【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~

青空顎門

第二十四話 弱音 ②救う術探る戦い

 七星ヘプタステリ王国の外れにある小さな街の外。
 王都ガラクシアスに比べれば田舎で牧歌的な街並みが視界に入るぐらいのところ。
 そこで真紅の鎧を纏った異形の存在は立ち止まった。
 ドクター・ワイルドに操られたフォーティアだ。

《Glaive Assault》

 その彼女は右手に薙刀を生み出すと――。

《Convergence》

 同時に魔力を収束させ始めた。
 それによって薙刀の刃を中心に急激に濃密になっていく火属性の魔力が、元々強大な存在感を更に増大させていく。

《Final Glaive Assault》

 その力が極限まで張り詰めた瞬間、合図とするように電子音が甲高く鳴り響いた。

「クリムゾンアサルトペネトレイト」

 続いてフォーティアはポツリと電子音よりも遥かに小さく呟くと、薙刀を槍投げの槍のように大きく振り上げ、街を目がけて一気に投擲した。
 この世界アリュシーダにおいてトップクラスの身体能力から放たれたそれは、恐るべき速度とその刀身に帯びた濃密な魔力によって絶大な威力と共に空間を走っていく。
 もし街に直撃しようものなら、その射線上にいた人間は間違いなく命を尽く奪われることだろう。不条理にも、自由が奪われてしまうだろう。

「アサルトオン!」
《Change Drakthrope》

 だから雄也は彼女にそのような真似をさせないために、同じく真紅の装甲を身に纏いながら、その一撃の前に躍り出た。

《Gauntlet Assault》《Convergence》
《火属性魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》
《Final Gauntlet Assault》
「クリムゾンアサルトナックル!!」

 迫り来る薙刀を真上から強引に叩き潰す。
 フォーティアの全力が乗ったそれを真正面から受け止めることは無謀だが、無理矢理方向を変えることぐらいはできる。
 とは言え、それは力を完全に打ち消すことを意味しない。
 故に真下への力を加えられた薙刀は街の遙か手前で大地に突き刺さり、しかし、解き放たれた魔力によって巨大な爆発を起こした。
 その爆炎の輝きと爆風を背に受けながら、体勢を立て直してフォーティアと対峙する。
 彼女は何ら動じた様子を見せず、即座に敵に出現に反応して構えを取った。

「……ティア」

 その姿を目にして、複雑な思いを抱きつつ口の中で呟く。
 しかし、躊躇っていては彼女を救うどころか、こちらが危うい。
 だから雄也は、内なる感情を振り払うように真紅のミトンガントレットに覆われた腕を上げて戦意を示した。
 すると、ほぼ同時にフォーティアが動き出す。

《Glaive Assault》

 彼女はその手に再び薙刀を持ち、それを振りかざして一気に間合いを詰めてきた。
 そして一切の手加減なく、刃を振り下ろしてくる。

「くっ」

 風を切って迫る斬撃に対し、回避をせずに逆に前に出て交差させた手甲で受ける。
 フォーティアが相手では、無理に避けてしまうと連撃に発展しかねない。
 そうなると間違いなく防戦一方に追い込まれてしまう。
 であれば、むしろ最高速度に達する前に受け止めてしまった方がいい。

「だあっ!」

 そのまま間髪容れずにフォーティアの鳩尾に蹴りを入れんとする。
 が、当然それを無防備に受けてくれる程、彼女は甘くはない。
 ガントレットの上から押し込まんとするように真紅の薙刀に込めていた力を緩めると共に後方へと地面を蹴って、容易く避けてしまった。
 それから数歩分の間合いを挟み、互いに間を計る。

『お兄ちゃん!』

 そのタイミングで、この場所まで〈テレポート〉で連れてきてくれたメルの心配そうな声が〈テレパス〉によって脳裏に響いた。
 このままでは前回の二の舞になると危惧してのことだろう。
 身体能力の差は小さくとも、技能面での差は歴然としてあるのだから。
 そこは重々承知している。
 その上でどう戦うべきかはちゃんと考えてある。

『大丈夫だ。それより、メル達は街を守ってくれ』

 いずれにせよ、火属性になれる雄也以外では現状フォーティアの前に立つべきではない。

『最初から長期戦が不利なのは分かってる。一気に勝負をかける!』
『……うん。ティアお姉ちゃんをお願い!』
『ああ!』

〈テレパス〉と共に僅かに頷き、雄也は左手の黄金の腕輪、RCリングを構えた。

「アトラクト」

 小さく呟いて先程消費した火属性の魔力結石を転移させ、再装填する。そして――。

《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》
《Change Therionthrope》《Convergence》
《Change Drakthrope》《Convergence》
《Change Phtheranthrope》《Convergence》
《Change Ichthrope》《Convergence》
《Change Satananthrope》《Convergence》
《Change Anthrope》《Maximize Potential》
「〈五重クインテット強襲アサルト強化ブースト〉」

 全ての魔力を解放させ、フォーティアが動き出す前に今度はこちらから距離を詰めた。
 五つの属性の魔力が体内で活性し、強化された身体能力は確実に彼女を上回っている。
 加えて訓練によって魔力無効化を打ち破って、ダメージを通すことも可能。
 当面の目的である彼女の拘束、あるいは身体の調査については容易いはずだ。
 そう考えていたのだが……。

「なっ!?」

 フォーティアは静の構えで接近を待ち、掴みかからんとする雄也の手を最小限の動きで避けてしまった。
 その動作は雄也に比べ、確実に緩慢であるはずなのに捕捉することができない。

「このっ!」

 それでも更にフォーティアに触れんと手を伸ばすが、尽く届かなかった。

(読まれてる)

 幾度となく訓練の中で拳や刃を交えてきた相手。
 操られて尚、雄也の攻撃パターンは体が覚えているようだ。
 それは裏を返せば、ドクター・ワイルドがフォーティアの肉体を操作している訳ではない証拠となるだろう。
 操られているのは心だけで、戦いは彼女の経験を基に行われている訳だ。
 だからこそ、未だ雄也の動きに残る無駄を突かれ、反撃を許してしまう。
 フォーティアは長柄の武器である薙刀を巧みに操り、こちらの予測の裏を狙うように視界の外から斬撃を放ってきた。

「っ!? うおおっ!」

 対して、雄也は《Maximize Potential》によって強化された五感を以って風を切り裂く音から迫る刃の位置を特定し、技術ではなく身体能力で無理矢理に回避した。
 そのまま仕切り直すように一旦距離を取る。

(勝手知ったる相手との戦い……ここまで厄介とはな)

 それでも今は、どれだけ難しかろうと己の役目を果たさなければならない。
 だから、雄也はもう一度正面からフォーティアに挑みかかった。
 が、多少身体能力で勝っていようと彼女程の達人に動きを読まれては、その優位も生かせない。後先を考えさえしなければ、もう一段階だけ身体強化を重ねることができるものの、それはおいそれと取れる選択肢ではない。
 結局、千日手のように戦いは膠着してしまう。先程までの繰り返しだ。
 とは言え、それも永遠に続くものではない。

(くっ、時間か)

 耐久戦においては、《Maximize Potential》には致命的な欠陥がある。
 長時間維持できないことだ。
 それをフォーティアは理解した上で、隙として狙っていたのだろう。
 間もなく時間切れになるというところで、彼女は再び攻勢に出始めた。
 洗練された無駄のない動きと共に、連続で薙刀が振るわれる。
 このまま行けば《Maximize Potential》の解除と共に相手の攻撃に対応できなくなり、彼女を救うどころか命を絶たれてしまうだろう。
 そう……このままなら。だから――。

「〈アトラクト〉」

 解放した魔力が消費され尽くす正にその瞬間、雄也は新たな魔力結石をRCリングに直接転移させた。そして、再装填と同時に魔力を再収束させる。

《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》
《Change Therionthrope》《Convergence》
《Change Drakthrope》《Convergence》
《Change Phtheranthrope》《Convergence》
《Change Ichthrope》《Convergence》
《Change Satananthrope》《Convergence》
《Change Anthrope》《Maximize Potential》

 と、それを示す電子音が一瞬の間に鳴り響いた。
 以前ならば、再装填は一々手動で行わなければならなかった。
 だが、魔力の道を作るという割と繊細な訓練を経たおかげか魔力の扱いの精度が高まっていたらしい。戦いながらでもピンポイントの転移が可能となっていた。
 もはや魔力結石の貯蓄がある限りにおいて、《Maximize Potential》とRCリングの欠陥はないと言っていい…………のだが、この場では、それだけでは決め手にはならない。

「〈五重クインテット強襲アサルト強化ブースト〉」

 同じ方法では、ただ千日手を再現するだけだ。
 どうにかしてフォーティアを撹乱しなければならない。
 が、そのためには彼女自身の想定する雄也と異なった戦い方をする必要がある。

(なら――)

 故に、雄也は電子音が鳴り止むと同時に、新たに魔法を発動させた。

「〈マルチプルクラストブレイク〉!」

 土属性の魔力を以って地面に働きかけ、己の真下を含む広範囲にわたって足場を崩す。
 隆起、沈降、地割れ。
 それらを無作為に発生させながら、更には火属性の魔力による爆発を地下で起こして地面を引き剥がし、風属性の魔力で突風を起こして土砂を乱雑に撒き散らす。
 彼女に火属性以外の魔法が通用しないとしても、副次的な物理現象を無効化することなどできるはずがない。威力自体はないだろうが。

(今だ!)

 訓練ではその大規模な効果故に、それ以前に目的が体術を鍛えるためだったが故に、使用を控えており、フォーティアに見せたことのなかった魔法。
 加えて、訓練の再現の如き膠着状態から一転した戦い方。
 それを前に、フォーティアも虚を突かれたようだ。
 さすがの彼女も、その上で足元を揺るがされては体勢を崩さずにはいられなかった。

「〈チェインスツール〉!」

 そこを見逃さず、雄也は跳躍して不安定な足場から逃れると共に、足の裏に魔法で足場を作って土砂が舞う空間の中を縫うように駆け抜けた。
 そしてフォーティアの背後に回り込み。彼女を羽交い締めにする。

「〈マジックギムレットオブフレイム〉〈オーバーフルアナライズ〉!」

 そのまま訓練通りに魔力の道を作り、雄也はフォーティアの肉体に分析の魔法を通した。

「これは……」

 感知できたのは体内に渦巻く二つの魔力。〈アナライズ〉が効いたことも含め、やはり魔力無効化は体の表面にしか影響力を持たないようだ。
 双子の予測通りだったことに僅かに安堵しつつ、魔法が読み取る情報に集中する。

(闇と……光?)

 それぞれオルタネイト級の魔力が彼女の体内を渦巻いている。

(これを取り除けば――)

 恐らくフォーティアを元に戻すことができるはずだ。
 しかし、雄也の光属性は未だ不完全なまま。
 この場で魔力を消し去ることは不可能だ。

(なら、一先ず拘束して連れて帰るしかない)

 そう判断した雄也はフォーティアを行動不能な状態に陥らせるべく――。

「オーバーダークアネステシア!」

 そのための魔法を以って彼女の体に干渉しようとした。
 神経に作用し、元の世界で言う麻酔を再現する効果。
 しかし、何かに阻まれるかのように魔力が彼女の神経に通っていかない。

(ティアの中の魔力に邪魔されてるのか? 神経系への干渉を防いでるみたいだ)

 なるべく穏便に拘束したかったが、どうやらそうもいかないらしい。

(……是非もない、か)
「すまない、ティア。後で好きなだけ仕返ししてくれ」

 だから、雄也はそう告げて唇を強く噛みながら、羽交い締めにしたままの状態からフォーティアを解放した。と同時にその背中に手甲を纏った拳を叩き込んで体勢を崩す。
 そして即座に背後から肉薄し――。

《Final Arts Assault》
「〈マジックギムレットオブフレイム〉……レゾナントアサルトブレイク」

 彼女の右肘の辺りを目がけ、絶大な威力を持った一撃を放たんとした。
 身体に干渉して身動きを封じることができない以上、もはや外的な力でそうするしかない。だが、相手は変身状態にあるフォーティア。
 生半可な方法では拘束などできない。
 両手両足を圧し折るぐらいでなければ不可能だろう。

(ティア、すまない!)

 心の中でもう一度だけ謝り、しかし、躊躇はしない。
 雄也自身、そのまま攻撃が決まったと思った。
 が、正にその瞬間、突如としてフォーティアの姿が目の前から掻き消えてしまった。

「残念だが、俺の贄となるべき存在を、俺以外の手で傷つけさせる訳にはいかん」

 同時に聞き覚えのある男の低い声が耳に届き、その方向へと振り返る。

「貴様は――」

 そこにいたのは、六大英雄が一人、真龍人ハイドラクトロープラケルトゥスだった。

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