ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

幕間 2→3 153 気の許せる他人

「それにしても……まさか三人もいるとは思わなかったな」
「本当に。特にあの二人。変態なの?」

 特別収容施設ハスノハの施設長室のソファに座り、呆れたように言うルシネさんとそれに小さく同意するように頷きながら更に辛辣な言葉を口にするパレットさん。

「ま、まあ、そういう人もいますよ」

 そんな二人、行方不明になっているアロン兄さんの友人にして同郷の少女征服者ロリコンライムさんと真性少女契約ロリータコントラクトを結んでいる少女化魔物ロリータの彼女達を前に、俺は苦笑しながらフォローを入れた。
 正直なところ、俺も割と驚きはしたが……人間たる者、価値観は様々だ。

「全く理解できない」

 しかし、冷淡な表情のパレットさんに一言で切って捨てられてしまう。
 そんな素気ない態度には「あはは」と曖昧に困った笑いを浮かべるしかない。
 まあ、何だかんだと言って彼女も年若い(俺より年下の)少女化魔物だ。
 その辺の特殊な性癖、嗜好はまだまだ理解しにくいのだろう。

 一体何のことかと言うと、今回の依頼の中でのちょっとした出来事に関する話だ。
 ルコちゃんを人間に戻した方法を踏襲し、残る七人の被害者を元に戻す依頼。
 俺は救世の転生者というネームバリューを利用して、人間に戻りたいと願えば人間に戻ることができるという事実に信憑性を与える役割を。
 ルシネさんは精神干渉によって願望を増幅させる肝心要の役割を。
 パレットさんは転移の複合発露エクスコンプレックスによって、検査後にウラバへと移送する役割を担っていた。……いや、俺とルシネさんの仕事はもう終わったが、パレットさんの仕事はこれからなので、彼女に関しては過去形ではなく現在形か未来形で言うべきだろう。
 勿論、正式な依頼は俺一人だけで、二人に関しては特別労役扱いだ。
 今は処置を終え、検査が終わるのを待っている状態だが……。

「少女化魔物のままというのにも、一定のメリットはありますからね」

 最初にルシネさんが口にした三人というのは、今は別に人間に戻らなくていいと判断して今回の処置を拒否した者の人数。そして――。

「だからって少女化魔物は一応女。男が女になるのを受け入れるなんて……」

 次にパレットさんが言った二人は、元男性にもかかわらず、その選択をした人数だ。
 つまるところ性転換して、そのままということだ。
 まだまだ時代が追いついていないこの異世界では、正直なところ元の世界程には諸々に寛容ではない。パレットさんが疑問を呈するのも不思議ではない。
 特に、その男性二人も別に自他共に認める同性愛者という訳ではないそうだから、更にややこしくなってしまっている。
 多分、彼らはパレットさんの中では、精神はれっきとした男でありながら女になってその体を楽しもうとしている変態、という扱いになっていると見て間違いない。

「ま、まあ、男であるアイデンティティを取り戻すことよりも、少女化魔物であるメリットの方を取ったということでしょう。少なくとも現時点では」

 少女化魔物であれば、少女契約なしに複合発露を使うことができる。
 基本的には不老である。
 特に二番目は、人によっては強烈なメリットになるはずだ。
 しかも、同種の複合発露であれば、通常の少女化魔物よりも大幅に強力なものとなる上位少女化魔物エイペクスロリータなのだから尚更だ。
 最初からその種族だった少女化魔物には失礼な物言いだが、もっと人間が強く憧れるような種族だったら、現状維持を選択した人数はもっと増えていたかもしれない。

「それこそ少女化魔物になって日が浅いから、メリットにばかり目が行っているのかもしれません。いずれは人間に戻りたいと泣きついてくる可能性だってあります」

 当然ながら、意識を取り戻してすぐは人間に戻りたいと強く思っていただろう。
 しかし、慣れてくるとこれはこれでと思う者も出てくる。
 当初は人間に戻る選択肢などなかったから尚のこと。
 だが、更に時間が経って実際に少女化魔物として生活を送れば、人間に戻りたいと再び思うようになるかもしれない。勿論、そうはならない可能性だってあるが。

「どちらにせよ、後は彼らの選択です。俺達が口を出す問題じゃないでしょう」
「それは、そうかもしれないけど」

 納得していなさそうな微妙な表情を浮かべるパレットさんだが、その辺りはデリケートな問題も多分に含む。思想の押しつけは不和の基だ。
 日和見もいいところだが、話題を変えてしまおう。

「ところでパレットさん」
「何?」
「聞きそびれてましたけど、俺が救世の転生者だと認めてくれましたか?」

 事態を解決したら認めるという話だったが、あの夜の騒動の後は慌ただしく、話をする機会を持てなかったので一応確認のために尋ねる。

「意外と根に持つタイプ?」

 すると、言うまでもないことを尋ねるなんて当てつけか、とでも言うように、パレットさんは少々不機嫌そうな声を出した。
 疑った負い目か、微妙に気まずさも滲んでいる。

「はい。実はそうなんですよ」

 そんな彼女の言葉に乗っかりつつ、その気まずさを散らすつもりで冗談っぽく言う。
 対して、ルシネさんとパレットさんは軽く驚いたような顔をした。

「そういう軽口を言うとは思わなかった」
「ええ…………お二人の中で俺はどんなイメージなんですか。どんな堅物ですか」
「いや、まあ、何だ。救世の転生者だからというのもあるし、少なくとも私は真剣な時のイサクしか見ていないからな」

 少し焦ったように弁明するルシネさん。
 そう言えば、そうだったか。
 一応は犯罪者である彼女達と関わるのは、基本その力が必要な時だったからな。
 そう考えると仕方がないところもあるか。

「俺だって普通の人間です。気を抜きたい時ぐらいありますよ。救世の転生者っていう重荷を普段から背負っていると肩も凝りますからね」
「気を許せる相手はいないのか?」
「いや、勿論いますよ。契約した少女化魔物達とか。ただ、あくまでも彼女達は身内ですからね。気を許せる他人となるとライムさん達ぐらいしかいないんですよ。他の知り合いには救世の転生者であることを隠してるので、ちょっと引け目もありますし」

 今や補導員事務局受付のルトアさんも身内寄りだし。
 程よい距離感の友人的な存在はいないと言っていい。悲しくなってくるけれども。
 その点、ライムさん達は一度敵としてぶつかり合ったからなのか、何と言うか、多少雑に対応しても許されるんじゃないかというような妙な親近感がある。

「救世の転生者であることはトリリス様達は知ってますけど、彼女達は何と言うか、雇用主と言うか依頼主と言うか。まあ、少なくとも友人って感じじゃないですからね」

 数々のサポートには感謝しているが、俺の中では一つ線が引かれている。
 同じ救世という使命に殉ずる存在であり、馴れ合うような対象ではないだろう。

「……救世の転生者であるというのも、様々な苦労があるものだな。外野が言っても無責任な言葉にしかならないかもしれないが」
「そもそも正体を隠して一人に背負わせるのがおかしな話。救世の転生者がいなくなれば致命的。だから、アロンが行方不明になった時、ライムも冷静でいられなくなった」

 パレットさんの言葉は若干言い訳染みているが、事実でもある。
 証拠のある救世の転生者たる俺に何かあれば、今度こそライムさん達も強硬策に出るかもしれない。
 …………軽はずみな真似はしないように気をつけよう。

「何にせよ、私達は救世の転生者の……イサクの味方」

 途中で言葉を区切り、小さく首を振ってから言い直すパレットさん。

「一ホウゲツ国民として救世の転生者に味方するのは当然だが、イサクが私達を友人として見てくれるのなら友人として君を助けよう。荒事に限らずな」

 彼女の言動を意訳するようにルシネさんが続く。

「勿論、転移の力が必要になったら、いつでも言って欲しい」
「……ありがとうございます。よろしくお願いします」

 最後に、無表情ながら真剣さの増した口調と共に平均的な胸元に手を置いて言うパレットさんに感謝の意を示し、それから頭を下げる。
 いざと言う時に頼れる仲間としてだけでなく、事情を知る友人としても関係性を持ってくれるのは精神衛生の上でも非常に助かる。

「しかし、友人と言うなら、もう少し砕けた態度でもいいのだぞ?」
「まあ、そこは追々。癖みたいなものですから」

 この世界に転生してからの。
 救世の転生者という事実を隠してきた弊害の一つかもしれない。
 心理的な壁とでも言うべきか。

「それに、ルシネさんも大概ですよ?」
「いや、私も、その、癖みたいなものだからな」
「二人共、もっと私みたいにストレートな話し方をするべき」
「パレットはもう少し柔らかく話すのを心がけた方がいいぞ」

 と、そんな風に言い合っていると施設長室の扉が開き、全員そちらへ顔を向ける。
 入ってきたのは部屋の主であるアコさんだった。

「パレット。人間に戻った四人の検査は無事に終わって問題もなかったから、彼らをウラバに返してやってくれるかな。エイルは彼女を連れていってくれ」

 その彼女はまずパレットさんに対して言い、それから施設長室の隅で黙って囚人二人を監視していたエイルさんに視線を移して続けた。

「分かった」

 パレットさんはアコさんの指示にそう応じると席を立ち、無言のまま先導するように入口に向かったエイルさんの後に続く。

「イサク、また」
「はい。また来ます」

 扉のところで一度振り返って言う彼女に笑顔で返し、俺もまた立ち上がった。
 いい頃合いだ。
 そしてアコさんから依頼完了の確認書類を受け取ると、彼女に辞去の挨拶をし――。

「では、ルシネさん、また来ます。今度は菓子でも持ってきますので」
「ああ。うんと甘い奴を頼む。それとライムのところにも行ってやってくれ」
「はい」

 それからルシネさんの言葉に頷き、俺は特別収容施設ハスノハを後にしたのだった。

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