ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

162 アクエリアル皇族、血の試練

「けど、あの子、祈望之器ディザイアードなんか装備してるようには見えなかったけど……」

 アクエリアル帝国の国宝たる祈望之器アガートラム。
 その複製改良品が持つ力によって気配遮断中の俺の存在を見抜いたとするトリリス様達の意見に、フェリトがそう疑問を呈した。

「仮に事前情報通りの味噌っかすだったとしても、皇族であれば位階はどうあれ祈望之器を装備しているのは確かだゾ。これに関しては、かの国の掟のようなものだからナ」
「いや、でも……」

 対するトリリス様の返答に、尚もフェリトは釈然としない声を出す。
 留学生レンリ・アクエリアルがあの場で身に着けていたものと言えば、このホウゲツ学園の制服である大正浪漫溢れる袴にブーツぐらいのものだった。
 勿論、それらは祈望之器ではない。
 もしも件の複製改良品が外づけ的に装着するような類の道具だったとしたら、ピッタリと体にフィットさせることができるような薄い何かでなければならないだろう。

 ……だが、まあ、その可能性は限りなく低いと見て間違いない。
 ディームさんはアガートラムを腕の形をした祈望之器と言った。
 もしかするとフェリトはそこから籠手のようなものを連想したのかもしれないが、それが前世と似た逸話を持つなら、腕の形というのは全く言葉通りの意味のはずだ。
 即ち――。

「フェリト。トリリスは何一つとして嘘を言っていないのです。彼女の両手両足。それこそが祈望之器なのです……」
「…………え?」
「りょ、両手両足全部、ですか!?」

 呆然とするフェリトに続き、俺まで思わず驚きの声を上げてしまった。
 とある神の失われた右腕を補うために作られたと言う、銀の義手たるアガートラム。
 故に右手だけだと思っていたのだが、そこに関しては予想が外れてしまったようだ。

「そう。両手両足全部なのだゾ」

 そんな俺達を前に、見慣れた反応だとでも言うように若干苦笑気味に繰り返したトリリス様は、そのまま更に言葉を続ける。

「オリジナルのアガートラムは右腕の義手なのだけどナ。アガートラムの複製改良品は銀の義肢と総称され、右腕、左腕、右脚、左脚の四種類が存在するのだゾ」
「銀の義肢……」
「あ、あの、ええと、それってつまり――」

 彼女の説明を受け、戦慄したように声を震わせるフェリト。
 どうやら彼女は自身の推測との答え合わせを求めようとしたようだったが、それ以上は問いを続けられなかったらしく口を噤んでしまっていた。
 常識人故に自分の出した結論が恐ろしく、俄かには信じられなかったのだろう。

「欠損したから仕方なく、ってことじゃないんだよね?」

 そんなフェリトの代わりに、サユキが全く物怖じせずに軽い口調で尋ねる。
 これまでの話を聞いた限りだと、そういうことになるはずだ。
 つまり、生身の四肢をわざわざ……。

「その通りだゾ。何せ、かの国の兵士は大半がそうだし、皇族ならばそうすることは義務だからナ。その全てが先天的なものだとしたら、さすがに異常としか言えないゾ」
「確かにそれはそうでしょうけど……しかし、義務、ですか?」

 トリリス様の補足に同意を示しつつ、気になった部分について問いかける。
 すると、彼女は一つ首肯してから再び口を開いた。

「アクエリアル皇族の血の試練という奴だナ。齢十となった時に、麻酔なしに四肢を切断して銀の義肢を装着させる。いくら生身と遜色なく動き、祈念魔法も複合発露エクスコンプレックスもなしに身体強化を多重にかけられると性能も優れているとは言え、恐ろしい話だゾ」
「合理的と言える面もあるにはあるのかもしれませんが、正直に言って私には正気の沙汰とは思えないのです……」

 二人の話を耳にしてフェリトと同じように言葉を失い、無意識に眉をひそめる。
 彼女達の感想は至極当然。俺も全く以って同意見だ。
 恐らくは皇帝、皇族の権威を発揚させ、同時に帝位継承権を持つ者に最低限の自衛の力を与えるためなのだろうが、十歳の子供にそれは余りにも酷だ。
 そんな幼い時分にそのように惨い経験をしていたのなら、あどけない外見の少女でありながら、俺達が怯むような強烈な意思を有していたのも頷けようと言うものだ。
 悲しくなる程に痛々しい強さだが。
 せめてもの救いは、ホウゲツ学園の制服たる袴の袖から覗いた彼女の手が、見た感じ完全に生身と変わらなかったことぐらいか。

「…………イサク。境遇に同情するのは構わないが、それにばかり気を取られて油断などしないようにナ。少なくとも相手の思惑が分かるまでは」

 つい表情に憐憫の情が滲み出てしまっていたのか、諭すように言うトリリス様。
 その声色からは教育者としてのもどかしさのようなものも感じられる。

「あちらの国民にとってはそれが当たり前なのです。ましてや彼女は皇族としての教育を受けてきた者。だから、同情をしても応えてくれるかは分からないのです……」

 次いでディームさんが口にした忠告を受け、俺は真面目に注意を促してくれたトリリス様への分も含めて「分かっています」と頷いた。
 凝り固まった全く異なる価値観へと言葉を投げかけても、中々届かないものだ。
 先達として幼い子供には自ら望んで選び取った道を歩んで欲しいところだが、それには相当の根気と時間、あるいは運命的な切っかけが要求されるだろう。
 それまでの間に、周囲に被害が生じていましたでは誰のためにもならない。
 万が一に備えておくことは必要不可欠だ。とは言え――。

「いずれにしても、まずは彼女が一体何を思って、何のためにホウゲツに留学してきたのかを突き止める必要があります」

 それこそ、まだ全て杞憂である可能性もない訳ではない。
 現時点で俺達が警戒する根拠は、第四位階の気配遮断が通用しなかった点にある。
 それは彼女に関する事前情報からするとあり得ないことであり、即ち留学に際して先方から提示された情報に虚偽があったということに他ならない。
 改めて現在の状況を並べてみても怪しさはあるものの、しかし、それが即座にホウゲツや俺達への害意を持つ証拠になるかと問われれば正直弱いとしか言いようがない。
 情報が余りにも足りな過ぎる。

「それは勿論なのです。一先ず、こちらでも調査をしておくのです……」
「アコに見せれば一発なのだけどナ。常時身体強化状態にある人間に気づかれないように、となると準備に時間が必要だゾ。まあ、その間はワタシの情報網で補うがナ」

 対象を視界に捉えただけで相手の過去を、その瞬間瞬間の思考に至るまで知ることができるアコさんの複合発露〈命歌残響アカシックレコード〉。
 情報を得るなら、この力を頼るのが確かに最も確実な方法だ。
 加えて、ホウゲツ学園の敷地内に限っての話ではあるが、ほぼタイムラグなしに情報を得ることができるトリリス様のネットワークもある。
 こうなると――。

「俺は……」
「お前は顔を覚えられているだろうからナ。目立った行動は取らない方が無難だゾ」
「…………ですね」

 俺が下手な真似をして彼女を警戒させでもしたら、逆にトリリス様達の調査を妨害する結果になりかねない。しばらくは大人しくすべきだろう。
 とは言え、腹に一物を抱えていそうな人物がセト達の傍にいるのは気がかりだ。
 ヨスキ村に同時期に生まれた三人の子供。
 以前のように、妙な勘繰りをされている可能性は否定できない。
 万が一の時に弟達を守れるように、それとなく様子を探る方法ぐらいは考えておいた方がいい。勿論、同じ学園内にいる彼女には決して遭遇しないように気をつけながら。

「……では、申し訳ありませんが、お願いします。トリリス様、ディームさん」
「こういうサポートは任せて欲しいのです……」
「何か分かったら、ルトアを通じて知らせるからナ」
「はい。失礼します」

 そうして一先ず学園長室を後にして寮に戻り、部屋にこもって探知系の祈念魔法の改良を試みていると、いつの間にやら放課後の時間。
 寮の外からは授業を終えた生徒達の喧騒が聞こえてくる。
 そのざわめきの中。
 自室に近づいてくるいくつかの足音があり――。

「来客のようですね」

 イリュファの言う通り、それらは部屋の前で止まり、扉をノックする音が響いた。

「兄さん、いる?」

 続けて、聞き覚えのある声が耳に届く。
 どうやら来客はセト達だったらしい。
 ならばと立ち上がり、応対に出ようとしていたイリュファを制して玄関に向かう。

「いるよ。今、開ける」

 それから俺は、そう外に声をかけながら鍵を開け、ドアノブに手をかけた。
 そのまま扉をゆっくりと開き――。

「ん?」

 途中で違和感を抱く。
 足音は四人分だったのに、外に人の気配が一つ。二つ。三つ。四つ。……五つ?
 そうと気づいた時には既に扉は完全に開いており、訪問者の姿が全て目に映る。
 瞬間、声を上げなかった自分を褒めたい。
 セト、ダン、トバル、ラクラちゃんの後ろ。
 そこには、なるべく遭遇しないように気をつけようと思ったばかりのレンリ・アクエリアルが、あの笑顔を浮かべながら立っていた。

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