ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
125 ウラバの異常
「トリリス様、イサクです」
急ぎ学園長室の前まで向かい、扉を叩きながら到着を知らせる。
「入っていいゾ」
返事を受けて中に入ると、若干いつもとは違う張り詰めた空気が感じられた。
まさか深刻な状況なのかと警戒し、緊張感が高まる。
「随分と遅かったナ」
「す、すみません。ルトアさんと擦れ違ってしまって」
「知っているゾ」
そう言えば、トリリス様はこのホウゲツ学園内の出来事をほぼリアルタイムで把握することができるのだったか。
なら、俺の正確な居場所ぐらい教えて上げてもよかっただろうに。
「お前が学園の外に向かったのは、ルトアに指示を出した後だったのだゾ。気づいた時にはルトアも補導員事務局を出ていたしナ」
俺の微妙な表情から考えを読んだのか、言い訳っぽく説明をするトリリス様。
その辺も含めて完全にタイミングが悪かったようだ。
状況的に仕方がなかろうに、随分と遅いなどと彼女が文句を言ってきたことについてはスルーしておく。いつもの悪い癖に違いない。
「ウラバでの緊急依頼についてと聞きましたけど」
なので、俺は学園長用の机の傍に控えるディームさんに視線を向けながら問うた。
トリリス様には申し訳ないが、今回は悠長に彼女の道楽の相手をしている気分ではない。話が早いディームさんだけが頼りだ。
「イサクは少し焦り過ぎなのです。ジャスターもファイムも、勿論シニッド達もガイオ達も、別の斡旋所で依頼を受けた補導員達も全員無事なのです……」
とりあえず一番の心配を解消してくれる言葉を貰い、安堵の溜息をつく。
その辺の気遣いはトリリス様にはできないな。
さすがはディームさんだ。
「……いくら何でも、ジャスター達がやられる程の緊急事態ならワタシ達自身が直接イサクのところに伝えに行くゾ」
心の内で行った比較が表情に出ていたのか、心外そうに告げるトリリス様。
まあ、それもそうだ。
それもそうなのだが、だとしたら、この呼び出しは一体どういう理由だと言うのか。
「俺を呼んだのは?」
「無論、お前の手を借りたいからだゾ」
「今回暴走した少女化魔物達は常識からかけ離れた厄介なタイプらしく、ジャスター達も苦戦しているのです。恐らく、通常の形での補導は不可能なのです……」
「ええと、暴走の原因とかも分からないんですか?」
「不明なのです。出自も分からないぐらいなのです……」
「余りホウゲツには発生しないタイプだからナ」
どこにでも生じる魔物もいれば、特定の環境下でしか生まれない魔物もいる。
人間の思念の産物である以上は、そこもイメージによって左右される。
そして、それはそのまま少女化魔物にも適用される訳だ。
が、今回の少女化魔物はそれに該当しない例外ということになるらしい。
そういう意味でも今回は異常な事態のようだ。
少女化魔物の多くは、たとえ複合発露を発動した状態であっても、見た目だけでは中々基になった魔物が何なのか分からないが……。
余程分かり易い複合発露だったのだろう。
「ついては、イサクにはウラバに行って彼女らを捕獲して貰いたいのだゾ」
「捕獲、ですか? 補導ではなく」
「ディームが言った通り、今回ばかりは通常の形での補導は難しいからナ。まず暴走による被害をなくす。話はそれからだゾ」
暴走の原因も不明となれば、それを解消して鎮めるのはほぼ不可能。
となると、もはや力の差を見せつけて心を折るしか術はない。
しかし、それに関しては一日の長がある父さん達やシニッドさん達でさえ苦戦しているということなら、その方向でも鎮圧は難しいということ。
確かに、補導の難易度は極めて高いと言わざるを得ない。
捕獲して暴走の原因を探ってからというトリリス様の考えは妥当だ。
俺としても、余程のことがない限りは人外ロリに暴力を振るいたくはないしな。
何にせよ、そういった状況にあって尚、少女化魔物を殺すという選択肢がない辺りはさすが少女祭祀国家ホウゲツと言うべきだろう。
「少女化魔物の詳しい情報は?」
「トロールの少女化魔物が数体、その他にサラマンダーの少女化魔物、グールの少女化魔物、ワームの少女化魔物、ウロボロスの少女化魔物。いずれも完全な魔物形態への変化と共に生命力、再生力を極限まで高める複合発露を持つようなのです……」
「多っ!!」
何体もとは朝に聞いていたが、精々片手で数えられるぐらいだと思い込んでいた。
「そこも奇妙な部分だゾ」
俺のリアクションに割と真面目な顔で頷くトリリス様。
その反応を見るに、それに関してもまた原因不明のようだ。
しかし、異常事態が余りにも重なり過ぎているな。不自然な程に。
「と言うか、生命力や再生力を高める複合発露、ですか?」
分からない部分は一旦棚上げにし、一度ディームさんが告げた内容に立ち返って首を傾げながら問い気味に繰り返す。
「全員が?」
「全員が、なのです……」
ディームさんからの返答に、思わず腕を組んで考え込む。
たとえ共通して生命力や再生力が高い性質を持っていたとしても、それらの魔物には別の特徴、逸話だって存在しているはず。
同じ魔物由来の少女化魔物でも別の側面が複合発露化することがあるのに、異なる少女化魔物がこうも揃って同じ系統の複合発露を持ち、尚且つ同じ場所に出現するとは。
これまた理由は分からないが、これまでの全てを総合して偶然とは到底思えない。
「…………父さん達が補導できずにいるのは、それのせいでしょうか」
「一つの要因としては間違いないのです……」
「ただ、暴走しても痛覚までなくなる訳ではないからナ。どれだけ痛めつけられても屈しないのは、どちらかと言うと暴走の原因に関係しそうだゾ」
暴走の原因、か。それさえ分かれば、一気に解決が近づくのだが。
しかし、これ以上ここで頭を捻っていたところで見当がつくはずがない。
何となく、眉をひそめたくなる原因のような気がしてならないが……。
いずれにしても、まずは捕獲してみなければ始まらないだろう。
「ランブリクから帰って早々に申し訳ないですが、イサクにはこれからすぐにウラバへと飛んで欲しいのです……」
「事態は膠着しているが、長引けば長引く程状況は悪化するだけだからナ」
「……分かりました。では、失礼します」
二人に頷き、一度頭を下げながら学園長室を辞去する。
そのまま校舎を出て、即座に俺は真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉を発動させた。
「……何か便利屋に使われてない?」
空中へと浮かび上がる過程で、フェリトが訝しむように問うてくる。
まあ、確かに。そんな気はしないでもない。
それも救世の転生者の役目だろうし、人外ロリを救うためなら俺は構わないが……。
もしかしたら、移動に便利な複合発露であるルトアさんと接近させたのは、そのためだったのではないかと邪推してしまう部分はある。
「失礼ですよ、フェリト」
と、少し強めに窘めるようにイリュファが言う。
俺は俺で内心似たようなことを考えただけに、微妙に罪悪感を抱いてしまう。
「トリリス様達も救世のために最善を尽くそうとされています。それは間違いありません。イサク様に益があるか、あるいはイサク様にしか解決できない問題以外の無用な仕事を押しつけるようなことは、絶対にあり得ません」
口調はやや早口で、僅かながら必死さが滲んでいる。
……それだけトリリス様達を信頼しているということだろう。
「ご、ごめん、イリュファ。言ってみただけよ」
その勢いに押され、若干戸惑い気味に謝るフェリト。
サユキのイリュファに対する態度もそうだが、どうにもイリュファと他の皆との間には、普段は隠れているものの壁のようなものが存在する。
そして、それは時折こういうふとした瞬間に表れてくるのだ。
この謎は何年経っても解けずにいる。
ともあれ、俺も心の中でちょっと同調していたのに、彼女だけ名指しで怒られる形になったのは少々可哀想だ。
こちらは俺がフォローしておこう。
「まあ、でも、さすがに今日はちょっと忙し過ぎたしな。後で何か手当とか要求しても罰は当たらないんじゃないか」
「予定外の仕事ではありますからね。恐らく、緊急指名依頼に色をつけた手当が出ると思いますよ。その辺り、あの方達はしっかりしていますので」
「そっか。じゃあ、それでまた焼肉でも食べに行こうか。な、フェリト」
「いいわね。また豚トロ食べたかったのよ」
以前食べたのが気に入ったのか、嬉しそうに言うフェリト。
彼女もイリュファとは五年以上のつき合いだけに、その微妙な距離感については重々承知している。長々と引きずることはない。
「なら、そのためにも、しっかり役目を果たさないとな」
そんな彼女と共に自分に対して言い聞かせるように言い、気持ちを切り替えてホウゲツ学園の上空から父さんと母さんが待つウラバの方向を見据える。
「さて、行くか」
そして俺は、日の落ちた薄暗い空に電光を散らしながら、目的地へと急いだのだった。
急ぎ学園長室の前まで向かい、扉を叩きながら到着を知らせる。
「入っていいゾ」
返事を受けて中に入ると、若干いつもとは違う張り詰めた空気が感じられた。
まさか深刻な状況なのかと警戒し、緊張感が高まる。
「随分と遅かったナ」
「す、すみません。ルトアさんと擦れ違ってしまって」
「知っているゾ」
そう言えば、トリリス様はこのホウゲツ学園内の出来事をほぼリアルタイムで把握することができるのだったか。
なら、俺の正確な居場所ぐらい教えて上げてもよかっただろうに。
「お前が学園の外に向かったのは、ルトアに指示を出した後だったのだゾ。気づいた時にはルトアも補導員事務局を出ていたしナ」
俺の微妙な表情から考えを読んだのか、言い訳っぽく説明をするトリリス様。
その辺も含めて完全にタイミングが悪かったようだ。
状況的に仕方がなかろうに、随分と遅いなどと彼女が文句を言ってきたことについてはスルーしておく。いつもの悪い癖に違いない。
「ウラバでの緊急依頼についてと聞きましたけど」
なので、俺は学園長用の机の傍に控えるディームさんに視線を向けながら問うた。
トリリス様には申し訳ないが、今回は悠長に彼女の道楽の相手をしている気分ではない。話が早いディームさんだけが頼りだ。
「イサクは少し焦り過ぎなのです。ジャスターもファイムも、勿論シニッド達もガイオ達も、別の斡旋所で依頼を受けた補導員達も全員無事なのです……」
とりあえず一番の心配を解消してくれる言葉を貰い、安堵の溜息をつく。
その辺の気遣いはトリリス様にはできないな。
さすがはディームさんだ。
「……いくら何でも、ジャスター達がやられる程の緊急事態ならワタシ達自身が直接イサクのところに伝えに行くゾ」
心の内で行った比較が表情に出ていたのか、心外そうに告げるトリリス様。
まあ、それもそうだ。
それもそうなのだが、だとしたら、この呼び出しは一体どういう理由だと言うのか。
「俺を呼んだのは?」
「無論、お前の手を借りたいからだゾ」
「今回暴走した少女化魔物達は常識からかけ離れた厄介なタイプらしく、ジャスター達も苦戦しているのです。恐らく、通常の形での補導は不可能なのです……」
「ええと、暴走の原因とかも分からないんですか?」
「不明なのです。出自も分からないぐらいなのです……」
「余りホウゲツには発生しないタイプだからナ」
どこにでも生じる魔物もいれば、特定の環境下でしか生まれない魔物もいる。
人間の思念の産物である以上は、そこもイメージによって左右される。
そして、それはそのまま少女化魔物にも適用される訳だ。
が、今回の少女化魔物はそれに該当しない例外ということになるらしい。
そういう意味でも今回は異常な事態のようだ。
少女化魔物の多くは、たとえ複合発露を発動した状態であっても、見た目だけでは中々基になった魔物が何なのか分からないが……。
余程分かり易い複合発露だったのだろう。
「ついては、イサクにはウラバに行って彼女らを捕獲して貰いたいのだゾ」
「捕獲、ですか? 補導ではなく」
「ディームが言った通り、今回ばかりは通常の形での補導は難しいからナ。まず暴走による被害をなくす。話はそれからだゾ」
暴走の原因も不明となれば、それを解消して鎮めるのはほぼ不可能。
となると、もはや力の差を見せつけて心を折るしか術はない。
しかし、それに関しては一日の長がある父さん達やシニッドさん達でさえ苦戦しているということなら、その方向でも鎮圧は難しいということ。
確かに、補導の難易度は極めて高いと言わざるを得ない。
捕獲して暴走の原因を探ってからというトリリス様の考えは妥当だ。
俺としても、余程のことがない限りは人外ロリに暴力を振るいたくはないしな。
何にせよ、そういった状況にあって尚、少女化魔物を殺すという選択肢がない辺りはさすが少女祭祀国家ホウゲツと言うべきだろう。
「少女化魔物の詳しい情報は?」
「トロールの少女化魔物が数体、その他にサラマンダーの少女化魔物、グールの少女化魔物、ワームの少女化魔物、ウロボロスの少女化魔物。いずれも完全な魔物形態への変化と共に生命力、再生力を極限まで高める複合発露を持つようなのです……」
「多っ!!」
何体もとは朝に聞いていたが、精々片手で数えられるぐらいだと思い込んでいた。
「そこも奇妙な部分だゾ」
俺のリアクションに割と真面目な顔で頷くトリリス様。
その反応を見るに、それに関してもまた原因不明のようだ。
しかし、異常事態が余りにも重なり過ぎているな。不自然な程に。
「と言うか、生命力や再生力を高める複合発露、ですか?」
分からない部分は一旦棚上げにし、一度ディームさんが告げた内容に立ち返って首を傾げながら問い気味に繰り返す。
「全員が?」
「全員が、なのです……」
ディームさんからの返答に、思わず腕を組んで考え込む。
たとえ共通して生命力や再生力が高い性質を持っていたとしても、それらの魔物には別の特徴、逸話だって存在しているはず。
同じ魔物由来の少女化魔物でも別の側面が複合発露化することがあるのに、異なる少女化魔物がこうも揃って同じ系統の複合発露を持ち、尚且つ同じ場所に出現するとは。
これまた理由は分からないが、これまでの全てを総合して偶然とは到底思えない。
「…………父さん達が補導できずにいるのは、それのせいでしょうか」
「一つの要因としては間違いないのです……」
「ただ、暴走しても痛覚までなくなる訳ではないからナ。どれだけ痛めつけられても屈しないのは、どちらかと言うと暴走の原因に関係しそうだゾ」
暴走の原因、か。それさえ分かれば、一気に解決が近づくのだが。
しかし、これ以上ここで頭を捻っていたところで見当がつくはずがない。
何となく、眉をひそめたくなる原因のような気がしてならないが……。
いずれにしても、まずは捕獲してみなければ始まらないだろう。
「ランブリクから帰って早々に申し訳ないですが、イサクにはこれからすぐにウラバへと飛んで欲しいのです……」
「事態は膠着しているが、長引けば長引く程状況は悪化するだけだからナ」
「……分かりました。では、失礼します」
二人に頷き、一度頭を下げながら学園長室を辞去する。
そのまま校舎を出て、即座に俺は真・複合発露〈裂雲雷鳥・不羈〉を発動させた。
「……何か便利屋に使われてない?」
空中へと浮かび上がる過程で、フェリトが訝しむように問うてくる。
まあ、確かに。そんな気はしないでもない。
それも救世の転生者の役目だろうし、人外ロリを救うためなら俺は構わないが……。
もしかしたら、移動に便利な複合発露であるルトアさんと接近させたのは、そのためだったのではないかと邪推してしまう部分はある。
「失礼ですよ、フェリト」
と、少し強めに窘めるようにイリュファが言う。
俺は俺で内心似たようなことを考えただけに、微妙に罪悪感を抱いてしまう。
「トリリス様達も救世のために最善を尽くそうとされています。それは間違いありません。イサク様に益があるか、あるいはイサク様にしか解決できない問題以外の無用な仕事を押しつけるようなことは、絶対にあり得ません」
口調はやや早口で、僅かながら必死さが滲んでいる。
……それだけトリリス様達を信頼しているということだろう。
「ご、ごめん、イリュファ。言ってみただけよ」
その勢いに押され、若干戸惑い気味に謝るフェリト。
サユキのイリュファに対する態度もそうだが、どうにもイリュファと他の皆との間には、普段は隠れているものの壁のようなものが存在する。
そして、それは時折こういうふとした瞬間に表れてくるのだ。
この謎は何年経っても解けずにいる。
ともあれ、俺も心の中でちょっと同調していたのに、彼女だけ名指しで怒られる形になったのは少々可哀想だ。
こちらは俺がフォローしておこう。
「まあ、でも、さすがに今日はちょっと忙し過ぎたしな。後で何か手当とか要求しても罰は当たらないんじゃないか」
「予定外の仕事ではありますからね。恐らく、緊急指名依頼に色をつけた手当が出ると思いますよ。その辺り、あの方達はしっかりしていますので」
「そっか。じゃあ、それでまた焼肉でも食べに行こうか。な、フェリト」
「いいわね。また豚トロ食べたかったのよ」
以前食べたのが気に入ったのか、嬉しそうに言うフェリト。
彼女もイリュファとは五年以上のつき合いだけに、その微妙な距離感については重々承知している。長々と引きずることはない。
「なら、そのためにも、しっかり役目を果たさないとな」
そんな彼女と共に自分に対して言い聞かせるように言い、気持ちを切り替えてホウゲツ学園の上空から父さんと母さんが待つウラバの方向を見据える。
「さて、行くか」
そして俺は、日の落ちた薄暗い空に電光を散らしながら、目的地へと急いだのだった。
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