転校生は日本人形でした。

石ノ森椿

第2話 散髪

そのレッテルは、クラス全体にのみ有効なのは暗黙の了解でそれこそ授業は気さくに参加させた。体育の時なんかなお楽しい時間を共有した。
茜も、無表情を貫いていたが体育の時間だけは倒れこむほど楽しんでいて、元気を出してもらうために下着の中に手を入れてやった。それも男子が共有するこの時間に。
そのあとの時間は男女別の授業構成だったから、私たちは教室に戻った。

「そういえば、茜の姿がないけど……何かあったの?」
私の問いに女子は保健室と答えた。
養護教諭は今日は休みだったけど……それには触れなかった。

体育館倉庫のカギの当番は、今日は体育委員会の男子だった。
早く戻ってこれるといいけど。

私は、その時悠長に考えていた。
しかし、男子たちが戻ってきたころ一人だけ戻ってきていない人物に気が付いた。
居所を訪ねると、委員の仕事で倉庫の片付けの為にまだ残っていると返ってきた。

その男子は放課後、体中を締め付けられたころによるあまりにも綺麗すぎる圧迫死した姿で発見された。
締め付け痕はとても細く、まるで髪の毛で殺されたと錯覚するほどだったという。

私は、この男子の死を好機だと思った。
クラスメイトが死を惜しむ中、クラスに一人だけ残っていない人物に見当がついた。

ガラッ
昨日体育の後から今登校してくるまで姿を消していた、鬼灯茜だ。
そして、クラスメイトも同じ考えを持ったのか茜が来るなり、全員が一斉に茜に飛びつき罵声雑言を浴びせ、水を貯めたシンクに頭を押し込んだ。

さすがにここまで行くと、茜が溺死するかもしれない。そんなことがこの教室内で起きたら、せっかくここまで築いてきた私の世界クラスが壊れてしまう。

「ねぇ、無茶はやめてあげな。」

しかし私の反応が納得がいかなかったのか、全員が私に詰め寄った。
皆が口々に茜を犯人に仕立て上げていく。
「こいつが犯人に決まってる。」
「帰ってこなかったのは隠ぺい工作をしていたからだ。」

私は、中立的に物事を見るふりをしながら、徹底的な証拠になりうる言葉を待っていた。
それは、この女の髪だ。その真っ黒で何の癖も付いていない切り揃えられた髪を見た瞬間に不快感で頭を埋め尽くされていた。
早く……早くこの女の髪を罵れ……。
そうすれば口実になり、私の地位がより確実なものになる。

「もとはと言えばこいつの長い髪も怪しいじゃないか!」
……来たぁッ!!
すると私にとってもクラスメイトにとっても意外なことが起きた。
1人の男子の放った矢継ぎ早の中のその一言は、茜の表情を歪めさせたのだ。

それは、彼らの怒りを助長させるもので、私は彼らを止めにかかった。
「待って、私がやる。」
私は、彼らの怒りを一瞬で納めるために……教室に一つだけあった錆のびっしりかかった鋏を手に取った。

そして、茜に近づくと長くまっすぐな髪を一束掴んだ。
クラス中の奇声に近い歓声が響く中、私は茜の髪に容赦なく刃を当てた。
するとその錆のびっしりかかっていたはずの鋏は面白いほど茜の髪を切り刻んでいく。
あっという間に残酷な散髪が終わったころ、茜が口を開いた。

「どうして……私の髪を切るの?」
その質問の答えは単純であまりに滑稽で、口を開くまでに私の心を高揚させた。
私は茜の晒された耳を掴み上げた。
「面白いからよ。」

私の声は静まり返ったクラスに響きその瞬間、クラスがドッと喜びで沸いた。
こうして彼らの復讐心も煽り、それを一瞬で解消した私はより慕われる“クラス長”を確実なものにした。
高揚に包まれる中私は茜の視線を感じて視線を向けた。

その切れ長の白目勝ちだったはずの目には……黒目の量が増えまるで白目が無いように見えた。

思わず瞬きをすると、その目はいつもの三白眼に戻っていた。


          

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