ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

122 元気のない子供達

「あー、腹が減ったな」

 補導員事務局を後にし、時計塔を見て時間を確認するとそろそろ晩飯時。
 そう意識し出すと途端に腹が自己主張をし始める。
 昼食は一応、影の中の空間にサユキ達が持ち込んでいた軽食で済ませてはいたが、大分複合発露エクスコンプレックスや祈念魔法を酷使したからか、いつにも増して空腹感が強い。

「さて、今日は何を食べるかな」

 外食ばかりでは栄養が偏ってしまうので最近はイリュファに用意して貰ったりもしているが、さすがに今から用意させるのは忍びない。
 久し振りに職員用の食堂でも利用しようと、そちらの方へと顔を上げて歩き出す。
 丁度そのタイミングで――。

「ん?」

 視界の端の辺りにセト、ダン、トバルの三人とラクラちゃんの姿がよぎったような気がして、俺は立ち止まって目を凝らした。
 位置的には結構遠く。身体強化を常時発動しているからこそ見える距離。
 しっかり焦点を合わせると間違いなく弟達だと確認できた。細かい表情も分かる。

「…………何だか皆、浮かない顔をしてるな」

 特に、セトとラクラちゃんが一際暗い。
 トバルも似たような雰囲気を醸し出しているが、この二人よりはマシだ。
 対照的に、ダンの様子は他の三人とは少々毛色が違う。
 どこか余裕をなくしている風のセト達を心配しつつも、その解決のために何をどうすればいいか分からなくて困っている、という感じだ。
 しかし、いずれにせよ。方向性も大小も色々ではあるだろうが、四人が四人共、悩みの真っ只中にいることは間違いない。

「……こんなことじゃ、兄貴分失格だ」

 そんな彼らの姿を目の当たりにして、俺は慙愧の念と共に呟いた。
 忙しさにかまけ、最近セト達を見ていてやることができなかった。
 先達として後進の規範たらんとする者が全く以って情けない。
 こんなことでは、お目付役として送り出してくれた母さん達に申し訳が立たない。
 両親が受けた緊急依頼について心配する前に、まずはやるべきことをやらなければ。

「よし」

 忸怩たる思いを一旦全て吐き出すように、自分の頬を両手で挟み込むように張る。
 それから俺は、駆け足気味にセト達の下へと向かった。
 別に驚かせたい訳ではないので無造作に。
 そんな状態で接近すれば、俺と同じように常時身体強化を発動しているセト達なら即座に気配を察せられるはずだが……。
 割と傍まで来ても、全く俺に気づかない。
 まさか、あれだけヨスキ村の訓練で叩き込まれておきながら身体強化を解除しているはずもなし、各々悩みごとで視野が狭まっているのだろう。

「セト、ダン、トバル。それとラクラちゃん」

 そう呼びかけてようやく、彼らはハッとしたように俺を見る。

「おに……兄さん……」

 しかし、すぐに返ってきた反応はその一言のみで、セトもトバルもラクラちゃんも複雑そうな表情を浮かべながら視線を逸らして黙り込んでしまった。

「あんちゃん、どうしたの?」

 そんな三人の代わりに、最も普段との齟齬が小さいダンが少し遅れて問いかけてきた。

「いや、ちょっと見かけたから。四人で自習でもしてたのか?」
「うん、まあ……」

 セト達の様子を窺いながら言葉を濁すダン。
 またも会話が途切れてしまい、ちょっと嫌な沈黙が降りる。
 悩みがあるにしても、さすがに中身を話して貰わなければ対処のしようがない。
 俺は読心能力を持つエスパーではないのだから。
 一応この世界には、祈念魔法という前世で言えば特殊能力っぽいものもあるが、さすがに心の声を読むことはできない。複合発露ならあり得るが……。
 祈念魔法を使うとすれば、精神干渉系の力で強制的に自白させる形になる。論外だ。
 とにもかくにも、自分の意思で相談して貰える状況を作らなければならない。

「……四人共、もう晩御飯は食べたか?」
「え? まだだけど」
「そうか。じゃあ、たまには学園の外に食べに行こうか」
「でも、お金が……」
「心配するな。嘱託補導員としての給料が出たばかりだ。俺が奢ってやる」
「ホント!?」

 俺の言葉に嬉しそうに声を高くするダン。
 学食に少し飽きてきていたのだろう。
 しかし、すぐに彼は、少し慌てたように口を手で押さえながら他の三人を盗み見た。
 ……ダンに関しては、もう間違いなくセト達の悩みだけが原因だな。

「何だか皆、元気がなさそうだから、鰻重でも食いに行くか」
「う、鰻重!?」

 一瞬にしてセト達への配慮を忘れ、反射的に食いつくダン。
 ちょっと薄情な感もあるが、その反応は仕方がないことだ。
 この世界でも精がつく食べ物として有名なウナギは、ヨスキ村でも定期的に食べられていた。彼にとっても程々に馴染み深く、好物の一種であることは間違いない。
 だが、学園都市トコハに来てみれば、鰻重は高級料理。
 ヨスキ村にいる親達は皆が皆、高給取りだったからこそ食卓によく出てきていただけの話で、今となっては手の届かない高嶺の花もいいところだ。
 好物という以上に美化していても不思議ではない。

「あ、あの。そんな高いものを奢って貰う訳には……」

 だからこそ逆に、まだ出会って一ヶ月程度の仲のラクラちゃんは遠慮がちに言う。
 彼女はホウゲツにおける平均的な家庭の出であるため、これが一般的な反応だろう。
 まあ、多分無意識的に手をお腹の辺りへと持っていっている辺り、隠そうとしている願望が見て取れるけれども。
 ……ちょっと意地悪な感じになってしまったかもしれない。

「気にしなくていいよ。セト達と仲よくしてくれてるお礼みたいなものだから」
「でも……」

 ここでその遠慮を通させてしまうと、高価なものをチラつかせるだけチラつかせて取り上げるみたいな形になってしまう。
 それはちょっと酷過ぎる。

「はいはい。子供は遠慮しない」
「え、ちょ、イサクさん!?」

 だから少し強引に、俯くラクラちゃんの背中を押して学園の外へと歩き出す。
 その後を、ダンは嬉々として、セトとトバルは悩みに引きずられて微妙な顔をしながらも鰻重には強烈な魅力を感じているのか素直についてくる。
 人間、悩んでいても腹は減るものだ。

 そのままホウゲツ学園を出て歩くこと少し。
 以前、トリリス様に連れられてシニッドさんと一緒した焼肉屋の近くに出る。
 この辺は結構ランクの高い店が並んでいる場所らしい。
 そして、その中の一つ。
 如何にも老舗という感じの店構えに、ひらがなの「う」の字がウナギ化しているようなデザインの看板がかかった店が目的地だ。
 看板は、間違いなくショウジ・ヨスキか過去の救世の転生者の手によるものだろう。

「こ、こんな店、初めて来た」

 いかにも高級店な雰囲気に、直前で怖気づくダン。セト達も尻込みしている。
 そんな彼らを促すように、俺は躊躇せず中に入った。
 慌てて四人もついてくる。

「すみません。六人ぐらい座れる個室があれば、そこをお願いしたいのですが」
「畏まりました。少々お待ち下さい」

 外見的には二次性徴前の子供だけでの入店だが、特に咎められたり、金の心配をされたりするようなこともなく、奥の掘りごたつ型の個室に案内される。
 実は、嘱託補導員の研修が終わった際にシニッドさんが奢ってくれた店がここだ。
 俺の姿は割と目立っていたから、覚えていたのだろう。
 店長と仲よさげだったシニッドさんが、A級補導員になった祝いということは話していたから、若干情報が古いものの素性も知られている。
 一流の店だけに、その辺の情報も末端の店員まで共有されているのかもしれない。

「特上鰻重、ええと、ひー、ふー、みー……十人前で」

 掘りごたつの席に座り、影の中にいるイリュファ達の分も含めて注文する。
 それを受けた店員が去り、視線をセト達に向けると皆一様に体を強張らせていた。
 店の雰囲気と特上という響きに緊張してしまっているのかもしれない。
 鰻重の場合、この世界でも並、上、特上の違いは量の多い少ないだけなのだが。
 まあ、食べ始めれば、緊張している暇もなくなるだろう。
 ……悩みの内容を探るのも今の内だ。

「そう言えば、あれからレギオはどうなった?」

 まず前座として思い出した風を装って尋ねる。

「……もう復学してて、大人しくしてるよ。気味が悪いぐらいに」

 すると、セト達三人は表情を微妙に変え、それをチラッと見てからダンが答えた。
 話の切っかけに軽く聞いただけだったのだが、どうやら初っ端から掠ったらしい。
 三人の悩みはレギオの騒動に関連したものか。
 いや、よくよく考えれば当然だろう。
 あの後、色々と忙しくてフォローしてやれなかったからな。

「そうか。最後のチャンスを無駄にしないでくれればいいけど」

 とりあえず、ダンの言葉にはそう返しておく。
 勿論、本心からそう願ってもいる。
 この場ではワンクッション入れる目的もあるけれども。

「セト達は、最近どうだ? 学園での生活は」

 そして少し踏み込んで問いかけるが、セト達は俯くのみ。
 悩みごとがあるのが丸分かりの反応だ。
 なのに無言。
 …………まどろっこしい。
 ハッキリ言って、子供達が思い悩む表情など長く見ていられない。
 半端に促すような下手な駆け引きはやめだ。
 弟達相手にすることじゃない。だから――。

「悩みがあるなら俺が解決の手伝いをする。力になる。何かあるなら話してくれ」

 軽い問いとは口調を一変させ、真剣な声色で率直に告げる。
 それでも尚、セトとトバルは俯いたままでいたが……。
 割と真っ直ぐな性格のラクラちゃんは、本気の言葉には真正面から応じなければならないとでも考えたのか、顔を上げて頷いた。

「その、ボク――」

 そして彼女は、躊躇いを残しながらも、己の悩みの種について話し始めたのだった。

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