンリに視線を送って返答を促した。
 その時には彼女は俺の注意に素直に従い、ややぎこちなさを残しながらも先程までよりは大分印象のいい真剣な表情を浮かべていたため、少し安心しながら目線を戻す。

「複製をお願いしたいものがあります。重き役目を負わされた旦那様のために」

 そしてレンリは凛とした声で、暗に救世の転生者のためと告げるように答えた。
 その含意を正しく受け取ったように、アマラさんは「ふむ」と一度応じてから同じように表情を引き締めて口を開く。

「……それはここで話すのも何じゃな。ついてくるがよい」

 彼女はそう告げると立ち上がり、安物の掛け軸を外して隠し通路を露出させた。
 奥へと歩き出したその背中をレンリと共に追いかけ、前回も通った道を進んでいく。
 やがて見覚えのある広間に出て、防音設備が整っている方の部屋へと向かう。
 その中で俺達は、防音用の祈望之器ディザイアードを設置し終えたアマラさんと改めて向き合った。

「成程。つまり貴様がアクエリアル帝国皇帝の娘、レンリ・ソニア・アクエリアルか」
「……ソニア?」

 彼女がレンリに向けて口にした確認に引っかかりを覚え、若干自問気味に呟く。

「レンリも少女化魔物から…………生まれた訳はないよな」

 確か、少女化魔物から直接生まれるのは男だけだったはずだ。

「皇帝の血縁は多い故、母親の名をミドルネームにつける。ミドルネームがあれば必ず少女化魔物から生まれた者、というのは王族や皇族のおらぬホウゲツぐらいじゃな」

 そんな俺の疑問を受け、アマラさんが簡潔に答える。
 少女祭祀国家と謳われるホウゲツにも象徴的なトップとして奉献の巫女ヒメ様という存在がいるものの、彼女は少女化魔物である以上は不老。故に交代は不要。
 救世の補助を行うために不老を捨てる訳にもいかず、それ故に、その血族というような存在はホウゲツにはいない。いなくてもいい。
 しかし、死すべき定めを持つ人間が支配者である他国ではそうはいかない。
 王政、帝政の維持のためには正統な後継者の血を絶やす訳にはいかず、その血族は一定数保持しておかなければならない。必然、血縁者は増えていく。
 よくよく考えなくとも当然のことだった。そう思いながらレンリに視線を向ける。
 すると、彼女はあからさまに不機嫌な顔をして、アマラさんを睨みつけていた。
 多少は印象よく受け取られていただろう真剣な表情が台なしだ。

「学園長達といい、一々……何度も言いますが、私は公式には単なるレンリ・アクエリアルです。あのような者を母親とは思っていませんので」
「む……気に障ることを言ってしまったか。それはすまぬな。言い訳になるが、政治に関わらぬワシのところには貴様の母親とやらの情報まで回ってきておらんでな。許せ」

 レンリの不平に、アマラさんは真面目な顔と口調で深く頭を下げる。

「………………ご存知ないことでしたなら」

 誠意を以って謝意を示すその姿に気勢がそがれたのか、少し不満げな顔を浮かべながらもレンリは引き下がった。
 一体何の話をしているのかと思いつつ、しかし、その反応からデリケートな問題であることは予想できるので、尋ねていいものやら判断がつかず、ただ彼女を見る。
 すると、レンリは諦めたように小さく嘆息してから俺に対して口を開いた。

「端的に言えば、私は血縁上の母親に捨てられたのですよ。それが間違いなく身勝手な理由によるものであることは覗き魔、アコ・ロリータも知っています」

 わざわざ彼女の名前を持ち出すと言うことは、例えば親子の情はあったが何か言い知れぬ事情があったとか、レンリの勘違いとかそういう可能性は極めて低いのだろう。
 ……しかし、そうか。
 その結果としてレンリは祖母に引き取られ、救世の転生者に依らずガラテアから世界を救うという目的のためだけに徹底的に教育を受けてきた訳だ。
 そう考えると、少し彼女に同情心が湧いてしまう。

「ですので旦那様。どうか忘れて下さいませ」
「……分かった」

 だが、当人であるレンリが言うのならと一先ず記憶の底に封印しておくことにする。
 もし彼女のために何かする必要があったとしても、それこそアコさんから詳細を聞かなければ始まらない。この場で食い下がる意味はない。

「さて。それでレンリよ。ワシに何を複製して欲しいのじゃ? 先程の詫びとして、ワシにできる限りのことはしてしんぜようぞ」

 とりあえず一区切りがついたと見てか、話を本題に戻して問うアマラさん。

「勿論、これです。旦那様のために、となれば想像がつくでしょう」

 対して、レンリは己の右腕を掲げながら答えた。
 意味するところは明白だ。

「……よいのか?」
「構いません。オリジナルが手元にさえあれば。そもそも、フレギウス王国との戦いの中で銀の四肢は何度か奪われて流出していますし、この国にも義肢としての機能に特化した複製品があるはずですし。まあ、今回は形状を変更して頂きたく存じますが」
「当然じゃな。形を変えねば、腕を切り落とさねばならなくなる」
「ええ。それでもよいと旦那様がおっしゃるのであれば、このアガートラムをお貸しすることも吝かではないのですが……」
「い、いや、それはちょっと」

 さすがに勘弁して欲しい。
 親から貰った大事な体。いたずらに傷つけるような親不孝はできない。
 少なくとも、親孝行を人生の目標の一つとしている俺には。
 ともあれ、彼女は常時身体強化の効果を持つ祈望之器を与えてくれるつもりらしい。
 第六位階の複製品となれば、第五位階相当。
 複合発露エクスコンプレックスが使えない場合での備えとして、十分に戦力の底上げになる。

「それで、どのような形にする?」
「当然指輪です。指輪以外にあり得ません」

 と、アマラさんの質問に真顔で勢い込むように即答するレンリ。
 その様子に思わず彼女へと視線を向けると――。

「つ、常に身に着けていることを考えると、恐らく最も効率的な形なので」

 俺は何も言っていないのに、そう言い訳染みた言葉が返ってきた。
 更にレンリは、誤魔化すようにアマラさんに向き直って続ける。

「数は……旦那様、イリュファさん、リクルさん、フェリトさん、サユキさん、ルトアさん、テアさん、そして私の分で八つ、お願いできますか」
「貴様にはオリジナルがあるじゃろうに」
「折角指輪の形で作って貰うというのに、私だけなしなんてあり得ません! ……ではなく、微々たるものですが、重複しても効果はありますので」

 形状を変えたアガートラムの複製品を八つ。
 この場にいないルトアさんまで含めた彼女達にまで、国宝を私的流用して護身用の祈望之器を配ってくれるというのなら、それぐらいの我が儘を言う権利はあると思う。
 欲を言えば弟達にも、という考えが一瞬脳裏を過ぎるが……国宝クラスの第六位階とは比べるべくもないにせよ、第五位階の複製品も希少だ。
 そんなものを、幼い彼らが所持していることが分かれば面倒に巻き込まれかねない。
 その辺も十分配慮した結果が、今回のアマラさんへの依頼に違いない。
 彼女の厚意に、素直に感謝すべきだろう。

「アマラさん。すみませんが、お願いできますか?」

 なので、その気持ちを彼女に示すように、俺の方からも頭を下げて頼む。

「分かった。そもそも、先程できる限りのことはすると言ったばかりじゃしな」
「「ありがとうございます」」

 と、承知してくれたアマラさんに、今度はレンリと声を揃えて感謝を口にする。

「あ、丁度いい機会だから、俺もお願いしてもいいですか?」

 それから、ふと思いついたことがあって俺はそう言葉を続けた。

「構わぬよ。救世の転生者の頼みならば、優先して聞く」
「はい。印刀ホウゲツを基に形を変えた複製品を作って欲しいのですが――」

 そして頭の中で思い描いた形を紙に書きながら説明すると、アマラさんに二言はなく追加分の了承もすんなりと貰うことができた。

「では、お願いします」
「うむ。じゃが、申し訳ないが、複製の様子は見せられん。外で待っていて貰えるか?」

 レンリがその右腕から取り外したアガートラム。
 俺が影の中から取り出した印刀ホウゲツ。
 それらを受け取ったアマラさんは、部屋の出入り口の扉に視線を向けながら言う。
 これから彼女は、狂化隷属の矢を用いた暴走パラ複合発露エクスコンプレックスにより複製を行う訳だ。
 その特殊な手法は他国の人間であるレンリには見せられない。
 なので、俺は率先して「分かりました」と応じ、予備の銀の四肢を装着した彼女の右手を引きながら部屋の外に出た。

「じゃあ、しばらく待とうか」
「はい、旦那様」

 そうして俺達はアマラさんの作業が終わるのを待つために、部屋の前で二人並んで通路の壁に背を預けたのだった。

「……やはり、ここにも第六位階オリジナルのガーンディーヴァとフラガラッハはありませんか」
「ガーンディーヴァとフラガラッハ?」
「あ、いえ。すみません。ええと、国一番の複製師なら第六位階の祈望之器を色々と所有しているかと思いまして。見学できるかなと少し思っていたんです」

 途中、気が緩んだのか、ふと口の中で呟いた彼女は俺の問いかけに慌てて弁解する。
 その内容のどこまでが本当かは分からないが、どうやらアガートラムの複製品を作る以外にも彼女にはアマラさんの工房に来る目的があったようだ。

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