【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~
第二十五話 脱却 ②最後の一人
「はあっ!!」
気合いを共に、絶え間なく大鎚を振り回し続ける。
そうしながら――。
「アトラクト!」
《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》
《Change Therionthrope》《Convergence》
《Change Drakthrope》《Convergence》
《Change Phtheranthrope》《Convergence》
《Change Ichthrope》《Convergence》
《Change Satananthrope》《Convergence》
《Change Anthrope》《Maximize Potential》
「〈五重強襲強化〉」
逐次魔力収束を行い、常時《Maximize Potential》を保って均衡を保つ。
相手が六大英雄の一人たるラケルトゥスである以上、その状態で先手を取ってようやく時間稼ぎができるレベルだ。
それにしたって僅かたりとも動きに無駄が生じれば、そこにつけ込んで崩してこようとするだろう。間違いなく。
「甘いっ!!」
「くっ!」
事実、魔力結石入れ替えの隙を誤魔化さんと振るった大鎚をラケルトゥスに受け止められた上、巧みに軌道を逸らされて体を持っていかれそうになる。
だから雄也は、咄嗟に大鎚から手を離し、その場で踏みとどまった。
逆に、放り捨てられたそれに力を込めていたラケルトゥスは、僅かに体勢を崩す。
《Sledgehammer Assault》
そこを狙い、雄也は即座に再武装した大鎚を叩き込まんとした。
「だから甘いと言っている!!」
しかし、雄也にできることは同じ力を持つラケルトゥスにもできる。
彼もまた大斧を犠牲に立て直し――。
《Greataxe Assault》
低く鈍い電子音と共に、瞬時に武装を構え直して雄也の攻撃を受け止めた。
「変化があるかとつき合ってやったが……結局はったりに過ぎなかったようだな」
《Convergence》
そしてラケルトゥスは嘆息気味に言うと魔力の収束を開始させる。
(っ! まずい!)
対して雄也もまた大鎚を構え、全力の一撃を放たんと備えた。
《Final Greataxe Assault》
《Final Sledgehammer Assault》
重なるように電子音を鳴らし、互いに睨み合う。
《Final Multiple-Wired-Artillery Assault》
と、次の瞬間、やや遠くから別の甲高い電子音が響いてきた。
かと思えば、白銀の砲塔のような物体が複数、空中を滑るように接近してくる。
何者かが操っていると示すかの如く、有線式で蛇のような動きを伴って。
(何だ!?)
一瞬警戒するが、それは雄也の脇を素通りしていった。
そのまま、それぞれが独立した複雑な動きでラケルトゥスへと高速で迫っていく。
「姦しい!」
対する彼は魔力を蓄えた大斧を振るい、その一撃のみで三つ四つと叩き落とした。
しかし、破壊した数以上のそれらが纏わりつき、四肢に絡みついていく。
更にその内の一つがラケルトゥスの腹部に接近し、その砲口部分が接した。
「こんなもの!」
常人ならば眼前の脅威に怯みそうなものだが、さすがは六大英雄と言うべきか。
彼は全く意に介さず拘束を解かんとする。
そもそも属性無効化がある以上、生半可な攻撃は効果がないと高を括っている部分もあるかもしれない。しかし――。
「アージェントアサルトスパークル!」
「なっ!? ぐううぅっ!!」
聞き覚えのある声を合図に砲口から白銀の光が放たれると、ラケルトゥスは苦しげな呻き声を上げた。
直後、真紅の装甲に押し留められたエネルギーが限界を超えたように爆発を起こす。
《Multiple-Wired-Artillery Assault》
その影響でラケルトゥスに絡みついていた有線砲台と言うべき武装の一部も巻き込まれて破壊されてしまったが、電子音と共に再び雄也の周りに補充される。
有線部分の動きが実に生物的で、まるで触手のようだ。
(男の触手プレイなんてゾッとするけどな……)
『ユウヤ。気を抜くな』
と、そんな思考を戒めるようにラディアの声が脳裏に響く。
思った通り彼女だったようだ。
『援護する』
そして、更に続いた言葉に雄也は口角を上げた。
そうしながら大鎚の先端をラケルトゥスに向け、口を開く。
「待たせたな、ラケルトゥス。ここからが本当の勝負だ」
「抜かせ。この程度で調子に乗るな」
「一撃食らっておきながら、負け惜しみを」
「ふん。ならば、出会い頭でないことを証明して見せろ!!」
対してラケルトゥスは、雄也に応じるように大斧の刃をこちらに向けてくる。
「ああ。行くぞ!」
そんな彼へと雄也はそう宣言し、ラディアの援護を受けながら敵へと再び駆け出した。
***
イルミノの元を離れたラディアが、ユウヤ達が今正に襲撃者達と戦っている聖都アストラプステの外郭へと至った時。
ユウヤは六大英雄の一人たるラケルトゥスと、アイリスはフォーティアと対峙していた。
他の面々は足手纏いにならないように離れた位置で戦いを見守っている。
いざとなれば、すぐにでも戦えるように臨戦態勢を取りながら。
戦況はユウヤ、アイリス共に均衡を保っているものの、実力的に互角と言えるアイリスとフォーティアとは対照的に、ユウヤの方はギリギリ食らいついているという感じだ。
そんな中で現れた白銀の装甲を纏ったラディアに、メルクリア達は動揺したように距離を取らんと一歩後退りした。
「メル、クリア。魔動器はアイリスが使っているのだな?」
そんな彼女達に確認の問いを投げかける。
その声でラディアだと理解したようで皆警戒を解き、メルが「はい」と答える。
「よし」
そんな彼女に頷き返し、ラディアはアイリスへと体を向けた。
今はそれ以上の言葉は必要ない。
『アイリス。この場は私に任せてくれ』
そのまま〈テレパス〉でそう伝えると共に――。
《Multiple-Wired-Artillery Assault》《Convergence》
ラディアは魔力を収束させつつ、MPリングの効果を知った日から頭の中で思い描くことだけはしていた武装の一つを展開した。
有線で操る複数の小型砲台。線を介在させずに操作することも不可能ではないが、こと魔力無効化に対しては有線である方がいい。
それを打ち破るには相手と繋がりを作らなければならないのだから。
「〈オーバーパーセプトブースト〉」
同時に、光属性の魔力を全身に行き渡らせて認識能力を強化する。
複数の砲台を的確に操るには、高い処理能力が必要だ。
故に光属性あるいは闇属性を持つ人間でもなければ、この武装は扱えないだろう。
とは言え、プルトナは好みではなさそうではあるが。
何より、この状態で痛みを受ければ通常時とは比べものにならない激痛が主観時間で遥かに長く続く形になる。近接戦闘など正気の沙汰ではない。
「〈マルチオーバーレイ〉!」
故にラディアは遠距離の間合いをしっかり保ちながら、まず複数の砲台をフォーティアの周りに展開して撹乱のために無数の光線を放った。
その意図をしっかり汲んでアイリスは速やかに後退してくる。
ラディアは彼女の代わりに前に出て、すれ違いざまに魔動器を受け取った。
それをそのまま手首にはめつつ、今度は砲台をフォーティアへと突撃させる。
が、当然彼女も一度攻撃方法を見た以上、射線上には入ってこない。
だから、ラディアは包囲するように展開した複数の武装を狭めていき、一瞬撃つ素振りを見せることで回避方向を誘導した。
その上で、砲台のいくつかを直接フォーティアの四肢に巻きつける。
それと共に一つの砲口を彼女の右足に突きつけ――。
《Final Multiple-Wired-Artillery Assault》
「アージェントアサルトスパークル!」
魔動器を起動させつつ収束させた魔力を解き放った。
「ぐ、うう」
接射の形となったその一撃は魔動器の効果を十二分に生かし、魔力無効化を越えてフォーティアにダメージを与えることができたようだ。
操られていながらも、体の反射によってか呻き声が漏れ聞こえてくる。
同時にその影響でフォーティアの動きが鈍り、巻きついた有線砲台の拘束が強まった。
(今が好機!)
だから、ラディアはそう判断し、今度はユウヤの方へと意識を向けた。
《Convergence》
再び魔力を収束させながら。
すると、六大英雄が一人たるラケルトゥスもまた同様に魔力の収束を開始しており、彼らの戦いは互いに必殺の一撃を撃ち込む機会を計る段階に入っていた。
しかし、ユウヤと彼では未だ明確な実力の差が存在する。
真正面から打ち合っては、技量に劣るユウヤが敗北するのは目に見えている。
故にラディアは魔力収束の完了と共にそこに介入し――。
「アージェントアサルトスパークル!」
フォーティアの時と同じように有線砲台を操り、ラケルトゥスに対して一撃を加えた。
それによって彼は僅かに揺らぐ。
『ユウヤ。気を抜くな』
だが、相手はあくまでも六大英雄。それだけで屈することなどあり得ない。
だから時間稼ぎから僅かに解放され、一瞬緊張から解かれたユウヤを窘める。
『援護する』
当然彼もそんなことは百も承知で、ラディアがそう〈テレパス〉を飛ばした時には、仕切り直すように構え直してラケルトゥスと再び向かい合っていた。
「行くぞ!」
そして、そう叫んでラケルトゥスに挑みかかるユウヤと共に、彼を狙う。
しかし、敵は易々と二度目を許してくれる程甘くはない。
ラケルトゥスは周囲に展開するラディアの武装がそういうものだと既に認識し、有線砲台にしっかりと意識を残しながらユウヤと相対していた。
ただ単に二つの力をそれぞれぶつけるだけでは、かつて英雄と謳われた男を打倒することなどできはしない。であれば……。
『ユウヤ。もっと際どく攻めるぞ』
それこそ同士討ちをしかねない程に。ギリギリの勝負に出るしか道はない。
僅かに迷いを抱きつつも、声色には出さずに告げる。
『だが、お前はお前らしく戦え』
ユウヤがこちらに合わせようと意識しては、間違いなくラケルトゥスの攻撃に対応し切れなくなる。ラディアが彼の動きに完璧に合わせなければならない。
そうでなければラケルトゥスを撃退することは不可能だ。
難易度は高い。だが、やらなければならない。
いずれにせよ、そうしなければ落ち着いてフォーティアに処置を施せないのだから。
『了解です』
そうした状況も重々理解しているにしても、それでもやはりリスクが高いと感じられる作戦を、しかし、ユウヤは躊躇なく了承した。
その姿にラディア自身への強い信頼を感じ、何とも胸が熱くなる。
だからラディアもまた逡巡など放り捨て、ユウヤ達の動きに意識を集中したのだった。
***
「仕かけが分かれば、対応は造作もない」
二対一。
ラディアの有線砲台による援護を加えながらラケルトゥスに攻撃を仕かけるものの、全て有効打には程遠い状態が続く。
「所詮は付け焼刃の連携。この程度では届かんぞ」
彼の言う通り、現状では実質手数が多少増えたようなもの。
これでは連携とは呼べない。
そもそも、ああいう類の武装は相当な練度がなければ運用は難しい。
特に前衛で戦う者がいるのなら尚のこと。
練習もなく合わせるなど不可能だ。普通なら。
下手な真似をすれば、それこそフレンドリーファイアが発生しかねない。
「力を得たばかりでは、ここらが限界か」
とは言え、ラケルトゥスの評価は正しくない。
何より妖星王国を出て、後ろ盾もなく一から王立魔法学院の長にまでなったラディアは普通という言葉で括ることなどできはしない。
「それは、どうかな」
確かにラディアが腕輪を身に着けたのは今さっきのことだ。
だが、彼女は全ての始まりの日からその力を目の当たりにしてきたし、雄也の戦い方をよく知っている。
何より、実際に腕輪の所有者になるとなったら腰の引けた発言をしていたものの、彼女は頭の中ではそうなる想定を常にしてきたはずなのだ。何故なら――。
(アージェントアサルトスパークルって……)
雄也に合わせたような技の名前。
耳にしたそれを思い返し、少しだけ頬が緩む。
何も考えていなかった人間が、力を得てすぐにそんなものを持ち出してくる訳がない。
それは雄也にとって彼女の力と意思を信じるに足る十分な証拠だった。
故に『際どく攻める』と告げつつも『お前はお前らしく戦え』と続けたラディアの言葉を受け止め、しかし今は頭の奥深くに押し込めておく。
余計な思考は彼女の邪魔になるだけだ。
「もはや言葉は証明にならん。ならば示せ、力で!」
「言われるまでもない!」
そして雄也は、己の全力を発揮するために無心でラケルトゥスに挑みかかった。
気合いを共に、絶え間なく大鎚を振り回し続ける。
そうしながら――。
「アトラクト!」
《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》
《Change Therionthrope》《Convergence》
《Change Drakthrope》《Convergence》
《Change Phtheranthrope》《Convergence》
《Change Ichthrope》《Convergence》
《Change Satananthrope》《Convergence》
《Change Anthrope》《Maximize Potential》
「〈五重強襲強化〉」
逐次魔力収束を行い、常時《Maximize Potential》を保って均衡を保つ。
相手が六大英雄の一人たるラケルトゥスである以上、その状態で先手を取ってようやく時間稼ぎができるレベルだ。
それにしたって僅かたりとも動きに無駄が生じれば、そこにつけ込んで崩してこようとするだろう。間違いなく。
「甘いっ!!」
「くっ!」
事実、魔力結石入れ替えの隙を誤魔化さんと振るった大鎚をラケルトゥスに受け止められた上、巧みに軌道を逸らされて体を持っていかれそうになる。
だから雄也は、咄嗟に大鎚から手を離し、その場で踏みとどまった。
逆に、放り捨てられたそれに力を込めていたラケルトゥスは、僅かに体勢を崩す。
《Sledgehammer Assault》
そこを狙い、雄也は即座に再武装した大鎚を叩き込まんとした。
「だから甘いと言っている!!」
しかし、雄也にできることは同じ力を持つラケルトゥスにもできる。
彼もまた大斧を犠牲に立て直し――。
《Greataxe Assault》
低く鈍い電子音と共に、瞬時に武装を構え直して雄也の攻撃を受け止めた。
「変化があるかとつき合ってやったが……結局はったりに過ぎなかったようだな」
《Convergence》
そしてラケルトゥスは嘆息気味に言うと魔力の収束を開始させる。
(っ! まずい!)
対して雄也もまた大鎚を構え、全力の一撃を放たんと備えた。
《Final Greataxe Assault》
《Final Sledgehammer Assault》
重なるように電子音を鳴らし、互いに睨み合う。
《Final Multiple-Wired-Artillery Assault》
と、次の瞬間、やや遠くから別の甲高い電子音が響いてきた。
かと思えば、白銀の砲塔のような物体が複数、空中を滑るように接近してくる。
何者かが操っていると示すかの如く、有線式で蛇のような動きを伴って。
(何だ!?)
一瞬警戒するが、それは雄也の脇を素通りしていった。
そのまま、それぞれが独立した複雑な動きでラケルトゥスへと高速で迫っていく。
「姦しい!」
対する彼は魔力を蓄えた大斧を振るい、その一撃のみで三つ四つと叩き落とした。
しかし、破壊した数以上のそれらが纏わりつき、四肢に絡みついていく。
更にその内の一つがラケルトゥスの腹部に接近し、その砲口部分が接した。
「こんなもの!」
常人ならば眼前の脅威に怯みそうなものだが、さすがは六大英雄と言うべきか。
彼は全く意に介さず拘束を解かんとする。
そもそも属性無効化がある以上、生半可な攻撃は効果がないと高を括っている部分もあるかもしれない。しかし――。
「アージェントアサルトスパークル!」
「なっ!? ぐううぅっ!!」
聞き覚えのある声を合図に砲口から白銀の光が放たれると、ラケルトゥスは苦しげな呻き声を上げた。
直後、真紅の装甲に押し留められたエネルギーが限界を超えたように爆発を起こす。
《Multiple-Wired-Artillery Assault》
その影響でラケルトゥスに絡みついていた有線砲台と言うべき武装の一部も巻き込まれて破壊されてしまったが、電子音と共に再び雄也の周りに補充される。
有線部分の動きが実に生物的で、まるで触手のようだ。
(男の触手プレイなんてゾッとするけどな……)
『ユウヤ。気を抜くな』
と、そんな思考を戒めるようにラディアの声が脳裏に響く。
思った通り彼女だったようだ。
『援護する』
そして、更に続いた言葉に雄也は口角を上げた。
そうしながら大鎚の先端をラケルトゥスに向け、口を開く。
「待たせたな、ラケルトゥス。ここからが本当の勝負だ」
「抜かせ。この程度で調子に乗るな」
「一撃食らっておきながら、負け惜しみを」
「ふん。ならば、出会い頭でないことを証明して見せろ!!」
対してラケルトゥスは、雄也に応じるように大斧の刃をこちらに向けてくる。
「ああ。行くぞ!」
そんな彼へと雄也はそう宣言し、ラディアの援護を受けながら敵へと再び駆け出した。
***
イルミノの元を離れたラディアが、ユウヤ達が今正に襲撃者達と戦っている聖都アストラプステの外郭へと至った時。
ユウヤは六大英雄の一人たるラケルトゥスと、アイリスはフォーティアと対峙していた。
他の面々は足手纏いにならないように離れた位置で戦いを見守っている。
いざとなれば、すぐにでも戦えるように臨戦態勢を取りながら。
戦況はユウヤ、アイリス共に均衡を保っているものの、実力的に互角と言えるアイリスとフォーティアとは対照的に、ユウヤの方はギリギリ食らいついているという感じだ。
そんな中で現れた白銀の装甲を纏ったラディアに、メルクリア達は動揺したように距離を取らんと一歩後退りした。
「メル、クリア。魔動器はアイリスが使っているのだな?」
そんな彼女達に確認の問いを投げかける。
その声でラディアだと理解したようで皆警戒を解き、メルが「はい」と答える。
「よし」
そんな彼女に頷き返し、ラディアはアイリスへと体を向けた。
今はそれ以上の言葉は必要ない。
『アイリス。この場は私に任せてくれ』
そのまま〈テレパス〉でそう伝えると共に――。
《Multiple-Wired-Artillery Assault》《Convergence》
ラディアは魔力を収束させつつ、MPリングの効果を知った日から頭の中で思い描くことだけはしていた武装の一つを展開した。
有線で操る複数の小型砲台。線を介在させずに操作することも不可能ではないが、こと魔力無効化に対しては有線である方がいい。
それを打ち破るには相手と繋がりを作らなければならないのだから。
「〈オーバーパーセプトブースト〉」
同時に、光属性の魔力を全身に行き渡らせて認識能力を強化する。
複数の砲台を的確に操るには、高い処理能力が必要だ。
故に光属性あるいは闇属性を持つ人間でもなければ、この武装は扱えないだろう。
とは言え、プルトナは好みではなさそうではあるが。
何より、この状態で痛みを受ければ通常時とは比べものにならない激痛が主観時間で遥かに長く続く形になる。近接戦闘など正気の沙汰ではない。
「〈マルチオーバーレイ〉!」
故にラディアは遠距離の間合いをしっかり保ちながら、まず複数の砲台をフォーティアの周りに展開して撹乱のために無数の光線を放った。
その意図をしっかり汲んでアイリスは速やかに後退してくる。
ラディアは彼女の代わりに前に出て、すれ違いざまに魔動器を受け取った。
それをそのまま手首にはめつつ、今度は砲台をフォーティアへと突撃させる。
が、当然彼女も一度攻撃方法を見た以上、射線上には入ってこない。
だから、ラディアは包囲するように展開した複数の武装を狭めていき、一瞬撃つ素振りを見せることで回避方向を誘導した。
その上で、砲台のいくつかを直接フォーティアの四肢に巻きつける。
それと共に一つの砲口を彼女の右足に突きつけ――。
《Final Multiple-Wired-Artillery Assault》
「アージェントアサルトスパークル!」
魔動器を起動させつつ収束させた魔力を解き放った。
「ぐ、うう」
接射の形となったその一撃は魔動器の効果を十二分に生かし、魔力無効化を越えてフォーティアにダメージを与えることができたようだ。
操られていながらも、体の反射によってか呻き声が漏れ聞こえてくる。
同時にその影響でフォーティアの動きが鈍り、巻きついた有線砲台の拘束が強まった。
(今が好機!)
だから、ラディアはそう判断し、今度はユウヤの方へと意識を向けた。
《Convergence》
再び魔力を収束させながら。
すると、六大英雄が一人たるラケルトゥスもまた同様に魔力の収束を開始しており、彼らの戦いは互いに必殺の一撃を撃ち込む機会を計る段階に入っていた。
しかし、ユウヤと彼では未だ明確な実力の差が存在する。
真正面から打ち合っては、技量に劣るユウヤが敗北するのは目に見えている。
故にラディアは魔力収束の完了と共にそこに介入し――。
「アージェントアサルトスパークル!」
フォーティアの時と同じように有線砲台を操り、ラケルトゥスに対して一撃を加えた。
それによって彼は僅かに揺らぐ。
『ユウヤ。気を抜くな』
だが、相手はあくまでも六大英雄。それだけで屈することなどあり得ない。
だから時間稼ぎから僅かに解放され、一瞬緊張から解かれたユウヤを窘める。
『援護する』
当然彼もそんなことは百も承知で、ラディアがそう〈テレパス〉を飛ばした時には、仕切り直すように構え直してラケルトゥスと再び向かい合っていた。
「行くぞ!」
そして、そう叫んでラケルトゥスに挑みかかるユウヤと共に、彼を狙う。
しかし、敵は易々と二度目を許してくれる程甘くはない。
ラケルトゥスは周囲に展開するラディアの武装がそういうものだと既に認識し、有線砲台にしっかりと意識を残しながらユウヤと相対していた。
ただ単に二つの力をそれぞれぶつけるだけでは、かつて英雄と謳われた男を打倒することなどできはしない。であれば……。
『ユウヤ。もっと際どく攻めるぞ』
それこそ同士討ちをしかねない程に。ギリギリの勝負に出るしか道はない。
僅かに迷いを抱きつつも、声色には出さずに告げる。
『だが、お前はお前らしく戦え』
ユウヤがこちらに合わせようと意識しては、間違いなくラケルトゥスの攻撃に対応し切れなくなる。ラディアが彼の動きに完璧に合わせなければならない。
そうでなければラケルトゥスを撃退することは不可能だ。
難易度は高い。だが、やらなければならない。
いずれにせよ、そうしなければ落ち着いてフォーティアに処置を施せないのだから。
『了解です』
そうした状況も重々理解しているにしても、それでもやはりリスクが高いと感じられる作戦を、しかし、ユウヤは躊躇なく了承した。
その姿にラディア自身への強い信頼を感じ、何とも胸が熱くなる。
だからラディアもまた逡巡など放り捨て、ユウヤ達の動きに意識を集中したのだった。
***
「仕かけが分かれば、対応は造作もない」
二対一。
ラディアの有線砲台による援護を加えながらラケルトゥスに攻撃を仕かけるものの、全て有効打には程遠い状態が続く。
「所詮は付け焼刃の連携。この程度では届かんぞ」
彼の言う通り、現状では実質手数が多少増えたようなもの。
これでは連携とは呼べない。
そもそも、ああいう類の武装は相当な練度がなければ運用は難しい。
特に前衛で戦う者がいるのなら尚のこと。
練習もなく合わせるなど不可能だ。普通なら。
下手な真似をすれば、それこそフレンドリーファイアが発生しかねない。
「力を得たばかりでは、ここらが限界か」
とは言え、ラケルトゥスの評価は正しくない。
何より妖星王国を出て、後ろ盾もなく一から王立魔法学院の長にまでなったラディアは普通という言葉で括ることなどできはしない。
「それは、どうかな」
確かにラディアが腕輪を身に着けたのは今さっきのことだ。
だが、彼女は全ての始まりの日からその力を目の当たりにしてきたし、雄也の戦い方をよく知っている。
何より、実際に腕輪の所有者になるとなったら腰の引けた発言をしていたものの、彼女は頭の中ではそうなる想定を常にしてきたはずなのだ。何故なら――。
(アージェントアサルトスパークルって……)
雄也に合わせたような技の名前。
耳にしたそれを思い返し、少しだけ頬が緩む。
何も考えていなかった人間が、力を得てすぐにそんなものを持ち出してくる訳がない。
それは雄也にとって彼女の力と意思を信じるに足る十分な証拠だった。
故に『際どく攻める』と告げつつも『お前はお前らしく戦え』と続けたラディアの言葉を受け止め、しかし今は頭の奥深くに押し込めておく。
余計な思考は彼女の邪魔になるだけだ。
「もはや言葉は証明にならん。ならば示せ、力で!」
「言われるまでもない!」
そして雄也は、己の全力を発揮するために無心でラケルトゥスに挑みかかった。
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