ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~

青空顎門

068 初補導完了

 補導した水精の少女化魔物ロリータを待機していた職員に託し、どこか心細げに振り返りながら連れていかれる彼女を安心させようと姿が見えなくなるまで微笑みと共に見送る。
 これで一先ず補導員としての俺の役目は終わり。
 彼女は俺の手を離れ、少女祭祀国家ホウゲツの国民として教育を受けることになる。
 これから始まる新たな生活の中で、彼女らしい生き方と幸せを得られるように祈ろう。

「はい。これで手続き完了です。お疲れ様でした」

 それからルトアさんに指示されるがまま記入した書類を提出し、それを以って俺にとって初めての補導は終わりを告げた。
 とりあえず滞りなく仕事を終えられたことに一安心し、ホッと一息つく。

「それにしても凄いですね!! 初日からちゃんと補導に成功するなんて!!」

 事務処理も区切りがついたのか、俺を褒め称えながら受付から出てくるルトアさん。
 何だか、いきなりアクセル全開で興奮気味だ。
 手続中は落ち着いていたはずだが、我慢でもしていたのか。

「しかも相手は脅威度Aの暴走した少女化魔物ですよ!! なのに、彼女には怪我を負ってるような様子も、怯えた様子も全くなかったですし!!」
「いや、あのルトアさん」
「あそこまで少女化魔物への思いやりのある補導をその歳でできるなんて、イサク様は補導員になるために生まれてきたような方です!!」
「落ち着いて下さい。後、近いです」

 俺の言葉も耳に届いていないかのように捲くし立てるルトアさんは、顔を突き合わせるようにしながらキラキラとした橙色の瞳を向けてくる。
 全身で表すような曇りのない称賛は、むず痒くなるばかりだ。

「ルトア。少し離れなさい」
「ひゃわ!?」

 と、影の中から出てきたイリュファが、背後から彼女の肩を掴んでグイッと引き離す。
 完全な不意打ちだったからか、ルトアさんはビクッと身を縮こまらせた。
 絵に描いたような驚き方だ。

「え、ええと、確かイリュファさん。ごめんなさい、興奮しちゃいました」

 と、ルトアさんはえへへと誤魔化すように笑いながら謝る。
 朝の印象通り、何とも文句を言う気をなくさせる笑顔だ。正直ずるい。

「でも、本当に凄いですよ! イサク様は!」
「当然です。イサク様ですから」

 尚も褒め続けるルトアさんに、我がことのように胸を張るイリュファ。
 とりあえず、必要以上に迫ってきさえしなければ過剰な称賛は構わないらしい。
 いや、過剰などとはこれっぽっちも思っていない風だ。
 俺的には無駄に持ち上げられるこの空気を何とかして欲しかったのだが……。
 望むべくもなく、イリュファはそうとだけ言うと影の中に戻っていってしまった。

「シニッド様もそう思いますよね!?」

 更に、彼にまで同意を求め始めるルトアさん。

「ああ……まあな」

 対して、シニッドさんは少し歯切れの悪い同意を口にする。
 ちょっと違う態度に、思わず少しホッとしてしまう。
 だが、そんな彼の反応にルトアさんは不満げに唇を尖らせた。

「何か問題でもあるんですか?」
「いや、ねえよ。ねえから困ってんだよ」
「どういうことですか?」
「アロンの奴でも一週間はかかった。だから今回もそのつもりで考えてたんだが……」

 シニッドさんは、自身の禿頭を磨くように手で擦りながら一度言葉を切った。
 本来は、実践の中で悪い部分を徐々に修正していく予定だったのだろう。

「実際、補導の手順は完璧だった。初日にして大概の補導員より余程優秀と言っていい」
「じゃあ、もう合格ですか!? 一日目にしてA級補導員誕生ですか!?」
「その判断がな……。何分、俺も初めてのことだからよ」

 ルトアさんの問いに、シニッドさんは心底困ったように渋い顔をしながら続ける。

「実力も既に一級品。ルトアが言った通り、少女化魔物への思いやりもあるからホウゲツ学園の嘱託補導員としての心構えも十分だ。……配慮し過ぎな嫌いもあるが」
「なら、やっぱり合格でいいじゃないですか。正式な嘱託補導員が増えるのは、学園的には大助かりでしょうし。……あ! もしかしてライバルが増えるのは困るとか?」
「んな訳ねえだろ」
「ひいっ!」

 ドスの利いた声と共に強面の彼に凄まれ、今にも失禁してしまいそうなぐらいに体を震わせて顔を青ざめさせるルトアさん。

「すみませんすみません! 調子に乗りましたすみません!」

 彼女は涙目になりながら何度も頭を下げた。
 自業自得な感もあるが、妙に同情心を抱かせる。ある意味、困った子だ。

「「シニッド」」

 と、先に土精の少女化魔物と共に戻ってきていて処理を済ませて事務局で待機していたウルさんとルーさんが、窘めるように彼の名を呼ぶ。

「ああ……悪かった。睨んじまって」

 そんな伴侶二人の言葉に、シニッドさんはばつが悪そうな顔をして頭を下げた。

「けどな。優秀な補導員が増えて悪い事なんざねえ。むしろ足りねえぐらいだ。前回の救世の転生者が去ってから百年。キナ臭い噂も色々と耳に届いてきてるからな」
「で、ですよね。……あれ? でも、それなら尚更、合格で問題ないんじゃないですか?」
「お前が思う以上に、この仕事は経験って奴が大事なんだよ。普通はな」

 彼はそう言いながら、俺に尚のこと困ったような目線を向けた。
 実際、一日で研修終了とか普通の仕事でも正直どうかとは思う。
 どれだけ優秀な新人であれ。
 不安になる。
 頭の固い、極めて凡人的な考えかもしれないが。

「ただ……コイツの場合、何か妙に悟ってるっつうか、熟してるっつうか。とっとと合格をくれてやった方がいい気もすんだよ。既成概念に囚われた指導は、逆効果っつうかな」

 理屈や感情と直感の差が大きいのか、躊躇うような素振りを見せるシニッドさん。
 迷いの理由と言えば、一つはそれこそ固定観念。
 何よりも大きいのは、アロン兄さんが行方不明になった事件だろう。
 慎重になるのも理解できなくはない。
 加えて、兄さんへの罪悪感もあって俺をしっかり指導してやろうと決心したにもかかわらず、こんなにも早く一人前と認めるのは不誠実だとも感じているのかもしれない。
 実態はともかく、放り出すようで。

 とは言え、所詮合格不合格など名目上の話でしかない。
 重要なのは、今後実際にどのように行動するかだろう。

「今日かいずれの日にか合格を頂いたとしても、可能であればシニッドさんにはアドバイスを、時によっては手助けを頂きたいのですが」

 救世という使命を果たす上でも、彼のような実力者との繋がりは大事にすべきだ。

「…………まあ、たとえ新人研修を終わらせても、別にサポートしてやることはできるか」

 そんな俺の言葉に、シニッドさんは自分を納得させるように呟く。
 感情の落としどころとしては、妥当なところだったようだ。

「イサク。自分の弱点は把握してるな」
「はい」
「冷静に相手の特性を見極め、無茶はするな。ヤバそうなら必ず俺や誰かを頼れ。安全無事に補導することは、自分のためだけじゃなく少女化魔物のためにもなるんだからな」
「はい。肝に銘じます」
「なら……たった一日だけの仮身分証だったが、卒業だ。今後は俺も正式な補導員として扱わせて貰う。だが、先輩として口出しはするからな。鬱陶しいと思われようとな」
「いえ。是非、お願いします」
「……やっぱり調子が狂うな。アロンの時より妙に気疲れするぜ」

 シニッドさんは本当に疲れたように嘆息しながら、そわそわしているルトアさんを見た。

「ともかく、そう言う訳だ」
「はい! イサク様、少々お待ち下さい! 正式な身分証を作りますので!」

 と、彼女は待ってましたと言うように、意気揚々と受付の内側に駆け込んでいった。
 しばらく慌ただしく作業をし、新しい名刺ぐらいのプレートを手に戻ってくる。

「これがA級補導員の身分証です!!」

 俺はルトアさんが差し出してきたそれを受け取り、両面を確認した。
 仮の身分証よりもしっかりと作られているようで、A級補導員という文字や俺の名前と共にホウゲツ学園の学園章も彫り込まれている。
 それらを囲むように凝った意匠も施されており、正式版であることを強く感じさせる。
 この世界において一つの社会的地位を確立できた実感が湧き、少し気分が高揚する。

「イサク様! これからのご活躍、心からお祈り致します!!」

 ルトアさんはそう続けながら眩しい笑顔を向けてくれる。
 営業スマイル感のない彼女自身も嬉しそうな表情。
 他意のない純粋な期待が感じられ、やる気が出てくる。
 嘱託補導員事務局の受付嬢は彼女の天職かもしれない。

「あ、そうだ。トリリス様からご伝言があったんでした」

 ちょっと間を置き、それから忘れてたとばかりにポンと手を叩くルトアさん。
 これに関してはちょっとばかし演技っぽいが、そこはご愛嬌ということにしておこう。
 それより、あの自発的トラブルメーカーとでも言うべき学園長様の話だ。
 心して聞かなければ、どんな災難が舞い込んでくるか分からない。

「ええと……伝言、ですか?」
「はい。五日後に学園長室に来て欲しいとのことでした」

 警戒しながら問うと、伝えられたのは普通の内容。
 その普通さがむしろ不審な気持ちを余計に強くさせるが……。

「恐らく面会の用意ができたのでしょう」

 イリュファに影の中から言われ、納得する。
 早くて一週間と言っていたが、丁度一週間。
 スケジュールの都合がついたようだ。

 面会の相手は、少女祭祀国家のトップと言って過言ではない奉献の巫女ヒメ様。
 お忍びと言っていたが、そんな立場の人間ならば時間を作るのも一苦労だろう。
 各所との調整は必要不可欠だ。
 恐らく一週間というのは異例中の異例の早さに違いない。

「何のことだか知らねえが、あの学園長の用事だ。碌なことじゃねえだろう」

 一連の話を聞いて、事情を知らないシニッドさんは同情気味に言う。
 まあ、緊張はするが、さすがに国のトップ。
 トリリス様のような変な性格ではないはずだ。きっと。

「ま、今日のところは飯でも食いに行こうぜ。正式にホウゲツ学園の嘱託補導員になった祝いだ。俺が奢ってやる」
「本当ですか? ありがとうございます」

 いずれにしても五日後のこと。
 今から変に気を揉んでいても仕方がない。
 今日はシニッドさんの厚意に甘えて、遠慮せずに御馳走になるとしよう。

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