ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
136 道具はあくまで使いよう
想定外の代物が眼前に出てきた動揺を、一つ深呼吸して落ち着かせてから口を開く。
「その狂化隷属の矢を、どうするつもりですか?」
それでも冷静さを取り繕い切れず、俺は思わず険のある声を出てしまった。
対象の意思を奪って隷属させる祈望之器。
何度か関わり合いがあるが、眉をひそめたくなる使われ方しか目にしたことがない。
それ故に、碌でもない用途ばかりが脳裏に浮かぶ。
加えて、その使用が重罪であることも、改めてアコさんの口から語られたばかりだ。
ヒメ様の仲間なのだから信じたいところだが……。
「勿論、法に反するような真似はしないさ。ルシネに偉そうなことを言った手前ね」
不審な目を向けられつつも、それは想定内と言うように余裕の表情で告げるアコさん。
「違法なのは、許可のない所持と他者への使用だからね」
「それはどういう――」
「まあ、説明は後にしよう。ルシネも早くこの狭苦しい部屋を出たいだろうし」
俺の言葉を遮るように、彼女はチラッと独居房に視線を向けた。
その一瞬。再び自身の複合発露〈命歌残響〉を発動させながら。
恐らく、狂化隷属の矢を目にしたことでルシネさんが心変わりしていないか、その前後の彼女を追体験することによって思考を読んだのだろう。
監房から出すに当たって支障がないか確認するために。
特別収容施設の長としては当然の行動かもしれないが、慎重と言えば慎重だ。
五百年という月日の中で多くの変心、変節を目にしてきたが故の癖のようなものか。
そう俺が考えている間に、アコさんは封印の注連縄を解いて鉄格子を開く。
それに合わせてルシネさんが立ち上がる。改めて見ると、意外と小柄だ。
「…………ふう」
独居房から出てきた彼女は、軽く伸びをしてから小さく息を吐く。
厳しげだった表情も幾分か和らいでいる。
背筋を伸ばして綺麗な正座を保つなど堪えていない風だったが、このような身動きが取りにくい狭苦しい場所にいて気分がいいはずがない。
俺だったら数日で滅入ってしまうことだろう。
「さて――」
と、ルシネさんの一挙一動を窺っていたアコさんが、彼女から視線を外して切り出す。
「まずは封印措置室……封印措置を行う広間に向かおう。詳しい話はそこでするから」
アコさんは言いながら歩き出し、来た道を戻って看守室へと引き返した。
その後に、俺とルシネさんもまた続く。
看守室では、アコさんが近くにいた看守に対して件の七人を一人ずつ連れてくるように命じ、それから全員でエントランスへと出る。
そのまま特別収容棟に入り、正面奥の扉から昨日訪れた広間に至った。そして――。
「……アコさん。説明をお願いします。どうするつもりなんですか?」
巨大な少女化魔物を搬入するための出入口。その巨大な扉の近く。
そこで立ち止まったアコさんに、今度こそと尋ねる。
その問いに応じ、彼女は返答を口にし始めた。
「うん。まずは前提。上位少女化魔物の暴走・複合発露による身体強化を超えて精神干渉を行うには、通常の真・複合発露では恐らく不可能だ」
その部分に異論はない。ルシネさん共々頷く。
「なら、複数人で同時に、と言っても、イサクとサユキの二人を合わせた以上の力を出せる数を揃えることは難しい。そもそも、私達が把握している第六位階の精神干渉系複合発露の保有者はルシネだけだしね」
曲がりなりにも俺は救世の転生者だからな。
そう容易く代用できても困る部分がある。
「一応、契約者であるライムもいるにはいるけど、二人同時に封印の注連縄から出すことはできない。いくら特別労役と言っても罪人は罪人。まず許可は出ないだろう」
そも、並の真・複合発露では彼ら二人が力を合わせても不足だ。
だが、ライムさん達は、シニッドさんやガイオさんの第六位階の身体強化を容易く突破して精神干渉することに成功している。
その時の方法は――。
「そうなると、真・暴走・複合発露しかない訳だ」
「つまり、狂化隷属の矢をルシネさんに刺して暴走させると? さっき他者への使用は犯罪だって言ったばかりじゃないですか」
「話は最後まで聞くものだよ、イサク。…………まあ、ほとんど正解ではあるんだけどね。ただし、他者に使用する訳じゃない。ルシネが自分で自分に使うんだ」
「狂化隷属の矢を、自分自身に?」
アコさんの言葉に、思わず首を傾げる。
正直、想定していなかった使い方だ。
この祈望之器は刺された者が暴走し、刺した者に隷属する効果がある訳だが――。
「えっと……それって、どうなるんです?」
刺された者も刺した者も自分。
そうなると一体どういう影響が出てくるのか。
いくつか可能性が考えられ得る。
「この場合、暴走状態のまま一定程度自我を保つことができるようになるんだ。極大化してしまった感情を、そうなる直前の理性ある己に隷属させる、というところかな」
感情を理性で抑えつける、と言うと人間にとって当たり前のことだ。
しかし、極大化してしまった感情、というところがミソなのだろう。
完全に自我を保てるかは感情と理性の兼ね合いに違いないが、それでも単純に暴走した時と比べれば格段に違うと言うことができる。
 何故なら、本来の自分の判断を残すことができそうだからだ。
「形としては自分の意思で自分に使用している訳だから、法律にも反しない」
その部分に関しては、正直なところ屁理屈のように釈然としないものを感じないでもないが、交渉の抜け道というものは得てしてそんなものだ。そう思っておく。
とは言え、そのままデメリットが何もないとは到底思えない。
「そんなことをして、体に負担とかかからないんですか?」
「当然かかるさ。ハッキリ言って不自然な状態であることは間違いないからね。ある程度、暴走に慣れていないとまともに行動できなくなるし、たとえ慣れていても使用した時間の十倍以上の時間寝込むことになる」
「十倍以上……」
「自分の暴走状態を認識し続ける訳だからね。世界を観測する能力そのものに負荷がかかっても何らおかしくはない。……正直、あれは結構きついものがあるよ」
完全に実体験に基づいたような言葉を最後につけ加えるアコさん。
そのことに軽く首を傾げていると――。
「救世の転生者をサポートする使命を帯びた私達は、誰かと真性少女契約を結ぶことは許されない。契約者の寿命が来たら死んでしまうからね」
言外の問いに答えるように彼女は言葉を続ける。
「つまり私達は基本的に第六位階の力を持てない訳だ。それでは不測の事態に対処できない可能性がある。この方法は、そんな私達の切り札でもあるのさ」
つまるところ、ヒメ様を始めとした彼女達は経験があるということだろう。
そもそも実際に使ってみなければ検証しようもない内容だ。
「まあ、心情的に狂化隷属の矢の存在を積極的に容認できる訳じゃないけどね。道具は所詮、道具だ。誰かを害したなら、それは使い手の罪。結局、使い方次第だよ」
言いたいことは分かる。
だが、今この場で一定の理解が示すことができるのは、あくまでも眼前で狂化隷属の矢を所持しているのが自らの言葉で自身の良識を証明しているアコさんだからだ。
世の中どうしようもない存在もいるし、そうした者の手に渡る可能性は低い方がいい。
勿論、アコさん達も闇雲にばら撒かれるのを許容している訳ではないだろうが。
「さて、ルシネ。大まかには予想していただろうけど、そういう訳だ。狂化隷属の矢を使用すれば、かなりの負荷がかかる。それでも手伝ってくれるかい?」
「……既に上位少女化魔物達をここに連れてくるように指示を出している時点で、私がどう答えるかはそれこそ予想していたのではないか?」
アコさんの問いかけに、嘆息気味に答えるルシネさん。
狂化隷属の矢を見せた段階で使用した〈命歌残響〉により、彼女がある程度は自分に求められていることを理解していると分かっていたのだろう。
「……まあ、当然引き受けるがね。この積み重ねが巡り巡って救世の手助けとなるのであれば。それに、早く出所してライムにも会いたいからな」
そんなルシネさんの答えに満足そうに微笑むアコさん。
それを見てルシネさんは何とも嫌そうな顔をするが、気持ちを切り替えるように一つ息を鋭く吐くと俺を振り返った。
「アコ・ロリータの説明にも会った通り、相手の身体強化は並のそれではない。真・暴走・複合発露状態で精神干渉を発動しても、即座に鎮静化することはできないだろう」
少なくとも、それは予測できる話だ。
頷いて同意を示す。
「だから、どうにかして何秒か抑え込んで欲しい。一度あの領域に至ったことのある私の感覚からすれば、恐らくはそれで済むはずだ」
「……分かりました」
安全を見て数十秒と考えても、恐らく何とかできるだろう、いや、必ずして見せる。
だから俺は、自信を持って再度首を縦に振った。
「よし。じゃあ、まずは一人目だ」
と、アコさんのその言葉を待っていたかのように、特別収容棟へと繋がる扉が開いて数名の職員の手によって封印の注連縄が巻かれた檻が運ばれてくる。
中にいるのは確か、ワームの少女化魔物だったか。
「では、始めようか」
その檻が広間の中央に置かれたのを確認してから。
アコさんはそう告げるとルシネさんに狂化隷属の矢を手渡す。
対してルシネさんは祈念詠唱を行い、痛覚を遮断する祈念魔法を発動させると……。
一気に、受け取った祈望之器を左の掌に突き刺した。
「その狂化隷属の矢を、どうするつもりですか?」
それでも冷静さを取り繕い切れず、俺は思わず険のある声を出てしまった。
対象の意思を奪って隷属させる祈望之器。
何度か関わり合いがあるが、眉をひそめたくなる使われ方しか目にしたことがない。
それ故に、碌でもない用途ばかりが脳裏に浮かぶ。
加えて、その使用が重罪であることも、改めてアコさんの口から語られたばかりだ。
ヒメ様の仲間なのだから信じたいところだが……。
「勿論、法に反するような真似はしないさ。ルシネに偉そうなことを言った手前ね」
不審な目を向けられつつも、それは想定内と言うように余裕の表情で告げるアコさん。
「違法なのは、許可のない所持と他者への使用だからね」
「それはどういう――」
「まあ、説明は後にしよう。ルシネも早くこの狭苦しい部屋を出たいだろうし」
俺の言葉を遮るように、彼女はチラッと独居房に視線を向けた。
その一瞬。再び自身の複合発露〈命歌残響〉を発動させながら。
恐らく、狂化隷属の矢を目にしたことでルシネさんが心変わりしていないか、その前後の彼女を追体験することによって思考を読んだのだろう。
監房から出すに当たって支障がないか確認するために。
特別収容施設の長としては当然の行動かもしれないが、慎重と言えば慎重だ。
五百年という月日の中で多くの変心、変節を目にしてきたが故の癖のようなものか。
そう俺が考えている間に、アコさんは封印の注連縄を解いて鉄格子を開く。
それに合わせてルシネさんが立ち上がる。改めて見ると、意外と小柄だ。
「…………ふう」
独居房から出てきた彼女は、軽く伸びをしてから小さく息を吐く。
厳しげだった表情も幾分か和らいでいる。
背筋を伸ばして綺麗な正座を保つなど堪えていない風だったが、このような身動きが取りにくい狭苦しい場所にいて気分がいいはずがない。
俺だったら数日で滅入ってしまうことだろう。
「さて――」
と、ルシネさんの一挙一動を窺っていたアコさんが、彼女から視線を外して切り出す。
「まずは封印措置室……封印措置を行う広間に向かおう。詳しい話はそこでするから」
アコさんは言いながら歩き出し、来た道を戻って看守室へと引き返した。
その後に、俺とルシネさんもまた続く。
看守室では、アコさんが近くにいた看守に対して件の七人を一人ずつ連れてくるように命じ、それから全員でエントランスへと出る。
そのまま特別収容棟に入り、正面奥の扉から昨日訪れた広間に至った。そして――。
「……アコさん。説明をお願いします。どうするつもりなんですか?」
巨大な少女化魔物を搬入するための出入口。その巨大な扉の近く。
そこで立ち止まったアコさんに、今度こそと尋ねる。
その問いに応じ、彼女は返答を口にし始めた。
「うん。まずは前提。上位少女化魔物の暴走・複合発露による身体強化を超えて精神干渉を行うには、通常の真・複合発露では恐らく不可能だ」
その部分に異論はない。ルシネさん共々頷く。
「なら、複数人で同時に、と言っても、イサクとサユキの二人を合わせた以上の力を出せる数を揃えることは難しい。そもそも、私達が把握している第六位階の精神干渉系複合発露の保有者はルシネだけだしね」
曲がりなりにも俺は救世の転生者だからな。
そう容易く代用できても困る部分がある。
「一応、契約者であるライムもいるにはいるけど、二人同時に封印の注連縄から出すことはできない。いくら特別労役と言っても罪人は罪人。まず許可は出ないだろう」
そも、並の真・複合発露では彼ら二人が力を合わせても不足だ。
だが、ライムさん達は、シニッドさんやガイオさんの第六位階の身体強化を容易く突破して精神干渉することに成功している。
その時の方法は――。
「そうなると、真・暴走・複合発露しかない訳だ」
「つまり、狂化隷属の矢をルシネさんに刺して暴走させると? さっき他者への使用は犯罪だって言ったばかりじゃないですか」
「話は最後まで聞くものだよ、イサク。…………まあ、ほとんど正解ではあるんだけどね。ただし、他者に使用する訳じゃない。ルシネが自分で自分に使うんだ」
「狂化隷属の矢を、自分自身に?」
アコさんの言葉に、思わず首を傾げる。
正直、想定していなかった使い方だ。
この祈望之器は刺された者が暴走し、刺した者に隷属する効果がある訳だが――。
「えっと……それって、どうなるんです?」
刺された者も刺した者も自分。
そうなると一体どういう影響が出てくるのか。
いくつか可能性が考えられ得る。
「この場合、暴走状態のまま一定程度自我を保つことができるようになるんだ。極大化してしまった感情を、そうなる直前の理性ある己に隷属させる、というところかな」
感情を理性で抑えつける、と言うと人間にとって当たり前のことだ。
しかし、極大化してしまった感情、というところがミソなのだろう。
完全に自我を保てるかは感情と理性の兼ね合いに違いないが、それでも単純に暴走した時と比べれば格段に違うと言うことができる。
 何故なら、本来の自分の判断を残すことができそうだからだ。
「形としては自分の意思で自分に使用している訳だから、法律にも反しない」
その部分に関しては、正直なところ屁理屈のように釈然としないものを感じないでもないが、交渉の抜け道というものは得てしてそんなものだ。そう思っておく。
とは言え、そのままデメリットが何もないとは到底思えない。
「そんなことをして、体に負担とかかからないんですか?」
「当然かかるさ。ハッキリ言って不自然な状態であることは間違いないからね。ある程度、暴走に慣れていないとまともに行動できなくなるし、たとえ慣れていても使用した時間の十倍以上の時間寝込むことになる」
「十倍以上……」
「自分の暴走状態を認識し続ける訳だからね。世界を観測する能力そのものに負荷がかかっても何らおかしくはない。……正直、あれは結構きついものがあるよ」
完全に実体験に基づいたような言葉を最後につけ加えるアコさん。
そのことに軽く首を傾げていると――。
「救世の転生者をサポートする使命を帯びた私達は、誰かと真性少女契約を結ぶことは許されない。契約者の寿命が来たら死んでしまうからね」
言外の問いに答えるように彼女は言葉を続ける。
「つまり私達は基本的に第六位階の力を持てない訳だ。それでは不測の事態に対処できない可能性がある。この方法は、そんな私達の切り札でもあるのさ」
つまるところ、ヒメ様を始めとした彼女達は経験があるということだろう。
そもそも実際に使ってみなければ検証しようもない内容だ。
「まあ、心情的に狂化隷属の矢の存在を積極的に容認できる訳じゃないけどね。道具は所詮、道具だ。誰かを害したなら、それは使い手の罪。結局、使い方次第だよ」
言いたいことは分かる。
だが、今この場で一定の理解が示すことができるのは、あくまでも眼前で狂化隷属の矢を所持しているのが自らの言葉で自身の良識を証明しているアコさんだからだ。
世の中どうしようもない存在もいるし、そうした者の手に渡る可能性は低い方がいい。
勿論、アコさん達も闇雲にばら撒かれるのを許容している訳ではないだろうが。
「さて、ルシネ。大まかには予想していただろうけど、そういう訳だ。狂化隷属の矢を使用すれば、かなりの負荷がかかる。それでも手伝ってくれるかい?」
「……既に上位少女化魔物達をここに連れてくるように指示を出している時点で、私がどう答えるかはそれこそ予想していたのではないか?」
アコさんの問いかけに、嘆息気味に答えるルシネさん。
狂化隷属の矢を見せた段階で使用した〈命歌残響〉により、彼女がある程度は自分に求められていることを理解していると分かっていたのだろう。
「……まあ、当然引き受けるがね。この積み重ねが巡り巡って救世の手助けとなるのであれば。それに、早く出所してライムにも会いたいからな」
そんなルシネさんの答えに満足そうに微笑むアコさん。
それを見てルシネさんは何とも嫌そうな顔をするが、気持ちを切り替えるように一つ息を鋭く吐くと俺を振り返った。
「アコ・ロリータの説明にも会った通り、相手の身体強化は並のそれではない。真・暴走・複合発露状態で精神干渉を発動しても、即座に鎮静化することはできないだろう」
少なくとも、それは予測できる話だ。
頷いて同意を示す。
「だから、どうにかして何秒か抑え込んで欲しい。一度あの領域に至ったことのある私の感覚からすれば、恐らくはそれで済むはずだ」
「……分かりました」
安全を見て数十秒と考えても、恐らく何とかできるだろう、いや、必ずして見せる。
だから俺は、自信を持って再度首を縦に振った。
「よし。じゃあ、まずは一人目だ」
と、アコさんのその言葉を待っていたかのように、特別収容棟へと繋がる扉が開いて数名の職員の手によって封印の注連縄が巻かれた檻が運ばれてくる。
中にいるのは確か、ワームの少女化魔物だったか。
「では、始めようか」
その檻が広間の中央に置かれたのを確認してから。
アコさんはそう告げるとルシネさんに狂化隷属の矢を手渡す。
対してルシネさんは祈念詠唱を行い、痛覚を遮断する祈念魔法を発動させると……。
一気に、受け取った祈望之器を左の掌に突き刺した。
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