転生少女は自由に生きたい

ひさら

6.5




傭兵ギルドで登録を済ませると、ジェニファーもAランクの傭兵の一日分の報酬を聞き終えていて
 
「ルークの報酬を計算するとざっと二百日になるわね。半年ちょっとね」
 
と、楽しそうに言った。
 
金貨二千枚!!
・・・自分の値が金貨二千枚という事にも驚いたが、それよりも、その二千枚を即金で支払えたジェニファーに驚く。
成人したばかりだと言っていた。十五歳の少女が持っている金額ではない・・・。
いったい彼女は何者なのか?
 
いや、何者でもかまわない。
自分を救ってくれた恩を返す事に揺るぎはない。
報酬分の日々が過ぎても、その先もずっと、生涯尽くすのだ。
 
 
 
翌日。
船旅での始まりは、港町から港町への数時間の短いものだった。
甲板で潮風を受けながら、ただ海を見ている。時々ジェニファーと話をする。
穏やかに始まった船の旅は、特に危険な事もなく順調に終わった。
 
オルキスでの初日は生涯忘れられない日になった。
とはいっても、特別に何かがあったというわけではない。長い奴隷生活が終わり、自分の意思で守るべき主と共にいられ、美味いと感じられる食事をし、自由に歩き、風に吹かれ、主と同じものを見る。
誰からも命じられる事のない、ゆっくりと流れる時間を過ごす事ができて、本当に自由になったのだと実感した。
奇しくもジェニファーと同じに、新しい人生が始まった日になった。
 
 
 
オルキスについて次の日には、ジェニファーには大仕事が待っていた。
自分から見ても、そう長くもたないような若い男がベッドに横たわっている。
普通なら死んでしまうと思われるが、ジェニファーなら助けられると確信した。ジェニファーのすごさは自ら体験して知っている。
確信は当たり、その若い男は助かった。
 
二週間ほどオルキス領主の次男につきそっていたが、その後は午後から自由に過ごせるようになった。初日以来のオルキス観光を再開する。

ジェニファーは、毎日毎日したい事だけをしていた。美味い物を食べ歩きしたり(何度かはびっくりする程不味いものも口にしたが)興味を引かれた店には通いつめたり、顔見知りになった店の者と会話を交わしたり、本当に生き生きとして楽しそうだった。
 
ある日、野良猫を追って彷徨ううちに見晴らしのいい高台に出た。その日からオルキスを去る日まで、そこがジェニファーのお気に入りになった。アクティブに街中を歩き回っていたのとは一転、何もせずぼんやりと午後を過ごす。

太陽と共に色を変えていく海を眺め、木々の間を渡る風を感じ、時々は話したりもする。とても贅沢な時間だ。今までの、人として扱われなかった時間を取り戻すように、心も身体も癒されていった。後から、あれは自分に必要な時間だったのだと思った。
 
ある時、いつものように海を見ていたジェニファーに寄りかかられた。
理由のない接触。木陰にいて暑くはなかった筈なのに・・・どんどん熱くなっていく。
安らかな寝息が聞こえた。
ジェニファーは生涯仕える主なのに、柔らかな少女の体温に動揺する。自分は起こさないように、ただただじっとしていた。
その後起きたジェニファーに触れられて、癒してくれているのだとわかっているのに、どうしようもなくなってしまった自分は・・・鍛錬が足りないと猛反した。
 
 
 
ジェニファーの、自由に楽しい事だけをするという旅は、オルキスを出てからも続いた。
オルキス領の次はウィスタリア領に向かうと言う。
ジェニファーは、まずは大国中を旅してまわる予定だと言った。
どこに行こうとついて行く。生涯守り通すと決めている。
 
旅が始まってからずっと変わらない、日々をのんびりゆっくりと過ごしていく。
特に書き記す事のないような、穏やかな日常。
 
美味い物を食べたり、そうでもない物も食べたり。興味深い楽しい事を見つけたり、それ程でもない事もしたり。馬車に揺られたり、街中を歩き回ったり。たくさん話した日があったかと思えば、何も話さずただぼんやり美しい景色を見ている日もある。
 
目には見えない、感情というものも知る。信頼とかいうものや、親しみというもの。何と名づけていいかわからない、相手を思うと湧き上がる温かい気持ち。
自分に好意を持ってくれている美しい少女に、救ってもらったと崇める以外の感情を抱かないようにするのは難しかった。
 
ゆっくりと旅は続く。
過ぎていく日々に、少しずつ、お互いの時間と気持ちを重ねていった。




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