スキル 空想は最強です♪

ひさら

3.5




朝、顔を合わせた時から気になっていた。
ランの顔色がさえない。目つきもどこかぼんやりしていて、たまに意識が飛んでいるような時もある。
寝不足か。 
原因を察すれば大した事はない。 と思えたが・・・。
 
王都に向かって歩き出してもそれは変わらず、それでも一生懸命歩いているので、ランに合わせてゆっくり歩きながら様子を見る。
ふらつくたびハラハラして何度も手を出しそうになる。
 
もうダメだ!俺が我慢できない!
歩き出してまだそんなにたっていないのに休憩にする。
 
「水も飲んでおけ」
我ながら自分から出た言葉が信じられない。俺はこんなに世話を焼くような男ではなかった筈だ。
 
自分の行動に戸惑っていると、ランが礼をしたいと言う。
礼・・・? 
そんなもの、した事もされた事もない。どういう事だ?
・・・いやいや礼なんていい。人の事より自分の事を考えろ。

俺が何ともいえない思いでいるというのに、何故かランは俺を見ながらニコニコしている。
 
おや? 
ふわりと温かいものに包まれた感じがした。
 
「温かい風みたいなもの、感じました?」
 
ランが嬉しそうに言った。
それはランのスキルで作られた守護というか結界というか、まぁ俺を守るものだという。
ラン自身にもかけられていて、それがどんなものか試したいと言ってきた。
 
言われるまま差し出した手を叩かれる瞬間、ランの手が俺の手をするりと通り抜けた?!

何だこれは?!
目に見えていたのに信じられない!
 
唖然としながら会話をしていると、ランはもっと驚く事を言いだした。
俺に自分を叩けと言うのだ!
俺が、ちょっと触れただけでもケガをするような女を叩く筈がないだろう!しかもランはその辺の女と比べても華奢なくらいなのに!

黙ったまま呆れていると、さらに驚くべき事を追加される。
 
「死ぬほど強く叩けといってる訳ではありません・・・」
「死ぬほど強くやる訳ないだろ!」
 
もうやだ・・・。
こんな、わが身の危険も計れないお嬢さんと接した事のない俺は必死に考えた。
いや、感じた。すると、確かに強い守りのようなものを感じる。
これがランを守っているならば大丈夫だ。戦場でもこれ程のものは目にした事はなかった。
 
当たり前だ。
 
「勇者の剣や魔王の魔法も効かないような強力な守りの筈ですからね!」
 
だそうだ・・・。
 
 
 
休憩の後、歩き出してすぐにランが足を引いている事に気づく。
いったいどうしたっていうんだ?今度はなんだ?足を痛めたのか!なんでだ?痛める要素は何もなかったじゃないか?!

ただ歩いているだけで足を痛めるなんて・・・。
お嬢さんのひ弱さは俺の想像のはるか上をいく。
 
その事にも驚いたが、何の躊躇もなくランに背を向けてしゃがみこんだ自分にも驚いた。
他人に対して無防備に背を向けるなんて。 ・・・この俺が?
戦場でこんな事をしたら一瞬で死ぬ。長年の習性は身に沁みついているもんだと思っていたんだが。

・・・まぁランに何かできるとはこれっぽっちも思ってないけどな。
 
しゃがんでから気づく。俺におぶさる筈もないか。
本当に、昨日から調子が狂いっぱなしだ。さんざん女子供に怯えられ恐れられてきたっていうのに。
ランには考えずに身体が動く。
 
しゃがんじまったこの体勢、どうしようか・・・。と思う間もなく、背中に温かさがのった。
 
「すみません。ありがとうございます」
「いいから。 あんた寝てないだろ?眠れるようなら寝ちまいな」
 
耳元でささやかれる声が面映ゆくて、ぶっきらぼうに答えた。
 
 
 
ランは。この俺にためらいもなくおぶさり、そのうえ寝入っている。
寝入って増した重さはまったく気にならない。やわらかく温かい感触。
人とこんな風に触れ合った事のない俺は落ち着かない気持ちを持て余した。

だけど何だろう・・・。
だんだんと穏やかで温かい気持ちになっていった。
 
昨日抱き上げたのは俺からだった。今日はランから触れてきた。昨日も今日も、俺に対する反応には驚きっぱなしだ。怯えられたり恐れられたりしない。
野郎同士でも馴れ合いなんてなかった。好意を持ったり持たれた記憶もない。
それなのに、たった二日でこんなに懐かれている。
信じられないが、たぶん好意も持たれている。いくら経験がなくてもそのくらいはわかる。
 
命の恩人てぇのはそんなにもすごい事なのか?
傭兵をしていた時は奪ってばかりだった。助け合いなんて甘い事もやらねぇ。そんな考えははなからないし、そんな事をしていたら確実に死ぬ。ただ生き残るために、殺伐とした毎日だった。
 
それと今のこの違いはなんだ・・・。
 
少し体勢が崩れてきたランを背負い直す。すると無意識だろうが首に回された腕に力が入った。寝息は安らかに続いている。
俺に背負われて安心して眠っている。その事にものすごく戸惑う。

これが信頼されているという事なんだろうか・・・。
 何といっていいかわからない気持ちがこみ上げてくる。

こんな地にいれば、ひ弱いランはすぐに死んでしまうだろう。
ランが自分の国に帰れる日まで、帰れなかったとしても自分で生きていけるようになるまで、絶対死なせない。
 
しょうがねぇ。
見捨てねぇって言っちまったからな。




コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品