ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~
047 一年後のとある別れと
「今日までありがとうございました」
村の出入り口。結界の手前。
一人の少女化魔物が、集まった村人達に頭を丁寧に下げた。
二年前の襲撃の際に人間至上主義組織スプレマシーの手駒として隷属させられ、この村を襲った少女化魔物の内の一人。亜人の少女化魔物であるインシェさんだ。
隷属の矢で操られていた心の傷、人間不信を癒すためにこの二年、リハビリしてきた彼女が今日、村を離れて都市に向かうことになったので皆で見送りに来たのだ。
「インシェ。また会おうね」
同じくあの襲撃の日から村で共に過ごしてきたアラクネの少女化魔物、トリンさんが少し寂しそうに言ってインシェさんの手を握る。
それにインシェさんも応え、寂しげな微笑みと共に手を重ねた。
「また」
対照的に、淡泊な言葉と共に小さく手を振るのはアルラウネの少女化魔物のランさん。
やや冷たげな言動とは裏腹に、別れを惜しんでいることは潤んだ目を見れば分かる。
「アタシ達もダン達が都市に行く時にはついてくからさ。その時は四人で飯でも食おうぜ」
ランさんの手を取り、それを自分の手と共にインシェさんとトリンさんが重ねている手に乗せるオーガの少女化魔物ヴィオレさん。
同じ境遇にあった四人。
そんな彼女達が二年も共にいれば、特別な結びつきもできようというものだ。
彼女達はしばらくの間そのまま名残を惜しむように互いの手を感じ合い、それから誰からともなく離れる。
数日前から分かっていたこと。心の準備は当然していたはず。
それでも直前になると感情が揺れたようだが、改めて気持ちの整理がついたようだ。
もう誰の表情にも寂しさの気配は残っていなかった。
友の新たな門出だ。湿っぽい別れは相応しくない。
「ファイム様」
そうして三人への挨拶を済ませると、インシェさんがこちらに近づいてきた。
それから俺の隣にいる母さんに頭を下げる。
「ファイム様。ジャスター様に申し訳ありませんでしたとお伝え下さい。二年もの間、この村に置いて下さったのに恩返しもできず」
「構わぬ。元々こちらの我侭に過ぎんからな」
インシェさんの謝罪に母さんは首を横に振る。
彼女達をこの村に置いたのは、あくまでも彼女達自身が傷を癒すためだ。
ただ、村の大切な子供達三人が狙われたこともあり、可能ならば護衛のような役割を担って欲しかったという気持ちがあるのは事実ではある。
「ですが、私一人だけ去ることになって……」
尚も申し訳なさそうに視線を下げるインシェさん。
実際、他の三人は村の期待通り、子供達の護衛を行うことを了承してくれていた。
それだけに一人期待を裏切ったと心苦しく思っているのだろう。とは言え――。
「罪悪感など抱かなくともよい。それぞれが自らの心に従い、選択した結果こうなっただけのことじゃ。人の感情に由来する妾達。思いのまま生きるのが正しき道じゃろう」
母さんの言う通り、気に病む必要はない。
三人に特に感謝することはあっても、インシェさんを責めることなどあり得ない。
この村では誰もそんなことはしない。
そもそもインシェさんも最初は鍛錬に参加してくれていた。
しかし、性格が決定的に荒事向きではなく、どうしてもうまくいかなかった。
人には向き不向きがあるのだから、こればかりは仕方がないことだ。
彼女が最低限の護身術を身につけられたことを喜ぶべきだろう。
「ですが、セト様は……」
弟の名を口にしながら言葉を濁すインシェさんに、母さん共々困ったような微妙な表情を浮かべてしまう。
勿論、彼女に対して何か思うところがある訳ではない。
「それこそインシェのせいではあるまい。セト自身の心の問題じゃ」
あの襲撃の後、少しの間恐怖が残っていたのか両親から離れなくなっていたセト。
しばらくして普段通りの様子に戻っていたため、余り問題視していなかったが……。
セトとダン、トバルの三人とインシェさん達四人の相性を見るために、ローテーションで少女契約を結んで訓練した時のことだった。
セト一人だけがインシェさん達との連携が全く取れなかった。
彼女達の中の誰か一人という訳でもなく、全員。それも異常な程に。
「もし襲撃の黒幕以外に責められる者がいるとすれば、家族の異変を見過ごしてしまった妾達であろう。気にするな」
悔いるように俯きながら言う母さん。
どうやらセトは、あの襲撃によって少女化魔物というものに一定のトラウマを持ってしまっているようだった。特に真性少女契約を結んでいない少女化魔物に対して。
勿論、会話もできないというレベルではない。
そうだったらイリュファやリクル、フェリト……は影の中にいるからあれだが、彼女達とは家の中で顔を合わせるのだからすぐに気づいていたはずだ。
しかし、少女化魔物と共に戦おうとすると動きが極端に鈍ってしまうのだ。
訓練の時でさえ。
恐らく、根本的な部分で信頼を抱くことができないのだろう。
「セトのことは俺達が何とかしますから」
「イサク様……」
トラウマの解消を目指すにせよ、それ以外の何か妥当な形を作るにせよ。
こればかりは俺達家族が頑張るべき問題だ。
都市に向かい、新たな生活を始めるインシェさんに背負わせるべきものではない。
「だから、ご心配なさらず。母さんが言った通り、心の望むままに幸せを目指して下さい」
落ち込んでフォローできなくなった母さんの代わりに言う。
風を操る複合発露であれば、戦闘以外でこそ色々と役に立つはずだ。
ものを乾かしたり、風車を回して動力を生み出したり。
少なくとも食いっぱぐれることはないだろう。
「……相変わらず不思議な人ですね、イサク様は」
そんな俺の言葉に、フッと肩の力を抜いて微笑むインシェさん。
人外ロリが余りに申し訳なさそうにしているから、つい今生の年齢を忘れて真面目に激励の言葉を口にしてしまった。
まあ、俺も十二歳後半。そろそろ背伸びした子供という感じで誤魔化せるだろう。
ただ、どうもインシェさんの口振りからすると、彼女の前でも以前から年齢不相応な言動を取ってしまっていたようだが……。
「イサク様にも色々お世話になりました」
インシェさんは綺麗な笑みと共に手を差し出してくる。
特に妙な疑いを抱いているような気配はない。
人間不信から脱した彼女に対し、逆に俺がそんな目を向けるのは失礼な話だろう。
そうした思考を気取られないように、笑顔を返しながら手を握る。
「可能なら、またお会いしたいです」
「都市を訪れた時には是非」
少なくとも俺は社交辞令ではない。
実際、俺も一生村を出ない訳ではないのだから、会うこともあるはずだ。
軽く頷き合い、それから手を離す。
「では皆様、今度こそ。ありがとうございました。お達者で」
そうしてインシェさんはその場に集まった全員を見回してから一度礼をし、それから村の外へと歩き出した。新たな生活への決意を示すように振り返ることなく。
それは村のある一日。
一つの別れと、とある少女の旅立ちの日の出来事だった。
村の出入り口。結界の手前。
一人の少女化魔物が、集まった村人達に頭を丁寧に下げた。
二年前の襲撃の際に人間至上主義組織スプレマシーの手駒として隷属させられ、この村を襲った少女化魔物の内の一人。亜人の少女化魔物であるインシェさんだ。
隷属の矢で操られていた心の傷、人間不信を癒すためにこの二年、リハビリしてきた彼女が今日、村を離れて都市に向かうことになったので皆で見送りに来たのだ。
「インシェ。また会おうね」
同じくあの襲撃の日から村で共に過ごしてきたアラクネの少女化魔物、トリンさんが少し寂しそうに言ってインシェさんの手を握る。
それにインシェさんも応え、寂しげな微笑みと共に手を重ねた。
「また」
対照的に、淡泊な言葉と共に小さく手を振るのはアルラウネの少女化魔物のランさん。
やや冷たげな言動とは裏腹に、別れを惜しんでいることは潤んだ目を見れば分かる。
「アタシ達もダン達が都市に行く時にはついてくからさ。その時は四人で飯でも食おうぜ」
ランさんの手を取り、それを自分の手と共にインシェさんとトリンさんが重ねている手に乗せるオーガの少女化魔物ヴィオレさん。
同じ境遇にあった四人。
そんな彼女達が二年も共にいれば、特別な結びつきもできようというものだ。
彼女達はしばらくの間そのまま名残を惜しむように互いの手を感じ合い、それから誰からともなく離れる。
数日前から分かっていたこと。心の準備は当然していたはず。
それでも直前になると感情が揺れたようだが、改めて気持ちの整理がついたようだ。
もう誰の表情にも寂しさの気配は残っていなかった。
友の新たな門出だ。湿っぽい別れは相応しくない。
「ファイム様」
そうして三人への挨拶を済ませると、インシェさんがこちらに近づいてきた。
それから俺の隣にいる母さんに頭を下げる。
「ファイム様。ジャスター様に申し訳ありませんでしたとお伝え下さい。二年もの間、この村に置いて下さったのに恩返しもできず」
「構わぬ。元々こちらの我侭に過ぎんからな」
インシェさんの謝罪に母さんは首を横に振る。
彼女達をこの村に置いたのは、あくまでも彼女達自身が傷を癒すためだ。
ただ、村の大切な子供達三人が狙われたこともあり、可能ならば護衛のような役割を担って欲しかったという気持ちがあるのは事実ではある。
「ですが、私一人だけ去ることになって……」
尚も申し訳なさそうに視線を下げるインシェさん。
実際、他の三人は村の期待通り、子供達の護衛を行うことを了承してくれていた。
それだけに一人期待を裏切ったと心苦しく思っているのだろう。とは言え――。
「罪悪感など抱かなくともよい。それぞれが自らの心に従い、選択した結果こうなっただけのことじゃ。人の感情に由来する妾達。思いのまま生きるのが正しき道じゃろう」
母さんの言う通り、気に病む必要はない。
三人に特に感謝することはあっても、インシェさんを責めることなどあり得ない。
この村では誰もそんなことはしない。
そもそもインシェさんも最初は鍛錬に参加してくれていた。
しかし、性格が決定的に荒事向きではなく、どうしてもうまくいかなかった。
人には向き不向きがあるのだから、こればかりは仕方がないことだ。
彼女が最低限の護身術を身につけられたことを喜ぶべきだろう。
「ですが、セト様は……」
弟の名を口にしながら言葉を濁すインシェさんに、母さん共々困ったような微妙な表情を浮かべてしまう。
勿論、彼女に対して何か思うところがある訳ではない。
「それこそインシェのせいではあるまい。セト自身の心の問題じゃ」
あの襲撃の後、少しの間恐怖が残っていたのか両親から離れなくなっていたセト。
しばらくして普段通りの様子に戻っていたため、余り問題視していなかったが……。
セトとダン、トバルの三人とインシェさん達四人の相性を見るために、ローテーションで少女契約を結んで訓練した時のことだった。
セト一人だけがインシェさん達との連携が全く取れなかった。
彼女達の中の誰か一人という訳でもなく、全員。それも異常な程に。
「もし襲撃の黒幕以外に責められる者がいるとすれば、家族の異変を見過ごしてしまった妾達であろう。気にするな」
悔いるように俯きながら言う母さん。
どうやらセトは、あの襲撃によって少女化魔物というものに一定のトラウマを持ってしまっているようだった。特に真性少女契約を結んでいない少女化魔物に対して。
勿論、会話もできないというレベルではない。
そうだったらイリュファやリクル、フェリト……は影の中にいるからあれだが、彼女達とは家の中で顔を合わせるのだからすぐに気づいていたはずだ。
しかし、少女化魔物と共に戦おうとすると動きが極端に鈍ってしまうのだ。
訓練の時でさえ。
恐らく、根本的な部分で信頼を抱くことができないのだろう。
「セトのことは俺達が何とかしますから」
「イサク様……」
トラウマの解消を目指すにせよ、それ以外の何か妥当な形を作るにせよ。
こればかりは俺達家族が頑張るべき問題だ。
都市に向かい、新たな生活を始めるインシェさんに背負わせるべきものではない。
「だから、ご心配なさらず。母さんが言った通り、心の望むままに幸せを目指して下さい」
落ち込んでフォローできなくなった母さんの代わりに言う。
風を操る複合発露であれば、戦闘以外でこそ色々と役に立つはずだ。
ものを乾かしたり、風車を回して動力を生み出したり。
少なくとも食いっぱぐれることはないだろう。
「……相変わらず不思議な人ですね、イサク様は」
そんな俺の言葉に、フッと肩の力を抜いて微笑むインシェさん。
人外ロリが余りに申し訳なさそうにしているから、つい今生の年齢を忘れて真面目に激励の言葉を口にしてしまった。
まあ、俺も十二歳後半。そろそろ背伸びした子供という感じで誤魔化せるだろう。
ただ、どうもインシェさんの口振りからすると、彼女の前でも以前から年齢不相応な言動を取ってしまっていたようだが……。
「イサク様にも色々お世話になりました」
インシェさんは綺麗な笑みと共に手を差し出してくる。
特に妙な疑いを抱いているような気配はない。
人間不信から脱した彼女に対し、逆に俺がそんな目を向けるのは失礼な話だろう。
そうした思考を気取られないように、笑顔を返しながら手を握る。
「可能なら、またお会いしたいです」
「都市を訪れた時には是非」
少なくとも俺は社交辞令ではない。
実際、俺も一生村を出ない訳ではないのだから、会うこともあるはずだ。
軽く頷き合い、それから手を離す。
「では皆様、今度こそ。ありがとうございました。お達者で」
そうしてインシェさんはその場に集まった全員を見回してから一度礼をし、それから村の外へと歩き出した。新たな生活への決意を示すように振り返ることなく。
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