ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
161 怪しい留学生
「な、何だったの、あの子」
そそくさと一年A組の教室を離れ、授業中の静かな廊下を無意識に若干の早足で歩いていると、フェリトが影の中から戦々恐々としたように言った。
アクエリアル帝国からの留学生、レンリ・アクエリアル。
彼女の笑顔と瞳に宿った、幼い容姿とは不釣り合いな威圧感に気圧されたようだ。
かく言う俺も、正直この世界に転生して一番というぐらいの戦慄を覚えていた。
いや、勿論、相手の背格好とのギャップや、祈念魔法で気配を遮断していたにもかかわらずという状況その他諸々で、大分過剰な印象になっている感もあるけれども。
命の危険という意味なら、暴走したフェリトと対峙した時の方が遥かに上だったし。
とは言え、それでも――。
「うぅ、全身が波打つぐらいビックリしました、です」
「余りに得体が知れません。彼女について、すぐさまトリリス様に伺うべきでしょう」
震えた声のリクルや硬い口調のイリュファの言葉も聞く限り、少なくとも俺を含めた四人が言い知れぬ恐ろしさを感じたのは間違いなかった。
しかし、そんな俺達とは対照的な反応をする者が一人。
「うーん。確かに何だか凄く凄い決意、みたいなのは感じたけど……でもでも、そんなに悪い子って感じじゃなかったと思うよ?」
サユキが微妙に擁護っぽいことを言い出した。
対して、フェリトが「ええ……」と困惑の声を上げる。
率直に言えば、俺も同じ気持ちだ。
「確か、貴方を酷い目に遭わせた国の子でしょ? そんなんでいいの?」
「え? あれ? そうだったっけ」
「そうだったっけって貴方ね」
「だってイサクと一緒にいられるなら、もうどうでもいいことだし。それに、どっちみち、あの子がどういう子なのかには関係ないでしょ?」
こちらはこちらで妙な威圧感のある気配と共に問い返したサユキに、割と常識人なところのあるフェリトは、気を呑まれたように黙り込んでしまった。
ただ、正論は正論だ。俺もニコリと笑いかけられるまでは、実際にそう思っていた。
とは言え、生まれ育った環境や受けた教育の質は、出身国によって大まかに左右されてしまうものだ。だから、その辺りを念頭に置いて相手の人間性を予測しようとするのは、特に初対面においては是非もないことでもあるのだが……。
「サユキはイサク様至上主義ですからね」
それでもサユキがそんな風に言い切ることができたのは、イリュファの言う通り道義的な理由ではなく、彼女は彼女でちょっと感性がずれている部分があるからだ。
アクエリアル帝国に対する感情も、許した、ではなく、単なる無関心に過ぎない。
俺が殊更明確に敵意を示せば、それに倣って嫌い始めることだろう。間違いなく。
俺の好きがサユキの好きで、俺の嫌いがサユキの嫌い。
それが彼女の基本スタンスなのだから。
こうした依存染みた考え方は、人間ならば危ういものと見なされるだろうし、無理をしてでも修正すべきものなのかもしれない。
しかし、精神が肉体に影響する少女化魔物にとって、己の本質に食い込んだ思想を捻じ曲げることは下手をすれば死に直結する恐れがある。
だから俺は、それもまた少女化魔物たる彼女の個性だと捉えることにしているし、もう再会して五年も経っているのに今更無理矢理矯正するなどというつもりもない。
……まあ、これは完全に余談だけども。
「しかし、今回はイサク様も懸念を抱いているはずですが」
続けて、疑問を呈するようにサユキに向けて言うイリュファ。
前述したサユキの行動指針に従うなら、彼女は俺が嫌うものは嫌うはず。
恐らくイリュファはそう遠回しに指摘したかったのだろうが……。
懸念はあくまでも懸念だ。
矮小化して言えば、結局のところ俺も「何この子、怖っ」と思ったに過ぎない。
つまり、まだレンリを明確に敵対視しているとまでは行っていないのだ。
だから彼女自身の判断は、まだニュートラルな思考の範疇にあるはず。
そうでありながら単なる無関心ではないとすると……。
あるいは、この場は彼女のもう一つの行動指針が適用されている可能性がある。
「もしかして……サユキは、あのレンリって子が俺に好意的だと感じたのか?」
俺に対して友好的な存在には友好的に接する。
これもまたサユキの基本的で特徴的な行動指針だ。
「えっと、ハッキリとした感じじゃないけど、少なくとも凄く凄く興味があるって感じだったのは間違いないかな」
そして実際に。それを裏づけるような感想をサユキは口にする。
当然、彼女の感覚が絶対という訳ではないが……。
状況が状況故に少し過剰なぐらい驚いてしまったものの、少なくともレンリの表情に浮かんでいた感情の中に敵意や悪意のようなものがなかったのは事実だ。
とは言え、救世の転生者たる俺にとって、負の感情があろうとなかろうと過剰に関心を寄せられるのは好ましい状況とは言えない。
敵意や悪意がないから警戒を解く、という話になる訳ではない。
「……全く。サユキのセンサーは独特よね」
それでも、そんなサユキのマイペースな姿にレンリから受けた衝撃が多少は薄れたのか、気を取り直したようにフェリトが呆れ気味に言う。
すると、サユキはどう受け取ったのか「えっへん」と自慢げな声を出した。
「いや、別に褒めた訳じゃないわよ」
「え? そうなの?」
疲れたようなフェリトの嘆息気味の言葉を受け、キョトンとしたように問うサユキ。
その微妙に間の抜けたやり取りには、思わず苦笑が漏れる。
しかし、過度に張り詰めるべきでもないが、そこまで気を緩めていい状況でもない。
いずれにせよ、まずは最初のイリュファの提言通り、あのレンリという少女の情報を得るためにトリリス様やディームさんのところに向かうべきだ。
「――で、あの子は一体なんなんですか?」
と言う訳で、訪れた学園長室。
トリリス様から入室の許可を貰った俺は、挨拶もそこそこに彼女の前までずんずんと進むと、机に両手を勢いよく突きながら割と強めに問いかけた。
「答えて下さい!」
「お、おう? きょ、今日は随分グイグイ来るナ」
対してトリリス様は、珍しく怯んだように体を仰け反らせる。
「イサク、落ち着くのです。まず、あの子とは誰のことなのです……?」
「っと、申し訳ありません。ディームさん。今日、セト達のクラスに加わった留学生のレンリ・アクエリアルのことです」
「…………お前、ワタシとディームで対応が違うよナ」
「え? そんなの当たり前じゃないですか」
半眼で睨むトリリス様にサラッと返すと彼女は「当たり前……」と釈然としていないように呟いたが、軽くスルーをして机の脇に立つディームさんへと向き直る。
正確な情報を得るなら、副学園長たる彼女からだ。
「それより、ディームさん。あのレンリという子は――」
「彼女は至って普通の留学生のはずなのです。確かに、アクエリアル帝国からの留学生は確かに珍しくはありますし、怪しむのは当然だとは思いますが……」
「書類上も転入試験の結果も特に問題はなかった……と言うか、それなりに優秀だったからナ。そうなると断る訳にもいかないのだゾ。これでもホウゲツ学園は、世界に広く門戸を開いた教育機関を謳い文句にしているからナ」
あのレギオを受け入れているところを見れば、ホウゲツ学園のそういう表向きの理念については説明がなくとも分かろうというものだ。
少女化魔物を冷遇する他国の人間を啓蒙したいという裏の目的にも反している訳ではないし、レンリの留学を許可してもおかしくはない。
そこは確かにおかしくはないのだが――。
「いや、ですけど。単なる普通の留学生が、第四位階の祈念魔法によるものとは言え気配を遮断している俺をハッキリと認識できますか?」
「……何?」
「教室でイサクを認識したのですか……?」
俺の言葉に緩い感じだった空気が一気に引き締まり、二人は硬い声色で問うてきた。
それに俺は「はい」と肯定し、一拍置いてから再び口を開いた。
「ただ、外見の変化はなかったので複合発露を使用したとは考えにくく、それに……」
「救世の転生者たるイサクを上回る祈念魔法を使ったとも考えられないナ」
勿論、少し対策すれば、第四位階程度の気配遮断を見抜くことは不可能ではない。
例えば、シモン先生を始めとする職員には、そのための祈望之器が支給されている。
第六位階の祈望之器ウアジェトの目を眼鏡状に複製改良したもの。
通称、真実の眼鏡だ。
これにより、ホウゲツ学園では最低限の気配遮断対策が取られている訳だ。
レンリもまた、これに類する備えをしていた可能性はあるが――。
「……レンリ・アクエリアル。現アクエリアル皇帝ガート・アクエリアルの末の娘。帝位継承権は最も低く、取るに足らない存在とされているのだゾ」
「だからこそ、ホウゲツへの留学が望んだのだと私達は認識していたのですが……」
「いくら何でも、そんな味噌っかすが、気配遮断への対抗策を持つとは思えないゾ。と言うか、もし持っていたら自分は重要人物ですと主張しているようなものだしナ」
「仮に対策をしていたのだとしても、普通ならわざわざイサクに気づかれるような真似をするはずがないのです……」
「余程の馬鹿か、あるいは、その点は気づかれても構わないと思っているか、だナ」
教室での彼女の落ち着いた姿を見る限り、少なくとも愚か者ではないはずだ。
つまり後者が正しく、それだけの根拠が彼女の中にはあるのだろう。
「トリリス。レンリがアクエリアル帝国にとってある種の捨て石であるという認識が誤りだったとすると、アレの位階が想定よりも遥かに高い可能性があるのです……」
「確かにナ。しかし、そうだとすると対策というより、単なるとばっちりだゾ。あちらからすると、対策などという意識すらないぐらいだろうナ」
「あ、あのー、二人共、すみません。……アレ、とは?」
二人の間でアレとやらの存在を前提に会話が交わされ、いきなり話についていけなくなったので横から口を挟む。
「おっと、申し訳ないのだゾ。アレと言うのはだナ」
「アクエリアル帝国の軍事の要、国の象徴たる祈望之器のことなのです……」
この国における印刀ホウゲツみたいなものか?
いや、国の象徴はともかく、軍事の要となると大分話が違うか。
「第六位階のそれはかの国の国宝であり、皇帝の証でもある。それを複製したものを兵士や皇帝の血族は有しているのだゾ。勿論、位階は序列に比例したものをナ」
つまり、皇帝の娘たるレンリもまたそれを所有しているという訳だ。そして――。
「その名はアガートラム。腕の形をした祈望之器であり、装着するだけで常時その位階に相当する身体強化状態となるものなのです……」
どうやら、それこそが俺の気配遮断を破った手段、その正体らしい。
そそくさと一年A組の教室を離れ、授業中の静かな廊下を無意識に若干の早足で歩いていると、フェリトが影の中から戦々恐々としたように言った。
アクエリアル帝国からの留学生、レンリ・アクエリアル。
彼女の笑顔と瞳に宿った、幼い容姿とは不釣り合いな威圧感に気圧されたようだ。
かく言う俺も、正直この世界に転生して一番というぐらいの戦慄を覚えていた。
いや、勿論、相手の背格好とのギャップや、祈念魔法で気配を遮断していたにもかかわらずという状況その他諸々で、大分過剰な印象になっている感もあるけれども。
命の危険という意味なら、暴走したフェリトと対峙した時の方が遥かに上だったし。
とは言え、それでも――。
「うぅ、全身が波打つぐらいビックリしました、です」
「余りに得体が知れません。彼女について、すぐさまトリリス様に伺うべきでしょう」
震えた声のリクルや硬い口調のイリュファの言葉も聞く限り、少なくとも俺を含めた四人が言い知れぬ恐ろしさを感じたのは間違いなかった。
しかし、そんな俺達とは対照的な反応をする者が一人。
「うーん。確かに何だか凄く凄い決意、みたいなのは感じたけど……でもでも、そんなに悪い子って感じじゃなかったと思うよ?」
サユキが微妙に擁護っぽいことを言い出した。
対して、フェリトが「ええ……」と困惑の声を上げる。
率直に言えば、俺も同じ気持ちだ。
「確か、貴方を酷い目に遭わせた国の子でしょ? そんなんでいいの?」
「え? あれ? そうだったっけ」
「そうだったっけって貴方ね」
「だってイサクと一緒にいられるなら、もうどうでもいいことだし。それに、どっちみち、あの子がどういう子なのかには関係ないでしょ?」
こちらはこちらで妙な威圧感のある気配と共に問い返したサユキに、割と常識人なところのあるフェリトは、気を呑まれたように黙り込んでしまった。
ただ、正論は正論だ。俺もニコリと笑いかけられるまでは、実際にそう思っていた。
とは言え、生まれ育った環境や受けた教育の質は、出身国によって大まかに左右されてしまうものだ。だから、その辺りを念頭に置いて相手の人間性を予測しようとするのは、特に初対面においては是非もないことでもあるのだが……。
「サユキはイサク様至上主義ですからね」
それでもサユキがそんな風に言い切ることができたのは、イリュファの言う通り道義的な理由ではなく、彼女は彼女でちょっと感性がずれている部分があるからだ。
アクエリアル帝国に対する感情も、許した、ではなく、単なる無関心に過ぎない。
俺が殊更明確に敵意を示せば、それに倣って嫌い始めることだろう。間違いなく。
俺の好きがサユキの好きで、俺の嫌いがサユキの嫌い。
それが彼女の基本スタンスなのだから。
こうした依存染みた考え方は、人間ならば危ういものと見なされるだろうし、無理をしてでも修正すべきものなのかもしれない。
しかし、精神が肉体に影響する少女化魔物にとって、己の本質に食い込んだ思想を捻じ曲げることは下手をすれば死に直結する恐れがある。
だから俺は、それもまた少女化魔物たる彼女の個性だと捉えることにしているし、もう再会して五年も経っているのに今更無理矢理矯正するなどというつもりもない。
……まあ、これは完全に余談だけども。
「しかし、今回はイサク様も懸念を抱いているはずですが」
続けて、疑問を呈するようにサユキに向けて言うイリュファ。
前述したサユキの行動指針に従うなら、彼女は俺が嫌うものは嫌うはず。
恐らくイリュファはそう遠回しに指摘したかったのだろうが……。
懸念はあくまでも懸念だ。
矮小化して言えば、結局のところ俺も「何この子、怖っ」と思ったに過ぎない。
つまり、まだレンリを明確に敵対視しているとまでは行っていないのだ。
だから彼女自身の判断は、まだニュートラルな思考の範疇にあるはず。
そうでありながら単なる無関心ではないとすると……。
あるいは、この場は彼女のもう一つの行動指針が適用されている可能性がある。
「もしかして……サユキは、あのレンリって子が俺に好意的だと感じたのか?」
俺に対して友好的な存在には友好的に接する。
これもまたサユキの基本的で特徴的な行動指針だ。
「えっと、ハッキリとした感じじゃないけど、少なくとも凄く凄く興味があるって感じだったのは間違いないかな」
そして実際に。それを裏づけるような感想をサユキは口にする。
当然、彼女の感覚が絶対という訳ではないが……。
状況が状況故に少し過剰なぐらい驚いてしまったものの、少なくともレンリの表情に浮かんでいた感情の中に敵意や悪意のようなものがなかったのは事実だ。
とは言え、救世の転生者たる俺にとって、負の感情があろうとなかろうと過剰に関心を寄せられるのは好ましい状況とは言えない。
敵意や悪意がないから警戒を解く、という話になる訳ではない。
「……全く。サユキのセンサーは独特よね」
それでも、そんなサユキのマイペースな姿にレンリから受けた衝撃が多少は薄れたのか、気を取り直したようにフェリトが呆れ気味に言う。
すると、サユキはどう受け取ったのか「えっへん」と自慢げな声を出した。
「いや、別に褒めた訳じゃないわよ」
「え? そうなの?」
疲れたようなフェリトの嘆息気味の言葉を受け、キョトンとしたように問うサユキ。
その微妙に間の抜けたやり取りには、思わず苦笑が漏れる。
しかし、過度に張り詰めるべきでもないが、そこまで気を緩めていい状況でもない。
いずれにせよ、まずは最初のイリュファの提言通り、あのレンリという少女の情報を得るためにトリリス様やディームさんのところに向かうべきだ。
「――で、あの子は一体なんなんですか?」
と言う訳で、訪れた学園長室。
トリリス様から入室の許可を貰った俺は、挨拶もそこそこに彼女の前までずんずんと進むと、机に両手を勢いよく突きながら割と強めに問いかけた。
「答えて下さい!」
「お、おう? きょ、今日は随分グイグイ来るナ」
対してトリリス様は、珍しく怯んだように体を仰け反らせる。
「イサク、落ち着くのです。まず、あの子とは誰のことなのです……?」
「っと、申し訳ありません。ディームさん。今日、セト達のクラスに加わった留学生のレンリ・アクエリアルのことです」
「…………お前、ワタシとディームで対応が違うよナ」
「え? そんなの当たり前じゃないですか」
半眼で睨むトリリス様にサラッと返すと彼女は「当たり前……」と釈然としていないように呟いたが、軽くスルーをして机の脇に立つディームさんへと向き直る。
正確な情報を得るなら、副学園長たる彼女からだ。
「それより、ディームさん。あのレンリという子は――」
「彼女は至って普通の留学生のはずなのです。確かに、アクエリアル帝国からの留学生は確かに珍しくはありますし、怪しむのは当然だとは思いますが……」
「書類上も転入試験の結果も特に問題はなかった……と言うか、それなりに優秀だったからナ。そうなると断る訳にもいかないのだゾ。これでもホウゲツ学園は、世界に広く門戸を開いた教育機関を謳い文句にしているからナ」
あのレギオを受け入れているところを見れば、ホウゲツ学園のそういう表向きの理念については説明がなくとも分かろうというものだ。
少女化魔物を冷遇する他国の人間を啓蒙したいという裏の目的にも反している訳ではないし、レンリの留学を許可してもおかしくはない。
そこは確かにおかしくはないのだが――。
「いや、ですけど。単なる普通の留学生が、第四位階の祈念魔法によるものとは言え気配を遮断している俺をハッキリと認識できますか?」
「……何?」
「教室でイサクを認識したのですか……?」
俺の言葉に緩い感じだった空気が一気に引き締まり、二人は硬い声色で問うてきた。
それに俺は「はい」と肯定し、一拍置いてから再び口を開いた。
「ただ、外見の変化はなかったので複合発露を使用したとは考えにくく、それに……」
「救世の転生者たるイサクを上回る祈念魔法を使ったとも考えられないナ」
勿論、少し対策すれば、第四位階程度の気配遮断を見抜くことは不可能ではない。
例えば、シモン先生を始めとする職員には、そのための祈望之器が支給されている。
第六位階の祈望之器ウアジェトの目を眼鏡状に複製改良したもの。
通称、真実の眼鏡だ。
これにより、ホウゲツ学園では最低限の気配遮断対策が取られている訳だ。
レンリもまた、これに類する備えをしていた可能性はあるが――。
「……レンリ・アクエリアル。現アクエリアル皇帝ガート・アクエリアルの末の娘。帝位継承権は最も低く、取るに足らない存在とされているのだゾ」
「だからこそ、ホウゲツへの留学が望んだのだと私達は認識していたのですが……」
「いくら何でも、そんな味噌っかすが、気配遮断への対抗策を持つとは思えないゾ。と言うか、もし持っていたら自分は重要人物ですと主張しているようなものだしナ」
「仮に対策をしていたのだとしても、普通ならわざわざイサクに気づかれるような真似をするはずがないのです……」
「余程の馬鹿か、あるいは、その点は気づかれても構わないと思っているか、だナ」
教室での彼女の落ち着いた姿を見る限り、少なくとも愚か者ではないはずだ。
つまり後者が正しく、それだけの根拠が彼女の中にはあるのだろう。
「トリリス。レンリがアクエリアル帝国にとってある種の捨て石であるという認識が誤りだったとすると、アレの位階が想定よりも遥かに高い可能性があるのです……」
「確かにナ。しかし、そうだとすると対策というより、単なるとばっちりだゾ。あちらからすると、対策などという意識すらないぐらいだろうナ」
「あ、あのー、二人共、すみません。……アレ、とは?」
二人の間でアレとやらの存在を前提に会話が交わされ、いきなり話についていけなくなったので横から口を挟む。
「おっと、申し訳ないのだゾ。アレと言うのはだナ」
「アクエリアル帝国の軍事の要、国の象徴たる祈望之器のことなのです……」
この国における印刀ホウゲツみたいなものか?
いや、国の象徴はともかく、軍事の要となると大分話が違うか。
「第六位階のそれはかの国の国宝であり、皇帝の証でもある。それを複製したものを兵士や皇帝の血族は有しているのだゾ。勿論、位階は序列に比例したものをナ」
つまり、皇帝の娘たるレンリもまたそれを所有しているという訳だ。そして――。
「その名はアガートラム。腕の形をした祈望之器であり、装着するだけで常時その位階に相当する身体強化状態となるものなのです……」
どうやら、それこそが俺の気配遮断を破った手段、その正体らしい。
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