【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~

青空顎門

第七話 正体 ①お姫様と模擬戦

 放課後のグラウンド。太陽の位置は多少低くなっているものの、夏らしく青々とした空の下。雄也はプルトナと向かい合っていた。
 二人の合間には、模擬戦に必要な教師の立ち合いを引き受けてくれたラディアがいる。
 学院長が態々……とも思ったが、片や王女、片や異世界人では彼女が出張ってくるのも仕方がないことかもしれない。できれば申請そのものを許可しないで欲しかったが。
 ともあれ、周囲に集まりかけていたギャラリーを散らしてくれたことは感謝すべきだ。

『薄々問題が起こるだろうとは思っていたが、また妙なことになったようだな』

 頭の中に直接ラディアの言葉が〈クローズテレパス〉によって届く。呆れた声色だ。

『分かってたんなら言って下さいよ。編入生が来るって教えてくれたのも当日だったし』

 まあ、事前に詳細を知らされていたとしても展開は結局変わらなかっただろうが。

『すまん。急に決まったことでもあるし、当日まで情報を漏らさぬように魔星サタナステリ王国からきつく言われていたのでな。相手が相手故に私の立場も余り通用せんのだ。だから、余り無茶をしてくれるなよ?』

 ラディアはそこまで言うと、雄也とプルトナを交互に見て口を開いた。

「では、これより模擬戦を始める。両者正々堂々と競い合うように」

 そして、彼女は後方で見守るアイリスとイクティナのところへと離れた。

「では、ユウヤさん。始めましょうか」

 そうプルトナが告げた瞬間、圧迫されるような気配が彼女の全身から放たれる。
 大分抜けているところのあるお姫様だと思っていたが、相応の実力は有しているようだ。

「とは言え、ダブルSたるワタクシとCクラスであるアナタでは戦いにならないのは分かり切ったことですわ。そもそもダメージが通らないのですからね。なので、一発でもワタクシに有効打を当てられたら、ユウヤさんを認めて差し上げましょう」

 それでも、そう侮る辺りは経験の乏しい箱入り娘というところか。

(あるいは、かけ値なしにダブルSに見合った力だけはあるのか……)

 何にせよ、舐められた状態で不意を突いて一撃を当てても、互いにしこりが残るだけだろう。命のやり取りの場ではないのだから、軽く脅かして本気になって貰うことにする。

「じゃあ、こっちから行くぞ。〈ハイアクセラレート〉!」

 通常の〈アクセラレート〉以上、〈フルアクセラレート〉未満というところの身体強化魔法を用いて雄也は一気に間合いを詰めた。

「なっ!?」

 その速度はプルトナの予測を超えていたのか、彼女は一瞬表情を驚愕に染める。

「ぜりゃああああっ!!」

 それによって生まれた隙を逃がさぬように、雄也は拳打を繰り出した。恐らく、それでも容易く回避可能なはずだからと寸止めなど欠片も考えずに。

「〈フルアクセラレート〉!」

 果たして殴打が命中する直前、プルトナの動きは急激に加速し、雄也の攻撃を僅かな動作で避けた。とほぼ同時に、彼女はバックステップで大きく間合いを取る。
 その洗練された動きを見て、雄也は「格好なんかつけずに不意打ちで決めた方がよかったかも」と少し後悔した。
 本気にさせたら素の状態では全く敵わないかもしれない。こちらも侮りが過ぎたか。

(にしても俺の周りの女の子、強過ぎやしないか?)

 プルトナから視線を外さずに、心の中で疑問に思う。
 こうも重なると何者かの意思を感じざるを得ない。
 しかし、今は一先ず模擬戦に集中するために思考を打ち切ることにする。

「……ユウヤさん。貴方、本当にCクラスですの?」

 と、プルトナが固い口調で問うてきた。相手を見縊った己を戒めるかのように。

「一ヶ月前はな。今は生命力も魔力もAクラスだ」
「成程。これが……異世界人。……どうやら少し甘く見過ぎていたようですわね」

 プルトナの目つきが変わる。ようやく本気になったようだ。
 こちらに向けられる威圧感も一気に増大し、膝を折ろうとしてくる。この世界アリュシーダに来たばかりの雄也ならば、確実に屈していたことだろう。

(単純な生命力や魔力はフォーティア並……いや、それ以上か?)

 勿論、技量、属性による使用可能な魔法の種類まで含めた総合力では分からないが。

「行きますわよ! 〈シャドウミラージュ〉!」

 プルトナがそう叫んだ瞬間、闇の属性魔力が周囲を満たしていく。
 それと共に、彼女の姿が大きくぶれ――。

「何っ!?」

 そうかと思えば、雄也を取り囲むように複数のプルトナの姿が現れていた。

(分身? 〈ヒートヘイズフィギュア〉みたいなものか?)

 一人一人に素早く視線を送りながら観察する。

(いや、あれはもっとぼんやりした虚像だ。ここまでハッキリしたものじゃない。けど、闇属性で実体を作り出せるはずが――)

 それ以上悠長に分析をしている余裕はなかった。
 何人かの彼女が凄まじい速度で一斉に迫ってくる。

「ちっ〈エコーロケーション〉!」

 雄也は風属性の魔力によって周囲に超音波を放ち、蝙蝠の如く反響定位を試みた。
 全て実体なら回避の補助のために。
 そうでないなら本物のプルトナの位置を探るために。
 そうして反射してきた音波によって周囲の物体を把握した結果、案の定実体は一つのみで――。

「そこ……っ!?」

 居場所を特定して振り返った先には、しかし、誰の姿もなかった。にもかかわらず、反響波が示すプルトナの位置は急激にこちらに近づいてきている。

(何故……いや、まさかっ!!)

 雄也は不可視の気配に強い脅威を覚え、視界に存在する全てのプルトナを無視して回避行動を取った。
 目にハッキリと映って迫ってくる彼女達に確実に衝突するコースで動くが、実際にぶつかることはなく突き抜ける。この魔法はつまり――。

「よく、気がつきましたわね。初見で見抜かれたのは初めてですわ」
「ま、これでもオタクなんでね。似た事例は知ってる」

 不可視の気配から聞こえてくる声に、冷や汗を隠すように不敵な笑いを作って告げてやる。
 安穏と生きる平平凡凡な人間に起こり得ない出来事、例えば人間を超越した戦いの経験すら(実体験に比べれば極小であっても)蓄積することができる。それがフィクションの意義の一つであり、人間の想像の力というものだ。
 勿論、ある程度戦闘経験を積み、戦いの最中でも冷静な思考と判断を多少は保てるようになったからこそ、それを生かせるようになった訳だが。

「俺の目に映ってるプルトナさんは全て幻覚。本物は視界に映らない。お姫様が随分えげつない方法を取るもんだな」
「あら、ワタクシの姿を捉えられない方が悪いのですわ」
「……まあ、それはそうかもな」

 闇属性魔法による幻覚作用。恐らく、記憶操作や思考操作に比べれば遥かに干渉し易いのだろうが、それでも影響を受けるのは魔力に絶対的な差がある証だ。

「実力不足を理解したようですわね。では、アイリスを諦めては如何です?」
「諦めるってか、まだ正式には……いや、そもそも、俺だけに言っても仕方がないだろ」

 相手があってのことなのだから、アイリスの気持ちも重要だろうに。

「それ以前に、何でプルトナさんがアイリスの相手に拘るんだ?」

 その問いを受け、プルトナは幻覚を解いて姿を現した。

「あの子はワタクシの数少ない友人、そして妹のような存在だからですわ」

 そして告げたプルトナの声色は真剣そのものだった。
 返答のためだけに態々魔法を解除したのだから、本心だろう。

「アイリスは末席とは言え王族。原則的に自由恋愛など許されません。王立魔法学院を卒業し、帰国すれば王が定めた者と結婚させられることになるでしょう。いくら求愛されたら相手を試すのが獣人テリオントロープの常と言っても、未婚でいられる立場ではありませんからね」
「掟って奴か。そういうのがまかり通る時代なのかは知らないが、馬鹿馬鹿しい話だ。けど、この世界アリュシーダでは何よりも強さが優先されるんじゃないのか?」
「ええ。唯一の例外がそれですわ。好意を抱いた相手が破格の強者だった場合のみ、掟を破ることもなく自由恋愛が可能となるのです。けれど――」

 プルトナは視線を鋭く研ぎ澄まし、こちらを射抜くように見据えて続ける。

「王族に宛がわれる強者であればダブルSは当たり前。それに打ち勝つ自信がユウヤさんにはおありですの?」

 その言葉と共にさらに増大する圧力を、雄也は黙って真正面から受け止めた。
 単なる生命力や魔力の強さではない。確かな意思の強さを感じる。

(……八つ当たりってだけで突っかかってきた訳じゃないのか)

 アイリスを妹のように思う彼女の気持ちに嘘偽りはないようだ。

「アイリスは昔からマイペースでものごとに余り執着しない子でしたわ。そんなあの子が今、貴方を強く求めている。それが得られないとなった時、きっとアイリスは深く傷つくことでしょう。けれど、今ならまだ傷は浅く済むはず」
「王が選んだ相手に負けるようなら、さっさと身を引けってことか」

 雄也の問いにプルトナは静かに頷いた。

「けど、要は力を示せばいいんだろ?」

 続けて尋ねてやると彼女は僅かに驚きの表情を浮かべた後、視線を厳しくした。

「できるものなら。〈シャドウミラージュ〉」

 そして、再び発動された闇属性の魔法によって、周囲に彼女の幻影がいくつも現れる。

「〈エコーロケーション〉」

 対して雄也はそう告げると同時に、役に立たない視界を捨てて他の感覚を鋭敏にするために目を閉じた。そのままプルトナのいる方向へと体を向ける。

「先程と同じと思わないことですわ。〈オーディトリーハルシネーション〉」

 プルトナが新たな魔法を用いた瞬間、周囲の全ての音が歪み出した。
 さらには黒板を引っかいたような不快な音や工事現場の掘削音の如き騒音。以前、蝙蝠人バットロープが使用した超音波染みた甲高い振動音などあらゆる音が聴覚を乱してくる。

「くっ、今度は、幻聴か」

 思わず頭を手で押さえ、膝をつきながら雄也は忌々しく呟いた。
 ここまで感覚を乱されては、さすがに反響定位でも相手の位置を掴むことはできない。
 目と耳が潰されたなら魔力の気配で、と思っても、プルトナ本人のそれは周囲を満たす闇属性の魔力に紛れてしまっている。
 全方位へと魔法を放てばプルトナに命中する可能性もなくはないが、アイリス達まで巻き込みかねないので模擬戦では不適当な手だ。

(……こうなったらもう力尽くだな。スマートじゃないけど)

 結局のところ、今の自分は力量差を技術で覆せる領域にない訳だ。
 情けない話だが、模擬戦で再認識できたことは感謝すべきか。

『この程度で力を示すなどと、思い上がりも甚だしいですわね』

 乱れに乱れた聴覚とは関係なく、プルトナの声が恐らく〈クローズテレパス〉によって直接頭の中クリアに響く。期待外れとでも言いたげな声色だ。

『終わってもないのに勝ったつもりか? そういうのを慢心と言うんだよ。お姫様』

 落胆したような口調にはさすがに少し腹が立ち、皮肉っぽく言い返す。と同時に――。

《Light Maximize Potential》
「〈四重カルテット強襲アサルト強化ブーストマイルド〉」

 雄也は電子音に重ねるように告げた。その瞬間、幻覚と幻聴は消え去り、雄也の挑発にムッとした様子を見せるプルトナの姿が顕になっていく。

「え?」

 確かな足取りで立ち上がり、己の方を真っ直ぐに向いた雄也を目の当たりにし、彼女は自身の魔法が通じていない事実に気がついたのか表情を驚愕の色に染めた。
 直後、雄也はプルトナが立ち直る前に〈アクセラレート〉〈エアリアルライド〉〈エクスプローシブブースト〉〈エフィシエントクーラント〉の四魔法を並列使用し、彼女との距離を一気に詰めた。

「っ!? 〈フルアクセラ――〉」

 プルトナが再び己に身体強化を施す前に背後に素早く回り込み、その首筋に手刀を添える。
 微かな接触だったが、プルトナは真剣を突きつけられたかのように全身を強張らせて言葉を止めた。それから観念したように体を弛緩させ、彼女は口を閉じた。

「勝利条件は有効打一発、だったよな?」
「………………ええ。ユウヤさんの勝ち、ですわ」

 敗北を認めると共に魔力の圧力も消したプルトナに、雄也は彼女の首から手を離した。
 それから互いに向き直り、正面から視線を交わし合う。

「急激な生命力と魔力の増大。今のは一体何だったんですの?」
「それは……まあ、ちょっとした裏技、だな」

 オルタネイトとしての力の一端なので、この場はそう誤魔化しておく。
 小規模な《Maximize Potential》からの簡易版〈四重カルテット強襲アサルト強化ブースト〉。
 基人アントロープ形態(生身)での《Convergence》によって蓄えた微々たる魔力を用いての強化であるため、精々ダブルSに毛が生えた程度にしかならない。
 対超越人イヴォルヴァーとしては余りに頼りない技だ。
 とは言え、この世界アリュシーダの常識的な人間相手には十二分な強化だろう。
 ちなみに基人アントロープ形態(生身)では常に《Convergence》状態となっている。Aクラス程度の充填速度では魔力吸石の容量を満たす前に減衰が始まり、五分で飽和状態になってサチって永遠にチャージが完了しないためだ。
 ただ、その分だけは常に保持することができ、戦闘開始直後から任意のタイミングで使用可能なので若干使い勝手はいい。もっとも、飽和した四属性の魔力全てを解放してようやく生命力と魔力を約一段階強化できる程度だが。

「裏技、ですか……」

 プルトナは少し残念そうに呟きながらも「手の内を明かせと強要するのも品がありませんわね」と素直に引き下がった。

「両者納得がいく結果となったか?」

 そう問うたラディアを先頭に、アイリスとイクティナも近づいてくる。

「ええ。ワタクシはもう、ユウヤさんとアイリスの交際に文句をつける気はありませんわ」
「お前はアイリスの父親か」

 交際って。

「……ユウヤさん。随分と馴れ馴れしくなりましたわね」
「あ、ん……っと、すみません。プルトナさん」

 ハッとして取り繕うように頭をかきながら頭を下げる。プルトナの突飛な行動に丁寧な言葉遣いを崩されて、そのままになっていたようだ。

「ああ、いえ、いいんですのよ。ワタクシは貴方を認めたのですから。先程までの話し方もお友達のようでよかったですし。むしろ、これからはそうして下さいな」

 険の取れた笑顔を見せるプルトナ。十五歳ながら大人びた美人という感じの彼女が柔らかい表情をすると、かなり外見相応に魅力が出て少し照れる。

「どうせですから名前も呼び捨てにしましょう。ユウヤ」
「……分かった。そうさせて貰うよ、プルトナ」
「ええ!」

 今度は子供のような楽しげな笑み。大人っぽい顔立ちとのギャップがまたいい感じだ。
 こういった表情を向けてくれるなら、苦手な印象もかなり薄れるというものだ。

「一先ず一件落着というところか」

 ラディアが雄也とプルトナの顔を交互に見て、どこか安堵したように言う。
 その少々情けない感じの表情は幼い少女染みた外見に似合っているが、プルトナが傍にいると色々と考えさせられる。こっちが三八歳、あっちが一五歳……。
 種族の理不尽に微妙な気分になる。と、不審そうにラディアが視線を向けてきて、雄也は慌てて真面目な表情を繕った。
 それで一先ず誤魔化されてくれたようだ。

「しかし、ユウヤ。見違えたぞ」
「特訓の成果って奴ですよ」
「そうだな。これからも慢心せず、しっかりと鍛錬を積むことだ」

 ラディアは最後に小さな声で「……私も負けていられんな」とつけ足した。

「では、これで模擬戦は終了する。折角の放課後だ。後はお前達で友誼を深めてくるといい」

 そして、彼女はそう告げると雄也達に背中を向けて校舎へと戻っていった。

「学院長もああ言ってたことですし、喫茶店に行きませんか?」

 ラディアの姿が見えなくなったところで「名案を思いついた」とでも言いたげな感じにイクティナが両手を軽くパンと合わせる。

「ガムムスの実のパイか?」

 分かり易過ぎるイクティナを微笑ましく思いながら問う。と、彼女は頬を赤くして恥ずかしそうにしながら小さく頷いた。彼女のそういう顔は実に癒される。

「できれば、ワタクシとしてはオルタネイト探しを手伝って頂きたいのですけれど」

 と、一人プルトナが余り乗り気でないように言う。

「あそこの喫茶店で超越人イヴォルヴァーに襲われた時、オルタネイトに助けられたんですよ。私」
「行きましょう。是非とも行きましょう。何か手がかりがあるかもしれませんわ!」

 酷い掌返しを見た。
 王女がこれでいいのか、とアイリスに視線で尋ねる。すると――。

【プルトナ的には平常運転】

 雄也の言外の問いを正確に把握し、彼女はそんな文字を出してきた。
 プルトナのイメージが下がり過ぎて、もうポンコツお姫様としか思えない。

「っと、そうだ。俺、一旦賞金稼ぎバウンティハンター協会に行かないと」

 皆でお茶しに行くのはいいが、今日のノルマは達成しておかなければならない。

「どれぐらい時間がかかりますか?」
「小一時間ぐらいかな」

 フォーティアに事情を伝えてタイムアタックモードで行けば、それぐらいのはずだ。
 初っ端から《Maximize Potential》を使用すれば、ディノスプレンドルもラルウァファラクスも一撃。なので、ほとんど移動時間だけだったりする。

「なら、ユウヤさんとは喫茶店で合流するとして、それまでの間はウインドウショッピングでもしましょう。アイリスさんも一緒に」
【ん。分かった】
「イーナには素直なんですのね。贔屓ですわ!」

 ムーッとむくれるプルトナ。その表情は王女としてどうなのだろうか。

【別に贔屓とかじゃない。プルトナがユウヤのことを認めてくれたから、プルトナがいても拒絶する必要もなくなった。それだけ】
「では、改めてオルタネイト探しの手伝いに誘っても?」
【それは無理。興味のあるなしじゃなくて純粋に忙しいから。学業と家事の両立は大変】
「……それならそうと、最初から言って下さればよかったですのに」
【あの時に言ってもユウヤを目の敵にして聞く耳持たなかったはず】

 アイリスの返しにプルトナは「うぐ」と呻いた。

「こらこら。喧嘩はやめろ」
【これは単なるじゃれ合い】

 澄ました顔で言うアイリスに一つ溜息をつきつつ、校舎の時計塔に視線を向ける。

「はあ、まあ、いいや。じゃあ、俺は賞金稼ぎバウンティハンター協会に行くから――」
「お待ちなさいな。時間は有効に使うべきですわ。ワタクシが〈テレポート〉でそこまで連れていって差し上げます」

 と、そんな言葉と共に、プルトナが手を差し出してくる。

「ん……それもそうだな。よろしく頼む」

 雄也は彼女の提案に頷いて彼女の手を取った。

「〈テレポート〉」

 次の瞬間、視界が移り変わり、白いポータルルームの壁が目に映る。

「ありがとう。プルトナ」
「構いませんわ。お友達ですもの」

 ついさっきまで「お友達のよう」だったのが、いつの間にか完全に「お友達」にクラスアップしていた。まあ、別に否やはないが。

「ユウヤ。先程は言いそびれましたが、アイリスのこと、よろしくお願いしますわ」

 真摯に頭を下げるプルトナ。
 言いそびれたと言うが、アイリスがいたあの場では素直に言えなかったのだろう。
 しかし、真面目にしていると、ちゃんと王女様らしいものだ。ギャップが凄い。

「貴方ならきっとあの子を幸せにできます。あれだけ慕われているのですから」

 内心で「だから父親か」と再び思いつつも、空気を読んで口には出さないでおく。

「それと、さっきの戦いでのユウヤさんは中々恰好よかったですわ。オルタネイトがいなければ、ワタクシも心を奪われていたかもしれません」

 お姫様モードでそんなことを言われても、どう反応すればいいか分からない。
 とりあえず曖昧に笑って誤魔化しておく。
 何かフラグが立った気がするが、今は気にしない。

「で、では、また後でお会いしましょう」

 お互いの間に流れた微妙な空気を取り繕うように早口で言ったプルトナは「〈テレポート〉」と続けて、その場から姿を消した。
 白い部屋が静寂に包まれる。

「……とりあえずノルマを終わらせよう。うん。そうしよう」

 色々と棚に上げて、一先ずポータルルームを出ることにする。
 そうして雄也は受付の待合室で待つフォーティアのもとに急いだのだった。

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