【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~
第四十二話 再戦 ①幾度目かの最終局面
***
そして今回の雄也もまた。
七星王国王都ガラクシアスの危機に際し、『雄也』によって敷かれたレールの果てにあった進化を以って乗り越え、ようやく最低限の性能を得るに至った。
とは言え、このイベントは実のところ確実に成功する訳でなく、数回に一回程度の割合で失敗して最初からやり直しとなってしまう不確かなものだ。
それでも、この段階に至って初めて(潜在能力を含めた)身体的性能で『雄也』と同程度になるレベルである以上、避けては通れない。
これ以外の手段は今のところ存在しないのだから。
(いずれにせよ、今回は山を越えた。さあ、仕上げに入ろう)
それから、かつてのアテウスの塔を模した偽りの塔を建て、雄也達を待ち構える。
もっとも偽りとは言いながらも補助バッテリーのような機能は有しているため、全くの虚偽と言う訳ではない。アテウスの塔のパーツのようなものだ。
勿論、なくても機能に問題はないが。
いずれにしても、形状は女神アリュシーダに誤認を促す以外の意味はない。
機能に影響しない部分の形状は自由に変えることができる。
特に入口の有無やその位置に関しては自由度が高い。
完全に密閉し、余計な有象無象が侵入しないようにすることも容易い。
雄也達を常に分断させるように調整することも可能だ。計画の確実性を高めるために。
予想外の事態によって計画を崩されることは、特撮に限らず有り触れた話。
いくら警戒してもし過ぎることはない。
(特撮に登場する悪の秘密結社がやらかすような間抜けな失敗はしない。あれも一種の教訓だ。特撮オタクとして、しっかり活かさなければ)
前回と全く同じ条件ならばともかく、互いに能力が向上しているのだ。
これまでの周回との差異は不可避的に生じてしまう。
現に、この塔に取り込まれるように侵入し、今回もまた分断された雄也達のこの時点での位置は大分違う。六体の仲間は既に六大英雄のところに辿り着いている。
その程度なら許容範囲内ではあるだろうが、タイムリープものでは定番のバタフライ効果の懸念もあるし、常に神経を尖らせていなければならない。
「ツナギ、調子はどうだ?」
戦闘を行うために七ヶ所作り出した広間の一つ。
その中央、目線の辺りに一時的に浮かべた映像を以って通路を進む雄也達の動向を確認しながら、『雄也』は隣に立つ存在に問うた。
「問題ありません、お父様」
光の巫女ルキアを苗床に作り出した少女の形をした生体人形、ツナギ。
これもまた計画を万全にするための駒の一つだ。
(……確かに、異常はなさそうだな)
『雄也』はツナギの言葉を即座に信用したりはせず、その体内に埋め込んである魔動器が示す数値を確認してそう判断した。勿論、それ自身の感覚も参考にはしているが。
いずれにしても、ツナギは他の駒とは重要度が全く違うため、その心身の状態は常に万全でなければならない。
何かしらの不具合があれば、その時点で時間跳躍を行う必要がある程だ。
これから雄也には仲間六体と六大英雄の力を取り込ませて更なる進化を促す訳だが、そこまで来ると『雄也』よりも雄也の方がスペックは上となる。
そうでなければ体を奪う意味がないのだから、当然のことだが……。
(毎度のことながら、こればかりはリスク承知で実行する必要がある部分だからな。しかし、失敗は決して許されない)
実戦経験を含め、生きてきた時間の差によって一対一で戦えば『雄也』が勝つ。
とは言え、単純な身体能力は現時間軸の雄也の方が上となることは確かな事実なのだから、万が一ということは十分にあり得る話だ。
故にこのツナギの役割は、そうならないように雄也と戦い、限界まで消耗させること。
そのために性能だけなら『雄也』と同等以上となるように設定しているし、体の崩壊を厭わなければ強化後の雄也と同等以上の力を出すことができる。
ただ、彼女自身の戦闘技術は低いため、『雄也』が操らなければならないが。
「さて、来たようだぞ、ツナギ」
魔動器が映し出す映像の中の雄也は、慎重に慎重を重ねて通路を進み、この広間への入口である扉の前に辿り着いていた。
扉に罠がないか警戒しているようだが、そう間を置かず中に入ってくることだろう。
「準備はいいな」
「はい。お父様」
『雄也』はツナギに集中を促したつもりだったが、彼女は友達を待つ子供のようにソワソワしている。これにとっては、雄也は正に遊び相手なのだ。
最終局面に相応しいとは言えない気楽さだが、こうした性格に作るのが最も効率がいいのだから仕方がないことだ。
特に雄也の戦意を削ぐという点で有用なので、この局面でも窘めることはしない。
そうこうしている内に、広間の扉が一気に開け放たれる。
(さあ、終わりの始まりだ)
「フゥウーハハハハハッ!!」
それに合わせて『雄也』はマッドサイエンティストの如く高笑いをした。
もはやこの段階では演技をする必要性も乏しいが、雄也を煽るには丁度いい。
「ドクター……ワイルド」
「随分とまあ、慎重であったな。笑わせて貰ったぞ」
「……黙れ」
初っ端からこれまでの周回と同じように揶揄すると、これもまた前回と同じように怒りを滲ませた声で雄也は応じる。
繰り返しがあろうとなかろうと、己を怒らせることは赤子の手を捻るよりも容易い。
「そう目くじらを立てるな」
それから更に、眼前の己にフラストレーションを与えるために、前回と同じ流れで雄也の言葉に対して二、三煽るような答えを返してやると――。
「……〈アサルトオン〉」
最終的に言葉を交わしても時間の無駄と雄也は判断したようで、諦めたように小さく息を吐くと、それ以上の対話は無用と告げるように呟いた。
見慣れた構えを取りながら。
《Armor On》
直後、電子音と共に白色の装甲がその全身を覆い、雄也は臨戦態勢を取った。
《Gauntlet Assault》
次いで両手にミトンガントレットを作り出し、拳を固く握り締める。
「ツナギ、今日は貴様の好きなだけこの者と遊ぶといい」
あからさまな敵意を構えに滲ませている自分自身の姿に、『雄也』は内心ほくそ笑みながら目線だけを動かし、ツナギにそう簡潔に伝えた。
「いいんですか? お父様」
と、余り彼女の望みと合致する指示を出してこなかったからか、すぐさまそうしたい気持ちを抑え込みながら確認してくるツナギ。
対して『雄也』は軽く頷いて肯定した。
そして、これで今回のツナギもまた用済みになる。
「悪いけど、長々と遊んでいるつもりはないぞ」
そんなやり取りを前にして、焦燥を滲ませながら雄也は言う。
そこで再び口を開く辺り、我がことながらまだまだ若く甘い。
だからこそ、つけ込まれるのだ。
「ふ、仲間が気になるようであるな」
「……当然だろうが」
「ならば、仲間の様子は常に分かるようにしておいてやるのである」
前回と同じ流れで、雄也がこの広間に入ってくる際に一旦消しておいた映像を再度目線の高さに映し出す。と、それを目の当たりにした雄也は大きく目を見開いた。
「これは……皆」
アイリスには真獣人リュカ。
フォーティアには真龍人ラケルトゥス。
メルとクリアには真水棲人パラエナ。
イクティナには真翼人コルウス。
プルトナには真魔人スケレトス。
ラディアには真妖精人ビブロス。
それぞれがそれぞれと対峙しているはずだが……
「一対一、か」
(ん?)
小さく呟く雄也に違和感を抱く。
前回とは違い、どことなく焦りが少し和らいでしまっている気がする。
その反応を不審に思いながら、『雄也』は改めて映像を横目で見た。すると――。
(何を、苦戦している)
いつもよりもやや早く戦端が開かれ、その戦況は互角。否、六大英雄が押されていた。
これでは雄也を焦らせるつもりが逆効果になってしまう。
(LSデバイスへのアテウスの塔の干渉による副次効果。今まではアイリスのみだったが……さすがに全く同じという訳にはいかないか)
六体と六大英雄。
六属性の魔力吸石をこの時間軸の雄也に吸収させるため、LSデバイスにはアテウスの塔を介してそのための機能を追加してあるのだが……。
その影響により、雄也達の間に魔力や生命力の流れが発生するようだ。
これはアテウスの塔による仲介によって生じる現象らしく遮断することができず、前回もアイリスによってリュカが打ち倒されるというイレギュラーが生じていた。
勿論それだけなら大勢に影響はないが、六体同時にとなると少々面倒だ。
(少し手を加えておくべきか)
だから『雄也』はそう考え、それを実行する演出として(特段必要ない行為ではあるが)パチンと指を一つ鳴らした。
「なっ!?」
直後、映像の中で六大英雄の体がそれぞれ肥大化していき、雄也は驚愕の声を漏らす。
「貴様、何をした!?」
真超越人の過剰進化。
見れば分かる。直接答えを与えずとも、すぐに察するだろう。
その影響で六大英雄達が纏っていた装甲は砕かれ、露出した中身は巨大な異形と化していき、その上から新たな装甲が作られて全身を覆っていく。
そうした様子を見て、雄也は動揺を顕にした。
あれらと一対一では、さすがに分が悪い。そんな考えが頭を過ぎったのだろう。
ツナギとの戦いを前にその反応を見られれば、やった甲斐があるというものだ。
「不甲斐ない六大英雄には活を入れてやらなければな」
更に挑発するように嘲弄の色を濃くして言い放つ。
「貴様っ!」
対して雄也は冷静さを保つことができず、身を乗り出すようにしながら怒気を強めた。
「ふっ」
(これで少しは修正することができただろう)
「では、収穫の時だ」
そして『雄也』はそう演技をやめて素の口調で言うと、ツナギに視線で合図を送った。
それを受けてツナギは少し前に出る。
「今日は最後まで遊ぼうね」
「くっ」
雄也は少女の形をした生体人形を前にして、明らかな逡巡を見せた。
まだ何も罪を犯していない人間ならば、特撮ヒーローの真似ごとをする者として何としてでも救わなければならない。そう考えているに違いない。
そこは『雄也』と雄也の完全なる違いだ。
人間が人間性を失い、人形として役割通りに社会を回していくあの様を見ていない雄也にとってツナギはあくまでも人間なのだ。
『雄也』の感覚からすれば愚かだが、理解はできる。
理解はできるから、存分に利用させて貰う。
その効果は十二分に発揮したようで――。
「……お前は戦わないのか?」
その方が心情的に躊躇なく戦える、という感情がハッキリ滲む言葉を雄也は吐いた。
(我ながら分かり易い)
自分自身の姿であるだけに、内心がバレバレの反応をする様には正直羞恥が湧く。
「そんなにも俺と戦いたければ、ツナギを倒してみせろ。倒せるものならな」
だから『雄也』は、青い時分の己に僅かな苛立ちと共に吐き捨てるように言った。
そして、それを合図とするようにツナギが一歩前に出る。
「アサルトオン」
《Evolve High-Anthrope》
直後、MPドライバーを起動する言葉と共に電子音が鳴り響き、金色の装甲がその華奢な全身を覆っていく。
デザインは『雄也』のマイナーチェンジだ。
「これは……」
変化したツナギの姿を前に、雄也は声色に戸惑いと警戒の色を浮かべた。
その気配から強烈に感じ取ることができるだろう強さに、この憐れな人形を救わなければならないなどという考えがどれだけ甘いことか痛感しているのだろう。
下手をしたら己の信条を捻じ曲げた行動に出なければならないとも考え、再び焦燥をも抱いているに違いない。
仮面によって顔が見えずとも手に取るように分かる。
「呆けてると死んじゃうよ?」
《Gauntlet Assault》
別の可能性の自分が逡巡で身動きできずにいる間に、ツナギは両手にミトンガントレットを作り出し、戦いを促すように構えを取った。
「さ、たくさん遊ぼ?」
人形らしく与えられた感情のまま、無邪気な風に願望を口にしながら。
直後ツナギは広間の床を蹴って遊び相手との間合いを一気に詰め、対する雄也はハッとしたように身構えて攻撃に応じたのだった。
***
そして今回の雄也もまた。
七星王国王都ガラクシアスの危機に際し、『雄也』によって敷かれたレールの果てにあった進化を以って乗り越え、ようやく最低限の性能を得るに至った。
とは言え、このイベントは実のところ確実に成功する訳でなく、数回に一回程度の割合で失敗して最初からやり直しとなってしまう不確かなものだ。
それでも、この段階に至って初めて(潜在能力を含めた)身体的性能で『雄也』と同程度になるレベルである以上、避けては通れない。
これ以外の手段は今のところ存在しないのだから。
(いずれにせよ、今回は山を越えた。さあ、仕上げに入ろう)
それから、かつてのアテウスの塔を模した偽りの塔を建て、雄也達を待ち構える。
もっとも偽りとは言いながらも補助バッテリーのような機能は有しているため、全くの虚偽と言う訳ではない。アテウスの塔のパーツのようなものだ。
勿論、なくても機能に問題はないが。
いずれにしても、形状は女神アリュシーダに誤認を促す以外の意味はない。
機能に影響しない部分の形状は自由に変えることができる。
特に入口の有無やその位置に関しては自由度が高い。
完全に密閉し、余計な有象無象が侵入しないようにすることも容易い。
雄也達を常に分断させるように調整することも可能だ。計画の確実性を高めるために。
予想外の事態によって計画を崩されることは、特撮に限らず有り触れた話。
いくら警戒してもし過ぎることはない。
(特撮に登場する悪の秘密結社がやらかすような間抜けな失敗はしない。あれも一種の教訓だ。特撮オタクとして、しっかり活かさなければ)
前回と全く同じ条件ならばともかく、互いに能力が向上しているのだ。
これまでの周回との差異は不可避的に生じてしまう。
現に、この塔に取り込まれるように侵入し、今回もまた分断された雄也達のこの時点での位置は大分違う。六体の仲間は既に六大英雄のところに辿り着いている。
その程度なら許容範囲内ではあるだろうが、タイムリープものでは定番のバタフライ効果の懸念もあるし、常に神経を尖らせていなければならない。
「ツナギ、調子はどうだ?」
戦闘を行うために七ヶ所作り出した広間の一つ。
その中央、目線の辺りに一時的に浮かべた映像を以って通路を進む雄也達の動向を確認しながら、『雄也』は隣に立つ存在に問うた。
「問題ありません、お父様」
光の巫女ルキアを苗床に作り出した少女の形をした生体人形、ツナギ。
これもまた計画を万全にするための駒の一つだ。
(……確かに、異常はなさそうだな)
『雄也』はツナギの言葉を即座に信用したりはせず、その体内に埋め込んである魔動器が示す数値を確認してそう判断した。勿論、それ自身の感覚も参考にはしているが。
いずれにしても、ツナギは他の駒とは重要度が全く違うため、その心身の状態は常に万全でなければならない。
何かしらの不具合があれば、その時点で時間跳躍を行う必要がある程だ。
これから雄也には仲間六体と六大英雄の力を取り込ませて更なる進化を促す訳だが、そこまで来ると『雄也』よりも雄也の方がスペックは上となる。
そうでなければ体を奪う意味がないのだから、当然のことだが……。
(毎度のことながら、こればかりはリスク承知で実行する必要がある部分だからな。しかし、失敗は決して許されない)
実戦経験を含め、生きてきた時間の差によって一対一で戦えば『雄也』が勝つ。
とは言え、単純な身体能力は現時間軸の雄也の方が上となることは確かな事実なのだから、万が一ということは十分にあり得る話だ。
故にこのツナギの役割は、そうならないように雄也と戦い、限界まで消耗させること。
そのために性能だけなら『雄也』と同等以上となるように設定しているし、体の崩壊を厭わなければ強化後の雄也と同等以上の力を出すことができる。
ただ、彼女自身の戦闘技術は低いため、『雄也』が操らなければならないが。
「さて、来たようだぞ、ツナギ」
魔動器が映し出す映像の中の雄也は、慎重に慎重を重ねて通路を進み、この広間への入口である扉の前に辿り着いていた。
扉に罠がないか警戒しているようだが、そう間を置かず中に入ってくることだろう。
「準備はいいな」
「はい。お父様」
『雄也』はツナギに集中を促したつもりだったが、彼女は友達を待つ子供のようにソワソワしている。これにとっては、雄也は正に遊び相手なのだ。
最終局面に相応しいとは言えない気楽さだが、こうした性格に作るのが最も効率がいいのだから仕方がないことだ。
特に雄也の戦意を削ぐという点で有用なので、この局面でも窘めることはしない。
そうこうしている内に、広間の扉が一気に開け放たれる。
(さあ、終わりの始まりだ)
「フゥウーハハハハハッ!!」
それに合わせて『雄也』はマッドサイエンティストの如く高笑いをした。
もはやこの段階では演技をする必要性も乏しいが、雄也を煽るには丁度いい。
「ドクター……ワイルド」
「随分とまあ、慎重であったな。笑わせて貰ったぞ」
「……黙れ」
初っ端からこれまでの周回と同じように揶揄すると、これもまた前回と同じように怒りを滲ませた声で雄也は応じる。
繰り返しがあろうとなかろうと、己を怒らせることは赤子の手を捻るよりも容易い。
「そう目くじらを立てるな」
それから更に、眼前の己にフラストレーションを与えるために、前回と同じ流れで雄也の言葉に対して二、三煽るような答えを返してやると――。
「……〈アサルトオン〉」
最終的に言葉を交わしても時間の無駄と雄也は判断したようで、諦めたように小さく息を吐くと、それ以上の対話は無用と告げるように呟いた。
見慣れた構えを取りながら。
《Armor On》
直後、電子音と共に白色の装甲がその全身を覆い、雄也は臨戦態勢を取った。
《Gauntlet Assault》
次いで両手にミトンガントレットを作り出し、拳を固く握り締める。
「ツナギ、今日は貴様の好きなだけこの者と遊ぶといい」
あからさまな敵意を構えに滲ませている自分自身の姿に、『雄也』は内心ほくそ笑みながら目線だけを動かし、ツナギにそう簡潔に伝えた。
「いいんですか? お父様」
と、余り彼女の望みと合致する指示を出してこなかったからか、すぐさまそうしたい気持ちを抑え込みながら確認してくるツナギ。
対して『雄也』は軽く頷いて肯定した。
そして、これで今回のツナギもまた用済みになる。
「悪いけど、長々と遊んでいるつもりはないぞ」
そんなやり取りを前にして、焦燥を滲ませながら雄也は言う。
そこで再び口を開く辺り、我がことながらまだまだ若く甘い。
だからこそ、つけ込まれるのだ。
「ふ、仲間が気になるようであるな」
「……当然だろうが」
「ならば、仲間の様子は常に分かるようにしておいてやるのである」
前回と同じ流れで、雄也がこの広間に入ってくる際に一旦消しておいた映像を再度目線の高さに映し出す。と、それを目の当たりにした雄也は大きく目を見開いた。
「これは……皆」
アイリスには真獣人リュカ。
フォーティアには真龍人ラケルトゥス。
メルとクリアには真水棲人パラエナ。
イクティナには真翼人コルウス。
プルトナには真魔人スケレトス。
ラディアには真妖精人ビブロス。
それぞれがそれぞれと対峙しているはずだが……
「一対一、か」
(ん?)
小さく呟く雄也に違和感を抱く。
前回とは違い、どことなく焦りが少し和らいでしまっている気がする。
その反応を不審に思いながら、『雄也』は改めて映像を横目で見た。すると――。
(何を、苦戦している)
いつもよりもやや早く戦端が開かれ、その戦況は互角。否、六大英雄が押されていた。
これでは雄也を焦らせるつもりが逆効果になってしまう。
(LSデバイスへのアテウスの塔の干渉による副次効果。今まではアイリスのみだったが……さすがに全く同じという訳にはいかないか)
六体と六大英雄。
六属性の魔力吸石をこの時間軸の雄也に吸収させるため、LSデバイスにはアテウスの塔を介してそのための機能を追加してあるのだが……。
その影響により、雄也達の間に魔力や生命力の流れが発生するようだ。
これはアテウスの塔による仲介によって生じる現象らしく遮断することができず、前回もアイリスによってリュカが打ち倒されるというイレギュラーが生じていた。
勿論それだけなら大勢に影響はないが、六体同時にとなると少々面倒だ。
(少し手を加えておくべきか)
だから『雄也』はそう考え、それを実行する演出として(特段必要ない行為ではあるが)パチンと指を一つ鳴らした。
「なっ!?」
直後、映像の中で六大英雄の体がそれぞれ肥大化していき、雄也は驚愕の声を漏らす。
「貴様、何をした!?」
真超越人の過剰進化。
見れば分かる。直接答えを与えずとも、すぐに察するだろう。
その影響で六大英雄達が纏っていた装甲は砕かれ、露出した中身は巨大な異形と化していき、その上から新たな装甲が作られて全身を覆っていく。
そうした様子を見て、雄也は動揺を顕にした。
あれらと一対一では、さすがに分が悪い。そんな考えが頭を過ぎったのだろう。
ツナギとの戦いを前にその反応を見られれば、やった甲斐があるというものだ。
「不甲斐ない六大英雄には活を入れてやらなければな」
更に挑発するように嘲弄の色を濃くして言い放つ。
「貴様っ!」
対して雄也は冷静さを保つことができず、身を乗り出すようにしながら怒気を強めた。
「ふっ」
(これで少しは修正することができただろう)
「では、収穫の時だ」
そして『雄也』はそう演技をやめて素の口調で言うと、ツナギに視線で合図を送った。
それを受けてツナギは少し前に出る。
「今日は最後まで遊ぼうね」
「くっ」
雄也は少女の形をした生体人形を前にして、明らかな逡巡を見せた。
まだ何も罪を犯していない人間ならば、特撮ヒーローの真似ごとをする者として何としてでも救わなければならない。そう考えているに違いない。
そこは『雄也』と雄也の完全なる違いだ。
人間が人間性を失い、人形として役割通りに社会を回していくあの様を見ていない雄也にとってツナギはあくまでも人間なのだ。
『雄也』の感覚からすれば愚かだが、理解はできる。
理解はできるから、存分に利用させて貰う。
その効果は十二分に発揮したようで――。
「……お前は戦わないのか?」
その方が心情的に躊躇なく戦える、という感情がハッキリ滲む言葉を雄也は吐いた。
(我ながら分かり易い)
自分自身の姿であるだけに、内心がバレバレの反応をする様には正直羞恥が湧く。
「そんなにも俺と戦いたければ、ツナギを倒してみせろ。倒せるものならな」
だから『雄也』は、青い時分の己に僅かな苛立ちと共に吐き捨てるように言った。
そして、それを合図とするようにツナギが一歩前に出る。
「アサルトオン」
《Evolve High-Anthrope》
直後、MPドライバーを起動する言葉と共に電子音が鳴り響き、金色の装甲がその華奢な全身を覆っていく。
デザインは『雄也』のマイナーチェンジだ。
「これは……」
変化したツナギの姿を前に、雄也は声色に戸惑いと警戒の色を浮かべた。
その気配から強烈に感じ取ることができるだろう強さに、この憐れな人形を救わなければならないなどという考えがどれだけ甘いことか痛感しているのだろう。
下手をしたら己の信条を捻じ曲げた行動に出なければならないとも考え、再び焦燥をも抱いているに違いない。
仮面によって顔が見えずとも手に取るように分かる。
「呆けてると死んじゃうよ?」
《Gauntlet Assault》
別の可能性の自分が逡巡で身動きできずにいる間に、ツナギは両手にミトンガントレットを作り出し、戦いを促すように構えを取った。
「さ、たくさん遊ぼ?」
人形らしく与えられた感情のまま、無邪気な風に願望を口にしながら。
直後ツナギは広間の床を蹴って遊び相手との間合いを一気に詰め、対する雄也はハッとしたように身構えて攻撃に応じたのだった。
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