転校生は日本人形でした。

石ノ森椿

第4話 懐柔

私はすぐ目の前にまで迫っていた殺人の恐怖にやっと気が付き慌てて体を捻り、枕を投げつけた。
でもそれはあまりにも愚かであまりにも危機感がなさ過ぎた。

枕は茜の顔面に痛々しい音を立ててぶつかって力なく私の手元に落ちた。
しかし茜の顔にはひびが入り、茜も痛みを感じたのか自らの頬に触れた。

「二度も……二度も私の体に傷をつけたなぁあああ!!!!!!」
その声はいつしか低い声だけに変わり髪は部屋全体にびっしりとはい回りバットのわきから伸びてきた毛先は私の体はまたベッドにきつく括りつけられてしまった。
「いや……まだ死にたくない……。」
「何を恐れる。いずれ来るさだめではないか。」
「お願い……殺さないで!!」

私は必死に命乞いをしていた。
きっと私らしくもない。こんな泣きじゃくって人間でもない化けものに弱みを全部見せるなんて。

でも今の私の頭にはそんなこと一ミリも考える余地がなかった。
茜には私の生死の糸を切るも切らないもその手に握られててしまっているんだから。

それに今は大丈夫、こいつ以外に見られてない。
「なるほどなぁ。私さえ懐柔してしまえばお前の暮らしは守られるというわけだな。」
「ッ!?何で私の考えたことわかって「髪だ。」…は?」

「お前の髪越しに考えを振動で読み取ったんだよ。」
「そんな……。」
気味が悪いことできるなんてありえない。

「それができるんだ……たとえ気味が悪かろうが……なぁ?」
「!?」


私は息をする知能が飛ぶほどの恐怖に支配され、微かに吸った空気でのどを鳴らした。

「では、せっかくだ。ちょっとした作麼生切羽をしよう。」
「え、そも……え?」
「分かるように言うとクイズだ。」
言葉が出ないほど震える私に茜はニッコリとほほ笑んだ。

「私の出す問は1問、お前の回答は3回。なかなかのハンデだ。」
「……何の問題なの?」
「なぁに、至極簡単だ。」

私は茜の言葉を一言一句逃さないように耳を傾けた。

「海外の吸血種を聞いたことがあるか?」
「吸血鬼の事?」
「そうだ。吸血種は血を食料にしている。それと同じように私のような人形にも魂という食料がある。」

「ッ……何言って……。」
「だが、魂を食らうのは妖には原則タブーだ。だから高校生に混じることにした。人の魂は若いものほど活きが良い、大きな炎が火花を散らすように魂をまき散らしている。それを喰らうことで要は質より量で腹を膨らますためだ。」

茜が言うには、食料として若い生き物の元気さみたいなものを少しだけ吸い取って食事をとっている……ってことみたいだった。
でもそうすると昼間の出来事は矛盾する。

「じゃ、何で男子を殺したの?魂は食べちゃいけないんだよね?」
「原則……と言っただろ?」

「……は?」
「体育の授業が終わった時にあの男子に手伝いを頼まれて引き受けた。しかし、その男は私をその言葉で倉庫に誘い込み襲う寸法を立てていたらしい。」

その内容は私が爆弾に火をつけた結果を映し出したようなものだった。
「抵抗はもとより本気でするつもりはなかった。所詮人をかたどっただけの藁を抱くなど虚しいだけだからな。だが、一つだけ……あの男は私の衣服を引きちぎった。」

「それって……」
いや、普通に強姦するならそういう展開になったりするもんなんじゃないの?
「人間は案外無限なものに囲まれているから理解には及ばない。しかし私には……この髪とこの服しかない。」
寒気がした。
茜の目からは真っ赤な血の涙が流れていた。

「……それを傷つけられたから殺したの?」
「一つの動機で殺すことはそうそうない。もう一つお前とあの男の共通点がある。」
「共通点?」

「……好奇心だ。軽率な好奇心は、悪意や憎悪を増幅させるもの。それも人でないものであればなおのこと。対して人は人でない物を傷めつけた輩を裁かない。」

茜はそのまま滾々とあの男のした残虐な行為を並べ始めた。
聞いているだけで頭がおかしくなりそうで、私は耳をふさいだ。
すると、今度は私の目を無理くりかっぴらかせた。
そして急に見えるはずのない映像が頭の中に流れ込んできた。それはまるで目の前で惨劇が行われているかのように錯覚させた。

おかげであの日私が受け続けた屈辱の記憶も根こそぎ呼び起こさせて、あの日の恐怖が私の息を詰まらせた。
震えが止まらない。

あの男は……、あの日私を辱めた男の弟だった。

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