スキル 空想は最強です♪

ひさら




翌日の朝、レオンと一緒にご飯を食べたら二人で冒険者ギルドに向かう。
初日だけ同行してもらえるようお願いしておいたのだ。いい年した大人なのに我ながら甘えてると思うけど、異世界での初仕事だし、それに日本での就職事情とは勝手が違うと思われる。初日から失敗したくない。
 
冒険者ギルドに着くと朝早くだというのに、もうたくさんの人がいる。
こちらの世界の人は本当に朝が早いなぁ。感心する。
 
レオンと一緒に依頼が出されているという掲示板のところに行く。
ここでも先にいた冒険者さんたちが私たちを見てざわめいた。
 
・・・・・・何なんだろう? 
 
今日はパジャマじゃないよ?やっぱり私の雰囲気というか、何か違いがあるんだろか?でもそれなら町中を歩いている時だって、お宿でだって同じような反応があると思うんだけど・・・・・・。
レオンを見ると、何事もないように先に進んでいく。
 
「ランの仕事はこの辺だ。自分にできそうなものを選べ」
 
掲示板は見やすくランク別に仕事が割り振ってあった。
 
ほぉほぉ。 私はざっと目を通す。
今更だけど、字が読める。言葉もわかるしね!これぞ異世界補正?よくわからないけどありがたい。
 
初心者の私と、トップのレオンの依頼場所は端と端だ。レオンは私をEランクの場所に案内すると、自分の仕事を探しにSランクの方にいってしまった。
いってしまったといっても、廊下のそことここってくらいだけど。
 
う~ん。どれにしようかな。
どれにしようかなというより、どれが出来るかなだけどね!
 
ちょっと迷って、私は果樹園の収穫のお手伝いにしてみた。単純な肉体労働なら出来ると思う。城壁の外っていうのは不安だけど、私には勇者も魔王も防げる守護があるから、たぶん大丈夫だろう。
 
「決まったか?」
 
レオンが戻ってきて声をかけてくれた。
 
「はい。これにしようかと」
 
果樹園の収穫の依頼書を指差すと
 
「なら俺はその先の森での狩りにする。果樹園まで送ろう」
 
え?私に合わせて仕事を選ぶんですか!
なんか申し訳ない!けど、正直ありがたい!!
 
場所は聞けばわかるかもしれないけど、何せ地理情報は皆無だ。地図を持ってない海外より心細い状況だから、めちゃくちゃありがたいよ!
なんかレオンに依存度高くなっていくような・・・・・・。一抹の不安を感じながら、私は心からのお礼を言うのだった。
 
 
 
レオンには果樹園まで送ってもらって、帰りも迎えによるからと言われて別れる。
 
「ありがとうございました!気をつけて!」
 
初心者がSランクの人に気をつけてはおこがましいかと思ったけど、こういう時って、いってらっしゃいか、気をつけての声掛けしか知らないし。
まぁいっか、気持ちだもんね!
 
そうして、西洋風なイメージまんまの農家造りの家に向かった。
 
「おはようございます!ギルドから来ました、ランといいます。今日は一日よろしくお願いします!」
 
挨拶はしっかりはっきりと!私は根性はないけど気合はあるのだ。
訪いを入れると、おばあちゃんが出てきた。
 
「元気な娘さんねぇ。収穫は意外と重労働よ?そんなに細い身体で大丈夫?」
 
いかにも農家さんって感じの、日に焼けたおばあちゃんが心配そうに言う。
うん。まぁ、自分でもひ弱感は否めないけど。生きていくためだ、がんばらねば!
 
「できる限りがんばります!」
 
それからおじいちゃんも出てきて、広い果樹園に向かう。
 
おじいちゃん、お名前はマシューさん。おばあちゃんはレイチェルさんという。
収穫の仕方を教わって、三人でせっせと手を動かす。三人でこの規模、広くない?
大変じゃないですか?と仕事の合間に問うと、人件費削減なんだそうだ。農家はあまりもうからないらしい。
 
だから若い人はみんな城壁の中に働きに行くか、西方地域事情の?傭兵になってどこかに行ってしまうんだそうだ。
農家をやってるのはお年寄りが多いんだって。世知辛いなぁ。
ちなみにせっせと収穫している物は、こっちの世界でも同じものかわからないけどオレンジみたいな果物だった。
 
たまにレイチェルさんと話しながら午前中の仕事も終わりという頃。手押し車にいっぱいのオレンジを積んだマシューさんが運びだすと、窪みに嵌ったのか押し車が横転してしまった。同時にマシューさんが低くうめいてしゃがみこむ。
私とレイチェルさんは慌ててマシューさんの元に走った。
 
「どうしたんですか!」
 
横転しそうになった手押し車をとっさに支えようとして腰をやってしまったとの事。
ギックリ腰って事?それと足首も捻ってしまったらしい。
レイチェルさんはマシューさんに一声かけると、こぼれてしまったオレンジを集めだした。冷静だな!
 
マシューさんは一ミリも動けないまま、低く唸りながら痛みに耐えているし。
私はどっちつかずにオロオロしていた。
農家さんらしいがっしりしたおじいちゃんが痛そうにうずくまってる姿は痛々しい。お医者を呼びに・・・・・・。
あっ!そうだ!
 
「マシューさん、ちょっと腰を触りますよ」
 
脂汗を浮かべているマシューさんの腰に手を当てる。手を当てたところが淡くピンクに光った。
 
「お? おおぉぉ?」
 
痛みに唸っていたマシューさん、変な疑問形の唸り声に変わる。
ピンクの光が消えた。
 
「どうですか?」
「どういう事だ? すっかり痛みが、ぁ痛たたた」
 
腰を伸ばしたマシューさん、今度は足首を押さえた。
 
「捻ってるんですから気をつけて!足も触りますよ!」
 
同じく、手を当てると淡くピンクに光り出す。
腰と違って今度は目に見えるから、マシューさんは驚愕に目を見開いた。
 
「これは・・・・・・? お前さん、治癒魔法使い様だったのか?」
 
あ。
 
 
 
「これはいったいどういう事だ」
 
日が傾いてきた夕方、頭上から低い声が落とされた。
 
「レオン!」
 
大好きないいお声。聞いただけで癒されるわ~。
 
「実は・・・・・・」
 
マシューさんの腰と足首を直した後、オレンジを集め終わったレイチェルさんの痛んでいるところも治してあげたのだ。レイチェルさんもあちこち赤くなってたし、マシューさんだけ治してレイチェルさんは知らんぷりって訳にはいかなくて・・・・・・。
 
そうして二人が喜んでいるところに、その人にとっては間がいい事に、私にとっては間が悪い事に、たまたまお隣さんがやってきた。大喜びの二人は、私が止める間もなく事情を話してしまった。当然その人も治してほしいと期待する。お隣さんはやっぱりおじいちゃんだった。
 
このあたりの果物や野菜の農家さんはみんなお年寄りだ。若者は家を継がず城壁内に就職するか傭兵になるかという事は先に述べた。
農家はお年寄りたちが助け合いながらやっていっているとの事で、お年寄りというのはみんなどこか悪くなっているものだ。
 
私だって『さあ!治してくれ!』というような厚かましい人は相手にしない。
だけど、すまなそうに、頼んでもいいものかと遠慮しているような人は・・・・・・、拒めないよ。お隣さんの赤くなっているところに手を当てて癒すと、お隣さんは涙を流さんばかりに喜んだ。そして、こっちがそんなにならなくていいですよ!と言いたくなるくらい申し訳なさそうに「うちのばあさんも治してもらえないだろうか」と言われちゃったら・・・・・・、いいですよとしか返事が出来ないよ。
 
愛妻家なんですね。ほっこりしながらお隣さんを待っていると、知らないおじいさんおばあさんが次々にやってきた。
 
おばあさんを迎えに行くお隣さん、嬉しさと少しでも早くおばあさんを楽にしてあげたいという気持ちでスキップのような駆け足のような(無理しないでください!!)帰宅途中にご近所のおじいさんに止められた。さっきまでヨボヨボ歩いていたのに、何故そんなに軽快に歩いているのかと尋ねられて、お隣さんは奇跡のような幸運を話した。
 
私が口止めする前にお隣さんは走り出してしまったから、これは私の落ち度なのかもしれない?そうしてお隣さんがおばあさんを連れてくる頃には、ご近所さん中のお年寄りが集まってきちゃったって訳だ。
 
私はそれほどいい人ではない。
けど、こんな見た目の(ギリシア人ハーフ)くせして中身はバリバリの日本人で。
義理人情に厚いという程ではないけれど、人情ものの時代劇が好きだったり、泣かせるのを意識して作られたテレビ番組を「あざとい!」と文句を言いながら見ちゃうタイプだったりする。しっかりのせられて泣きながら。
 
そんな私がおじいちゃんおばあちゃんを目の前にして、全身どこかしら赤くなっているお年寄りに、癒せる力を持っていて何もしないではいられなかった。
果樹園や野菜畑はそれなりに広い。ご近所といっても隣や、隣の隣や、その隣なんかだいぶ遠くから、痛いのや辛いのをガマンしながらやってくるお年寄りに何もしないでいられようか?私はそんな人でなしではない。
 
結果、やってくるおじいちゃんおばあちゃんを癒していった。
もちろん、痛みや辛さがなくなってよかったね!という自己満足的な達成感はあったけど、こんなに大騒ぎになっちゃって大丈夫かなという不安もあった。昨日レオンに、この力は隠したほうがいいといわれたばかりだし、自分でもそう思ったから。
でも拒めなかったんだもん、しょうがないよー!
 
 
 
事情を話してる途中から、レオンの周りが不穏な空気になっていった。
眉間のしわも深くなる。
 
「ひどい顔色をしている」
 
え?
 
「あんたら、この子の様子に気がつかなかったのか?」
 
レオンは怒気を含んだ低い声で周りを見回す。
 
おじいちゃんおばあちゃんはハッと私を見た。
おじいちゃんおばあちゃん達は私に癒された後も、何故かこの場に残っていた。恍惚とした表情をして。
 
「正規の宮廷魔法使いから治癒魔法を受けたら、どのくらいの報酬を支払うか知っているか?」
 
みなさんザッと青ざめる。
 
「今日の事は他言無用。この子が宮廷魔法使いに召し抱えられれば、後からでも今日の請求がいくかもしれない」
 
青から白くなる。
 
「・・・・・・あんたらの田畑を売っても支払いきれないような請求額になるぞ」
 
レオンは言葉をいったん切って、不安を煽るようにためてから、そう言った。
 
「わかったらさっさと帰って、今日の事は忘れる事だ。俺たちも他言しないでいよう」
 
おじいちゃんおばあちゃん達は引きつった青白い顔で帰って行った。
 
「帰るぞ」
 
とりあえず騒ぎを収めると、レオンが私を見て言う。
 
「はい」
 
助かった!もうどうしていいかわからなかったからね!
レオン様々だ。 安心して立ち上がるとーーー 
あれ?私は力が抜けて倒れかかった。もちろんレオンがしっかり抱き止めてくれる。何か最近同じ事があったなぁ。
 
それからレオンは背を向けてしゃがみこむ。これまた最近同じ事があった。連日のおんぶだけど、私はポスンとその背にのった。立ってる事も歩く事もできそうにない。レオンありがとう。
 
「あんたらも、今日の事は他言無用だ」
 
レオンはマシューさんとレイチェルさんにもう一度口止めをする。
マシューさんは、あぁと戸惑うような声を出して
 
「ランちゃん、そんなに疲れさせて悪かったな。気づかないですまなかった」
「これ、今日のお手当よ。それからこれはランちゃんがもいだオレンジ。後で食べてね」
 
マシューさんとレイチェルさんがすまなそうに言う。
レオンは無言でそれを受け取って歩き出した。
 
しょうがないよ。痛みの消えたみなさんはキラキラした目をしていた。きっと世界が明るくなっていたんだろう。私の顔色も明るく見えるほどに。
 
「お元気で」
 
何ていっていいかわからなかった私はやっとそれだけを言った。
 
 
 
レオンは歩くのが早い。あっという間にマシューさんの果樹園をぬけた。
 
「レオン、お腹すきました」
「そうか」
 
お腹は空いているけど、それよりすごく疲れたな。
 
「レオン、眠いです」
「宿に着いたら起こしてやる。それまで寝とけ」
 
―――ありがとうございます。
 
もう声にならなかったけど、私的には伝えて。
温かい背中。安心して、ストンと眠りに落ちた。




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